▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『The new year and a pachinko match! 』
向坂・嵐2380)&相澤・蓮(2295)


新年を迎えた元旦の朝。
天気もよく、初日の出を見た後に初詣に出かける人々が街を行き来する。
そんな街の一角ではあの美しい名曲”春の海”…いや、”軍艦マーチ”が流れていた。
とある建物の店内放送なのだが、音量が大きい為に外にもれてきている。
その建物には【Finger555(ふぃんがーふぁいず)】と書かれた大きな看板がついている。
さらに、『新春初打!』『新年初出玉!!』等ののぼりがいくつもはためている。
オープン直前のその店の前には、開店を待つ人々が列を作っていた。
そのほとんどが男であるが、中には女性の姿もチラホラと見えている。
言っておくが、ここは決して「美味しいラーメン」だとか「大人気のケーキ店」などではない。
ましてや行列のできる法律相談所などでは決して無い。
その列に並んでいる者は皆どこか目が真剣で、中にはギラギラと血走っている者もいるようだった。
「…なあ」
その列の先頭…とまではいかないが、両手で足りるくらいの順番に並んでいた向坂・嵐がふと呟く。
声をかけられた相手…相澤・蓮は、かなりテンション高く振り返った。
「なあ、蓮。このくそ寒い中、何で俺らは新年早々開店前のパチンコ屋の前に並んでんのかな…」
テンションがあまりにも高い蓮の様子に、どこか遠い目をしながら嵐は問う。
問われた方は、心外だな〜!とでも言いたそうな表情で口を開き、
「何言ってるんだ!新年だからこそだろ?いいか、嵐…一年の芸は元旦に有りって言うじゃないか!
元旦…つまり今日のこの日の成果が俺達の今年1年を占う事になるんだぞ!!」
気合い入りまくりで鼻息荒く語る蓮。
「芸かよ!」
嵐はすかさずツッコミを入れて、苦笑いを浮かべながら頭を掻いた。
そして、煙草に火をつける。
随分長時間店の前で並んでいる事もあり、寒いし微妙に眠いしで煙草でも吸っていないと間が持たないしやってられない。
蓮と話をしていればいいのだろうが…蓮は自分達の後ろに人が列を作り始めた頃からかなり気合いが入って、
まだ閉じられたままの自動ドアを睨みつけるような状態で振り返る事すらほとんど無かった。
『ここさ、元旦は1がついてる台に当たり多いんだってな…1とか11とか111とか凄いらしいな…って知ってるか』
不意に、そんな声が嵐の後ろから聞こえてくる。
見ると通りすがりらしい青年が、並んでいる知り合いにそう声をかけたようだった。
本人たちは小声のつもりらしいが…嵐の耳にはしっかりと聞こえてきている。
「1か…」
この店は普段二人がよく行く店ではなく、蓮が見つけてきて嵐にとっては今日が初めてのパチンコ屋だ。
確かに”出やすい台”というものがあって(店にもよるだろうが)、日によって店が提示する事もあったり、
裏の情報として、パチンコ好きな連中の間でそのテの噂がある程度流れていたりするのだが。
「おい、蓮…」
嵐が蓮がそれを知っていてここに誘ったのかどうかを一応聞いてみようと声をかけた瞬間…
『新年明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願いいたします。』
店内アナウンスが流れたと同時に、店員が自動ドアのロックを外しにやって来る。
まるで、小学生の徒競走で先生がスタート用の鉄砲をかかげた瞬間に似た空気がその場に流れた。
「嵐!いいか、負けるなよッ!!」
「わかってるよ!」
吸っていた煙草を、携帯灰皿に入れてポケットに仕舞う嵐。
蓮は先ほどよりもさらに鼻息荒く、”かけっこ”をするような姿勢になった。
『足元にお気をつけてください』
店員がそう言いながら、一歩下がる。と、同時に…先頭にいた者が一歩を踏み出した。
開く自動ドア。自動であるが、自動で開ききるのを待てずに…男達は店内に雪崩れ込んだ。
「こっちだ!」
蓮は店に入るなり、嵐にそう声をかけて店内を走る。ふと見ると、いつの間にやら自分達が先頭になっていた。
開店前の列で二人の前に並んでいた人達はほとんど中高年だった為、どうやら日頃の運動不足がたたっているらしく、
自分の狙っている台に辿り着く前に…あっさりと蓮と嵐に追い抜かれていたのだ。
嵐はとりあえず蓮にの後を追いかける。そして蓮が「11」と書かれた台に座ろうとしている事に気付いた。
「させるか!」
嵐は慌てて蓮にタックルを仕掛ける。意表を突かれた蓮は、バランスを崩してよろけながら…12番の席に座った。
一瞬、わが身に起きた出来事がわからずに呆然としていた蓮だったが…
嵐が財布から千円札を取り出すのを見てやっと我に返った。
「ひ、卑怯だろ嵐!!」
「ん?なにが?蓮が勝手に座ったんだろ?」
「い…今、俺にタックルしてきたじゃないか!」
「気のせいだろ?それよりいいのか?蓮…もう他の連中は打ち始めてるぜ」
気付くと、蓮の隣の台に座っている男性は早くもリーチがかかっている。しかも忍者ハットリくんだ。
遅れてはなるまいと、蓮は慌てて自分も財布を取り出した。
「なあ嵐」
「ん?」
「百歩譲って11番の台は譲ってやろう…そのかわり今夜の呑み代はオゴリな」
「はあ?」
早速、初打ちを開始した嵐に、蓮がそう声をかける。
嵐は眉間に皺を寄せながら、手は止めずに視線を少しだけ蓮に向けた。
「嫌だよ…なんで俺が」
「だって嵐…俺がずっとこの店で狙ってた”元旦11番”横取りしたじゃないか」
「それがどうしたんだよ?」
「この店では元旦11番が一番出るって有名なんだよッ!それを聞いてずっと狙ってたってのに…」
今にも泣き出しそうなくらいの表情の蓮に、嵐はギクリとする。
そんなにそこまでこの台を狙ってたのか?と思うと…少し悪い気もしてきた。
しかし、そんな悠長な事を言っている場合ではない。ここは戦場なのだ。
「そんなのは噂だろ、噂。確実に出るとは限らねぇよ」
「だけどな…!」
「じゃあ出玉勝負しようぜ?」
「勝負?」
「負けた方が今夜の呑み代を奢るって事でどうだ?もし本当にこの台が出やすいって言うんならハンデ有りでいいぜ?」
嵐の提案に、蓮は返答を渋る。11番の噂が本当だったら蓮におそらく勝ち目はないだろう。
しかし、出やすい台だからと言って出せるとは限らない。蓮には自他共…いや、自分だけは認めるパチンコの腕がある。
「よーし!乗った!台の力なんかじゃない、俺のこの腕で勝負してやる!ハンデなんかいらねえ!」
「そうこなくちゃ面白くないよな」
ニッと笑みを浮かべる嵐に、蓮も同じように笑みで返した。
「さ〜!行くぞサブちゃん!お前の与作を聞かせてくれ!」
蓮はそう言いながら、自分の台に向かって話し掛けたのだった。
ちなみに、嵐の”11番”の台はサイボーグ009である。
店内は有線放送の音が大音量で流れる中、一攫千金を狙った男達の熱い魂の鼓動が響いていたのだった。


「こいこいこいこい来た来た来た来た…」
嵐は煙草をくわえたままで静かに呟く。
身を乗り出して、目の前で繰り広げられている009の戦いを見守っていた。
真ん中で止まっている”8”の字を、009が蹴ったり殴ったりしている。その両脇には9の文字。
まあ要するにリーチである。
「よしよしよしよし…」
ニヤリとする嵐の目の前で999が並び…『大当たり』の文字がディスプレイに踊った。
「新年一発目!」
「なにい?!」
喜びに小さくガッツポーズを作る嵐を、蓮は驚愕の目で見つめる。
こちらはリーチすらない状態で早くも玉を打ち尽くしかけているところだった。
「いや〜…悪いな、蓮」
「まだ勝負は始まったばかりだろ!」
「”祭”も”与作”も聞こえてこないけどな?」
「まだまだっ!!油断してると痛い目にあうぜ!」
「どうかな?」
必死の形相で右手を動かしつつ、両目を台に貼り付けている蓮は…
煙草を吸う余裕すら無く、なけなしのお札を再びつぎ込んだ。
「確変狙うしかねえな…」
そしてぼそっと呟く。嵐は横目でその様子を見つつ、楽しげに笑みを浮かべたのだった。
『やったまた来たー!ありがとダルメシア〜〜〜ン!!』
そんな二人の斜め背後で、若い女の子の騒ぐ声がする。
同時に振り返ると、正月早々振袖でパチンコ台に座っている女の子の台が…見事にフィーバーしていた。
一人が座り残り二名が台を覗き込んでいるのだが、その足元には銀の玉が満杯になったケースが山積みになっている。
『すっご〜い!また当たったよ!初めてなのに凄いね〜!』
『このチワワが可愛くて見てみたかっただけなのにね〜v』
『見て!またズーム〜!か〜わい〜いvv』
そんな会話まで聞こえてくる。
ビギナーズラックというものが、パチンコをやっているとあるものなのだが…
チワワ見たさにやってきて大当たりしまくっているというのはなんとも周囲の男性陣には切ないものだった。
「俺もあっち行くかな…」
その様子を見ていた蓮がぼそりと呟く。
嵐が見ると、すっかり女の子達の方に視線が向いてしまっていた。
「いいぜ?台を変えても」
「―――きっと俺はサブちゃんに見放されたんだ…こうなったら可愛い子犬達に囲まれる方を選ぶ」
「蓮の場合、可愛い女の子に囲まれたいだけだろ」
苦笑する嵐。想いっきり図星ではあるが、蓮は不敵な笑みを浮かべて大当たり連発中の女の子のいる台の隣に座った。
「蓮の奴、女の子狙いで勝負捨てたな…」
嵐が引きつった笑みを浮かべて呟いたと同時に、彼の台で今度はスーパーリーチがかかっていたのだった。


「ご馳走様でした」
ニッと笑みを浮かべた、嵐。
彼の目の前では、がっくりと肩を落として財布をパタパタと振っている蓮の姿があった。
「言っとくけど、自業自得だからな?」
「わかってるよ…」
「女の子に目が眩んで移動しなけりゃあの後、サブちゃん大当たり連発したのにな」
「わかってる!!もうそれ以上言ってくれるな!」
とほほ…と溜め息をついて蓮はカラの財布をポケットに仕舞った。
結局、あの後二時間ほど粘ったのだが、嵐は合計で5回程当たりが出て、それなりに儲かった。
しかし蓮はと言うと、女の子を意識して集中できてなかった所為か、リーチが一度も出ずに敗退した。
それだけならまだしも…蓮が席を立った後に、サブちゃんの台に座った見ず知らずの男性が、
それまでの沈黙が嘘のように速攻リーチで大当たりを連発させたのだった。
「普通に負けるより悔しい…」
「真面目に勝負してたら今頃は立場逆転だったかもしれねえのに残念だったな」
「うるさい!…ん?でも待てよ…なんで負けて大金擦った俺がおごってるんだ?割に合わないような…」
「何言ってんだよ。それが勝負だろ」
「儲けた嵐が奢ってもらってるってのがどうも…」
「大した儲けじゃないっての」
そう。あくまでちょっとした足し程度の儲けだ。しかし、それでも楽しい。
嵐も蓮もあくまで娯楽としてパチンコを楽しんでいるわけで、それで食って行こうとか思っているわけではない。
だから勝っても負けてもそう大きく喜んだり落ち込んだりもしない。
しない…はずなのだが、蓮は微妙に落ち込んでいる様子だった。黙ったままでしばらく地面を見つめる。
自分に負けたがそんなに悔しかったのだろうかと、嵐が蓮に視線を向けた瞬間…突然、蓮が笑みを浮かべて顔を上げた。
「よし嵐!じゃあ来月リベンジだ!」
「はあ?なんで来月?」」
「今後はさ、あの店バレンタインに214番の台と2番と14番の台が出るって噂なんだ…」
どっから仕入れてきてるんだその情報…と、嵐は内心ツッコミを入れる。
しかしまあ、再び勝負するのも面白い。
「また負けた方が奢りだぜ?わかってんのかよ?」
「百も承知!今度は絶対に勝つ!その変わり、次は俺が214か2か14な」
「――いいぜ。どうせ勝つのは俺だ」
「負けないっての!」
生活かかってるんだからそうそう負けて奢ってられるか!と、
蓮は切実な事を思いつつも…こうやってパチンコ勝負を楽しんでいるのだった。


かくして、二人の新年はパチンコ勝負で幕を開けたのだった。



[終]
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
安曇あずみ クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年01月07日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.