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『疑問ノ先 』
海原・みその1388

 夢の中でだけ生きてゆけたら、どんなにかいいのでしょう。
 けれど現実はそうはいきません。
 あの方を喜ばせるための、”話題”が必要だからです。
 わたくしはこれまでに何度も、陸(おか)へと上がり様々な殿方のお手伝いをしてきました。それはその行為自体がいいお土産話となるので、そのお礼としてお手伝いしているのです。
(そう)
 行動には、理由が必要です。誰も理由なく動いたりしないのですから。
(しかし――)
 そう思っているわたくしは、幾度となくその考えを改めざるをえないような状況に出くわしました。
”人が人を助ける”
 それは何故なのでしょう?
 わたくしのように、何らかの見返りを期待して助ける人ばかりではないのです(中には人ですらない方もいらっしゃいますが)。
 そして大抵の場合、助けを求める方と助ける方は、”他人”であるのです。つまり、何の関わりもない人々。
(助ける義務など、どこにも存在しない)
 それなのに。
 それなのに――。



 何度か、直接訊いてみたことがありました。
「仕事」
「道徳」
「好奇心」
「力ある者の義務」
 返ってきたのはそんな答えばかりです。
(わたくしには、よくわかりません)
 そもそも人助けを仕事にしようという神経が理解できませんし、”道徳”という概念もわかりません。好奇心を満たすだけならば傍観していればいいのですし、力があるなら助けなければならないなんて義務、誰が決めたのでしょう。
”人が人を助ける”
”他人が他人を助ける”
 その意味がわからないのです。
(たとえば――)
 わたくしの大切な人々。妹たち家族が助けを求めていたら、わたくしは無償で助けるでしょう。それは”家族”であれば当然のことと思います。
(しかし)
 対象が他人であればまったく別でしょう。そこには何の感情も存在しないのですから。
 それなのに、わたくしが地上で出会った多くの人は、他人のために何かを手伝ったりしていました。当たり前のように。
(わたくしはもう)
 理解できないを通り越して、信じられません。
 そんな方々は手放しで信じているのです。自分が手伝った相手が、助けた相手が、自分を陥れることは決してないと。
”人が人を助ける”
 それと同じくらい。
”人が人を陥れる”
 そんな事実があふれているというのに。
(愚かではないのでしょうか?)
 周りのすべてを信じるのですか。
 本当は――ただ1つだけ。
(たった1つだけ)
 愛し信ずるものが、あればいいのに。

     ★

 腕の中で笑っているわたくしを、あの方は不思議そうに覗き込みました。
「――考えて、いたのです」
 言葉の先を促すように、愛撫を1つ。
「どうして人は、人を助けるのか――」
(たった1つだけ)
 愛し信ずるものがあればいい。
 そう思ったわたくしは、1つの結論にたどり着きました。
「わかりましたわ、答えが」
 わたくしは強く、あの方を抱きしめます。
「あなたが1人しか、いないから」
(そのたった1人が、見つからないから)
 命を賭けてもいい。
 他の誰かがどうなろうと構わない。
 どこまでも一緒に――
(そう思える存在が、いないから)
 手当たりしだいに助けるしか、ないのですね?
 また笑い出したわたくしと一緒に、あの方も笑います。
「知らなかった……人が人を助ける行為は、こんなにも面白いことだったなんて」
 それはあがき。
 一生を捧げるだけのモチーフに、出会えない人々の叫びだ。
(わたくしがそれを、理解できなくて当然)
 わたくしはもう、見つけてしまっていたのですから。
(わたくしはただ)
 笑いながら見守ればよかったのです。



(堕ちてしまえばいいのに)
 助け合う人々の傍で、わたくしはそう思っておりました。
(早く、堕ちてしまえばいいのに)
 そうしたら、他には何も見えなくなる。
 世界は2人だけになって。
 すべての事象が2人を中心に回り始める。
(それはとても、幸せな出来事)
 さあ、その手を放して。
 こちら側へ――。





(終)
PCシチュエーションノベル(シングル) -
伊塚和水 クリエイターズルームへ
東京怪談
2003年11月13日

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