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『朱紅 』
鬼柳・要1358

 その刀は、持ち主を選ぶと言われた。
 刀身は紅く、血よりも焔を思い出させ。
 焔が舞うその刀の姿は鳳の様だと謳われた。
 数多の血を吸い、歓びに震える様に紅く――輝く刀。

 その刀。
 名を「焔鳳」――と、言う。


                     ◆ ◇ ◆

 とある時代の、とある国。
 平和が地に戻り――刀を持たずとも良くなった、時。
 遠く、優しく漏れる灯りを見つめている者達が居た。

「……何時の日か逢えることもあるだろうさ」
「だが、もう二度と、逢えないかもしれないな?」

 二人の人物は刀を見つめながら呟く。
 何処か、海の近くなのだろうか磯の香りが強く、高い崖へと挑むように、ただ、ただ、波が打ち寄せ砕かれる音は五月蝿いばかりに耳にこだましていた。

 鞘を抜けば夜目にも刀身の紅さがハッキリと解る、刀。

 刀を持っている人物は、相手の人物へ解ってる、と言うかの如く微笑う。

「その時は――」
「その時は?」
「それも仕方ないって、事だろうさ……どう足掻いても仕方のないこともあるだろう」
「おやおや……お前らしくも無い…だが、そうだな――もし、と言う仮定が無くとも」
「うん?」
「強くひきあう者たちは、人であれ、モノであれ……いつか互いの存在を」
 青年は皆まで言わなかった。
 だが、言わない言葉を引き継ぐように赤い髪の青年は先ほどの微笑を更に深め、
「ああ」
 ――と、相手の肩を強く、叩いた。

 ……時は、やがて巡る。
 この青年の居たときを隔て――やがて、受け継がれるだろう者へと祈るように永い時を。

 刀は――いつ、いかなるときも、ただ待ち続けた。
 自分を手にとり――戦いへと戦陣を駆け抜ける紅い闘神のような人物を。


                     ◆ ◇ ◆

 時は変わり、現代。
 冬のあまりあたたかさの無い風景を自室で見ている少年が一人。

 この日は何故か東京にしては珍しく雪が降っていた。
 しんしん、しんしんと。
 音も無く、はらはらと落ちてゆく粉雪。

 もう少し、積もってさえいなかったら遊びに出れたのに、と思う。
 こんな日ではバスさえも、まともに定刻に着かないでの運行だし…電車も線によっては止まっている線もある。
 こういう時、不便さに田舎も都会も無いのかね等と思っていた、その時――不意に自分を呼ぶ声が扉の向こうで聞こえた。

「要……要は居るか?」

 部屋まで、いつもは来ないだろう祖父をおかしく思いながらもその呼び声に鬼柳・要は短く「居るよ」とだけ答えた。
 少しして扉の向こうから「話がある、わしの部屋へ来い」と祖父の断りさえも入れられない言葉がかけられ――面倒だな、と、一人ごちた。
 …祖父は嫌いではない。
ただ、時折……酷く何かを言いたげにこちらをみる事があり、それが中学生である時の要には、苦痛だった。

(じいさんと話すのは嫌いじゃない、ただ――)

 あの、言いたげな視線が酷く。
 ……苦手だ。

 だが呼ばれたからには行かねばならない。
 面倒でも、何でも。

 要は祖父の部屋へと歩き出す――自分を呼んでいるだろう存在にさえ、今は気付かないまま。


                     ◆ ◇ ◆


 廊下を抜けて、少しばかり日当たりのよい大きな部屋。
 それが祖父の部屋だった。

「…入りますよ?」
「ああ、お入り」

 襖がかすかな音を立て、室内へと要は足を踏み入れる。
 祖父の前には、大きな布に包まれた何かが置いてあり――それを見た瞬間、要はなぜか頭の奥に自分と同じような紅い髪の男性を見たような気がした。

「……それ、何ですか?」
「これはお前の刀だ。気の遠くなるほど昔からお前だけを待っていた」
「何で、じい様は俺のだって解るんです?」
 見たことも無い、布に包まれた――刀身が紅いだろう刀。
 いや、刀身は紅じゃないかもしれない。
 けれど――でも。
(何故、俺はあれが紅の刀身を持つのだと思うんだ……?)
「さて? それはお前が考えるべきことではないかな?」
「……解らないから聞いてるんですけど?」
「……解らずとも理解する、と言う事はある……包みを解いて抜いてみるといい」
「はい……まずは……見てみないと……」
 解らない。
 本当に刀身の色がそうであるのか、果たして……違うのか。
 包みを外し、鞘から抜く。
 すると。

 要が想像した通りの紅い刀身があらわれた。

 血の色よりも紅く、焔よりもなお紅い。

 懐かしい色だ、と思う。

 そして、無意識に唇が刀へと言葉を紡ぐ。
 まるで久しぶりに逢えた旧友に言うように軽く――だが、強く。

「よろしく――相棒」


 刀身は、その言葉に呼応するかのように一瞬輝きを放つ。

「ははっ。この刀……俺の言葉、解るんでしょうか?」
「言っただろう? それはお前の刀だ――と。主の言うことが解らぬ物は居ない」
「……そ、そういうもんですかね?」
「そうだ。大事にするようにな」
「はい」

 要は良く解らないままに受け取った刀を見つめる。
 手にしっかり馴染む感覚の中で、とある名前が閃いた。

「……焔鳳?」
「おや、良く解ったな。確かにこの刀の名は焔鳳と言う。血を吸えば刀身は更に紅く輝き、剣舞を舞えば刀は鳳のようにも見えるのだそうだ」
「へぇ……凄いな……」

 外はただ、雪が降り積もる。
 しんしん、しんしんと。
 白く、ただ白く染めるように。

 刀身の紅さと――外の白さがあまりにも対照的で、要はこの刀を受け取った今日と言う日を生涯忘れないだろう、と考えていた。


 いつか、逢えると互いを呼び合い惹かれあう。
 それを運命と呼ぶか、何と呼ばわるのかは――誰も知らない。




―End―
PCシチュエーションノベル(シングル) -
秋月 奏 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年01月05日

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