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『咲いた!?散った!?目指せ文化祭の華!』
伍宮・春華1892)&鬼頭・郡司(1838)&天波・慎霰(1928)

「春華ッ!!助けろっ!」
 秋の澄み切った青空に今日も何か楽しい事がおきそうな予感を大いに抱いてやってきた春華に浴びせられたのは、親友もとい悪友の天波 慎霰のどこか必死な叫びだった。
「はぁ?」
 何事だ、と言うように口をぱかん、と開けもう一度周囲を見渡せば、『男装女装コンテスト』と達筆な筆遣いで書かれた垂れ幕が目に入った。
 春華が今居るのは、都内の某私立高校。
 本来なら中学生である春華が入れるはずが無いのだが、今日は特別な日……文化祭なのである。
「おー、来た来た、春華ァ!どうだ、俺サマ可愛いだろっ!」
 春華をここに招待した人物のもう一人が、周囲より頭一つ高い長身を生かして彼を発見するとヒラヒラと手を振ってみせる。
「よっ、郡司。……なんか、おもしれーことやってんなぁ」
 のっしのっしと周囲の野次馬を掻き分けてやってくる友人、鬼頭 郡司の姿を見て、春華は吹き出したいのを堪えて感想を述べる。
 どこか野性の虎を連想させるしなやかな体つきの彼が只今纏っているのは、ストイックな感じのする青いスカートとふんだんにフリルが施された純白のエプロンのコントラストも眩しいメイド服。
 ふんわりと膨らんだ袖の下と、襟元に結ばれた真紅のリボンがより一層マニアックさをかもし出し、野次馬の奇異の視線を一身に集めているのだが、本人、まったく気にした様子も無く、逆に喜んでいる節さえあった。その証拠に、
「……だろォ?お前からも言ってやれよ、コイツ、女装は嫌だって言うんだぜ?」
 コイツ、の所でぐぃっと今にも逃げ出そうとしていた慎霰の首根っこを掴み、春華の前に引きずり出してみせ、にこにこと楽しそうな笑みを浮かべて見せる郡司は、どこからどうみても金髪の可愛らしい……少し長身のメイドさんなだけにこの二人の図は少々……かなり異様だった。
「当たり前だっ!誰が女装なんか……春華っ、頼む」
 じたばたともがきつつ、郡司に噛み付くように怒鳴った後、目の前の春華に藁をも掴む思いで縋りつくような視線を送る慎霰。
 しかし、所詮藁は藁。泥沼に沈む彼を救ってくれる事などなかった。
「まぁ、お祭りだし。こういうときはノらないと♪」
 がんばれ〜、なんて実にありがたくない春華の声援にトドメを刺された形になった慎霰は郡司に首根っこをつかまれた格好でがっくりと項垂れ、ぼそりと何気なく…──そう、例えどんな酷い拷問を受けたとしても口走ってはならない一言を漏らしてしまったのだ。
「…………そんな格好するくらいなら、全裸の方がマシだ」
「……………………」
 俯いた慎霰の頭の上で、郡司と春華の瞳が交差した───しかも二人とも、爽やか過ぎるほどの笑顔を浮かべて。
 
「……よぉぉぉぉぉくいったぁぁぁぁぁぁぁ!!慎霰っ!!!俺サマは猛烈に感動しているぞぉぉぉ!!!」
「なぁっ!?郡司っ?」
 いきなりヒートアップして学校中に響き渡るようなシャウトに驚いて顔を上げた慎霰の体がふわりと一瞬空に浮いた。
 そして次の瞬間天地がひっくり返るような感覚と共に背中に衝撃を喰らい、己が引き倒されたという事を理解するよりも早く、ガタイのいいメイド……もとい女装中の郡司の楽しそうな笑顔が視界一杯に広がった。
「全裸上等っ!さぁ、さぁ、俺サマがお前を女にしてやっから♪」
 ぐわしぃぃっと、メイド服の郡司が恐ろしい程の怪力でもって慎霰をリノリウムの床に縫い付けると器用に破らないように、彼の制服を剥ぎ取っていく。
「…郡司ィ、慎霰は女装は却下っていったじゃん」
「あー悪ィ、悪ィ、男にしてやっからの間違い、間違いっ、つーわけで観念しろ?」
 絶叫を上げながら抵抗をする慎霰を助けようともせず、春華はのんびりと郡司にツッコミをいれて完全にもう、傍観の構えだ。
「できるかぁぁぁぁ───ッ!!」
 慎霰も流石に人目の多いここでは本性である天狗の能力は使えないために、死にものぐるいでの抵抗のはずなのだが、郡司はやすやす彼を押さえ込みとうとう上半身まで剥かれてしまった。
「はーっはっはっは、良いではないか、良いではないかーっ!」
 どこぞの悪代官のような笑い声を上げて、郡司は慎霰のズボンのベルトに手をかけた。
 一方春華といえば、『おーい、今から面白ぇもん始まるぞ〜』と口に両手を当てメガホンのようにして周囲に呼びかけ、更に野次馬を集めるという……実に、麗しい友情を見せてくれていた。
「やめろっ!このっ、鬼ぃぃぃぃ────っ!!」
「だって俺サマ鬼だしー」
 慎霰の罵り声も郡司の笑い声に虚しくかき消され、そして、彼の手が最後の砦、制服のズボンを勢い良く抜き取った。
「……」
「…………」
「………………」
 わいわいと暴れる二人を取り囲んでいた野次馬が、しーんと静まり返った。
 メイド姿の郡司に床に押し倒され、上半身も剥かれ、今下半身を守るズボンも抜き取られた慎霰の唯一の装備品。それは…────
「ふ、ふ、ふ、ふ……」
 春華の横の女生徒がその名称を口にしようとして、口篭る。隣の友人らしいもう一人の女生徒と手を取り合い顔を真っ赤にしているが、視線は慎霰のそこに釘付けだ。
「だ〜か〜ら、トランクスかブリーフにしとけって……」
 呆れたような春華の一言が引き金になって、野次馬達が爆笑の渦に包まれる。
「………………いっそ、殺してくれ…」
 ほろほろと涙を流しながら、もう抵抗する気力も無くぐったりとする慎霰。その身に纏うのは古式ゆかしい伝統の白フンドシだ。
「まぁまぁ、裸の一つや二つで死ぬこたァねぇって…」
 と、少しは哀れに思ったのかそんな言葉をかけた春華の目に、ふと横の女生徒が取り出した使い捨てカメラが目に入った。
「お?それなんだ?」
 興味津々で問い掛ける春華に、詳しく女生徒達はカメラについて教え、そうして使ってみたいという彼に『ベストショットを一枚寄越すなら』という条件付で貸し与えてしまった。
「……と、一休みしたところで、さ、慎霰。お約束の全裸、全裸」
「約束なんてしてねぇぇぇぇぇぇぇぇぇ────!!!」
「ふーん、ほー、へぇー。どれどれ〜♪」
 やんややんやと異様な盛り上がりを見せる野次馬、そして郡司と慎霰の最後の一枚を巡っての攻防が繰り広げられる中、春華は初めて手にした玩具の能力を好奇心で瞳をキラキラさせながら存分に発揮した。



 数日後。
 春華、郡司、慎霰の三人の姿はファミレスにあった。
「俺、これとこれと、これねっ!」
「おう、じゃんじゃん運んでこい」
 運ばれてくる料理を次から次へと凄いスピードで平らげていく春華と郡司を前にしてやや、困惑気味の慎霰がオムライスをつついていたスプーンを止め、おずおずと問いかけた。
「……いきなり、ご馳走してくれるなんて言ってたけど、本当に大丈夫なのか?そんなに喰って」
 軽く一般学生の一ヶ月の小遣い位は食べただろうと心配する慎霰に、春華は事も無げに笑いながら、
「ああ、へーき、平気。金ならたっぷりあるからさ」
「…………なんで?」
 嫌な予感バリバリで、僅かに顔を引きつらせた慎霰の目の前に、ひらりと一枚の紙片が現れる。
「!!!!!!」
───…そこに写っていたのは、誰あろう慎霰本人の『あられもない姿』の生写真。
「いやー、シモは儲かるって本当だなァ、春華」
 フォークにありったけ巻きつけたナポリタンをもぎゅっと口一杯頬張り、飲み下した郡司が満足げに同意を求め、春華もうんうんとしっかり頷き、
「ああ。ありがとな、慎霰。お前の身体で稼いだ金で、こんな美味いもん食えるなんてなー…」
「………………」
 にこにこにこにこ。
 たらふく食べて幸せ一杯の二人の言葉に、慎霰は自分のこのあられもない写真が裏で大量にばら撒かれた事を悟った。
 悟ったが、しかし、どうする事も出来ないのが悲しい事実であり。
「ほーんと、ラッキー!!!」
───…ごっす。
 春華と郡司の笑い声をバックに、慎霰がテーブルに突っ伏す音が悲しく響いた。


──FIN──  
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東京怪談
2003年11月06日

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