▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『正しい風邪の治し方 』
香坂・蓮1532)&佐和・トオル(1781)



SCENE-[1] 発熱。


 寒い。
 いや……熱いのか。
 体が、熱い――――。

 香坂蓮は、炎症を起こして熱を持った喉を重苦しく感じながら、少し咳き込み、ベッドの上でゆっくり身を捩った。
 ここ最近、ずっと風邪気味だなと自覚しつつ、過ごしてきた。
 体調が悪いのを承知で仕事の依頼を請けたりもしたが、それでも普段よりは健康に気を遣っていたつもりだった。無理をして倒れ、貴重な時間を寝込んで浪費するなど御免蒙る。言うまでもなく時は金なり。そう思っていたからだ。
 だが。
 一昨日の朝、眼が醒めてみたら、視界が不思議とぼやけて見えた。
 膝や腰が妙に軋み、枕から頭を起こそうとした途端、顳から後頭部へ鈍重な痛みが拡がった。
 その上、ぞくっと体の奥から皮膚へ向かって湧き上がる寒気に、しまった、と舌打ちしたい気分になった。
 (……拗らせたか)
 起こしかけた体を再びベッドに預け、歎息した。
 すぐに脳裡を過ぎったのは、仕事のことである。幸い急ぎのものは一件のみで、しかも力仕事ではない。
 短時間で終わらせれば、何とかなるか――――。
 気を取り直してとりあえず自分の状態を確認すべく体温を測り、がっくり項垂れた。
 三十八度九分。
 冗談だろう。
 三十九度近い高熱など、以前折悪しくコンサート当日に発して眩暈を覚えながらヴァイオリンを奏でたあの時以来。その一件が教訓となり、暫くは免疫力を高めるような食材を選んで食べるようにもしていたのだが。
 いっそ、測らなければよかった。
 デジタルできっぱりと提示された数値を見た瞬間、急に脱力感に襲われ、蓮は冷静に「さすがに無理だ」と結論付けた。

 今日は、一日体を休めることに専念しよう。

「……それがこうまで長引くとはな」
 蓮は嗄れた声で呻くように呟き、腫れぼったい瞼を押し上げた。
 半眼の裡に見た時計は、午前八時十分を指している。
 発熱して三日目の朝である。
 寝込み始めてから丸二日、何も胃に入れていない。常備してあった風邪薬も切れた。
 それもこれも、よりによってこんな時に限って同居人が留守にしているせいだ。
 必要ない時には鬱陶しいほどそばにいるくせに、今こそ役立ってくれと思う事態を前に、忽然とその姿を消す。今更それを非難したくなるほどあの男に何かを期待しているわけではないが――――多少は期待させてくれても罰は当たるまいに。
 朧に滲む意識の中、縺れかけた思考の糸を解くこともできぬまま、蓮は毛布を顎まで引き上げた。
「寒い……」
 そう、自分自身は寒いと感じるのに、他の誰かが今の蓮に触れたら、熱いと言うのだろう。
 高熱を発しているくせに、体は勝手に震えてぬくもりを欲しがる。
 人恋しいなどと言うつもりはないが、実際、こういう時こそ誰かがいてくれると助かるのだ。
 誰かが。
「……誰か、か」
 蓮の胸中に、見慣れた笑顔がちらついた。
 その時。
 枕許に投げ出されていた携帯電話が、鳴った。
「……はい……」
 できるだけ相手が聞き取りやすいように、口をはっきり開けて発音した。気を抜くと、声が掠れて自分でも何を言っているのか分からなくなる。
 蓮を呼び立てた相手は、その声を聞き、指折り数えて三秒ほど、黙していた。そして、
『……風邪?』
 名告りもせずに、そう言った。
 佐和トオル。
 いい加減名告られずとも声を聞けばそれと分かる相手だが――――ホストという職業上の慣れなのか、彼が電話を寄越す時は必ず最初に愛想良く自分を表現する。こういう風に唐突な会話の切り出し方をするのは、余程慌てているか、驚いた時くらいのものだろう。とすると、それほど蓮は具合が悪そうな声を発したか。
 そう思い至った蓮は苦笑し、
「……ああ」
 短く応じた。
『そうか……。じゃあ、さすがに無理だな』
「無理……? 何が」
『ん? いや、実はさっきまで、店にいたんだよね。閉店時間になっても帰ってくれないお客様がいてさ。で、何とかお帰り願って、ようやく自宅に戻ってきたんだけど、腹減って仕方なくて。蓮に、ご飯作りに来てくれって頼もうと思って、電話したんだ』
「………………」
 蓮は、耳にあてた携帯電話を少し遠ざけて、深く溜息を吐いた。
 ――――それを頼みたいのは俺の方だ。
 とは言え、トオルに炊事は絶対的に無理だと分かっている。トオルの家事能力ときたら、本人曰く「何か、俺に包丁を持たせると怖いって言われたことあるんだよね」などという洒落にならないレベルなのである。
 結局、蓮は諦念の中で最善の方策を選ぶことにした。
「……トオル」
『ああ。何』
「料理なら、また別の機会に作りに行く。……だから……交換条件で、頼みたいことがある」
『頼みたいことって、蓮の看病?』
「……風邪薬を、買って来てくれないか」


SCENE-[2] 助っ人来訪?


「……おまえな」
 ベッド上に上半身を起こして坐り、部屋に入って来たトオルを見て、蓮が眉根を寄せた。
「何なんだ、その荷物は……」
「何って、見舞いの品」
 そう言って笑うトオルの手には、薔薇の花の周囲に小雪を散らしたようなかすみ草を添えた小さな花束。ミネラルウォーターやらスポーツ飲料やらを数本まとめ入れて見るからに重そうなビニール袋。もう一つ抱えた茶色の紙袋には、何が入っているのか分からない。
「……俺は、薬を買って来てくれと言ったつもりだが」
「分かってる、ちゃんと薬もあるから。他に、不足してそうなものを持って来ただけ。ほら、風邪の時は水分が必要だって言うだろ? あと、ビタミンね」
 トオルは、紙袋の中から薬と数種類のビタミン剤を取り出して蓮に見せると、「それにしても」と荷を床に置いて、ベッドに近付いた。
「本当に、風邪の諸症状満載って感じだな、蓮」
 体力を奪われて窶れて見える蓮の顔。熱のせいなのか天青色の眸は少し潤み、乾いた唇からは頻繁に咳が飛び出し、呼吸音は引き攣って聞こえる。額にかかる前髪は疲れたように垂れ、肩に向かってきれいに伸び落ちた彼の頸筋は今や肌膚の色悪しく染まっている。
「……好きでこうなったわけじゃない……」
 肩で大きく息をして、蓮が一気に吐き出すように言った。
「それはそうだろうけどね」
 応じながら、トオルは蓮が着ているパジャマの胸許に手を掛け、ぐいっと引いた。
「おい――――」
「んー、そんなに汗はかいてないのか」
「……汗をかくどころか、寒いくらいだ」
「それで窓も閉め切ったまま、か。けど、この部屋、たまには換気しないと風邪のウィルスが充満してるんじゃない?」
 トオルに言われて、蓮は、そうかもしれないな、と声にならない声で呟いた。
「大事なヴァイオリンにも、風邪が伝染るかも」
 トオルは戯けて笑い、蓮から手を放すと、
「換気が済んだらすぐ閉めるから」
 言い置いて、窓を開けた。
 秋風がカーテンを揺らし、朝の新鮮な空気が蓮の気管を通って全身に染みわたった。冷気に触れて咳き込むかと思ったが、逆に体内に鬱積していた重い塊が洗われたようで、蓮は安堵の表情を浮かべた。
「……さて、と」
 トオルが、腕捲りをして腰に手をあて、蓮を見遣った。朝陽を受けて透けて見える金髪に彩られて、黒眸が微笑んでいる。
「何かしてほしいことない?」
「……薬を」
「薬飲むんなら、少し食べてからの方がいいだろ? ……あ。蓮、風邪で寝込んでから、ちゃんと食事摂ってる?」
「いや……二日ほど何も食べていない」
「やっぱり。俺も腹空いてるけど、蓮の方が緊急事態っぽいな。よし、分かった、何か胃に優しそうなものでも作るよ」
 キッチン借りるよ、と手を振ってベッドを離れて行ったトオルの後ろ姿に、蓮は「待った」をかけたい気分だった。
 何か作ってくれと蓮を呼ぶつもりだったトオルが、蓮のために料理をすると言う。
 その心遣いは有り難いが、一体何を作るつもりなんだ。
 何を。
「……蓮、鍋ってどこにある?」
 すぐに、キッチンからトオルの声が飛んできた。
「ああ……、鍋なら……シンクの下の棚に」
「シンクの下ね……、あ、これか」
 戸棚を開ける音がし、続いてガタガタとぎこちなく鍋を取り出す音。その音が金属質でなく、蓮はトオルが土鍋を出しているのだろうと想像した。シンク下の右隅に、萬古焼の浅鍋を一つ、仕舞ってあった筈だ。ということは、トオルは病人のために粥でも作ろうとしているのか。
「……っとと、わ……ッ!」
 ――――ガチャン!
 予想できなかったことではないが、蓮はさすがに肩を落とした。
 早速割ったか。
 貰い物の上、大して高価な鍋でもないのが幸いだが、
「土鍋一つ取り出しただけで、どうしてこういう事態になるんだ……」
 蓮はよろめきつつベッドを下り、キッチンへ向かった。
「……おい」
 蓮の声に、土鍋の破片を拾っていたトオルが顔を上げた。
「あ……、悪い、ちょっと手が滑って」
「……らしいな」
「すぐ片付けて、別の鍋でお粥でも作るから」
「……作れるのか?」
 くしゃっと前髪を掻き上げ、溜息交じりに蓮が訊いた。
「お粥くらいなら作れると思うけど。いや、やったことはないけどさ、多分? 確か、米と具を入れた鍋を火にかけて煮るだけだよな?」
 トオルは土鍋の欠片をゴミ袋に入れ、斜めに頸を振った。肯いたようにも、小頸を傾げただけのようにも見えるその仕種に、言いようのない不安を覚えた蓮だったが、
「……そうだな。煮るだけだ、確かに……」
 そう応えるに留めた。
 正確に言えば、蓮が訊きたかったのは、トオルが粥の調理法を知っているのかどうかという点ではなかった。たとえレシピを理解していたとしても、本当に無事粥が出来上がる段階まで辿り着くことができるのかと問いたかったのだ。それまで怪我することなく、しかもこれ以上キッチン用品を破壊せずに済むのかと。
 だが、今の蓮にはそれを鋭く指摘するだけの気力も体力もなかった。それに、空腹だ。いくら風邪で食欲がないとは言っても、二日間薬を飲む以外何も食べずにいれば、胃が痛み出す。もしあたたかい粥が出来上がるというなら、食べたい。そのためには多少の協力も必要だろう。
「……他の鍋は……ここにある」
 蓮は自ら戸棚を探り、鍋を取り出してトオルに渡した。
 そうしてふらふらとベッドに帰り着き、身を横たえかけた時、
「なぁ、米ってどこ?」
 トオルの声に引き止められた。
「……米……」
 米櫃の中だ。
 そう返辞をすれば、すぐさま「米櫃ってどこにある?」と訊かれるだろう。
 しかも、場所を説明して探させたところで、トオルが米をキッチン中にばらまかない保証はない。
 仕方なく、蓮は再びベッドを下りた。
「……米はこの中だ。……そうだな、これくらい……の量があれば充分」
 途中数回咳き込みそうになりながら、蓮は手ずから米の分量を量った。これでとりあえず、病体に鞭打って米粒を掃き集める未来は回避できた筈だ。
「分かった、米はこれだけだな」
 一人納得しているトオルに背を向けてベッドに戻りかけ、蓮はふと足を止めた。
「……トオル。粥に、米以外に何か……入れるつもりか?」
「え? そうだな、体をあたためるような食材っていうと……」
「生姜とか、ネギだな」
 どこにある?と訊かれる前に、蓮は生姜とネギを用意した。
 鍋だの生姜だのネギだののために、ベッドを出てキッチンを行ったり来たり。
 腰を屈めたり戸を開け閉めしたりするたびに、関節が悲鳴を上げる。
 頭を動かすたびに軽い眩暈を覚える。
 何をやっているんだ、俺は。
 この調子なら、いっそ自分で料理した方が早いんじゃないのか――――。
「……じゃ、あとは頼む」
 悲痛な心の声を抱えたまま、蓮は今度こそベッドへ戻って布団に潜り込んだ。


SCENE-[3] 戦い終わって。


 甘い幻想など、僅かなりといえど抱く方が間違っている。

 蓮は、すでにわけの分からぬ浮遊感の裡にある我が身を、キッチンの壁に凭せ掛けた姿勢で、喘鳴すら聞こえてきそうな気道を酷使して低く声を響かせた。
「……もういい」
 それが、最終的に蓮が導き出した結論だった。
 眼前の惨状を見れば、然もありなん。
 ざく切りのネギと、「これを囓れと言うのか」と眼を瞠りたくなるような生姜の塊。煮込んですっかり融け崩れた白粥。土鍋。鍋から直接食べるのは熱かろうと気遣って用意したらしい木椀。箸。陶製のれんげ。
 それらが、ものの見事に床に散っていた。
「は、はは……、いや、鍋からお椀に、お粥を移そうとしただけなんだけどね」
 トオルが、撒き散らした粥の真ん中に立って、困ったように指先で頬を掻いた。
 その手の甲が赤く染まっているところを見ると、自分の手の上にも粥を落として軽く火傷したようだった。
 蓮はもう、それ以上言うべき言葉を持たず、苦しげに息を吐きながら俯いていた。
 どうしたらいい。
 どうしてくれよう。
 一体、俺はどこで何を間違えたんだ。
 大体、こうまで不器用な男が、ホストクラブではまともに仕事ができているのか。
 そういう蓮のささくれ立った心情が見えたわけでもあるまいが――――いや、もしかしたら視えたのか――――トオルは、
「蓮、いいからベッドで寝てて。俺、急いでここを片付けるからさ」
 言うなり、その場に腰を落とした。否、落とそうとして、左肩をテーブルにガンッとぶつけた。
「……ッ」
 蓮は反射的に壁を離れ床を蹴り、腕を伸ばして、今にもテーブルから落ちようとするグラスを右手でキャッチした。が、不安定なバランスの上に抛り出した自分の体を制御しきれず、そのまま床に倒れ込んだ。
「わ……!」
 トオルは蓮の体を支えようとしてつい足許の粥を踏み滑り、結局二人して為す術なく床に頽れた。
 数秒間。
 場が静寂に支配された。
 その不穏な静けさを破ったのは、蓮の圧し殺したような声だった。
「…………もう、いい……!」

 コイツがいたら、俺は死ぬ。

 如何にも切実且つ逼迫した感情が現実感を伴って、病身の蓮を苛んだに違いなかった。
 その瞬間、トオルが視たのは、不気味に蓮を包み込む玉虫色のオーラだった。
「……帰れ。帰ってくれ。もう、何もしなくていい。俺に構うな」
 一気にそれだけ言うと、蓮は顔を上げて疲労困憊した表情をトオルに向けた。その眼に相手を睨み付けるだけの力はなく、どちらかと言えばそれは懇願模様で編まれた視線であった。
 ――――トオルは。
 反論できる立場にもなく、素直に蓮の言に従った。
 一人雑然たるキッチンに取り残された蓮は、何から手を着けるべきなのか、むしろ今は何もせずにこのまま気を失ってしまうべきなのか迷い、そういえば、と或る事に思い当たった。
 まだ、薬を飲んでいない。
 もはや焦点が合っているのかいないのか判然としない眸で、トオルが持って来た紙袋を探し、中から薬を取り出そうとして、
「……ん……?」
 薬やビタミン剤の他に、何か入っているのに気が付いた。
 ハムサンドと梅干しおにぎり、それからたまごスープの素。
 トオルが蓮の部屋に来る途中、コンビニエンスストアで買い込んできたのだろう。
「……食べるものがあるなら、何もわざわざ……」
 言いかけて、蓮は濃い溜息の裡に語尾を融かした。
 一応出来合の食べ物を買って来てはみたものの、風邪の時くらいはせめて、あたたかい粥でも作ってやった方がいいかと。そう思ってくれたのかもしれない。
 だがしかし。
 その気持ちを友情と受け取れるだけの現実に、今の蓮は直面していなかった。


SCENE-[4] 割に合わない交換条件


 二日後。
 ようやく蓮の体調も快復を見、普段通りの生活を再開できるまでになった。
 粥の件はともかくも、トオルが買って来てくれた薬のおかげで何とか持ち直したのかもしれないと思えば、それなりには感謝すべきなのだろうか。
 部屋の窓を開け放って、高く澄んだ秋空を見上げた蓮は、背後で携帯電話の鳴る音を聞いた。
 何となく。
 何となく、予感はあった。
「……はい、香坂――――」
『あ……、蓮?』
 二日前の蓮とさほど変わらぬ声の掠れ具合。
 どうしたんだ、と訊くまでもなく、電話向こうのトオルの状態は推察できた。
『何か、しっかり、風邪もらってきちゃったみたいなんだよね……』
 そう言って、トオルは二度、くしゃみをした。
「……それで? 薬と、粥があればいいのか?」
 蓮の言葉に、トオルは「そうそう。頼めるかな」と笑った。
 確かに、蓮はトオルに薬を頼む時に、「料理ならまた別の機会に作りに行くから、交換条件で」と言った。言ったからには、行かねばなるまい。
 食材を買い込んでトオルの部屋へ出向いた蓮は、手早く調理を済ませると、それをベッドで寝ているトオルのところまで円盆に載せて運んだ。
「うわ……、旨そう!」
 トオルが嗄れた歓声を上げた。
 蓮は浅鍋を指さし、
「これが、この前俺が食べ損なったネギと生姜の粥。薬膳として出されることもある料理だ。ネギも生姜もできるだけ細かく刻んだし、塩で味を調えてあるから、食べやすいと思う。食べてからすぐ寝れば、汗をかいて熱も下がる。病人にはもってこいだな」
 何か含むところでもあるように、懇々と説明してみせた。
「それから……こっちが、見ての通りバナナ。砂糖を加えて煮てある。バナナには解熱作用があって、咳止めにもいい。さすがに砂糖煮は俺には甘過ぎて食べられないが」
「俺は、甘いのは大歓迎」
 トオルが嬉しそうに応じた。
「……だろうな」
 呟いて、蓮はトオルが粥やバナナを嬉々として口に運ぶ様を眺めていた。
「ネギと生姜なんて、結構味がキツいかと思ったけど……随分優しい味に仕上がってるんだな」
 トオルが感心したように言った。
 そして、蓮の顔を見遣ると、
「やっぱり、さ。慣れないことは、するもんじゃないね」
 己がしでかした蓮の部屋での一事を想起したか、苦笑しつつ、粥を咀嚼した。
 蓮は、トオルの手指に絆創膏が巻かれているのに気付き、おそらくあの日生姜の皮を剥こうと格闘した時に傷でも作ったのだろうと思い馳せた。
「ああ。……慣れないことはするものじゃない」
 複雑な心中を映じた声音で、蓮が同意を示した。


[正しい風邪の治し方/了]


PCシチュエーションノベル(ツイン) -
杳野 クリエイターズルームへ
東京怪談
2003年11月10日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.