▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『此処は何処……? 』
刀伯・塵1528

 目の前に広がる光景に、男は呆然と立ちすくむ。見慣れない異国の格好をした人々、見た事も無い変な生き物(変な生き物は慣れてるが)、見た事も無い建物。男はただ呆然と突っ立っていた。徐に、自分のほっぺたをつねって見る。
「……痛てぇ……夢じゃねぇのか……」
 男は一人呟いて、またその光景を見詰めた……

 男は中つ国のサムライ、名を塵と言う。『刀伯』と言う通り名で知られた、きってのサムライだ。かつての中つ国は異形との戦いで戦乱吹き荒れる場所であったが、戦いは終結し塵もまた平和な毎日を送っている筈であった。そう、この瞬間までは……
「ここぁ何処だよ……」
 呆然と呟く言葉が、何より心情を表している。まあ、無理も無い、寝ぼけ眼に森を抜けたら此処だったのだから、驚かない方がおかしいと言う物だ。
『俺、変なもん食ったか?それとも、茶か!?いや、あれは娘が淹れてくれたもんだしそんな事ねぇ。饅頭か!!!あっいや……あれは俺が買って来たんだった。う〜む……次元回廊にでも迷い込んだか?まだ彼方此方に余波は有るって話は有るからなぁ……つうか、そしたら俺んとこは更に怪しい里じゃねぇか!!勘弁しろよ〜』
 呆然とする中で、色々考えている様であるが、思考状況がどうもずれて行っている様である。同時に、ブツブツと呟いている事に塵は気付いて居ないのだろう、周りから奇異の視線で避けられている事は言うまでも無い。なんせ、格好からして見慣れないのに、その男が往来のど真ん中でブツブツ呟くなんて、怪しすぎる以外にありはしないだろう。
『はっ!?つうか、こんな所で突っ立ってるほうが怪しいじゃねぇか!取り合えず、どっかに行かねぇと!』
 ようやくその事に気付いたのか、塵は頭を上げた。同時に周りの視線とやたら目が合う。塵はそのでかいガタイをちっちゃくしながら、小走りに通りを抜けて行った。

「ったく!!何なんだ!訳わかんねぇぞ!なんだって俺はこんな所に居るんだ!?」
 往来からちょっと外れた脇道に、胡坐を掻いた塵が居る。もう人も居ないので、思う存分呟いているのであるが、呟きと言うより吼えている様に聞こえる。
「兎に角だ!此処が何処なのかはっきりさせて、んで、帰る方法見付ねぇと……」
 最後は弱々しく消える。
「帰る方法も何も……俺ぁどうやって来たんだ……?」
 盲点である。昼寝から眼が覚めて、寝ぼけ眼で薪を取りに行って気が付いたら此処に居たのだから、どうやって来たかなんて分り様も無い。しかし、塵はすくっと立ち上がるときっと前を向いた。
「悩んだってしょうがねぇ!取り合えず、聞くしかねぇ!」
 この辺り、思い切りが良いと言うか単純ではあるが、それが塵である。拳をグッと握り締め、塵は空を仰いだ。

「わりぃんだけど、ちょっと教えてくんねぇか?」
 もう何人に声を掛けて、聞き続けただろう?塵は、兎に角情報をと言う事で往来に店を出している人々や、歩き行く人々を止めては情報を集めていた。不思議な事だが、皆見慣れない異国の格好でありながら、言葉は素直に通じるのが塵にとって一番有り難い事であった。
「何だ?何が知りたいんだ?」
「大した事じゃねぇんだ、黒山羊亭って何処にあんのかと思ってよ」
 塵が色々聞いた中で、分った事が幾つかある。此処はソーンと言う世界で、この街は聖都エルザード。ユニコーンと言う地方の中で大きな街だという事、多くの民族や種族が入り乱れる街である事、そして……冒険者と呼ばれる者達が居る場所だと言う話しだ。その中で、冒険者達が集まる場所は二つあると聞かされた。即ち、黒山羊亭と白山羊亭である。
「あ〜黒山羊か、この道を真っ直ぐ行って突き当たりを左だよ。看板があるからすぐ分るだろ。ちなみに右に曲がると白山羊だからよ」
「ありがとよ。邪魔してわりぃな」
「良いって事よ」
 塵は礼を述べると、歩を進める。ようやく、状況が見えてきた様な気がして少しだけ歩は軽い。だが、肝心の戻る方法が分らないで居た。
「まっしゃーねぇ、地道に探すっきゃねぇよな。来ちまったんだしな」
 何処か吹っ切れた様な表情で颯爽と歩く塵の姿に、当初の様な狼狽はなくこれからの事に胸躍らせていた。元からの戦いを好む性分が、何とはなしに騒ぎ出す。新たな期待に胸膨らませ、辿り着いた黒山羊亭の前。
「よっしゃ!いっちょやるか!!」
 肩から掛けた朱房の数珠を握り、気合い一発、ドアを開け店内に入った次の瞬間!塵は倒れた。
「嘘だろ……聞いてねぇよ……」
 涙流して倒れ伏した口から漏れる呟きは恨めしそうに、店内を漂う酒気を呪っていた。こうして、塵の新たなる戦いが幕を開けるのだった……


PCシチュエーションノベル(シングル) -
凪蒼真 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2003年10月27日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.