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『GTV【バラネットさかた】 』
ステラ・ミラ1057

 一粒一粒がずしりとした豆が、赤子の頬のように柔らかい生地に、ちょうどいい塩梅で散りばめられた豆大福と、少しもくどくなく、まさに水の如く澄み切った心地を与えてくれる羊羹。それと渋めに煎れたお茶をこたつの上に並べれば、着物の少女にとっての至福である《TVショッピング鑑賞タイム》の準備完了である。
 着物の少女とTVショッピングを繋いで表れる人物は、ご存じ嬉璃。あやかし荘に住み着いた座敷童で、とある男を姑並にいびりたおすスペシャリストである。
 そんな彼女の人生に欠かせぬ一つが、前述からしてる通りの通販番組。包丁はまな板をぶった斬り、洗剤はこげを墜としてしまい、パソコンにはデジカメすら憑いてくる、他には類を見ない至高の番組だ。お昼下がりになると嬉璃が高揚するのもうなずける話である。という訳で今日も今日とてこの時間、彼女の席はこたつなのであった。午後二時、この居間に、桃源郷を求めてきたーのである。という訳で幸せ気分でキーを地方局に合わせスイッチオン、すぐさまブラウン管に他で仕事してるのを見た事がない芸能人が表れた。だがしかし、
 突然、画面が砂嵐に襲われた。余りの事に多少呆然とした彼女だが、直ぐ、
(故障かのう?)
 苦々しい顔。よりによって至福の時間を邪魔するとは、おんしは命の重さを知らぬみたいぢゃのう、って無生物に言った所で意味無いやんとその虚しさに気付き、えっと、まぁ、嬉璃は溜息。別にこのテレビは旧式では無いが、古の知恵に従って右斜め四十五度から叩いてみようかと、こたつからのそりと出た時に、
(お、映ったか)
 回復した画面を見て、一度出しかけた足を引っ込める。さて今日はどんなサプライズが待ってるのだろうか―――
『今日はいい天気ですね』ほうほうオープニングはこの黒髪の御仁が、一般的アメリカ人の女性の名前で隣の美男に声をかけて、って、
 いきなり話を振られた男は、困惑した表情で沈黙を置いてからステラ様と名前を呼んだのだが、
『マイケルです』
 おかしい。
 嬉璃が気付いた違和感の一つ目は、これがアメリカ調の番組だという事。確かこの時間から始まる通販は、おばちゃんの衝撃の声が響き渡る日本制作のはずだったのだが、画面に映った女の名前はマイケルである。ステラとも呼ばれていたが。
 そして二つ目の、てか決定的な違和感は今のやりとり、演劇のリハーサルでもあるまいに、何をクレームを付けてるのだろうかこの美男は。
 ―――それが聞いて欲しいのマイケル、実はちょっと悩みがあって
 的な事を喋る美男に、マイケルという名前のステラなる女性は、
『そうですか、そんな時はこれですね』
 演技が下手な方を咎めるべきか、演技すなぞ最初から放棄してる方を咎めるべきなのか、その答えも出さないうちに美貌の女性、だけどマイケルは何かを取り出して、
『今回ご紹介致しますのは、この大阪のおばはんセットです』
「なんなのぢゃそれはっ!?」
 居間に入って始めての発声はつっこみであった。これまで様々な商品をブラウン管から見聞きしてきた嬉璃というのに、全く持って見当が付かない。嫌な意味で興味が生まれ、画面に釘付けになるわらし。同じ疑問を美男がマイケルにぶつければ、
『よくぞ聞いてくれました。おばはんセットとは《スカーフ・腰にゴムの入ったパンツ・柄の派手なシャツ・趣味の悪いブラウス・ヘップ》の豪華五点セットです』
 そう言い終えた後全くの無に唐突とずらずらりと並べられた衣装。
 マイケル、これは一体何に使うの?やけになった調子で美男が聞けば、『それでは実際試してみましょう』と言った瞬間、「瞬間移動ッ!?」
 それがカメラワークという技巧でなく、単純な瞬間移動という事をブラウン管越しながらも察知して、それなりにたまげる嬉璃、そして確信する、こんな通販見たこと無い。ていうかそもそも通販じゃない。
 という訳で降り立った、金網やフェンスで子供が入れないバラエテ異界特有のものごっつ汚れた川の側で、
『さて、あそこで関西のおっさんがゴミを捨ててますね、注意してきてください』
 冷や汗を聞きながらも、なんだかご主人様に従う使い魔のように、美男はとことこ移動してあのうすいませんここはポイ捨て禁止、『ああなんやねんワレ!?舐めとんのかっ!?ああ!?』え、いやそんな、『ちゃんと邪魔ならんよう端の方捨ててるやないかいっしばくぞてかお前誰や関係無いやろ殺すぞおらなんや』
『このように、バラエテ異界のおっさんの中には浪速の人情なぞ垣間見えない地がヤクザな方がいらっしゃいます。さて、こんな時の為に関西おばはんセットの出番です』
 やにわ、ステラが手を挙げた瞬間、宙に並んでいた五点セットが、
 ジェットな火力で空に舞い上がった。
「……何処のチャンネルぢゃこれは?」
 今頃になってその事に気付く嬉璃、しかしテレビの外側と内側は関係なく進行して、マイケルなステラが手を下ろした瞬間、美男に、
 どごぉぉぉう!
 五つの隕石が一人の人間に直撃したっぽい映像っ!最早テレビショッピングの範疇を超えている演出に、ますます理解に苦しむ展開であったが、「………」
 嬉璃が絶句した訳、それは、
『これさえ身に着ければ、もう安心です』絶世の美男が、
 関西のおばはんスタイルになってる事であった。
 十秒間くらいおっちゃんと供に硬直していた彼であったが、やがて、吹っ切れたのか、足をがに股にして―――
 あんた何しとるんやぁっ!?、と叫んだ。
『な、何ってなんや』
 ちょっとこれゴミやないの?こんな事してええんか、してええんかっ!、と喚いた。
 攻守大逆転。『このようにゴミを捨てるおっちゃんにも安心してつっこめます、更に』瞬間移動。『男子便所を平気で使え』(あ、ごっめーん間違えたはぁいやぁ兄ちゃんぶるっとかなあかんで、のような)瞬間移動。『停車中の車に自転車で突っ込んでもうやむやに』(いやー大丈夫?あーたいしことないやんよかったでほんまー、ほな、ほなそゆ事で、ほな、のような)
 次々と紹介される関西のおばはん奮戦模様。心なしか彼の目には涙が。
『今回はこの商品に、試食でケチをつける百の方法等が満載のおばはんマニュアル、そして誰でもウッとなる事請け合い、夏場におけるバラエテ異界の川の水を』「何に使うんぢゃっ!」『罰ゲームに最適です』「なるほどのう」『まずい、もう一杯という事で』「それは無理ぢゃろ」
 という訳で、

♪ バーラネット バーラネット 阿呆のバラネット さかた

『お問い合わせの電話はこちらまで。……貴方、何を遊んでるのですか?』
 その言葉で停止するおばはん。いや、遊んでたのは貴方様の命でと切り替えすよりも早く、マイケルは次のセリフ、
『さて、続いての商品はDOU-TON-BORIに投げ込まれた唐揚げ屋のヒゲおじさん人形のレプリカです。本物と同じように川の中で数年寝かせ、鼻の曲がる悪臭や赤ん坊ならイチコロの病原菌も再現しています』
 それは再現しないほうが、という隣に居る男のつっこみも耳に入らず、覚えのない市外局番から始まる電話番号をチェックする嬉璃。バラネットサカタ、よもやこの世にこのような商品があったとは。普通なら購入する訳が無い、する訳が無いが、
 ある編集部員を犠牲者に選んで、電話番号をプッシュしたそうな。
『もしもし、マイケルですが』
「生放送ぢゃったのかっ!?」
 テレビに映る、無表情で携帯電話を持つマイケル。(後ろでは男が滂沱中
PCシチュエーションノベル(シングル) -
エイひと クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年01月08日

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