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『同人誌即売会−後日談 』
アデルハイド・イレ―シュ0063)&オルキーデア・ソーナ(0038)
 夜空に映るベルリンの街の灯を眺めながら、オルキーデア・ソーナのキャリーは郊外に停車していた。ここ最近、オルキーとアデルハイド・イレーシュの二人は、ベルリン近郊に居る事が多い。
 初めて同人誌即売会に行ってから、オルキーは同人誌にすっかりハマっている。イレーシュとて同人誌は嫌いではないが、オルキーの強引さに引っ張り回されてばかりだ。
 そして気づいたら、事件に巻き込まれて‥‥。
 イレーシュは、穴の開いた同人誌を見つめると、ため息をついた。
「この5冊‥‥もう駄目ですね」
 イレーシュが、ベッドに転がって本を読んでいるオルキーに見せた。オルキーは、ベッドの端に腰掛けているイレーシュの側に投げ出された5冊の同人誌を、苦悶の表情で見つめた。
 オルキーとイレーシュがせっかく作った5冊の同人誌には、いずれにも見事に穴が開いている。先日行ったベルリンの即売会で、オルキーとイレーシュはUMEのテロリストに出くわし、彼らの暴走に巻き込まれて本に穴を開けてしまったのだ。
 こればかりは、文句を言う所が無い。連邦に文句を言っても仕方ないし、UMEの本部には死んでも戻れない。
「仕方ないじゃない。次にこの5冊分、取り返せばいいのよ」
「また出す気なの、オルキー」
 今回だって相当恥ずかしい思いをしたというのに、次に参加したらまたどんな格好をさせられるのだか‥‥。
 イレーシュはハンガーに掛かったコスプレ衣装を、恨みがましく見つめた。オルキーの事だから、きっと次も露出の激しいものに違いない。
 オルキーの書いた同人誌の小説の挿絵を描くのも恥ずかしいが、それを売る事はもっと恥ずかしい。いや、恥ずかしい格好でエロい本を売るのは、なお恥ずかしかった。
 イレーシュは、せめて挿絵は自分に似せないようにしようとしたのだが、それを見たオルキーは“全然イレーシュに似て無い”と言ってやり直しをさせたのである。
「あの騎士さん達だって、嬉しそうに買っていってくれたじゃないの。売り上げも好調だったし」
「そりゃあ、オルキーは売り子そっちのけで本を買っているからいいですけど‥‥売り子をしてる私の身にもなってください」
 むっとした顔でオルキーに言うと、オルキーは本から視線を上げた。
「イレーシュのおかげで、本は沢山売れたわね。ご苦労様」
「じゃあ、次の時はオルキーが売り子をしてくれるんですね?」
「駄目。売り子っていうのはねえ、可愛い子がいいと思うのよ。うちなんて体は筋肉質だし、女っぽくないし‥‥」
 あはは、とオルキーはシャツの襟首を引っ張って見せた。襟首から、オルキーの体が覗いている。
 イレーシュは少し顔を赤くしながら、答えた。
「そ、そんな‥‥私だって可愛い方じゃ‥‥」
「イレーシュは可愛いわよ。可愛くって清純派なのにグラマーで、イイわよ」
 つん、とオルキーはイレーシュの胸を突きながら、言った。オルキーの指が胸の突起を突き、イレーシュはぴくりと体を震わせる。
 オルキーはイレーシュの反応を見て面白そうに笑うと、手を伸ばしてきた。それを阻止する為、イレーシュは胸を両手で抱えてガードする。
「オ、オルキーからかうのは止めて」
「からかってなんかないわ、本当に可愛いもの」
 オルキーにさわやかな顔で“可愛い”と言われ、イレーシュは何と答えていいものやら困ってしまった。
「そ、そうやって次も私に売り子をさせようって魂胆ですねっ、オルキー」
「じゃ、次も同人誌即売会に行ってくれるのね?」
「あうっ‥‥」
 ついつい出てしまった一言に、イレーシュは顔を真っ赤にして俯いた。これで次の即売会も、出場決定だ。
 むろん、イレーシュも行くつもりになっていたからこそ、売り子をしたくないと言ったのだけど、それは行きたいとか行きたくないとかじゃなく、次もオルキーはきっと自分を引っ張って連れて行くのだろう、という予測からで‥‥。
「だ、だから‥‥オルキーは行くつもりなんでしょう?」
「当たり前よ。燃料代と生活費を稼がなきゃ」
「そういうものは‥‥何をしてでも稼げます」
 同人誌で生計をたてるのは、難しい。今回の収入も、雀の涙だ。
「でも、楽しいでしょう? ‥‥ほら、頑張ってくれたら‥‥またイレーシュを労ってあげるから」
 にこにこ笑いながら、オルキーはベッドの下に隠していたモノを取り出した。イレーシュは、慌ててそれを取り上げてベッドの下に仕舞い込む。
「ちょ‥‥そういう問題じゃありませんっ。‥‥オルキー‥‥いったい何時の間にそんなものを買ってくるのっ」
「隣のスペースの人に“これどうぞ”って貰ったのよ」
 そんなものは、貰わないでくださいっ。
 イレーシュはオルキーを、怒鳴りつけた。
 そんなイレーシュに対して、鼻歌交じりに、即売会で手に入れたコスプレの写真を眺めるオルキー。
「次は、もうちょっと大胆なのがいいかな」
「も‥‥もっとですか?」
 イレーシュ的に言えば、あれ以上露出が高い衣装なんて考えられなかった。
 一体オルキーは、どんな衣装をしたいのか興味が湧いたイレーシュは、オルキーが見ているコスプレ写真をのぞき込んでみた。
「水着っぽいのはねえ‥‥イレーシュのイメージに合わないのよね。こう‥‥清純なんだけど、露出が激しいって‥‥」
「水着は‥‥止めてね」
 小さな声でイレーシュが言うと、オルキーは振り返った。
「水着までいくと、かえって清純さが無くなるのよね。ミニスカートがいいかしら」
「オルキー、私にばかり恥ずかしい格好をさせて‥‥しかも売り子になって、男性の好奇の眼差しに晒される私の身にもなって」
 きっ、とイレーシュが厳しい視線でオルキーを睨むと、オルキーは悲しそうに下からイレーシュを見上げた。
「だって‥‥色っぽい格好をしたイレーシュが、恥ずかしそうに本を売っている所に萌えるんだもの。とっても可愛くて‥‥」
「オルキーは、私がそんな目で見られているのは構わないんですか?」
「だって、イレーシュの可愛くて大胆なバストも、大切な部分も、私にしか見えないし触れないもの。想像する位、減りはしないわ。イレーシュが喘いでいる所を見られるのは、私だけよ!」
 もう、彼女に何を言っても無駄なようだ。
 しかし、オルキーが大切に思ってくれている事や、お触りまではさせない事が分かり、ちょっぴり安心した。オルキーがそうまで楽しんでいるなら、イレーシュも頑固に止めようとは思わない。
「‥‥じゃあ、せめて午前中の忙しい時間は側に居て。お願い」
「分かったわ、その間はイレーシュと売り子をする」
 オルキーは嬉しそうに頷くと、コスプレ写真に目を戻した。
「何にしようかな‥‥そうねえ“二人で温泉に来たのはいいけど、オルキーがちょっと目を離した隙にイレーシュは盗賊の魔の手に‥‥危うしイレーシュ!”というシチュエーションで行くのはどうかしら」
 どういうイメージですか?
 イレーシュは、目が点になった。
「それって、この間の温泉の事ですか? あれはオルキーが襲いかかったんじゃないですか」
 悪戯しようと、オルキーが後ろから襲いかかった事件は、イレーシュもよく覚えている。オルキーが服を持っていってしまった為にイレーシュは、裸で歩く羽目になったのだ。
「オチは私だった事にすれば。そうね、次の新刊はこれに決定よっ! コスプレはバスローブという事で」
「それってほぼ裸でしょ、オルキー!! ねえっ!」
「じゃあ、裸エプロン‥‥じゃなくて水着とエプロンという事で」
「同じですっ!」
 もうオルキーは、次の新刊の原稿の事で、頭が一杯になっていた。イレーシュの悲痛な叫びは、届かない‥‥。

 オルキーが買い集めた本の殆どは、ノーマルか美少女物(百合ばっかり)だ。オルキーには、男同士を推奨する本を出す気も、そんな活動に身をやつす気も無い。
 他のサークルの本で売れ筋のものは、やはり絵が巧いものやストーリーがいいものばかりだ。ココ最近書き始めたばかりのオルキーやイレーシュの本が売れているのも、二人は自分自身をモデルにしていて、なおかつ珍しい百合モノだからである。
(やっぱり、もっと面白いもの書かなきゃね‥‥)
 オルキーは、本を読みながらため息をついた。
 ふと視線を横に向けると、イレーシュが本を読んでいた。それは、オルキーが買ってきた本である。連邦軍の女騎士とエスパーコマンド二人が任務中に二人っきりになって(以下略)という本だ。
「‥‥はっ‥‥オ、オルキー!」
 オルキーが後ろから、まじまじと本を見ているのに気づき、イレーシュは慌てて本を閉じた。
 しかし今更閉じても、もう遅い。
「それ、面白かったでしょう」
「面白くありません」
 という割に、半分以上読み終わっているイレーシュだった。
 ベッドに転がっているイレーシュを、後ろから抱きつきながらオルキーは含み笑いを浮かべる。
「その本を書いた人がねえ、これくれた人なのよ」
 はっ、とイレーシュは振り返る。
「ま、またそんなものを出し‥‥」
 オルキーの手の中にあったのは、想像とは違ったものだった。
 嬉々としながら、それをイレーシュにあてがうオルキー。
 がちゃり、とそれはイレーシュの手を捕らえた。
「ちょっ‥‥オルキー?」
「エスパーコマンドは、スパイ容疑がかけられているのよ。多くの仲間を危険な目を合わせてしまった女騎士は、エスパーの子を束縛して尋問するの」
 笑いながら、オルキーはもう片方をベッドの柱に引っかけた。
 引きつった笑みを浮かべ、イレーシュは反論する。
「騎士は、そういう卑劣な行為はしないんじゃ‥‥ないですか?」
「フィクションだからいいのよ。本にも、ちゃんと注意書きされてるわよ、正規の連邦騎士は卑劣な行為を禁止されており、これはフィクションです、って」
 オルキーは本を指さし、言った。
 それを言うなら、総統閣下を部下が押し倒すっていうのは、卑劣な行為にあたるじゃないのねえ‥‥と、オルキーは某男同士推奨同人誌の事を語る。
 イレーシュは手錠を引っ張ってみたが、簡単に取れるはずがなく、か細い腕に傷がつくばかりだ。
「あんまり暴れると、怪我するわよ」
 と、イレーシュの束縛されていない方の腕を掴み、オルキーは仰向けにした。それから白いタオルを取り出し、イレーシュの目を覆う。
「オルキー?」
 視界を遮られ、不安そうな声を上げるイレーシュ。
「今日は尋問されるエスパーコマンドと騎士様プレイよ」
 プ‥‥プレイって何っ??
 にやりと笑い、オルキーはあっという間にイレーシュの服を剥ぎ取った。
 イレーシュの運命やいかに!

■コメント■
 お待たせしました、立川司郎です。
 いろいろとシチュエーションに悩んでいたら、遅れてしまいました。エロいシチュエーションって難しいですね(爆)。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
立川司郎 クリエイターズルームへ
PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2003年11月17日

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