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『君と過ごすクリスマス 』
葛城・樹1985)&楠木・茉莉奈(1421)


「寒いっ」
バイトを終え、待ち合わせ場所であるバイト先のジャズ喫茶の前に出ると雪が降っている。
通りで寒いわけだ。
体を擦りながら目線をあげると既に茉莉奈が待っていた。


「こんばんは。待った?」
樹の目線の先にいる、色白で天然の茶髪をツインテールで結え、大きなピンク色のリボンを括り付けた小さな女の子。
自分の猫が冷えないように確りと抱きしめ、冷えきった自分自身も温める。
とても寒そうにしている。
「樹ちゃん〜!こんばんは!!」
樹を発見すると先ほどとはうって変わって、嬉しそうな明るい表情を見せてくる茉莉奈。
「茉莉奈は今日も元気ですね・・」
「うん。私はいつも元気だよ。今日はいっぱい遊ぼうね」

誘ってきたのは茉莉奈の方だ。是といった予定を入れていたわけじゃないし、断る理由もなかった。
樹自身も受験勉強のストレス発散でたまには気分転換になるのでは、っと思い軽く承諾していた。
そして現在に至る。

「樹ちゃん、樹ちゃん!雪だよ〜雪♪」

空を見上げながら嬉しそうに手を翳す茉莉奈を見て、微笑ましく思う。
周りを見渡せば恋人だらけ。
思えばクリスマス・イヴだというのに、共に過ごす相手はいない。その代わりに幼馴染みの茉莉奈がカラオケに誘ってきた。
「まぁーでも・・別に悪くはないんですけどね・・」
「なに?樹ちゃん何か言った??」
「いや、何でもないですよ」
苦笑しながら茉莉奈の横を歩く。
周りから見ると、保護者に見えるのだろうか、それとも恋人に見えてしまうのだろうか。
元々、2人は仲の良い幼馴染同士。
忙しい樹の両親の代わりに、樹の世話をしてくれたのがご近所に住む茉莉奈の母親だった。
そのせいで二人は兄妹同然に育ってきた。
樹から見れば茉莉奈は可愛い可愛い妹のようなもの。

「所でこんな夜遅くに大丈夫ですか??」
「い・・樹ちゃん、私の事、子供扱いしてるでしょう・・」
「そういう訳じゃないですけど・・」
頬を膨らませて疑うような目つきで樹の事を見る茉莉奈の視線が痛い。
でもお互いの足取りは共に軽い。
「・・僕は男なのにカラオケなんて・・あっ、っで親の方は大丈夫ですか??」
「また、子ども扱いして!もぉー」
子供扱いをした訳ではないが、茉莉奈は女の子だし両親も心配するだろうと思い訊いた訳だ。
困った顔をしていると、茉莉奈の顔が緩々と笑顔に戻る。
「冗談だよ〜。両親は樹ちゃんの事を信頼している、って言ってたよ・・だから大丈夫!」
「大丈夫って・・・つまりそれって・・(男って思われてないって事じゃ・・)」
ちょっぴりショックを受ける樹の横を歩いていた茉莉奈は樹より先に一歩前に出て無邪気に半回転して樹の方を向く。
茉莉奈のバックに映るイルミネーションがとても美しく茉莉奈を見せる。
「あ・・イリュミネーション綺麗ですね・・」
「うん。凄く綺麗〜。やっぱり人多いね。恋人同士ばっかり・・」
キョロキョロと辺りを見渡し、茉莉奈は改めて確認する。
「僕と歩くのは嫌ですか??」
「そんな事ないよ。樹ちゃんと歩くの楽しいよ!あっ、ここだよ!」
茉莉奈は突然立ち止まり、予定していたカラオケボックスの場所を指差す。
さすが茉莉奈が選んだだけの事はある。流行りの人気高いカラオケ店だ。

「こちらへどうぞ〜」
受付で名前を記入すると個室に案内され中に入る。
中にはいると、最初に小さなクリスマスツリーのオブジェが目にはいる。
それから赤と緑のクッション。外はもちろんのこと中もクリスマス一色だ。
まずは飲み物を注文する。

「なんだかな・・。歌を歌う事は大好きなんだけど・・僕がカラオケで歌うとそれこそオペラのようになってしまいますし・・・」
「こ〜ら。樹ちゃん、ため息を吐かないの。・・それに私は気にしないって言ったでしょ??」
小声で呟いたつもりだが茉莉奈には聞こえていたらしい。
誰に誘われても遠慮してきたのだが、誘われた際に茉莉奈が気にしないと言ってくれた為、カラオケに行く決心がついた。
「じゃー、先に私から歌うよ」
本から歌を選曲した茉莉奈はリモコンを手に取り、慣れた手つきで番号を打ち込む。
「一番〜茉莉奈、歌いま〜す!!」
テンションを高くして茉莉奈が友達の猫を大切に抱いて歌を歌いだす。
のりのりで名探偵コナンの主題歌メドレーを綺麗な可愛らしい声で次々と歌う。
趣味がカラオケだけあって、とても上手い。

「さすが、茉莉奈・・」
調子よく何曲か歌い終えた茉莉奈に感心しながら拍手を送る。
無邪気に笑顔を見せていた茉莉奈は少しだけ照れた顔を見せる。
「じゃー、次は樹ちゃんの番ね」
「あ・・えーと・・茉莉奈!僕、茉莉奈の為に来る前にケーキ焼いてきたんですけど食べますか??」
「わぁ〜ケーキ??食べる♪」
気にしないと言われても自分自身が気になってしまう為か、まだ樹は歌う決心がつかない。
動揺するように言葉を返した樹だが茉莉奈にはばれていない様だ。

とにかく、今は樹の作ったお手製のケーキを食べるとしよう。


「いただきます♪」
「はい。どーぞ・・・」
樹は皿に取り分けたふわふわのシフォンケーキを茉莉奈の前に差し出す。
茉莉奈が一口食べたのを確認してから樹もケーキに手をつける。
「わぁー・・甘くて美味しい」
「それは良かった。茉莉奈の為に作ったんですよ・・」
万遍な笑みで喜ぶ茉莉奈を見ていると樹も自然と頬が緩む。
ふと目線をおろすと、物欲しそうに茉莉奈を見る猫のマールの姿が映る。
「マールにも少しあげないと・・拗ねちゃいますよ・・」
「そうだね。でもマール、太ったら大変だから少しだけだよ」
マールにケーキを人間の一口サイズに切って差し出すと、初めは警戒しながらも食べだす。
甘い味が気に入ったのか、段々幸せそうにしてケーキをペロペロと舐める。
その様子を見て、茉莉奈も再び美味しそうに食べ始める。
「ニャー・・」
「なに?マールはもう駄目だよ・・」
「ニャー」
食べ終わると少々物足りなかったのかメスらしく可愛らしい泣き声で強請るが茉莉奈に止められる。
少し動きを止め、考えた後マールは樹の方へ行き、擦り寄ってきた。
「ニャッ?」
「えっ?!マール、な・・なんですか??」
「マール・・・樹ちゃんに強請っても駄目だよ」
マールの意外な行動にきょとんとする樹に対して、マールの行動に呆れる茉莉奈。
ゆっくりと立ち上がると茉莉奈はマールを持ち上げ、自分の膝の上に戻す。
「もぉ。今日は特別な日だから・・後、少しだけだよ」
結局の所、マールに甘い茉莉奈らしい。
渋々ケーキをあげているように見えるが、内心ではそんな事はなくとても嬉しそうだ。
樹の目にはちゃんと、内心の茉莉奈が映しだされていた。
属にいう、長年の付き合い・・と言うやつだ。

「ふぅ。食べた・・樹ちゃん、ご馳走様」
茉莉奈は手を合わせ、その後に樹にお礼を言う。
「もう、食べないんですか?」
「樹ちゃん・・食べにきたわけじゃないんだから・・。今、全部食べなくても夜はまだまだ長いんだよ!それに味わって食べたいからね」
そう言いながら立ち上がりリモコンを手にする。
「はいっ、次こそは樹ちゃんの番だよ。次は、はぐらかしは効かないからね」
「ば・・ばれてたんですね・・」
苦笑しながら見上げると茉莉奈が嬉しそうな笑顔で樹にマイクを差し出す。
「樹ちゃんの番だよ」
「わ・・分かりました。取り敢えず一曲だけ・・」
「うん。樹ちゃんの歌、楽しみ〜」
樹は慣れない手つきで番号を入力する。
「えっと・・・じゃ・・これにしようかな・・」
曲が流れ出すと題名が表示され、そこには『さくら(独唱)』で森山直太朗と題されている。
「わぁー樹ちゃん、さくら歌ってくれるの??」


「僕らはきっと待ってる 君とまた会える日々を僕らはきっと待ってる・・・・」
歌いだしは順調。
ちらりと茉莉奈の方を見ると、しっとりと歌う樹の歌声に耳を澄ましながら聴いている。

「さくら さくら いざ舞い上がれ 永遠にさんざめく光を浴びてさらば友よ またこの場所で会おう さくら舞い散る道の上で・・・・」
丁寧に最後まで熱唱し終えると少しの間、樹は放心状態になる。
「樹ちゃん・・すご〜い!!」
拍手喝采で樹に拍手を送る。茉莉奈の拍手で現実的感覚を思い出す。
体が熱り、なんだか少し気分も良い。
突然、樹はその場にしゃがみ込む。
「えっ?!樹ちゃん気分が悪いの??」
歌い終えてから照れてくるのは何故だろう。
「大丈夫です・・少し恥ずかしくって・・」
「えっ・・・ううん、樹ちゃん本当に上手かったよ」
「ありがとう・・茉莉奈」
少し照れながらソファーに座る。
「じゃっ!次は私の番ね!樹ちゃん、ちゃんと聴いてね」
「うん。もちろん・・」
次の茉莉奈の選曲は・・・・・


だんだん、夜が近づいてくる。
雪はまだまだ止みそうにない。
今夜の東京は雪が積もるだろう。


「今日はオールナイトだから、樹ちゃん覚悟してね!!」
「オールナイト・・・徹夜カラオケ?!」
樹は思わず叫びに近い感じで大声を出してしまった。
「なにっ??いいじゃんか??」
「まぁー、それも楽しいかもしれませんね・・・」

「じゃー、次は2人でデュエットしよう♪」
「いいですよ。なに歌います??」
「えっと・・じゃー」



こんなクリスマスの過ごし方も悪くない。
そして2人の歌声は朝まで続いた。


                              おしまい。
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東京怪談
2003年12月27日

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