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『双子のおかいもの 』
ウィン・ルクセンブルク1588)&ケーナズ・ルクセンブルク(1481)
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ウィン・ルクセンブルクが叔母の元から独立し、その暁には自家用車を一台探しているという。兄の浪費癖を非難した手前、ポルシェやアウディほどの高級車では格好が付かない。スポーツカーも、将来性を考えて却下だ。どうせなら、知り合いが持っていない車を買いたいものだ……、そんなウィンの話を小耳に挟んだ兄、ケーナズが思い出したようにチケットを持ち込んできた。都内で開かれる、モーターショーへの優待券である。
半年の時間を経てようやく仲直りを果たしたとはいえ、かたや大学生、かたや勤め人として忙しい日々を送る双子である。二人で出かける機会などは滅多に訪れず、また兄から声を掛けてくれることといったら、さらに頻度は少ない。だから当然、ウィンはケーナズの申し出を喜んだ。
今年で三十七回目を迎えるモーターショーは、例年を上回る参加者が募っているらしい。環境保護に焦点を向けたクリーンエネルギー車の試乗やテレビゲームを使ったカーレース体験など、今までよりも幅広く顧客を集める作戦だ。
だが、何よりの理由は、車の出展台数である。ジャパン・プレミアが二輪・四輪を合わせて百台を超え、ワールドプレミアとなる車両も90台近い。アウディやオペル、フォルクス・ワーゲン等、ドイツ車だけでも計十八台が、日本で初めてこの会場で公開される。会場には、F1グランプリの上位車両BMW WilliamsF1 FW25の特別展示、アウディが参考出品するル・マン・クワトロ、ポルシェのカレラGTやカイエンが並んでいるはずである。
…と、微に入り細を穿つ懇切丁寧な解説は、ウィンの兄、ケーナズの手によるものだ。愛車のポルシェを運転してウィンを拾った兄は、道中延々と、熱の篭った演説を披露したのである。
解説者の趣味が如実に現れた説明はさりげなくドイツに偏っているが、それさえ目をつぶれば、パンフレットなど必要ない。便利だ。
迎えに来た兄のポルシェに乗り込んで会場に向かい、一日かけてブースを回り、兄の助言を聞きながら気に入った車の見当を付ける。

……はずだったのだが。
「何かしらこれは」
ケーナズの斜め後ろで、ウィンは一オクターブ低い声で一人ごちた。モーターショー会場内、中央ブースである。
このブースへ辿り着く前に、西ブースを通り過ぎた。
完全に素通りだった。
人に囲まれたオペルのインシグニアの脇を素通りし、GMなどには目もくれず、アウディには一瞥を投げただけである。兄は足早に移動するので、ウィンは追いつくのが精一杯だった。この時はまだ、彼女は兄の奇怪な行動を好意的にとらえていたのである。つまり、会場のことを知り尽くした兄だから、見る順序も、きちんと計算してくれているのだろう……と。
物凄い間違いだった。
辿り着いたのは、スポーツカーとしては常に最先端を行く、ポルシェのブースである。
ポルシェほどのラグジュアリーカーではなく、もう少し庶民に寄った車を探そうという、今回のウィンの目的からは、あからさまにハズレている。
勿論、彼女とてポルシェは好きだ。時間を作って、会場を回る時には出品車を確認したいとも思う。だが、それは本来の用件を済ませてからの話である。
「お兄様〜〜……お兄様〜」
「いや、もう少し」
恨みがましい妹の声に、ケーナズはうわの空で返事をした。その目は食い入るようにカレラGTに注がれている。熱心なその横顔は、昆虫を見つめるファーブル少年、はたまたいつまでも少年の心を忘れないピーターパンのようでもある。
多くの女性と一部の男性なら、そんな一面を見せられて優しい気持ちになったりするのかもしれない。が、今のウィンにとっては憎らしいだけだった。所詮肉親である。過去兄によって為された数々の所業はまだウィンの記憶に新しい。兄への評価が、そんな子どものような横顔だけでプラスに変換するはずがない。
かくれんぼの途中で他の事に熱中し、隠れているウィンを置いてそのまま家に帰ったこともあった。パラパラ漫画を作るのに凝って、ウィンの教科書すべてに悪戯書きをしたこともある。何も知らないウィンは翌日それを学校に持って行き、教師に見つかって怒られた。またある時はラジコンに凝って、改良したヘリコプターで嫌がるウィンを追い回したこともあった。釣りに熱中した時は、虫の形をしたルアーをウィンのベッドにぶちまけて、彼女を泣かせたこともある。
つまりウィンにとって、兄が何かに熱中するのは、不吉な出来事の前触れであった。
「お兄様!いつまでここにつっ立っているつもり?」
イライラと、ウィンはケーナズの背中に声をかける。心ここにあらずの兄は、片手を上げただけで振り返りもしない。
「もう少しだけだ。ちょっと待ってくれ」
「ちょっとって何分」
「……十分」
「十五分前にも同じ台詞を聞きました」
すかさず切り返すと、言葉に詰まって、ケーナズは妹を振り返った。
膨れ面をしているウィンを、青い瞳が見下ろす。
「……十五分前の前言を撤回する。二十五分」
撤回せんでいい。
思わず突っ込んだが、心中の裏拳が兄に届くはずもなく、ケーナズは再びウィンに背を向けた。周囲に視線を向けていると思ったら、どうやら担当者を探しているらしい。
説明を聞くつもりだ。始末に終えない。
「会場のことは全て頭に入っているから、案内してやるって言ったのは」
「してやるとも。ここが終わったらな」
担当者を発見したケーナズは、相手を手招きしながら答えを返した。適当もよいところである。現時点で兄の脳内のランキングは、
1.ポルシェ
2.その他
となっている。
ウィンはその他にひとくくりだ。ここでポルシェのブース担当者と兄を取り合ったら、確実に負ける気がする。
既製品だが、仕立てのよいスーツを来た青年が近づいてきて、ケーナズに話しかけた。このブースの担当者らしい。話し始めると、ウィンのことは、キレイさっぱり兄の頭の中から消えてしまう。
「この車だが……」
「カレラGTですか。これはル・マンの二十四時間耐久レースで活躍したレーシング・カーがモデルになっています。ハイパフォーマンスを追求した結果、細かい部品までGT専用に設計されています」
「ほう……素晴らしい」
身体を屈めて、ケーナズは車内を覗き込んだ。ルーフは開かれたままなので、自由に車内を観察することが出来る。運転席の仕様をその目で確認した兄の瞳は、輝きを通り越して恍惚とすらしていた。ケーナズの横に立ちながら、担当者は押し付けがましくないよう気をつけながら説明を続ける。
「水冷式V型10気筒自然呼気エンジンを搭載しています。これをシャシーの深奥部に搭載することによって重心を低く保ち、常に安定した姿勢を保つことに配慮してあります」
「うん。……6気筒から10気筒か……」
「ポルシェのパフォーマンスへのこだわりで右に出るものはいません。中でもこのカレラGTは、数あるモデルの中でも最高水準の出来を誇っています。現在もポルシェをお持ちですか?」
車内を覗き込んだまま、ケーナズは適当に頷いた。
「ああ。カレラ4のカブリオレだが」
にっこりと担当者は微笑んだ。セールスマンの顔から、ただの車好きの青年の素顔が覗く。ただ購入を勧めるだけの店員よりもたちが悪い。
「あれもいい車です。私も何度か試乗したことがありますが、6気筒のボクサーエンジンの最高出力は235kW、最大トルク370N・m。数値の上では、カレラGTはその倍近いパフォーマンスを誇ります。より快適でレベルの高い、ダイナミックな運動性をお約束できますよ」
さりげなくアピールも忘れない。流暢な喋りにはムダがなく、脇で聞いていても分かりやすく、ついつい引き込まれてしまう。……ウィンは兄を盗み見た。

きらきらしていた。

(目が潤んでるわ、お兄様……)
たまに担当者に視線を向けるが、その目線はすぐにまたポルシェのボディへと落ちてしまう。手が、さっきからポルシェの車体に触れたくて開いたり閉じたりしている。
すっかり担当者(の語るポルシェ)に心を奪われているのが良く分かる。その視界にはポルシェしか見えておらず、その心にはカレラGTの事しかない。今、兄の脳裏では、カレラGTを乗り回す自分の姿が鮮明に浮かび上がっているに違いない。心を読むまでもなく、兄の興奮はウィンにも伝わってきた。
「お兄様〜〜……」
「ウィン、ちょっと静かにしないか」
こんな時だけ兄貴風を吹かせてウィンを黙らせ、ケーナズは担当者に視線を向ける。
「スピードはどれくらいなんだろうか?」
「車両重量の軽減に伴い、ポルシェの技術を駆使した結果、カレラGTの最高速度は時速330キロメートル、時速200キロメートルの加速所要時間は10秒を切りました」
「……確か私の車の最高速度は」
「時速285キロ。停止状態から160キロまでスピードを上げるのにかかる時間は11秒台だったと記憶しています」
「エンジンの性能がモノを言っているな、やはり」
「車体も、極限まで軽くしてあります。現在お持ちのポルシェより、GTのほうが軽いはずですよ」
それを聞いて、突然兄が振り向いた。
「わかるか、ウィン。6気筒から10気筒だぞ。現在はF1でも10気筒だ。気筒は多ければ多いほど、ストロークを短く出来るという利点があるが、エンジンが重くなるために、10気筒が理想とされているのだ。水平対向からV型への移行も見逃せない。水平対向のエンジンの場合、重心を下げられる利点はあれど、エンジンの幅が広くなってしまうからな」
これでも一応、会場を(といってもポルシェブースだけだが)案内してくれているつもりなのかもしれない。会場よりもF1の裏事情を少し学んでしまったウィンである。わかりたくないが、仕方なくウィンは頷いた。兄は満足げに、再びポルシェを愛でる。
この狭い日本で、どんな馬鹿が285キロだの330キロだのといったスピードを出すのだという、ごく初歩的な疑問は、ウィンが発することもなく闇の中に葬り去られた。ケーナズに言わせれば、ほんの少しの出力やトルクの違いが差を生むのだ。それは日々進歩を遂げるポルシェの哲学であり、それこそが我らが最も重要視すべき点である。走行性能は日々進化し続けていて……云々。ケーナズの顔は益々輝いている。
要するに、兄は最新鋭の技術を駆使して作られたカレラGTに、すっかり熱を上げているのであった。小難しいことを言って煙に巻こうとしているが、つまりおもちゃを欲しがる子どものように、ケーナズはカレラGTが欲しいのである。
トランスミッションがどうの、ダブルウィッシュボーンのフロントアクセルがどうの、ポルシェに心を奪われた男二人の会話はどんどんコアになっていく。
「お兄様、私は他のブースを見てくるわ」
いい加減呆れて、ウィンはその場を離れることにした。このまま素直に兄を待っていては、日が暮れてしまう。兄は分かったというように片手を上げただけで、ポルシェ担当の青年との会話を中断すらしない。ぷりぷりして、ウィンは大股にその場を後にした。
(まったく……なにが任せておけ、よ!)
ケーナズの兄らしい物言いと態度に、ウィンはウィンなりに、妹として嬉しくなったりもしたのだ。ケーナズと二人でどこかへ出かけるのも久々なら、兄がウィンを誘ってくれるのも久々だった。
忙しくてしばらくは顔をあわせていなかった兄が、久しぶりに兄らしいことをしてくれたと思ったのに……。
これでは、クラゲに見蕩れてウィンの事を忘れる、彼女の恋人と変わらない。クラゲがポルシェに変わっただけである。ウィンの恋人は、襟首を引きずればなんだかんだと言いつつその場を離れるが、ケーナズの場合は梃子でも動かない。そう考えると、余計に始末が悪いではないか。
(ま……一人で回るのだって、別に悪くはないわよね)
腹立たしい心を抑えて、ウィンはそう思い込むことにした。兄に案内してもらう事を期待したから調子が狂ったが、始めから一人でくるつもりだったと思えばいい。
気を取り直して、ウィンは来た道を逆に歩き出した。
先ほどは見過ごしたブースに戻って、ウィンは一人で見物を楽しんだ。近年はアジア系の会社の進出も盛んで、韓国製の車もちらほらと見られる。手を出す気にはならないが、見ている分にはその発達は目覚しい。
国産車やオペル、GMやアウディなどといったブースを眺めた。アウディが参考出品しているル・マン・クワトロは流石のシェイプと性能である。BMWによるF1グランプリ上位車両の特別展示も、人ごみに紛れてたっぷりと堪能した。歩く解説者が同行していないのが少し物足りないが、それはそれである。見捨てた兄のことは無理に心から追い出して、ウィンは一人で会場めぐりを楽しんだ。
プジョーやルノー、ランボルギーニ、と目まぐるしいほどの車の量だ。
スポーツカータイプは形も性能も確かに良い。が、購入ということになると、ついつい家族が増える可能性を考えてしまう。二人乗りのスポーツカーでないのなら、何もアウディだポルシェだとこだわることもない。
そんな事を考えながら車を見て回っていたウィンの注意を引いたのはプジョーだった。プジョーは出展車数も比較的多く、中でも注意を引いたのは607Sportだ。出展されていた車のボディカラーはピアナ・ブルーと呼ばれる鮮やかな空色で、それがまずウィンの目を引く。担当者と話をしてみれば、607オートクチュールと呼ばれる発注システムで、希望のデザインを選ぶことが出来るのだという。流線型の鮮やかなプジョーは、ドイツ社製ではないが、かなりウィンの気に入った。
車を購入する時には、ぜひともプジョーを候補に入れておこうと、しっかり心にメモをしたウィンである。


二輪車の方まで回り終えた頃になって、ようやく斜めに曲がっていた機嫌も持ち直してきた。そろそろ兄の所へ帰ってやろうという気分にもなって、ウィンは軽い足取りでポルシェのブースに向かった。兄はもう話を終えて彼女のことを探しているかもしれないが、ポルシェのブースだけは、ウィンも見そびれていた。じっくりと時間をかけて眺めていれば、兄も彼女の姿を見つけてくれるだろう。
「……あら」
ポルシェのブースに近づくと、予想に反して、兄はまだそこに居た。もしかしたら、ウィンが戻ってくるのを待っていてくれたのかもしれない。そう思うと、流石に少し悪い気がした。
「ごめんなさい、もしかして待っていてくれた?」
「戻ってきたか、待っていたぞ」
やっぱり待っていてくれたのだ。ウィンのことを気にして、ポルシェのブースから離れられなかったのだろうか。
そう考えてちょっぴりじんとした。
……のも束の間。
「さ、早く帰るぞ」
と兄はウィンの肘を持って、促すではないか。
「は……?」
「もう十分見ただろう?そろそろ帰ろう」
「どうして?」
ウィンの認識が正しければ、兄は会場にやってきてポルシェのブースに直行して以来、一度もそこを動いていない。他のブースなど、見る暇はなかったに違いないのだ。
なのに突然何を言い出すのか。
思う存分に会場をぶらついて、気侭にお茶でも飲んで帰る予定ではなかったか。
思わず時計を見るが、まだ夕方前である。だがケーナズは、そわそわした様子で、しきりに時計と出口を見比べている。
呆然としたままウィンが答えないでいると、心配そうにケーナズが吐息を漏らした。ウィンが風邪を引いたときだって、おたふく風邪に掛かった時だって、こんな心配そうな顔はしなかった兄である。
「銀行がしまってしまう……」
「だから何故銀行」
「振込みだ」
「………………」
まずは深呼吸をした。
兄がちょっとおかしい。百歩譲って、「おかしい」は「挙動不審」と言い換えてあげてもいい。いつもは泰然としているケーナズには、全く落ち着きがない。
狂ったからではなくて、興奮しているからのようだ。
落ち着いたら、ちゃんと人語でコミュニケーションが取れるに違いない。
「……お兄様。落ち着いて、ちゃんと説明してちょうだいな。どうして銀行で、どこに幾ら振り込むというの?」
輝いている兄の表情に、ちょっぴり不吉な予感はしていた。もどかしそうに天井を仰ぎ、ケーナズは再びウィンに説明を繰り返した。

今度の兄の解説は、前よりちょっぴりマシだった。やや人間界に近づいた感じだ。
話を統合するとこうである。
ケーナズは、このモーターショーで見かけたカレラGTが欲しい。
その為には、頭金として四万ユーロ、支払わなくてはいけない。
すっ飛ばして、今日銀行が閉まる前に金を振り込んでこよう。

…と、こういうことらしい。
ウィンは目を剥いた。
「買う予定があったわけでもないのに先行予約したの!?」
信じられないという口調で妹に言われて、ケーナズは視線をそっぽに向けた。文句を言われる事くらいは、覚悟していたようである。
「テレビゲームのソフトじゃないのよ。一体幾らすると思っているの」
素直に答えれば妹に説教を食らうと分かっているケーナズは、真面目腐った顔をしてみせた。
「値段は聞いたぞ」
「聞けば買っていいという値段でもないでしょ!?」
思わず答えると、妹の方に利があると知っている兄は、ついとそっぽを向いた。それで凌げるとちらっと思っているあたりが、ガキくさい。
「……私の資産だ」
「そりゃそうだけど」
値段を尋ねた時点で、ケーナズは買うことを決定しているのである。
合計で四十万ユーロ近い買い物だ。前金だけで四万ユーロだ。
(人として、ここは躊躇うべきところじゃないのかしら)
ウィンは肩を落とした。兄の浪費癖には、いつものことながら眩暈を覚える。普段は冷静すぎるほど冷静なくせに、夢中になると一瞬にして金銭感覚が崩壊するのだ。いや、もともとあってなきが如しの金銭感覚なのだが、怜悧な雰囲気に騙されて、普段は分からないのである。長年兄と付き合ってきたウィンだったが、今回はそれも久しぶりだったのでちょっぴりカルチャーショックだ。
「どのみち……今日振り込まなくてもいいんでしょうに」
「売り切れたら困るだろう!」
熱心に言われても……。
今度はウィンが遠い目をしてそっぽを向いた。
ポルシェ一台。高い買い物だ。
そう何人もの人間が、昨日の今日でこんな大金を支払う決断を下すとも思えない。
頭金だけだって、そうポンと出せる値段でもないのだ。
だから心配しないでも大丈夫よと言おうかと思ったが、疲れてしまって何も言う気が起きなかった。
兄は相変わらずうずうずしている。その心は遥か遠く、アウトバーンで愛車とたわむれている可哀想な人っぽい。
銀行へ辿り着いて入金を済ませるまで、こっちの世界へ戻ってこないに違いない。ブースは一通り回ったし、と自分で自分を納得させて、ウィンは深いため息を吐いた。
「……そうね。じゃ、行きましょうか」
「銀行に」
「そうね……銀行にね……」
大股に会場を出て行く兄の後に続きながら、ウィンは心に硬く決心するのだった。
もう兄には、車の相談をするのはよそう、と。
深い知識があるだけでは頼りにならず意味もないのだと、初めて悟ったウィンだった。


「双子のおかいもの」
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
在原飛鳥 クリエイターズルームへ
東京怪談
2003年12月01日

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