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『雑草狩り、ヤッホー!! 』
葉山・壱華1619)&伍宮・春華(1892)

「……こ、ここか?」
 伍宮春華は、案内されたその山の風貌を見て、思わず、ごくりと生唾を飲んだ。
「うん、そうだよ☆」
 葉山壱華は、にこにこと微笑んだ。
 春華は、そんな壱華の様子を見やりながら、改めて山を眺めた。昼間だというのに、うっそうと薄暗い森。古
い節くれだった木々は、ねじくれ、どれもこれも黒ずんでいる。時折、ぎゃあぎゃあ、という人の叫びにも似た
恐ろしい鳥の鳴き声も聞こえてくる。ふと天を見上げると、猛禽が一羽、ゆっくりと頭上を旋回していた。
(ここ、日本だよな)
 そんな錯覚を起こしかねないほどその森のインパクトはすごかった。富士の樹海だって、ジャングルだって、
この森にはかなわない。
(ていうか)
 なにかおぞましい瘴気も、漏れでてきているのではないか。
 ふと、春華の頭に、テレビで見た青い衣の少女の姿が浮かぶ。あれはアニメの世界だが、現実にあの森がある
とすれば、まさにここではないのか。春華の表情がみるみるうちに、驚愕のそれに変わる。
(はっ、まさか、でっかいダンゴ虫が生息しているのか?!)
 そんな考えを浮かべつつ、つう、と春華の頬を一筋の汗が伝った。
 この山は、壱華の保護者が所有するものである。今回二人がこの山を訪れたのは、最近増えた雑草を狩るため
である。しかしどうやら、この雑草、普通の雑草ではないらしい。なにしろ『刈る』ではなく『狩る』のだから。
 壱華は、ムダにぶるぶると震える春華をまったく気にした様子もなく、楽しそうに話し出す。
「あー、よかったぁ〜。春華ちゃんが一緒にきてくれてー♪ あたし一人じゃ大変だったもん☆」
「い、いやいや……」
 春華は、ひくりと頬をひきつらせる。
「ホントに、もうすごいんだよ? もういっぱい、いーーっぱいおかしな草が生えてるの!!」
 壱華は、ぐぐっと拳に力を込めると、力説した。
「ほ、ほほぅ……」
 遠い目をしている春華を無視し、壱華は突然、手を組み合わせ、うるうると瞳をうるませた。心なしか、バッ
クに花が飛んでいるような気がするのは気のせいか。
「でもね、あたしにとっては普通の山なんだよ」
「ぇ」
 どこが、と春華は思う。しかし壱華はさらに続ける。
「だからね、雑草狩るのは良いけど、他の植物達刈っちゃ駄目だよー。可哀想だからね、やっぱり」
 壱華は、最後、ぴっと人差し指を春華の鼻先につきつけた。
「わ、わかった」
 勢いに気おされて、春華はうなずく。と。
 ――ぎゃぁああああああああああぁぁぁぁぁ。
「……な、ンなっ!?」
 春華はびくんと体をふるわせた。突然、森のほうから恐ろしい断末魔のような叫び声が聞こえてきたのだ。ば
さばさばさ、と鳥達が一斉に森から飛び立つ。
「おぃ、今、あれ!!? 聞いたか!?」
 春華は完全にパニックに陥っている。だがしかし、壱華は平然としたまま、こうつぶやいた。
「……普通だよ? こんなの」
「ふ、ふつう!?」
 その衝撃の言葉に、春華は、ぐは、とうめいた。
「うん、普通。たぶん、知らない人が迷ったんだね! よくあることだよ!」
 壱華は、笑いながらぽんぽんと春華の肩を叩いた。
「でもまあ、迷路みたいだし、刺激を求める人々にとっては、楽しいことだよね!」
 求めすぎにもほどがある、と春華は思った。しかし、いえなかった。
「じゃ、そういうことで、れっつごう!!」
 様々な思いが交錯するなか、雑草狩りは始まった。


■雑草登場

 細く心もとない獣道をたどって、二人は森の奥へと進んだ。
 森の中は、さらに恐ろしいものであった。
 木々という木々は、わけのわからない植物に寄生され、葉という葉は黒ずんでいる。紫がかった蔓が、木の幹
にびっしりと巻きつき、毒々しい赤い実をつけていた。地面は、じめじめと腐った葉が一面を覆っているため、
足にまとわりついて行く手を阻む。
 日の光も、ここまでは届かないのか、わずかに弱々しい光条が差し込むばかりである。それもどこかほこりっ
ぽかった。
 ふと上を見上げると、木のこずえが震えるように揺れ、ざわざわと音をたてていた。
 春華は、そうしたもろもろの気配から、何か得体の知れない不安感を感じていた。
 その時、先頭を切っていた壱華が、ふとつぶやいた。
「あのね、春華ちゃん。あたしから離れると、絶対迷うから離れないでね?」
「おうわっ!?」
 いつのまにか、壱華の姿は、はるか彼方にあった。周りの様子に気をとられていたのでこんなに離れたことに、
気づかなかったのだ。春華は慌てて、壱華に追いつくべく猛ダッシュした。
「……そ、そーゆうことは、もっとはやくいってくれよ」
 追いついた春華は、ぜえぜえ、と荒く息をついた。
「うん。いい忘れたんだよね☆」
 壱華は悪びれた様子もなく、にこやかに答えた。
(……得体の知れない不安感とは、このことだったのか?)
 春華の頭に、そんな考えがよぎる。と。
(ん?)
 春華は、眉をひそめた。足下に、めり込むようにしてそれはあった。
(井戸……いやこれは――土管?)
 それは、土管だった。鉢植え程度の小さな土管で、地面に深くめり込んでいる。春華は、よく見ようとその土
管を覗き込んだ。その時。
 びよんっ!!
「!!!!!?」
 突然、土管から何者かが飛び出してきたのだ。春華は、すんでのところで身をかわした。
よく見ると、それは、草であった。いや、正確には――花。チューリップをもっと膨らませたような形で、花び
らがすぼまっている。そしてその先には、唇がついていた。そいつは、口を大きく開け、がちがちと歯を鳴らす
と、一気に春華に襲いかかった。
「おわーーーっ!?」
 突然の事態に、春華は攻撃できなかった。
「危ない!!」
 突如、前方から声がかかり、ついで渦巻く紅蓮の炎が草に命中した。壱華の放った浄化の炎だ。
 草は、きしゃあああとものすごい叫び声をあげながら、めらめらと燃えた。
「……ふう〜。危なかったね! トラップだから、気をつけてね?」
 壱華は、さわやかな笑顔で、ぐいと額の汗をぬぐった。
(と、トラップ?)
 誰に向けて作ったトラップだ、といろいろツッコミどころは多々あったが、その辺のことは、やはりことごと
く無視された。
「よーっし、この調子で、ばんばんいくよーー!!」
 壱華は、びしぃっとあさっての方向を指差し気合を入れた。春華は、黙ってそれを見ているしかなかった。


「はぁ!!」
 瞬間、春華の手からカマイタチが飛び出し、目の前の草をばっさりと刈った。
「えーーいっ!!」
 ついで、ごうっとうなりをあげて炎が命中する。そんな感じで、ひとしきり二人は、雑草を狩っていった。
 いつのまにか、二人のまわりには大量の植物の残骸が山積みになっていった。
「んー、なかなかいいペースだね!」
「そうだな。ま、俺のカマイタチにまかせとけって感じか!?」
 拳を固め、親指だけを突き出して、ぐい、と自分を指す。ようやく、調子を取り戻したのか、初めて春華は満
面の笑顔を見せた。
「でも……」
 ふと、壱華の表情が暗くなる。春華は、そんな壱華の様子に眉をひそめる。もしかして、うっかりぶなの木を
ぶち倒してしまったことが、ばれたのか。それとも、ベニテングダケを踏み潰しまくったことがばれたのか。
 様々な思いを抱きつつ、春華はたずねる。
「どうしたんだ」
「うん、あのね……」
 壱華は、思いつめたような表情で、ふと顔を上げた。
「ボスに、まだ会ってないの」
「ぼす」
 その言葉に、春華は白くなった。ぼす。いや、ボス。ボスって。
 そんな春華の様子には、まったく構わずに、壱華は続ける。
「こいつらは、きっとただの雑魚なの。ボスを叩かないと、また増えちゃうに違いないよ。困ったなぁ……」
「そりゃ困りましたな」
 後ろから、声がかかる。
「うん、どうしよう」
 壱華は、ふうとため息をついた。
「わてがその願い、かなえてあげまひょか」
 その時、ぎゃぁああああという声が聞こえてきた。
「?」
 壱華は、くるりと後ろを振り返る。
 すると。
「たーーすけーーてくれーーーーー!!」
 そこには、今までとは比べ物にならないほど巨大な草がいた。赤と白の毒々しい水玉模様の花を咲き誇らせ、
うねうねとした触手をあたり一面に伸ばしている。その触手の一本に、春華が捕縛されていた。
「ああ!? 春華ちゃん!!」
 壱華は、叫んだ。
「こっちのにいちゃんは、わてが頂きました。このまま、わてのえさになってもらいます」
 草はうねうねと触手を振り、しゃべった。
「な、そんなことさせないんだから!!」
「たーーーすけーーてくれーーーー!!」
 春華の叫び声がこだまする。
「あんさんより、こっちのにいちゃんのほうが、えらい可愛らしいしなぁ。いい栄養になると思いますわ」
 草は、ぺろりと巨大な舌をのぞかせ舌なめずりした。
 その一言に、ぴぴく、と壱華は反応した。
「……か、可愛い?」
「そうですわ。えっらい美形ですなぁ、このあんちゃん。わてのこのみや」
 草は、いとおしそうに春華を抱きしめた。
「な、んぎゃーーー!?」
 春華はばたばたと抵抗したが、その巻きつきは固く、そう簡単には逃れられなかった。
「……あたしより、春華ちゃんのほうがかわいいというのね?」
 ごごご、と壱華の背後に青い炎が宿る。
「あんさんは、えっらいきつい顔してますやろ。わての好みやあらへんのや」
 草は、ぷいとそっぽを向いた。
「ちょっとなにそれ!! あたしだって十分可愛いわよ!!」
「すんませんな。わてにもいろいろ選ぶ権利っちゅーもんがあるもんで」
「たーーーすけーーてくれーーーー!!」
「うるさい!!!」
 ごめすっ!! と春華のあごに石が命中する。
「うぼっ!?」
 そのまま、春華は動かなくなった。
「草のくせに、選り好みするとはまったくいい根性してるわ! このあたしがぶち倒してやるんだから!!」
 ごうっ!! と壱華の背後に宿った炎が一気に噴出した! 
「あんたなんか、燃えちゃえーーーーーーーー!!!」
「うごぉおおおおおおおお!!?」
「うへぁあああああああああ!!?」
 同時に上がったふたつの叫び声とともに、何十本もの炎の帯が、草の体に命中する。そして、一気に燃え上が
った。
「ぜぇぜぇ……」
 肩で息をしながら、壱華は燃え逝く草を見やった。
「勝った……」
 心地よい風が、壱華の頬をなぜていく。しばらくのあいだ、勝利の余韻にひたっていた壱華だったが、やがて、
「はっ!! そういえば、春華ちゃんは!!?」
 叫び声をあげて、燃えつきた残骸の元に駆け寄った。
「――いた!」
 そこに、春華はいた。ぶすぶすと黒い煙を体中からあげながら、仰向けに倒れていた。
「よかった! 無事だったんだね!!」
 全然無事ではない。しかし、壱華は、ぎゅうと春華を抱きしめた。


■お礼

「ん〜、ごめんねー? 春華ちゃん」
 ぶすっとした表情の春華に、壱華は包帯をまきながら謝った。
「俺のこと、どうでもいいとか思ってただろ」
 春華は、じろり、と壱華をにらんだ。その目は、怒りに燃えていた。
(あっちゃ〜……。やっぱ、怒ってるよ〜……)
 雑草を退治した二人は、壱華の保護者の家に戻っていた。そこで、春華は手当てを受けていた。
「ごめん! 本当にごめん!! だって、あいつ許せなかったんだもん!!」
「なんで?」
(う……)
 その問いに、壱華はつまった。
 まさか、春華が、自分より可愛いといわれて逆上した、とはいえない。
「ま、まあ、いろいろ。いろいろだよ!!」
「ふ〜ん……った、いてぇええええ!! もっと優しくしろよな!」
 春華がわめく。
「えっ?」
 いつのまにか、包帯を巻く手に、力を込めてしまっていたのだった。
「ったく……。マジ死ぬかと思ったんだぜ?」
 春華は、口をへの字に曲げた。
「うん、反省してます」
 壱華は、ぺこりと頭を下げた。つん、と額に何かが当たる。春華の指だった。
「……ま、楽しかったからいいけどさ」
 にっと春華が笑う。その笑顔につられて、壱華も微笑んだ。
 その時、ごはんだよ、と声がかかった。
「あ、ご飯だって!! はやくいこ!」
「ちょっとまてよ、俺、まだ動けないんだぜ!?」
「もうお腹、ぺっこぺこ! れっつごう!」
 そういって、壱華は食堂へと駆け出していった。春華は、ふうと大きくため息をつくと天井を眺めた。
(ま、たまにはこんなこともいいか)
 こうして、雑草狩りは幕を閉じた。

◎今回の報酬:諭吉さん三枚+夕食ご馳走(植物の丸焼き風味)


●ライターより●

 はじめまして。こんなぺーぺーに発注していただき、まことにありがとうございました。
なんだかすごい森だということで、森の描写はかなりこだわりを入れました。ギャグも気合を入れまくったため、
文章が長くなって、大変なことになってます。草の語りはやくざとありましたが、雅の中ではこれが限界でした。
(汗) それでは、もしまた機会がありましたら、お会いいたしましょう。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
雅 香月 クリエイターズルームへ
東京怪談
2003年11月17日

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