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『【未亜〜拭い去れぬ記憶〜第七章『宴』】 』
早春の雛菊 未亜1055
 ――闇に化粧を施すかのように白い雪は降り続けていた。
 年の瀬を迎えつつある町では、彼方此方で宴が繰り広げられている。
 家族と暖かな暖炉を前に笑顔溢れる夜を刻む者もいれば、愛しい人と愛を確かめ合う者、酒場で祝いの酒を酌み交す者もいることだろう‥‥。貧富の差はあれど、恐らく多くの者が聖なる夜に悦びを分かち合っているに違いない。
 そして、金にモノを言わせ、私欲の限りを尽くす商人の館も例外ではなかった――――

●悪夢への序曲
 煌びやかな装飾の施された館の一郭で、優雅な旋律に合わせて少女は踊っていた。
 緑色に照り返す髪を揺らし、華奢で小さな身体を躍動させている。
 キラキラと汗を舞い散らせ、白い肌が透けるような薄い衣装を棚引かせる姿は、美しく艶やかだ。まるで妖精の如くステージで舞い踊る早春の雛菊・未亜は、客人の目を楽しませていた。
 演奏の終わりと同時にピタリとポーズを固定して、未亜は動きを止める。どれほどの時間を踊っていたのだろう? 小刻みに息を弾ませる端整な風貌の少女は、疲労の色を浮かばせていた。そんな彼女の耳に飛び込んで来たのは割れんばかりの拍手だ。
「あ、ありがとうございました」
 未亜はぺコリと頭を垂れ、ステージを降りてゆく。幕が下りると共に少女はペタンと床に座り込んだ。
(「ハァハァ‥‥疲れたけど、普通に踊るだけで、良かった」)
 ――明日の宴は脱がなくても良いぞ。
「えっ?」
 少女は思わず呆気にとられたような声をあげた。年の瀬を迎えつつある聖なる夜に、宴で踊りを披露しろと命じられたのだ。卑らしい禿げ頭の主の事だ。てっきり恥かしい踊りを強要されるのかと思っていた。未亜は脳裏に一つの答えが過ぎり、赤い瞳を見開く。
「ま、まさか‥‥他の女の子たちに!?」
「ハッハッハッ、自分の心配より他人の心配かね? 未亜は優しい娘よのう。按ずるな、その代わりお前には色々と働いてもらうがな」
 ――‥‥亜さま? 未亜さま?
「は、はい! ごめんなさい、少し意識が遠くなってたみたい」
「未亜さま、濡れた衣装では風邪を召してしまいます。早くお脱ぎになって下さいまし」
 召使いの少女に言われるままに、未亜は身を任せた。リボンのように結ばれた衣装を紐解くと、スルリと少女の身体から流れる如く薄布が落ち、アッという間に彼女は一糸纏わぬ姿となった。
「!! 未亜さま? またお身体に傷が‥‥」
「う‥‥うん、ちょっと痛い、だけ、だから‥‥」
 買い出しを繰り返す日々が終わると共に、生活は豹変した。
 主は少女に一人の召使いをあてがったのだ。未亜より少し年上と思われし少女は、無駄口を吐かないものの、しっかりと要所要所で彼女の世話に務めていたのである。だが、真夜中に現れる魔物の事は誰も知らない‥‥。
「あ、未亜、汗臭いと思うから流して来るよ」
「‥‥その必要はありません」
 背後から聞えた召使いの声は何時もと違う音色を含んでいた。
「えっ?」
 カチャリ★ と鮮やかな手捌きで、手足に冷たい感触が嵌められた事に気付き、未亜は腰を捻って少女に顔を向けた。赤い瞳に飛び込んで来たのは手足を拘束した鎖に繋がれた白いテーブルだ。
「ちょっ‥‥なに? あんっ!」
「抵抗さないますと痛いだけですよ未亜さま」
 キリキリとハンドルを回すと、未亜の身体は引っ張られてゆき、テーブルへと仰向けに寝かされる形となった。
「何なの? 未亜をどうするんだよぉ!」
「‥‥申し訳ありません。ご主人様の命令ですので‥‥」
 召使いは車輪のついたテーブルを押して行くと、未亜の小さなハナに食欲をそそる香りが流れて来た。
 ――厨房? ‥‥って、この恰好でぇ!?
 未亜はテーブルの端に両手足を拘束されて磔状態だ。こんな姿を清潔な身形をしたシェフ達に見られてしまう。そう察した少女は顔を真っ赤に紅潮させる。鼓動が加速し、頭の中が真っ白になりつつも、彼女は羞恥の色を浮かばせて首を横に振り続けた。
「や‥‥こんな恰好でヤダよぉ! 未亜、何も悪い事‥‥!!」
 少女の哀願にも似た響きは止んだ。赤い瞳に映ったのは数人のシェフの平然とした姿だった。
 ――お前には色々と働いてもらうがな。
 未亜の脳裏に過ぎったのは、あの日の主の言葉‥‥。全てを悟った少女は、羞恥に染まった身体を小刻みに震えさせる中、グッと瞳を閉じる。闇の中に飛び込んで来たのはシェフ達の声だ。
「お待ちしておりました。時間がないぞ! 直ぐに取り掛かれ!」
(「盛り付け?」)
 未亜の耳に響くのは周囲に皿を置く音だけだった。薄っすらと瞳を開くと湯気をたてる料理が彼女を中心に取り囲み始めていた。
「ねぇ、これって?」
 動揺の声で赤い瞳は召使いの少女へと問い掛けた。
「未亜さまには給仕をやって頂きます。これなら諦めも着きますでしょう?」」
 確かに。ここで逃げようとすれば料理は台無しになるだろう。主が開いたパーティーも後味が悪くなる。結局は責任を取らされるのは未亜本人なのだ。
 少女は身を委ねる以外の術が無かった‥‥。

●地獄と化す晩餐会
「それでは皆様、一流シェフが腕に縒りを掛けたスペシャルディナーをご堪能下さいませ!」
 小太りな主は派手に両手を叩くと、白いテーブルが運ばれて来た。客人から流れて来るのは感嘆の響きだ。
「こ、これは美しい!」「正に芸術の域に達しておる!」
 嬉々とした瞳に映し出されたのは、あらゆる料理と共にテーブルに載せられた未亜の姿だった。数人の男達に囲まれて、少女は羞恥に染まった顔を逸らし、皿を持って料理を勧めた。
「‥‥どうぞ、お食べになってください」
 ――恥かしいよぉ‥‥どうして未亜がこんな恰好で‥‥。
「それでは存分にお召し上がり下さい!」
 客人等の眼光が血走った刹那、数多の手や口が一斉にテーブルへと群がり始める。それは正にピラニアかゾンビの如く――――
「やんっ、そんなに慌てずとも‥‥きゃん! そ、それは料理じゃござ‥‥ちょ、はぁんっ!」
 料理を貪り食らう客人の手が有らぬ方向を弄り、未亜は僅かに動く身体を捩り、必死に抗い続けた。
「素晴らしい! 舌で転がす度に味が深くなるソース!」
「鼻を突く汗の匂いと料理が実に巧みなハーモニーを奏でておる!」
「このステーキも素晴らしい! まるで人肌で温めたような調理法は絶品ですぞ!」
「この生クリームの小ぶりな山も絶品ですよ。舌触りが絶妙だ」
(「ハァハァ‥‥だめぇ‥‥変になっちゃいそうだよぉ」)
「主よ、この可愛らしい給仕にせめてスープでも飲ませてやりたいのだが、構わないかね?」
「ご自由に。その代わり契約は宜しくお願いしますよ。さ、未亜、頂戴なさい」
 ――未亜の頭の中が真っ白になった。
 断わって無理矢理注がれるのは嫌だ。少女は抵抗せず、喉を鳴らしてスープを飲み続けた。一寸した余興のつもりなのだろう。来客は面白がるように次々とスープを未亜へと与える。「もっと急いで飲め!」と要求される事もあり、むせって口から零し、次第にスープが白い躯を汚してゆく。
 どれほどの時間が経過しただろうか。艶かしく肌を照り返らせ、未だ終わらぬ晩餐に身を任せていた。既に腹も膨れ上がり、少女は仰向けに倒れ込んだ。
「おいおい、ワシもスープをお代わりさせて‥‥!? 何事だ!」
 ――それは突然に始まった。
 館の窓が割れる甲高い音と共に、漆黒の影が冷気と共に風の如く場内を駆け巡ったのだ。刹那、何が起きたのか分からぬ表情のまま、来客の身体がズルリと傾き、臓物をぶちまけ、肉片へと変容してゆく。逃げまどい怒号と悲鳴の響き渡る中、忽ち宴は鮮血と肉片の舞い飛ぶ地獄と化したのである。
『ミアァァ‥‥ヨルはワレの刻ダァ! ズニノルナ人間ドモよ!』
「せ‥‥殲鬼‥‥さ、ま? ひっ? いやあぁぁっ!」
 未亜の小さな膨らみの上に転がったのは男の頭だった。鋭利な刃物で切断されたような首元から生暖かい鮮血が派手に噴き出し、少女の裸体を血で染め上げてゆく。幾多の阿鼻叫喚を目にした彼女も、凄惨な光景に意識が遠退き、気を失い掛けた――その時だ。
「闇に蠢く魔物よ‥‥その命の灯火を消し去ってくれる!」
 何処かで聞いたような女性の声が耳に飛び込んで来た。
 ――あれ? この声‥‥何処かで‥‥。
 ――私の店で働いたらどう?
 ――駄目だよ! 未亜、人の優しさに触れただけで十分だもん♪
 夢? これも夢の続きなんだ‥‥きっと、夢の最後は――――
 未亜は意識を失った‥‥。

●あとがき(?)
 メリークリスマス☆ そんな時期にプレゼントできる筈でした。既にA HAPPY New year ですね。何故に遅れたかは察して頂ければ幸いです(苦笑)。えぇ、ネタ的に直球は厳しいです。
 毎度ご注文有り難うございます♪ 切磋巧実です。
 第7章、いかがでしたでしょうか? ぎりぎりアレンジでご要望にお応えできるよう努めさせて頂きました。さて、いよいよ、クライマックス近しという所かな? 但し、この展開だとシングルでは厳しいかもです。クライマックスは是非ツインかトリプルで☆(おいおい)。
 果たして、未亜の運命は!? 彼女は魔物や男共を狂わす魔性の少女なのだろうか? 加速してゆく歯車が向かう結末とは!?
 それでは感想お待ちしていますね♪
PCシチュエーションノベル(シングル) -
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聖獣界ソーン
2004年01月05日

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