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『冬の祀りに貴女の愛を! 』
白峰・愛里2028)&月見里・千里(0165)


 ■そうよ、世界は私のもの。を〜ッほほほ!!■


「いらっしゃいませぇ〜♪」
 白峰・愛里はニッコリと笑った。
「いらっしゃいませv」
 月見里・千里も微笑んだ。
 その途端、二人に幾つものフラッシュが瞬く。

―― あぁ……眩しい。

 愛理はほくそえんでるなぁ……と、千里は思った。
 ライダースーツを着込んだまま、昆虫の頭を模した特撮キャラと思しきヘルメットを外し、にこやかな笑顔を向けている愛理を横目で見る。
 笑顔の裏には金の匂い。
 でなければ、オタク族のカメラになんぞに愛理が収まるはずはないのだから。相手が赤外線付きカメラを持っていることは重々承知の上での愛理の作戦なのだ。

――愛理ちゃん顔良いからぁ〜

 金髪美少女の営業スマイルを見ながら、千里は人知れず頷く。
 とにかく、赤外線対策用の黒い水着はしっかり着込んでいる。これでカメラに自分達のピーな写真が写る事はないだろう。今回は安心して完成したばかりの男性向恋愛シュミレーションゲームを大々的に売りさばく予定だ。
 暫し、千里は自分が立つこの場所の事を考えた。

 2日間で100万人が会場に繰り出すビックイベント。
 オタクの殿堂にして、アメリカロサンゼルスに支店(?)を持つ聖地。
 あるアメリカ人兵士の一人がこう言った。
「有事の際には、ステイツ(本国)を捨てて、日本を……ジャパニメーションを守るために戦う!!!!!」
 これは紛れもない事実である。
 かなりダメな発言であるとは思うのだが、一度足を突っ込んだが最後、抜け出る事は出来ない。……というか、出る気がしなくなってしまう。
 不思議な磁気を発する特殊な場所。
 その名もコミケ。
 コスプレイヤーは舞い踊り、巨額の資金と怪しいブツ(笑)が取引される場所。
 可愛いキャラクターグッズは時計からファイル、抱き枕、果てはパンツに至るまで。揃わないものはないのが特徴である。
 夏になれば団扇とTシャツが飛ぶように売れるものだ。
 ただし、携帯電話が繋がりにくいのが難点ではあったが……

 千里はあたりを見回した。
 ここまで描いていいのですか?と目を見張って見てしまいそうになるポスターが、あちらこちらに貼ってあった。
 あらぬポーズの美少女絵だ。
 こーんなかっこで、もの欲しそ〜な目でこちらを見ている。
 はにかみ笑顔の小学生の女の子のポスターまであった。吹き出しには「おにいちゃん、大好き♪」とか描いてあるのだ。
 それらに囲まれつつ、千里達は一番目立つ場所にいた。

 そう! 壁際。

 愛理は大手サークルの会長だった。
 大手と目されるようになるには幾つかの条件がある。
 初回発行部数が500〜1000冊代になることと、最低限、卓の位置を壁際に移動される事である。
 最初からわかっている場合は、壁際の場所に卓が置かれる。
 新規サークルの場合はさすがに解からないので、まずお客さんが並んで周りに影響を出し始めたあたりで移動させられるのだ。
 愛理たちは最初からこの場所にいた。
 幾つもの功績の結果がここにある。

「別にいーじゃん。暇だし。……展覧会とか学園祭は過ぎた(?)しさ。冬の祭典は大忙しなのよぅ! 頑張って乗り切るしかないワケ!」
 こう言って、愛理は千里にコスプレをさせつつ、売り子さんをさせているのだった。

「今回の新刊は同人ソフト一本、新刊3冊、便箋2つ、缶バッチ6種、CG集一本でーっす! 限定カードは100名様になってまぁ〜〜す」
 大きな声で愛理があたりに宣伝する。
「いつもありがとうございますぅ〜☆ お花ありがとうございまーっすvv」
「どぉもですー」
 控えめに千里が言えば、横から突っ込みが入る。
「もっと大きな声出さなくっちゃダメじゃないのよーう! ……あ、2800円になりまーす」
 ふと顔をお客様に向けてにこりと笑った。
 特製の紙袋にCD−Rと新刊とコピー誌を入れる。
 萌要素をたっぷりと注ぎ込んだCDは瞬く間に売れていった。
 CD−Rは一枚1500円。新刊は安い方が800円、高いのは1500円。500部づつ持って来ているので昼までには何とか売ってしまいたかった。
 リミットはあと30分。
 残りは50枚弱!

 駄菓子菓子!!!! 

勝負に走る二人に緊張感が漲ったその刹那。
 意外な敵が現れたのだった。


 ■YAKIIMOフォーメーション GOーGOー!!!■

『やきいもー、やきぃーもぉ〜〜〜〜〜〜。いしやぁきーもーはーほっかーほかぁ〜〜〜』
 午前中完売のノリを妨げる、間抜けたテンポのアナウンスに愛理は眉を顰めた。
「一体なんなのよう!! 場内アナウンスで冗談やってんじゃないわよ!!! 徹夜開けでご飯食べてないのよ、もうお昼なのよ、おなか減ってるのよ!!! 頭くるのよぅ!!!!」
「まぁまぁ、愛理ちゃん」
 スピーカーに向かって叫ぶ愛理をなだめようと千里が声を掛けた。
 しかし、そのアナウンスはだんだん近づいているのだった
 ふと並んでいた人々がフラフラと列から離れていく。
「あ……お客さん……ちゃんと並んで……」
「…………いも…」
「へ??」
「・……い、しやーきいも〜〜〜〜」
「はァ?」
「いも……いもー……」
「いも〜〜〜〜……いも〜〜〜〜」
 そう呟き始めると並んでいたお客さんはその声につられて列から離れていってしまう。
「ちょっとぉ! お客さーん??」
 愛理が叫んでも返答もせずに、ぞろぞろと歩いていってしまった。
 ふとそちらを見れば、天辺に金のシャチホコをつけた屋台が見えてくる。
「なによ、あれ」
「屋台よねー……多分」
 ゆうにサークルスペース4つ分の長い屋台が堂々とこちらに進んできた。
 どんどん人だかりは増え、周辺のお客さんも群がっていく始末。
 設営スタッフが慌てて走ってくるが、その魔のアナウンスに惹かれてスタッフもそちらについて逝ってしまった。
「はた迷惑なやつね! うちのお客さん返してよ!!」
「ってゆーか、会場内で火は扱っちゃダメだと思うんだけどなあ」
「そんなのどーだっていいわよ。午前中完売できないじゃないのよぅ!!!」
「それはダメ………」
 千里の呟きを聞いていないのか、愛理は屋台に向かって怒鳴りつづけていた。
 こちらまで焼き芋屋が近づいてくれば『鳴門金時使用 石焼き芋』と書いてあった。横にはごく小さい文字で『ヤキイモ教』と書かれている。
 目に映った『鳴門金時』文字に愛理は釘付けになった。
 徳島県鳴門町付近の名産で、紅あずまよりも3倍ほど高く、中は黄金色。ほくほくした食感と濃厚な甘味が最高な芋である。
「鳴門金時……うっそぉ! そんなの石焼芋に使ってるの?? おなかすいたあ」
「愛理ちゃん……さっきと言ってる事が違う」
 すかさず千里が突っ込んだ。
 さすれば、巨大宣伝カーの如くアナウンスを垂れ流しつづけたスピーカーはこちらに話し掛けて来る。
 高笑いをしつつ、怪しい外人が屋台の天辺に現れた。
 くるくる巻き毛の金髪にモジャモジャの胸毛、青ヒゲに顎割れ顔と垂れ目ときたもんだ。おまけにエプロンと褌。似非アメリカ人口調もかなり怪しい。
「Oh−、貴女ヤキイモ食べたいね? お布施を払うデスYO−☆ 売上全部よこしなさーい」
「馬鹿言ってんじゃないわよ!」
「そーよそーよ!」
「でもおなかすいた……」
「愛理ちゃーん(泣)」
「ほーら、ほらほら。いい匂いデスYO−☆」
 言うや否や、ヤキイモを折って中を見せた。
 ほわん〜☆と広がる自然の甘い匂い。中は真っ黄色で、蜜を練り込んだように美しい艶。
 二人の喉がごくりと鳴った。
「食べた〜〜〜い! むかつくぅ〜〜〜!!!!」
「おなかすいたぁ〜〜〜〜」
 乙女の愛するヤキイモと腐女子の愛する『同人』を天秤にかけて、二人の心と目は彷徨う。
「無理は禁物ですよ、美しいお嬢さん」
「女が美しいのは基本よ。文句があるならベルサイユへいらっしゃい……んで、それ頂戴」
「HAHAHAHAHA〜〜〜!!! お金、先よこすねー☆」
「やーよ」
「HAHAHAッ!! そぉ〜〜〜んな、おじょーさんンにはぁ! おしおきィ!! YEAH!!」
 金髪ヒゲオヤジを乗せたまま、屋台は一気にエクセレントチェンジし、巨大ロボットへと変身する。
「華麗にィー! キュートにィ! ぴんぷるぱんぷる、ロボットになぁああれ♪」
 うっふん☆…と腰をくねらせてオヤジがポーズを決める。
「うげぇえええ………」
「変なもの見ちゃった……」
 怪しい動きに素に戻った二人は、おげぇ…と呟く。
 おまけに金のシャチホコがロボットのビーチクの位置にきているのは何とかして欲しい。
「ヤキイモはぁー、世界一ィいいいいいいい!!!!」
「うるさーい! 萌えの世界は宇宙一ィいいい!!!」
 愛理がオヤジに怒鳴る。
「人類の萌えと煩悩救済のために、いざ、勝負!!!」
「アイドルを制すものは、同人を制す!! 冬のアイドル、いもいもいもヤキーイモ〜〜〜〜! ひゃっはぁ!!」
 髪をかきあげ、ゲロッパのポーズを決めるとオヤジは屋台ロボットごと突進してきた。巻き添えを食った人たちの悲鳴が聞こえる。
「あ〜〜〜、お客さんになんてことするのよ!!」
「あたしたちも巻き添え食っちゃうよー」
「てーか、会場を守らなくっちゃ!」
 そう言うなり、愛理はヘルメットを被る。それにならって千里もヘルメットを被った。
「千里ちゃん……武器ヨロシク☆」
「えーッ!」
「あたし出せないもん」
「しょーがないなぁ……」
 ぶつぶつと文句を言うと、千里は空中の分子を変質固定してピンク色のバズーカを二丁作り出した。
「あ、千里ちゃん。これ可愛いーvv」
「そんなこと言ってる場合じゃないって……わぁッ!!」
 相手の攻撃をかわしつつ、銃口を向ける。
 引き金を引くと、ぽむっ☆と音がして、白いパンティーが噴射された。
「ぎゃああああああ! 違うってええ!!!」
 遠くのサークルで野太い悲鳴が上がる。
「特製パンティーが無い……あぁ!!!! あんなところにィ!!!」
 太ったお兄さんが卓に突っ伏して泣き始めた。
「俺の……俺のパンティーがあああああ!!!」
 かなり違う発言だが、間違ってはいないので周囲の人間は突っ込まなかった。
 無論、オヤジへの打撃は皆無である。
「おじょーさーんvv いもいもーvv」
「きゃぁあああ!! えーい!! 愛理キーック!」
 卓を踏み越え、お客を踏んで、ジャンプした先はオヤジの股間。

 ちーん☆

 ……と仏壇の鐘を鳴らす音が、見ていた全員の脳裏に自動再生された。
 己が日本人である事を自覚する瞬間であった。
 エプロンと褌のみではガードしきれるものではなく、ぐにゃりと分厚いブーツ底で踏まれたそれは大ダメージを食らう。
「はうッ!!!……」
 オヤジは息を殺して蹲り、地面へと落下した。
「…み、ミーのお芋は…蹴らないで……ガックリ……」
 最後の『ガックリ』まで自分で言って、オヤジはその場に倒れる。
 ポーズをびしっ!っと二人で決めれば、会場内でやんややんやと声が上がった。
 辺りに、やあやあと満面の笑みで返していれば、設営スタッフがバタバタと足音を立ててやってきた。
「退場」
 短くこう告げる。
「へ?」
「だから、退場ね……」
「えぇええええ!!!! 何でぇ!?」
「他んとこのサークルの商品投げちゃだめでしょ? それに……会場の真ん中でショーやるの禁止ってパンフレットに書いてあるはずだよ??」
「やってないわよう!!」
「そのカッコで言わないでくれる? おまけに銃の持ち込みも禁止!! 30センチ以上の長物は持ってきちゃいけないってかいてあるでしょーに。はい、帰った帰った」
「そんなぁ……」
「ちなみに一年間自粛してもらうから……」
「へ??」
「つまり、夏の参加も禁止。冬はどうだか知んないけどね。とにかく、設営委員会の方からのお達しなんで、さっさか片付けて帰ってね。…あと周辺の人にもちゃんとあいさつして帰ってよ」
 午前中完売を目前に控えての結果に愛理は呆然となった。
 今までの苦労が水の泡である。
 あとはHPの広告ページとコミネットを使うしかないが、集客率の方は望むことは出来ないかもしれなかった。やはりコミケに敵うものはないのだ。
 スタスタと設置スタッフは去っていった。
 呆然と立ち尽くす二人だけが残される。
 愛理は憎々しげに、ぶっ倒れたままのオヤジを睨みすえた。
「全部、あんたの所為よぉおお!!!!!」
「愛理ちゃん……」
「あたしの青春返せえええええええ!!!!!!!」
 地団駄を踏むと愛理は叫んだ。
 広ーい会場に愛理の声が響く。
 ヤキイモ教の名を掲げた旗が冬の風にはためいていた。
 愛理はそれを踏みにじる。
 いつか、復讐を果たす事を誓って…………

 ■ 完 ■
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
皆瀬七々海 クリエイターズルームへ
東京怪談
2004年01月05日

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