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『それを雑草と呼ぶ日常 』
葉山・壱華1619

「よーし! 今回も張り切って雑草狩りしよーっと!」
 突き抜けているとか底が抜けているとか。
 とりあえずその声を表現するならそんな所だろう。ぶんぶんと袖を振り回し雑木林に駆け込んでいく童子の声を聞くものがあれば、の話だが。
 きょろんと大きな瞳を輝かせ山へと駆け込んでいく童女は葉山・壱華(はやま・いちか)。ちょこまかと良く動く体も、一時もじっとしていない表情も、見るからに元気な普通の子供だが一つ普通と異なる箇所がある。こめかみのあたりから髪を突き抜けてちょろんと覗いている二本の角だ。
 壱華は鬼。ほんの子供の頃に拾われて、拾い主に懐いてしまって現在の職業はばりばり式神という、正真正銘の立派な人類外生物である。角以外はとてもそうとは思えないが。
「雑草狩りっ♪ 雑草狩りっ♪」
 楽しげにぶんぶんと手を振り回し、壱華は雑木林を駆けて行く。
 この雑木林――正確には山だが――は壱華の拾い主の持ち山で、様々な種類の植物が生い茂っている。
 ――と言うか既にジャングルである。
 一体何がどうしてこんな場所が現代日本にと言いたくなるような、熱帯植物から針葉樹まで、ものの見事に節操の無い樹木や草花が所狭しと生い茂っている。獣でもなければ遠慮したい凄まじさだが、壱華は実に容易く下草を踏み分け、木の枝や幹を伝ってどんどん進んでいく。
 まあ要するに慣れである。慣れなければ一歩も進めまい。
「さー、出てこーいざっそー!」
 おー! と手を天へと突き上げた壱華はご近所から苦情の多い雑草を刈るべく山へと突撃しているのだった。

 きしゃー。
 いやまあ確かに植物です分類するなら確かに植物かもしれませんけどですけどこれはちょっとあーた何かが激しく違いませんか。
 そんなご親切な突っ込みは誰もしてくれない。
 勿論壱華自身もしない。なにしろここは壱華にとっては遊び場の山でこの『雑草』も言ってみれば遊び友達のようなものである。顔ぶれは毎度違うが。
「今日も一杯はえてるなあ、いま狩ってあげるねー!」
 そもそも刈りではなく狩りである。そのあたりからして何か植物とは果てしなく隔たっている。
『お山の雑草狩りに行くんだよっ!』
 愛らしい童女の無邪気に元気な言葉にこの『雑草狩り』に同行を申し出るものも少なくないが、まず七割がこのジャングルもかくやという雑木林に逃げ帰る。そして残り二割九分九厘がこの『雑草』に腰を抜かすのだ。
 花。大きくも女性の紅のような鮮やかな赤。
 茎。太くもどっしりとしたまるでお相撲さんもかくやという頑健さ。
 葉。思うさま四方に伸びた緑の葉はまるで壱華を覆い隠すよう。
 蔓。大地の力をそのままにくるくると渦巻く。
 そしてそれらを併せ持つ『雑草』は、きしゃーと吼えると壱華に襲い掛かった。この時点で既に立派に雑草失格である。
 言うまでもないがフツー植物は動かない。生物も襲わない。香りで誘って昆虫などを捕食するものもあるにはあるが。
「えーい」
 ぴょーんと跳ね上がった壱華のそれまで居た位置にばしんと蔓が叩きつけられる。そのまま居たら下手すれば即死であるが、身軽にそれを避けた壱華はそのままとんとんと巨大な葉を伝って真っ赤な花へと飛びついた。
「まーず一厘!」
 花は一厘二厘と数えるんですよ。
 そう教えた拾い主の言葉を壱華は良く覚えていた。そして一寸普通に花とは言いませんっていうか言わないで下さいというこの『雑草』にもそれをきちんと応用している。
 さてその一厘の花を、壱華は容赦無く殴りつける。
 きしゃしゃしゃしゃっ!
 まるで痛みにのた打ち回るかのような(というかのた打ち回っている確実に)花から飛び降りた壱華はそのまま花の背後に回りこむ。
「そおーっれっ☆」
 ぶち。
 壱華に抱きつかれ焦げた匂いを発した茎はそのまま焼けてちぎれる。
 き……しゃー……
 掠れた声を出して、雑草は滅した。



 …………………………なんか違う。



「これこれっ☆ これ採ってかないとっ」
 雑草の残骸を漁って壱華が拾い上げたのは大きな種子。これは薬に加工できるため壱華の拾い主がいつも採ってきてくれるよう壱華に頼むものだ。
 持ってきたナップザックに種子を詰め込んだ壱華はそれを背負ってすっくと立ち上がった。
 何しろ雑草と言うくらいで、今狩った一厘以外にも山ほどそれははえている。定期的に狩ってやらないとご近所から苦情がきてしまうのだ。たまに夜中に歌など歌ってご近所の苦情のトーンを上げてくれるような雑草も居る事だし。
 それは苦情ではなく恐怖の訴えであり、出るのは本当に苦情だけなのかひょっとして犠牲者出てないか、そんな些細な突っ込みはとりあえず右から左。

「さー! 雑草狩りいっくよー!」

 今日も壱華は元気にお山を駆けるのである。



 それを雑草と呼ぶ日常は、あまり一般的に日常とは呼ばない。
 しかし、
「雑草狩りっ♪ 雑草狩り♪」
 本人実に楽しそうで幸せそうなので、それもまたよし、なのかも知れない。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
里子 クリエイターズルームへ
東京怪談
2003年11月19日

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