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『家を探そう 』
悠桐・竜磨2133

 きっかけは些細なことだった。
 そう。些細なことだと思うのだ、悠桐竜磨の感覚の中では。
 原因は竜磨のアルバイト。
 大学にはきちんと行っているし、成績もそれなりだし。アルバイトくらいしても良いじゃないかと思うのだが、父親はそうは思わなかったのだ。
 別に、いいじゃないか。
 ホストのバイトをやったって。
 そもそも竜族とは、特定のパートナーが見つからない限りは恋愛に節操がない種族だ。そういう種族の血を引く一人である竜磨も、やはり恋愛ごとは好きな方である。
 金回りはそれなりに良いし、女の子とは仲良く出来るし。竜磨にとって、ホストはなかなか自分の性格に合った仕事なのだ。
 だからといってケジメがないわけではない。ホストという仕事と実際の恋愛の区別はつけているつもりだ。
 だが・・・・・・父は、聞く耳を持ってくれなかった。
 もともと父との喧嘩は多かったが、今回のはその中でも最高レベルの大喧嘩。
 結果。竜磨は家を飛び出し、現在追加の仕事と家を探している途中である。
 仕事は案外簡単に見つかった。前々から噂では聞いていた草間興信所を訪ねたところ・・・・・・一発だった。
 訪ねて、仕事がないかと告げたらすぐさま、依頼の調査員に加えてくれた。
 普通こういうのは履歴書とか必要なのではないのだろうか・・・。そんなイキナリ来た人間に仕事を預けて良いものだろうか・・・・。
 ちょっと悩みはしたが、噂の怪奇探偵の興信所だ。人外の集う場所らしいし、そんなものなのだろうと適当に納得した。
 さて、最大の問題は家だった。
 お金に関してはある程度の貯金があったからなんとかなりそうだったが、問題は保証人。
 通常、家を借りるには保証人がいる。
 だが父親と喧嘩別れしてきているのに父親に頼むわけにはいかない。
 今日一日の不動産屋巡りを終えて、竜磨は目星をつけた部屋の地図を見つつ小さな溜息をついた。
「うーん。こっそり母さんに頼むしかないかな」
 どこの不動産も、保証人なしでは部屋を貸してはくれなかった。
 今時は保証人がなくとも借りられる部屋もあるらしいが、生憎と今のところその方式を採用している部屋には当たっていない。
 できれば父がなにか言ってくる前に引っ越してしまいたいから、時間はあまりなかった。
「あ、そうだ。帰る前に興信所に寄ってくか」
 今日はホストの仕事は休日だ。興信所の依頼には夜に行動するようなものもあるから、行って見るのも悪くはないだろう。
 これから仕送りなしの一人暮しを始めるのだ。お金はないよりあったほうが良いに決まっている。
 そうして興信所へと向かう通り道。
 いつもは学校か家か店(ホスト)から一直線に行くので、今日は普段と少し違う道だ。
 その、いつもは通らない道で、竜磨はふと目に入った張り紙に足を止めた。
 どうやら新築らしいマンションの掲示板にはでかでかと『入居者募集中』の文字。
「せっかく見つけたし、行ってみるかな」
 どうしようか考えつつ掲示板を眺めていると、ふいに真横に気配を感じて、竜磨は素早く横に視線を向けた。
 そこにはにこにこと柔和に笑う爺さんが一人。
「ここに興味があるのかな?」
「・・・爺さん、ここの管理人かなにかか?」
「ああ。大家であり管理人でもある」
「家を探してるんだ」
 答えると、老人は一旦中に入ってからすぐに、一枚の用紙を持って出てきた。
「持ってくといい。興味があったら今度は下見にでもおいで」
「あ、はい。ありがとうございます」
 唐突な申し出に多少面食らいつつも、竜磨は素直に頷いた。
 二十階建て各階五戸。屋上完備の4LDK。しかも新築で駅から徒歩五分程度。加えて、家賃三ヶ月分前払いという条件さえ満たせば保証人の必要はなし。ちなみに、前払い料金はあくまでも最低この金額からというだけで、余裕があるなら半年とか一年分前払いでも良いらしい。もちろん、途中で部屋を出る場合は家賃返金もしてくれるという。
 これほどの好条件だというのに、家賃はばかに安かった。
「・・・・大丈夫かな、これ」
 爺さんに貰った用紙に書いてあった文面を読みつつの帰り道。
 普通に考えれば、怪しい。
 なにか裏がありそうな感じだ。
 よくあるパターンとしては昔墓地だったとか、以前この土地で殺人があっただとか――つまり、幽霊が出るとかいうパターンだ。
 だが竜磨にとってそれはたいした問題ではなかった。
 幽霊とは違えと竜磨自身も人間ではない者。たとえ幽霊に遭遇しても勝てる自信はあった。
「決まりだな」
 交通の便もいいし、多少怪しかろうと今は急いで引越しをする必要があるのだ。保証人がなくても良いというのはありがたい。
 家賃の安さを見るに、三ヶ月分ならば充分出せるだろう。

 翌日には入居をほぼ心に決めてしまった竜磨は、さっそく部屋の下見に向かった。
 ついでに、道すがら会った人と少しばかり話もしてみたが、幽霊が出るなどという話はなかった。
「・・・そうすると、なんでこんなに安いんだ?」
 実はあの爺さんは金持ちでこのマンションはただの道楽だとか?
 まあ、実際の理由がどうであれ、悪い噂はないほうが良い。

 とっとと契約を交わし、マンションを見つけてから数日後。
 家から持ち出してきたカバン一個の荷物を部屋に放りこんで、竜磨はふうと軽い息を吐いた。
 十階にあるこの部屋はなかなか見晴らしも良いし、部屋も広く綺麗で、本当に破格の家賃だと思う。
「さてと、まずは荷物の整理をしないとな」
 たいして多くはないが、やることは多い。
 これからは自力で暮らさねばいけないのだ。バイトに行って、学校にもきちんと行って。
 ・・・・・・忙しい毎日になりそうだ。
PCシチュエーションノベル(シングル) -
日向葵 クリエイターズルームへ
東京怪談
2003年10月27日

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