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『華やかなりし、その裏で〜ウォルフ編〜 』
ウォルフ・マイヤー0322)&アルノルト・ハウレス(0315)
●メンテナンス中の惨劇
 月に一度の定期健診。義務化されたそれを受けているウォルフは、専用のメディカルルームに入る間際、アルノルトが口走っていたセリフが、妙に気になっていた‥‥。
(くっそー、アルノルトの奴‥‥)
 睡眠剤を注入されながら、思い起こすのは、飛行船での出来事だ。
「あんまり黙ってると、他の人と浮気しちゃいますよ」
「知るか」
 黙りこくったままのウォルフから、何とかして言葉を引き出そうと必死なアルノルトが、背中から抱き付いて来る‥‥。振り向いて、抱きしめてやりたい衝動に駆られながらも、喧嘩をした手前、ついつい意地を張ってしまうウォルフ。
「交渉相手、俺に気があるみたいなんですけど」
「そりゃそうだろ」
 パーティ会場で、口説き同然の交渉をしていたのだ。勘違いしない方が不自然である。それでも、まだ動じないウォルフに業を煮やし、アルノルトは彼の耳元にこう囁いていた。
「ウォルフ‥‥俺があーんな事や、そーんな風になっても良いんですか?」
「ならねーよ」
 即答するウォルフ。もし、アルノルトがそんな目にあったのなら、おそらく事が始まる前に、相手の首が飛んでいる事だろう。
『離れている間に、誘拐とかされたりして‥‥。俺が居なくなったら、どうするつもりです?』
 飛行船から降りるタラップで、彼は確かにそう言った。その口元に、何か求める事がある時に必ず見せる、魔性の笑みを浮かべながら。
「あんな事‥‥言いやがって‥‥」
 その時の事を考えるたびに、心臓は不機嫌そうな鼓動を立てる。おかげで、メンテナンス係の女性に、「ウォルフ、心拍数が安定してないよー。もっと落ち着いてください」と、忠告されてしまっていた。
(あいつがいないと、こうも不安定だとはな‥‥。アルノルトの奴、早く戻ってくると良いんだが‥‥)
 人を苛立たせた分、たっぷりと可愛がってやる‥‥時間の許す限り。
 ウォルフがそう、人知れず心を決めた直後だった。
「ちょっと、ウォルフさん! 大変よ!」
「どうしたんだ?」
 メンテナンスルームに駆け込んでくる女性スタッフ。その口から飛び出したセリフに、ウォルフは飛び起きるハメになる。
「アルノルトさんが‥‥例の相手の所に行ったっきり、定時にも連絡よこさないんですよぅ!」
 几帳面な性格である。どこへ行ったとしても、必ず連絡だけは欠かさないアルノルト。それがないとしたら、答えは決まっている。
「まさか‥‥そんな‥‥。交渉とやらが長引いているだけじゃないのか?」
 それでも‥‥無事である事を願うウォルフ。と、その女性スタッフは、困りきった表情で、こう続ける。
「でも、アルノルトさんって、以外と女ウケがいいし‥‥。それに、コンピューターにアクセスされた後があって‥‥」
 その女性スタッフ曰く、アルノルトに関するデータ‥‥むろん、その中には、ウォルフのそれも含まれている‥‥が、閲覧されている形跡があった。
「ンな事はどうでもいい。本当に連絡つかないのか?」
 ウォルフの問いに、うなずく女性スタッフ。アルノルトの持っているのは、特注の通信システムだ。それが届かないとなると、どこか遮蔽された場所と言う推測が成り立ってしまう。
(どこか‥‥地下にでも潜ったか‥‥?)
 ウォルフが、ヴェネチアの地下地図を取り寄せなければいけないな‥‥と、そう考えた時である。
「あ、ちょっと待って! 今、通信が!」
「貸せッ!」
 スタッフからマイクをひったくるウォルフ。
「アルノルト! お前、今どこに‥‥」
 開口一番、そう怒鳴った彼の耳に飛び込んできたのは、聞き覚えのない女の声だった。
「彼なら、無事ですわ」
「てめぇは‥‥」
 と、その女は、通信機越しに、くすりと笑ってみせる。
「画像付きだと!?」
 指示された画面を見れば、プロジェクタータイプのスクリーンに、深いスリットの入ったドレスと、その上にジャケットを着込んだ、マフィアの女幹部らしき姿が映っていた。
「ごきげんよう、皆様。ふふっ。おどろいたかしら? ようやく、準備が整いましたわ」
「お前! この間の!!」
 衣装こそ違えど、確か‥‥パーティ会場で、アルノルトが口説いていた女の一人。
「をほほほ。私をダシにしようなんて企むから、こんな目に会うんですわよ」
 どうやら、アルノルトは『大当たり』を引き抜いてしまったらしい。
「もっとも、今後も‥‥と言う保障はありませんけれど」
 今、その女が目の前に居たら、迷わず叩き切っていただろう。マイクを握り締めた手が、その苛立ちと怒りを示している。しかし、ウォルフは、そんな感情を飲み込みながら、静かに問うた。
「何が望みだ」
「まずは月並みですが、軍資金を用意していただきましょうか」
 そう言って、ウォルフに希望金額が告げられる。
「アルノルトは、無事なんだろうな」
「ええ。今は、この通り」
 その彼女が示した先では、椅子に後ろでに縛られたアルノルトの姿が映っていた。
「てめぇっ!」
「今頃は歯噛みしているでしょうねぇ。私を侮るから、こうなるのよ」
 牙を剥くウォルフに、女性はころころと笑ってみせる。
「言ったでしょう? 侮るなと。これは、その為の仕掛けよ」
 どうやら、ただの営利誘拐ではなさそうだ。緊張感を漂わせる中、ウォルフが「目的は、何だ」と尋ねるが、彼女は「知りたければ、当てて御覧なさい」と、答えてはくれない。
「日付は、今から3日後。ミュンヘンのあの城で、お待ちしておりますわ」
「‥‥わかった」
 ウォルフがそう答えると、女からの映像は途絶えた。スタッフに「電波は‥‥!?」と、逆探知が出来たかどうか尋ねるが、彼女達は首を横に振る。どうやら、周波数帯も合わず、一体何の通信気を使っているのかさえ、特定できないらしい。
「って、ウォルフさん、聞いてます?」
「ああ。今、対策を考え中だ」
 その事を報告されながら、ウォルフは必死で思考回路をフル回転させていた。いつも、こう言った交渉ごとは、アルノルトに任せきりである。慣れない仕事に対する苛立ちと、奪われた悔しさは、判断を鈍らせることのないよう、自分に言い聞かせながら。
(まさか、身体の方に危害は与えないと思うが‥‥)
 まだ、安全を確認していない。もしかしたら、もう殺されているのかもしれない。いや、相手はプロだ。交渉の済まないうちに、その身を傷つける事はしまい。
 だが。
『ウォルフ‥‥、助けて‥‥』
(アルノルト!?)
 遠く、どこからかアルノルトの声が聞こえてくるような気さえする‥‥。
(そういえば、あいつはアルノルトの事が‥‥)
 パーティ会場で見せた表情は、本物だった。世の中には、愛するからこそ虐めてあげたいとか言う感情を持つ者もいる。
(って事は、まさか‥‥)
 一度転がりだした心配の種は、瞬く間にウォルフへあらぬ想像を吹き込んでいた。
(可能性は否定できない‥‥)
 あの女の事だ。その不敵な態度から察するに、1人で手を下すなどと言う真似はしまい‥‥。
「アルノルト!」
 駆けつけた時、薄闇の中でさらされるのは、おそらく‥‥あちこちにつけられた傷跡。
「ウォルフ‥‥。お願い‥‥見ないで‥‥」
 意にそぐわぬ行為を強要されたアルノルトは、自ら命を落とすだろう。普段、持ち歩いている銃が、その為の意味もある事を、ウォルフは知っていた。
 だが、それでも。
「違う! 俺はあいつが例えどんな目に合っていても、あいつを‥‥!!」
 思わず叫んでしまい、スタッフが好奇と同情の眼差しを向けているのを見て、我に帰るウォルフ。
「恐れていた事が現実になりやがった‥‥」
 マイクを置きながら、そう呟くウォルフ。不安そうな女性スタッフ達が、口々に「どうしよう‥‥」だの「アルノルトさんに、もしもの事があったら‥‥」だのと、要らぬ心配をかきたててくれる。
「少し黙ってろ!!」
「「きゃんっ」」
 ざわめくスタッフ達を、その一喝で大人しくさせ、「おかげで、頭ン中まとまらねぇじゃねぇか‥‥」と、呟くウォルフ。頭の中から、先ほどのシーンが離れない。それを振り切る為に、彼はわざと己の考えを口に出してみる。
「くそ、資金集めの為に、危ない橋を渡るわけないしな‥‥」
 ただ金が欲しいだけなら、わざわざアルノルトに手を出すまでもない。他の金持ちでも狙えば、済む話である。
「だとしたら、あいつの身体か‥‥。なら、資金の受け渡しは、時間稼ぎだな‥‥」
 そう判断したウォルフは、ある手配を、スタッフへと頼んでいた。
 ところが、事態は相関譚には解決しなかった。
「連絡が途絶えただと!?」
 身代わりに差し出した部下が、発信機を打ち抜かれた事に愕然としながら、ウォルフはそう言って、次の手を考えている‥‥。
「くそ、予想外に早かったな‥‥。間に合うか?」
 時間を引き延ばしている間、彼はアルノルトの目撃情報を、その情報網を駆使して、集めて回っていた。もっとも、よほど上手く立ち回っているのか、ロクな情報は集まっていない。スタッフ達も、自分達の領域を出し抜かれているのが、癪に障ったのか、協力的では合ったが、それでも有力な手がかりは集まらなかった。
(奪われたら、奪い返す。意地でもな)
 口にこそ出さないが、その表情からは、確固たる決意がにじみ出ている。
「アルノルト‥‥」
 愛しき者の名を呟いて。
「ちょっとぉ! どこにいくのよ!?」
「決まってるだろ! ヴェネチアだ!」
 愛用のスナイパーライフルをひったくるようにして、外へ飛び出して行くウォルフ。
「まだ詳しい場所わかってないのに‥‥」
「これ以上待っていられるか! 俺は根性で何とかする! なんかあったら、すぐに知らせろよ!」
 のんびりしてなど居られない。そう言って、部屋を飛び出して行くウォルフ。
(頼む‥‥。無事でいろよ‥‥。アルノルト‥‥)
 リンクコネクターつきのバイクをスタートさせながら、彼にしては珍しく、祈りの言葉を口にしている。
「あいつは俺のもんだ‥‥。何されてようが、どんな目にあってようが、絶対に取り戻してやる‥‥ッ‥‥!」
 見えない敵を、虚空に睨みつけながら、ウォルフはそう宣言するのだった‥‥。

●暗い情欲
 ウォルフが、マフィア達と、姿の見えない追いかけっこを繰り広げている頃、アルノルトは‥‥。
「貴方の彼氏も、なかなかやるわね」
「決して、頭が悪い訳じゃないんですよ。ここで諦めてくれると、嬉しいんですが」
 口先三寸で、何とかして女幹部を丸め込もうとしていた。
「ここまで来て、引き下がるわけには行かないでしょ。貴方の目の前で、引き裂かれる痛みを、味あわせてあげるわ」
 そのセリフに、彼女の真の目的が見え隠れする。そして、それはアルノルトにとっても、もっとも許せない問題だった。
「それは‥‥! 止めてください! 目的は、俺自身への復讐でしょう!?」
 ウォルフは関係ないじゃないですか! と、アルノルトは訴えたが、その程度の『戯言』に聞く耳を持つような女なら、最初からこんな事を仕組んではいない。
「あら‥‥。カレシが酷い目にあうのは、嫌なの」
「誰だって、大切な人が傷つくのは、見たくないでしょう」
 少なくとも、アルノルト自身は。だが、女幹部はその口元に笑みさえ浮かべ、羽扇で彼の顎を持ち上げる。
「そうかしら? 私はそうでもないわよ。愛しい殿方の血塗れな姿を見るのは」
 その綺麗な顔に、鮮血の花が咲くのは、さぞかしソソられる光景でしょうねェ‥‥と、羽扇の先が、アルノルトの首筋をなぞって行く。
「な、何を‥‥!?」
 ふわりとした感触は、指先を振れさせているのと同等‥‥いや、それ以上の刺激を、アルノルトへと与えていた。
 そして。
「見せてくださいませ。貴方の美しく悶えるお姿を‥‥」
 わざと、パーティ会場そのままの口調となった女の命令で、周囲の黒服達が、アルノルトの服へと手を伸ばす。直後、布の破れる音と共に、身動きできない彼のスーツが、役に立たない状態へと変えられてしまっていた。
(ウォルフ‥‥ッ‥‥!)
 だが、いくら身体が応えてはいても、ウォルフ以外の者に振れられるのは嫌だった。そんな目に会うくらいなら、死んだ方がマシだった。
「舌は噛まないようにさせなさいね。自害されては、元も子もないわ」
 それさえも、女は許さない。
(このまま‥‥されてしまうのか‥‥)
 悲鳴すら、上げられなくなった思考回路は、自我を守る為にか、ぼんやりとかすんでくる。
「これは、独り占めさせるべきではないものよ‥‥」
 背中を、ひやりとした指先がなぞる。時折、長く伸ばした爪が、その痛みで、アルノルトの意識を覚醒させたままにしようとする。
(ごめんなさい‥‥。俺はもう‥‥)
 目を閉じても感じてしまう感触に、アルノルトは、もう二度と、ウォルフに会えないだろうと、覚悟を決める。
「どうやら、観念したようね」
 急に大人しくなった彼に、女がそう言った。
(ウォルフ‥‥、せめて‥‥もう一度‥‥会いたかった‥‥)
 喧嘩をしていた事も、全て洗い流して。抱きしめて、キスをして。アルノルトにだけ見せる表情を、もう一度見せてもらいたかった。
「楽しませていただきますわ」
 女が、上着を脱ぎ捨てる。
「‥‥ルノルト‥‥」
 その耳に届く、愛しき者の声。
(ウォルフ‥‥)
 空耳だろうか。想いの強いあまり、幻聴さえ引き寄せてしまったのだろうか。
(幻でも嬉しいですよ‥‥。最後に貴方の声が聞けて‥‥)
 これで、満足して天国とやらに逝ける。アルノルトが、そう思った直後。
「アルノルトッ!!」
 薄暗い部屋の扉がスナイパーライフルから放たれた弾丸で、吹き飛ばされる。爆音が響いた後、幻のはずの声と共に、紛れもない現実が、乱入してくる。
「ウォルフ‥‥!?」
 驚くアルノルト。女幹部が「ちっ、いい所で‥‥」と、向き直る中、ウォルフは目の前に広がる光景に、高周波ブレードを握り締めていた。
「てめぇ‥‥。人のもんに、何してやがる‥‥」
 服をはがされ、猿轡を噛まされ、床に転がされ、なおかつ取り囲まれたその姿を見れば、何をされていたかは、一目瞭然である。ただでさえ、アルノルトの事になると、沸点の低くなる理性の糸が、ぷちんと音を立ててはじけ飛ぶのを、自覚するウォルフ。
(笑みが‥‥、消えた?)
 その口元から、あの不敵な笑みが消え去ったのを、横に居たアルノルトも、確かに見ていた。
「お前達! あの不届き者を、こいつの目の前で、ズタズタにしておしまいッ!!」
「上等だ!」
 高周波ブレードがうなりを上げた。
「ふん‥‥」
 実弾兵器のみならず、レーザー系の武器まで浴びせかけられる中、ウォルフは、その弾幕を、高起動運動で潜り抜ける。やる気は満々だったが、所詮は民間。どんなに強力な武器を装備していても、3分後には、全員倒されていた。
「甘かったな。俺のパワーは、単純な戦闘力計算じゃ、片付かねーんだ‥‥よ!」
 女の持っていた武器を、そう言って握りつぶすウォルフ。
「く‥‥。退くわよ! 覚えてらっしゃい!」
 本当は追いかけて行って、ずたずたに引き裂いてやりたかったが、今はそれよりもアルノルトの安全の方が先だ。
「ウォルフ‥‥」
 震えながら、すがるような瞳を向ける彼に、ウォルフは自分の上着をかけてやった。
「大丈夫か?」
「お、遅かったじゃないですかぁ!!」
 気遣うように、そっと抱きしめると、アルノルトは涙声を隠そうともせず、抱き付いて来る。よほど怖かったのか、震える声で文句をつけてくる彼の頭を撫でながら、ウォルフはこう聞いた。
「怪我なんか、してないだろうな?」
「は、はい‥‥」
 脱がされて、あちこち触られはしたが、まだ行為そのものは、行われていなかったらしい。
「なら、いい」
 ウォルフが、ほっとした表情を見せた刹那、アルノルトの身体から、力が抜ける。
(緊張の糸が切れちまったか‥‥)
 張り詰めたものが途絶え、ようやくほっとした表情の彼に、そう思うウォルフ。
「悪かったな。恐い思いをさせて」
 そんなアルノルトに、彼はそう告げて、もう一度抱きしめる。
「ん‥‥」
 安心した表情を見せるアルノルトに、ウォルフのキスが降りてきたのは、言うまでもない。

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■         ライター通信          ■
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 なんか消化不良の気もしますが、R−15が限界の規定じゃあ、これが精一杯の気もする。
 ていうか、誘拐されたって時点で、ただの耽美じゃ済まされなくなってしまうッ!!!
 きっと、このあと、さーんざん可愛がって貰った事でしょう。いや、官舎の中ではなく、帰りの飛行船の中で☆
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
姫野里美 クリエイターズルームへ
PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2004年01月19日

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