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『 鑑賞記録 』
梅田・メイカ2165)&夜城・将清(2331)

『映画『幻都武想伝』公開間近!』

 パソコンを弄っていた彼女がそれを知ったのは、公開の一週間前のことだった。


 よく晴れた空の下。とある休日の午後。彼女は当然のように、そこにいた。
「とても楽しみにしていたんです。本日はお付き合いくださって、ありがとうございます」
 そこは映画館。開演待ちの列の中、梅田・メイカはにっこりと微笑むと、隣に立つ青年を見上げた。
「こちらこそ、お誘いをもらえて嬉しいよ。ありがとう」
 それを受け、青年、夜城・将清もまた、柔らかい笑みを浮かべていた。
 本日の彼らの目的は、先日ネット上で見かけた『幻都武想伝』という映画。実はこの映画、ネット上で密かに人気のゲームの実写版なのだ。
 ネット上での売り文句によると、現代が舞台でありながら、派手なアクションや術での壮絶バトル、型破りなストーリーが評判の一品だそうだ。
 ゲーム自体はメイカのお気に入りでもある。ゆえに、映画化の事実を知ったときから心ひそかに楽しみにしていたものだ。
 メイカのことだ。明確な表情にこそ表さなかったのだろうが、公開日の今日まで終始笑顔がステキだったとか、誰かが呟いていたかもしれない。
 と、そんなことを思い、話していると、前の人が動き出した。
「開演のようだね。行こうか、メイカさん」
「はい♪」
 列に続き、メイカを促して進む夜城。
 立ち居振舞いが、さりげなく紳士だ。相変わらず浮かべている柔らかな微笑に、物腰。
 女性に優しい男性は、いつだって憧れの対象。後ろで恋人と一緒に並んでいた女性がちょっと羨ましげな眼差しを向けていたことは、内緒だ。

「幻都武想伝二枚お願いします」
 夜城は窓口でチケットを購入すると、メイカと共に早々に席へ向かう…前に。メイカは売店でコーヒーを買っていた。
「夜城さん、はい、どうぞ」
「あぁ、ありがとう」
 先に席に着いていてもらった夜城にコーヒーを手渡すと、メイカは隣の席に座った。
 まもなく上演時間だ。次第に座席は人で埋まっていき、大きかったざわめきも、場内が暗くなっていくのに連れて、静まっていった。
 デモムービーや、映画の予告が流れる。興味深い作品も、いくつかみつける。また見にこれたらいいななどと思案し、メイカはスクリーンに集中した。
 夜城もまた、飲んでいたコーヒーを脇に置き、じっと眺めていた。
 大きく映し出された『幻都武想伝』の文字。いよいよ、上演開始だ。

 映画館と言う広くも狭い空間の中、スクリーン一杯に映し出された役者達の表情はみな、ゲーム上の、いや、それ以上の臨場感を思わせる。
 剣と剣とがぶつかり合い、響く甲高い音。CGも混ぜ合わされての、大迫力の術バトルは、スクリーンから飛び出しそうな勢いだ。
 そんなど派手なアクションの合間に映る人間関係の複雑なには、見るものを涙させ哀しさを感じさせる。
 ゲームファンなら必見、そうでなくとも、映画をきっかけにゲームにはまることも出来るだろう。
 見ごたえは十分。メイカは、あっという間の上演を満足げな表情で、見終えていた。
「良かったですね……」
 印象深かったシーンを何度も脳内リピートし、呟くメイカ。そんな様子をにこやかに眺めてから、夜城は席を立った。
「そろそろ、行こうか」
 そう言って、メイカと共に向かったのは、彼らがいつも訪れる喫茶店。
 もうすっかり常連客な二人に微笑みかけると、店員は気さくに話し掛けてくる。
「いらっしゃい。また映画の帰りなんだね。今日はあれかな? 幻都武想伝」
「はい、とても良かったですよ。お勧めです」
「メイカちゃん一押しか。それじゃぁ、行かなきゃ損だね」
 話しながら窓に近い席にかけると、メイカはミントティーを注文した。
 鼻をくすぐるように、爽やかに香るミント。こくり、一口飲んでから、ほっと一息。改めて、先ほどの映画を語りだした。
「CGと迫真の演技の調和…爽快感抜群でしたね。最後のバトルなんて、あまりの迫力に鳥肌が立ちました」
「メイカさん、身を乗り出しそうだったよな。それでも、思っていたよりCGは少なかったね。役者の演技が生きていたかな」
「そうですね。特に主役の方が……」
 語るメイカは、とても楽しそうだ。
 夜城は注文したコーヒーには口をつけないまま、そんなメイカの目を見て、聞いていた。
 そうしながら、今度は自分もそのゲームをやってみようかなど、考えていたとかいないとか。
「夜城さん」
「ん?」
「また、お休みの時にでも映画を見にきましょうね」
 気になる映画、多かったですし。と、にこやかに微笑むメイカを見て。
「もちろん。今度は俺の方から、誘わせてもらおうかな」
 微笑む夜城。
 もういくらもすれば、夕暮れだ。そんなとある午後の風景。
 まだまだ穏やかな日差しは、暮れ行く町を優しく彩っていた。
 今日と同じように、静かに、爽やかな時を過ごすのは、また、いつのことだろうか……。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
音夜葵 クリエイターズルームへ
東京怪談
2003年12月12日

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