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『屋上パーティ、そしてパーティ 』
鬼頭・郡司1838)&メファシエル・フェザーランド(2161)&倉塚・将之(1555)

 誠心館・中等高等学園、高等部屋上。
 冬の貧弱な日差しを、剥き出しのコンクリートがめいっぱい浴びている。木枯らしが吹き荒ぶ冷たい外気の中でもその場は少しばかり太陽に近いせいかほかほかと暖かい。
 ――わきゃあない。
 貧弱な太陽に北風が圧勝する季節である。
 それでもその場所が明るいように暖かいように見えるのは一重にその場所の住人――住人といって差し支えはなかろう――が若く活気に満ちているからだ。古今東西子供とか煙とかなんとかとかは高い場所が好きなのである。
 さて、その住人である所の鬼頭・郡司(きとう・ぐんじ)はそのコンクリートの岩肌に寝転んでいた。
「……腹減った」
 もとい、体力を温存していた、と言うべきだろうか。
 ごろっと寝返りを打った郡司は傍らの少年、倉塚・将之(くらつか・まさゆき)に話し掛ける。
「――なー腹減らね?」
 フェンスに寄りかかっていた将之はそのまま首を傾ける。間違っても郡司がごろごろしている下へではない。そしてほやんと空を見上げながら言った。
「天気もいいしな」
 何故腹が減ると天気がいいのか、いや天気がいいから腹が減るのかどっちかは知らないが、話は見事に噛合っていないのにどっちも切れない。
 そもそも互いの言う事なんぞ聞こえていないのかもしれない。
「そうそう! 学校の中に食いモンがいっぱいあるトコ知ってんだ♪ 牛とか豚とか! 野菜もあったし!」
 何がそうだというのかはやっぱり謎である、見事なばかりに。
 将之はほやんと空を見上げてから、郡司に視線を落とした。
 多分郡司が言っているのは学食の冷蔵庫のことではあるまい。腹が減ったといっては猫だの犬だのまで狩ろうとする郡司である。職業家で飼育したり栽培したりしている『教材』のことを指しているのだろう。
「ま、いいか。バーベキューでもするか?」
 いいのかコラ。
 と突っ込んでくれる親切な人は残念ながらこの場にはいてくれない。郡司は早速飛び起きると力一杯片腕を突き上げる。
「やり〜っ!! バーベキューバーベキュー! 肉肉肉〜!!!」
 妙な節をつけて歌いだした郡司に、将之は苦笑した。
「……音痴だな、おまえ」
 いやだから。突っ込むべき所はそこじゃないだろう。
 とも誰も突っ込んではくれない。
 かくして教材泥棒……もとい屋上バーベキュー大会は決行される事となった。

 そうと決まれば郡司は早い。
 何しろ腹がすいている。それに勝る原動力は今のところ郡司にはない。もしかしたら溺愛している息子のことよりもちょっぴり優先されてしまうかもしれない。まああれだ、本能に従って生み出されたものよりも今現在自分の本能のほうが一寸勝ってしまうのは仕方ないだろう。郡司だって生物である。なんか違うが突っ込みは不要である。
 将之の首根っこふんづかまえて郡司は走る何処までも!
「火元には気をつけろよ?」
 いやだから突っ込む所そこじゃないだろう。
 そう言ったところで聞こえない。外野とは無力なものである。
「肉っ、肉肉肉〜♪」
 殆ど蹴り倒すように屋上から階下と駆け下りようとしたその時、
「……お肉がどうかして?」
 冷ややかな。子供の甲高い声でありながらそれに似つかわしくないほど冷ややかな声がした。郡司の遥か後方からである。
「へ?」
「おや?」
 郡司と将之は顔を見合わせる。ここは高等部。教師や何やかや含めてもそんな遥か後方から声を発するものなど多分いない。多分とつけるのはまあ言葉を話すぬいぐるみだの犬だの猫だの色々と妙なものがこの東京には実在しているからだ。
「妙だな?」
「声だけしてもなあ、あ、幽霊とかってやつか!」
 さもいい考えのように叫んだ郡司は次の瞬間『痛ってえ!』と悲鳴をあげた。何事かと目を見張った将之も、同じく弁慶の泣き所を襲った鈍痛に眉を顰める。
「失礼だわあなたたち」
「いや行き成り蹴りとかくれるおまえのほうがしつれ……」
 反射的に返事をしかかった将之はまたも彼方から響いた声にきょとんと目を瞬かせる。
 彼方から彼方から言ってもそれは程近く。まあ要するに腰から下と言うかその辺りである。
 恐る恐る見下ろしてみればそこにはむんと胸を張ったちんまい女の子が一人。
「ん?何だチビ。迷子か?」
 加害者がこの子供である事はすっかり忘れ、郡司が気さくに声をかける。ついでにぽんぽんと頭を叩いてやったが、子供は明らかに不快とばかりにきゅんと眉を吊り上げた。
「チビじゃないわ、メファシエルよ。レディーに気安く触るなんて礼儀がなってないわ……」
「レディ? ってーと女のことか?」
「当たり前だろ」
 問い掛けられた将之はあっさり答える。郡司はしゃがみこむとメファシエルと名乗った子供に目線を合わせた。
「あんなーチビ。女ってのはな、こう乳があってケツがあって柔らかくないとダメなんだぞ? お前全然女じゃねーじゃん」
 ばっちん。
 小さな手の平手打ちが郡司の頬に決まったからといって、それに何の不思議があるというのだろう。



「失礼だわ失礼すぎるわしつけがなってないわ!」
 まだしつけの必要な子供がぶちぶちと文句を垂れつつ将之に手を引かれている。この幼女の名前はメファシエル・フェザーランド(めふぁしえる・ふぇざーらんど)。重度の引き篭もり幼女だが別に対人恐怖症とかそういう事ではないらしい。
 たまには外で食事をしようかと思ってとたまたま目に付いた学校入り込んだだけのようである。
 そのまま迷子として警察に届けられなかったのは幸いだろう。と言うか遭遇者達の良識とか常識とかがちっとばかり欠如していただけかもしれないが、どの道幸運である。
 将之と無礼者(郡司)に連れられてやってきたのは厩舎。牛さんとか豚さんとかが飼われている場所である。
「おっ、大量〜♪」
 目を輝かせた郡司は嬉々として、
 ――脱いだ。
「な、ななななななっ!!!」
 年より怜悧な顔をメファシエルは真っ赤に染める。将之はなれたものですっかり傍観体勢。
「なんて格好してるのよ!」
「何言ってんだこれは狩りの正式な衣装だぞ♪」
 嬉々として郡司はそのまま牛に突進をかける。
「……狩りって」
 己の手を握っている将之を見上げ、メファシエルは頬から一筋の汗を流した。名称を冷や汗と言う。
 行き成り褌一丁の姿を披露した男より、今この場所で聞く狩りと言う言葉はなんというか聞き捨てならない。しかし将之はやっぱりなれて居るのかそれとも何も考えてないのか、あっさりと言った。
「飼われている物を捕らえても狩りにはならないと思うけどなあ」
「……そんな問題なの?」
「何か問題があるのか?」
 逆に問い返されてメファシエルは後ずさった。
 厩舎から、哀れな牛の断末魔の悲鳴が響いた。
 合掌。



 合掌そして頂きます。
「……滅多に出来ない体験ね」
 牛の精肉作業から始まってのバーベキュー大会である。しかも無許可。まあ確かに滅多に出来ない体験だ。と言うか出来たら困る。
 しかしまあそうなってしまったらしまったで居直ったのか、メファシエルは黙々と野菜やさっきまで生きていた肉などを焼いて口に運んでいる。少々風は冷たいが、新鮮な肉や野菜は美味かった。
 新鮮も新鮮。20分前まで生きていた。
「ちょっと待て郡司、その肉は俺のだぞ!」
「なんだとお前、舌丸ごとやっただろ! その上俺様の獲物に手出ししようってのか!」
 そう言って郡司が示したのは腿丸ごと一本だったりする。食うのか、食えるのかそんなにと言う問いかけは無意味だ。
 男子高校生の胃袋とはそれだけの異空間だと思えばいい。
 わいわいがやがや。
 午後の授業は丸ごとサボって、肉野菜全部が綺麗に消えるまでその宴は続いた。



「う、うっうっ……は、花子……」
「畜産科もやられたのか!?」
「農業科もか!?」
「ああ、丹精こめて育てたキャベツのみどりやよしこ、ハウストマトのめりーとあんが……!」
「くっ、俺らのところは母牛の光子の腹の中に居る時から可愛がってきた牛の花子が……!」
「誘拐犯を探せ! 草の根分けても探すんだ!」
 おおっ、と野太い声が唱和した。
 花子もみどりもよしこもめりーもあんも、既にこの世のものではない事を彼らが知ったのはほんの数十分後。



 本日最後の宴はこれより始まる。
PCシチュエーションノベル(グループ3) -
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東京怪談
2003年12月12日

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