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『妖精さんの蜂蜜〜お姉様の悪戯 』
海原・みその1388)&海原・みなも(1252)


 どうしてそこまで考えてしまったのかしら。
 …すべてはみなもが可愛いせいですわ。

 ………………誰かにそんな言い訳をしたくなるくらい。


 海原みそのは静かな暗闇にひとり、舞い下りていました。
 深淵では無い、“陸”の一角。

 …夜中に、“陸”の海原の家に来る事は滅多に無い気がします。
 そう言えば、何故か一番下の妹の気配は感じ取れません。
 留守なのでしょうか。
 …友人のところへでもお泊まりなのかもしれませんわね。
 どうやら今は、みなもしか家には居ないようです。
 眠っている彼女の気配しか感じ取れません。
 が。
 今、わたくしが夜中の海原の家に来てしまった原因…わたくしの胸騒ぎの源がわかりました。
 家に異質な“流れ”があります。
 今まで家に来た時には明らかに無かった“流れ”、その感覚。
 惹かれるようにして追ってしまいます。
 海原の家、奥まった部屋。鍵の掛かる棚。
 不自然なくらい厳重に保管してあるそこにあったのは…蜂蜜の壷。
 一見、特に何の問題も無さそうなそれが――何故封印でもされるように仕舞ってあったのか。
 みそのにはすぐに感じ取る事が出来ました。
 そして。
 時間の“流れ”を巻き戻し鍵を開け、みそのはあっさりとその壷を取り出しました。

 だって。

 …これを使って、楽しいお遊びが出来そうなのですもの。

 にっこりと嬉しそうに笑い、みそのはそのままみなもの部屋へと向かいました。
 音を立てぬよう気を付けて、中へと入ります。

 ベッドの上で、ぐっすりと眠りに落ちている姿。
 布団を剥がしても気付きません。
 また、思わず笑みがこぼれました。
 安心し切ってますわね。
 わたくしの気配だからでしょうか。
 でしたら…嬉しい限りです。
 思いながらもわたくしは、そ、とみなものパジャマのボタンに手を掛けました。

 …ちょっと、邪魔ですものね。
 艶やかに笑います。
 何処か、妖艶な笑みを。

 みなもの服を脱がせながら、みそのは自らの服の――肩紐をも落とし、するすると、自らも。

 そして裸になった、眠ったままのみなもは、少し身じろぎます。
 寒かったかしら?
 …大丈夫、これからゆっくり――暖めてあげますもの。

 心の中で告げつつ、わたくしはとろとろと粘り気のある、ひんやりした琥珀色の液体を自らに流し掛けました。
 頭から。
 少しずつ。
 万遍無く。
 …やがて、わたくしの身体を流れ、伝い落ち、ぽたり、と床に落ちました。
 ひとまず必要がなくなった蜂蜜の壷を、脇に、置きます。

 そして。

 ――ぎしり。
 ベッドの上で。
 みなものその素肌に。
 みそのは自らの身体を用いて。
 直に。
 その身に被った、蜂蜜を。
 塗りつけました。

「んにゃ…む…え!?」

 突如、ぎょっとしたように上がるみなもの声。
 当然ですわね。
 …ひとりで寝ていた筈なのに、今、わたくしが一緒にベッドの上に居るんですもの。
 驚くでしょうね。

「お静かに」
 みそのは、しー、と唇の前に人差し指を立て、そう言います。
 が。
 みなもは俄かにパニック状態でした。
「え、だって、あの、お姉様――って…何であたし裸…じゃなくってお姉様それって――」
 みそのが琥珀色の液体にまみれ自分を見下ろしており、更にその滴が自分の身体に音も無く落ちている事にも気付くなり――反射的にみなもは逃げようとしました。そこに居るのがただみそのお姉様であるだけなら、別に逃げなくとも構わないのですが、今度ばかりは少し事情が違います。
 何故なら。
 琥珀色のとろりとした液体――蜂蜜。
 と、なると。
 いつぞや厳重に仕舞い込んだ筈のあの蜂蜜。
 咄嗟にその、『厄介』な蜂蜜だと気付いたからです。

 が。

 逃げられません。
 動けません。
 みなもは、何が起きたかわかっていない様子。
 え、と困ったような顔でみなもはみそのの顔を見上げます。
「怖がらなくて良いんですのよ?」
「あの…?」
 身体が動かないんですけれど?
 そこまで言わぬ内に、みそのは察したか先回りして蠱惑的に微笑みます。
「逃げられたくはありませんもの。…観念しなさいね」
 運動神経の“流れ”を遮断しました。
 まぁ、他の神経はそのままにしてありますけれど。そう、何をされてもちゃんと感じる筈ですわ。
 ただ、逃げられないだけです。
 みなもは更に困ったようにみそのを見上げます。
「…ってあのお姉様…その蜂蜜は…」
 色々と問題が。
「わかってますわ」
「え……って、あ…」
 みなもの問いを封じるように、みそのはその身体に圧し掛かって行きます。
「お姉、さ…ま…や」
「や、じゃないですわよ、みなも?」
 くすくす。
 笑いながら、蜂蜜で濡らした指先でみなもの唇をなぞったり。髪を梳いたり。

 …そんな風にして、みなもで“遊んで”いて。
 暫くの後。

 真っ白なシーツの波が初めの内より広く見えるような気がしてきました。

 そろそろ妖精化しているのでしょうか?
 思いながらみそのは自分の姿を見ます。
 首を回し自らの背を。
 半透明な細い羽。
 今目の前で横たわっているみなもの背にも、同様の。
 みそのはこくりと満足そうに頷きます。
 艶やかな琥珀の色と透明な水滴が、微かな光を受け煌いているシーツの波間。
 …ふたりの妖精が戯れているなんて、幻想的じゃありませんこと?

 わたくしは蜂蜜でべたべたのその手を、再びみなもに滑らせました。
 …って、そんな、唇以上は――何処に触れたかなんて具体的な場所はお教え出来ませんわ。勿体無いですもの。
 みなもが、あられもなく鳴いてしまうような大事なところ、と言う事だけは、確かですけれど、ね。

 こんなみなもを見る事が出来るのは、わたくしだけ。

 恍惚としつつ、みそのはみなもの身体に触れ、蜂蜜をまだ、塗り続けていました。
 と。
「………………ぁ」
 やがて、甘い苦鳴ではなくて、本当に、ただ儚い声が聞こえて来て。
 みなもがぐったりとしてきている事に気付きました。
 動きが鈍くなって来ています。
 何処か、辛そうで。

 その時点でさすがに、やめました。
 …無理をさせたくはありませんもの。

「ごめんなさいね。…私の可愛いみなも」
 気遣いが足りませんでしたわ。
 そっと疲れ切った頬を撫でつつ、向けた微笑みを――みなも本人は見ていたかいなかったか。

 で、結局。
 その後、一日くらいはそのまま蜂蜜の効果が持続しておりました。
 …みなもが目覚めてからも、その妖精姿なままで暫く、一緒に遊んだりしていましたけどね。
 まぁ、さすがに…それまでと“同じ”遊び方は、もうしませんでしたけれど。

 ………………そう、密やかなお楽しみは、これっきりで。


【了】
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
深海残月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年01月06日

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