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『冬の二人は? 』
真迫・奏子1650)&柚品・弧月(1582)

「あら?弧月さんじゃない?」
「えっ?あっ!?真迫さん。お久し振りです」
 それは年も明け切った日の夕暮れ、二人は偶然街中で出会った。正月を余り休む事無く働いていた真迫は、今ようやく休みを貰いのんびりと羽を伸ばしている最中であった。一方の弧月は、大学の冬休みを満喫中である。
 新春のバーゲンセールを見に来た真迫だが、よもや同じデパートから弧月が出て来るとは思いもしなかっただろう。対して弧月もまた、骨董品市を見に来たデパートに真迫が来て居る等とは想っても居なかった筈だ。正に、偶然とは偶然である。
「弧月さんは、今日は何しにいらしたの?」
「俺は、この上の骨董品市を見に来てたんです。真迫さんは?」
「私は、久し振りに買い物でもしようかと思って。この所忙しかったから」
「なるほど。年末や年始は、お座敷に多くお声が掛かるでしょうしね」
 弧月は少し苦笑いを浮かべる。
「そうね。やっぱり、忘年会や新年会は多くあるもの。仕方ないけれど、私は楽しんでいるからそんなに大変でも無いわよ」
 微笑む真迫に、弧月もまた「そうですか」と微笑む。真迫の仕事を知って居るが故の心配だったが、その弧月の心配は取り越し苦労だったようだ。
「そう言えば、何時だったかお茶のお約束が有ったわね?」
「ああ……そう言えば……」
 唐突に切り出された話しに、弧月は苦笑いを浮かべるしかなかった。
 それは、去年のまだ夏の頃の話しだ。真迫をお茶に誘った弧月ではあったのだが、丁度大学の方から連絡が入ってしまい、結局誘う事が出来なかったのである。その後も、チャンスを見付けては誘おうとしたのだが、まるで何かに邪魔されるかの如く誘えずに居た。
「誘おうとは想っていたんですけど……機会が無くてすいません」
「良いのよ。それより、これからはどうなの?」
「それが、生憎と今日は定休日でして……」
「あら?そうなの……」
 ほとほと運が無い二人である。
「なら、今日は私が誘いましょうか。次は弧月さんね?」
「えっ?良いんですか?」
 あっけに取られる弧月を真迫は微笑みながら見詰めた。

 浅草近くにあるひっそりとした佇まいの料亭、此処に二人の姿はあった。団体様お断りと言う変わった店ではあるのだが、その雰囲気と何より料理の味が人気を呼んでいた。とは言え、それはもっぱら中年層の年代の方々にであって、弧月や真迫の様な青年と呼ぶに相応しい年代には到底似つかない物である。
「良い雰囲気のお店ですね。和風情緒が凄く出てます」
「ええ、私のお気に入りのお店よ」
 向かい合い話す弧月と真迫の前には、囲炉裏があり鍋がかかって居る。今では、田舎でも滅多に見られない代物だ。その鍋の中身は、店自慢の山海鍋だ。新鮮な旬の素材をふんだんに使った料理が、人気の理由だ。
「じゃあ、煮えるまでやってましょうか?」
 にこやかに、そっと猪口に酒を注ぐ。
「そうですね」
 微笑みながらの返杯。
「遅くなったけれど、明けましておめでとう」
「おめでとう御座います」
 カチッと猪口と猪口が触れ合い、二人は一気に中身を飲み干す。
「美味いですね」
「美味しいわね」
 五臓六腑に染み渡る酒の味を二人はゆっくりと味わう。カタカタと音のし始めた鍋の蓋を開ければ、丁度良く煮えた具材達。
「美味そうだ。頂きます」
「私も、頂きます」
 ほぼ同時に箸を付ける。海の幸からでたエキスたっぷりの味に酔いしれながら、箸も酒も進み進んでどんどん無くなって行く。そして……一時間ほどが経過した……

「ちょっほ!ひいへるのぉ!!」
「はっはい!聞いてます。聞いてますよ」
 額に汗浮かべながら、口元をひくつかせる笑みを見せる弧月の目の前には、胡坐を掻き手酌で酒を飲む真迫が居た。
『よっよもや此処までとは、確かにお話は伺ってましたけど……どっどうしよう』
 芸妓の席で、一度だけ弧月は酒を勧めた。だが、真迫は飲まなかった。『酒乱の気があるらしいから』と……見て見たいとは思ったが、止めて置いた方が良かったと後悔した。
「らいたいれすねぇ、あらたはらいがくへいへしょ?しゃんとへんほうしてふんへすか?」
「えーっと……一応はちゃんとやってるつもりですよ……」
 呂律の回って居ない真迫の言葉を、まずは頭の中で理解してから返答をする。この作業の合間にも真迫は喋り続ける物だから、次から次へと理解をしていかなければならない。となれば、返答する機会がなくなる訳で、そうなると……
「ちょっほ!!!ひいへるんへすかぁ?!」
 とこうなる。
「聞いてます!!聞いてますって!!」
 弧月、必死である。最早、鍋の中身は良い感じに無い。これで雑炊でも食えれば最高なのだろうが、止まらない説教がどんどん鍋の中から水気を奪って行く。
「ろこみてるんへすか!!ひゃんとめほみふ!!」
 ベシっと一撃、平手が弧月の頭をはたく。
「すっすいません!」
 ちょっと泣きたくなる気持ちを必死に堪え、弧月は向き直る。そして、止める。
「まっ真迫さん、そろそろお酒は……ね?余り飲むと体に悪いですから……」
「やらー!まらまらへいひれすもんー!」
 何処の誰が平気なんだ!?とか、弧月は思ったのかも知れないが、そんな胸中知ってか知らずか更に酒が進む真迫を見て、溜め息一つ。
「えーい!こうなりゃ自棄だ!」
 掛け声一つ、弧月も酒を煽るように飲み始める。
「おぉ!?こけるらん、いけましゅねぇ?もっお、いっひゃいまほう〜」
 最早止める者は居ない……酒に飲まれた二人の、狂気とも言える宴会はひたすら続いた……


 後日、二日酔いになった二人は互いに記憶を持ち合せておらず、請求金額を見て蒼白になったとかならなかったとか……めでたしめでたし……




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凪蒼真 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年01月13日

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