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『カモナマイハウス 』
柚品・弧月1582

 プルルルルルルル……プルルルルルルル……
 小気味の良い電子音が、着信を伝える室内に窓から差し込む光は暖かく、少し肌寒くなった部屋を心地よく暖めている。整然と整った室内のソファーの上、柚品 弧月は心地よい眠りの中に居た。だが、延々と鳴り続ける電子音が余りに五月蝿く、遂には目を覚ます。
「五月蝿いなぁ……何なんですか……」
 ブツブツとぼやきながらも受話器を手に取る。
「もしもし、柚品ですけど」
 些か寝ぼけ声なのは、寝起きの為しょうがない。が、受話器の向こうの相手は……
『何やってた!!!電話くらい早く出ろ!!!!』
 怒声がまず第一声。弧月の眠気は一気に吹っ飛んだ。
「冬季兄さん!?ごっごめん。ちょっと寝てたから……」
『言い訳は良い!!兎に角用件だけ伝えるぞ!』
「はい?何でしょう?」
『そこのマンション引き払ったから、引越しの準備しとけ。期限は一週間だ』
「は?」
 弧月は我が耳を疑った。きっと聞き間違いさと思い聞き返す。
「兄さん?冗談ですよね?」
 不思議と笑顔が出るのだが、引き攣る。
『冗談じゃない。代わりの家は用意してある、後でFAXするからそれ見ておけ。引越し屋も手配しておいたから今日中には見積もりに来る筈だ』
 血の気が下がるとはこの事か、弧月の顔は蒼白だった。
「ちょっちょっと兄さん!?何でそんな事に成ってるんですか!?嫌ですよ俺は!!」
『ほうぅ……お前、俺の車壊しといて逆らえる権利が有るとでも?』
「!っぅ……」
 思い当たる事が有る為、弧月は言い返す事が出来ない。恐らく、この一件で更に兄に頭があがら無いであろう事を、弧月はまたしても実感した。
「……分りました……」
『ああ、じゃあ頼んだぞ』
 通話の終えた受話器の向こうから、ツーツーっと音がする。弧月は呆然と立ち尽くしていた……


「此処ですか……」
 一週間後、与えられたFAXの場所に来た弧月の目の前には、どう見ても古ぼけた洋館が存在していた。規模的にはそれ程大きくは無いが、それでもちゃんと洋館と判別出来る様な作りには成っていた。
「良くこんな所を見付けて来ましたね〜兄さんも……」
 半ば呆れながら、格子を開け玄関へと進む。古ぼけた玄関を開くと、軋んだ音が辺りに響いて不気味さを強調するかの様だ。静かに室内に足を踏み入れる弧月。目の前に広がるのは、ちょっとしたホール的な空間であり洋館と言う事を改めて髣髴とさせる。
「荷物はもう少ししないと来ないし、少し部屋を見て回りますか……」
 呟くと弧月は館内を探索し始める。大小様々な部屋があり、その総計8部屋。どう考えても一人で使う数では無い。兄も来るのかと思って居たが、どうやら来なさそうな話しになっていた。
「無理も無いでしょうね……誰がこんな所に来るって言うんですか……」
 青ざめた顔で弧月は呟いた。この館を見た時、弧月は嫌な予感を感じていた。故に、部屋を見て回る際にサイコメトリーを使い過去も一緒に見て回っていたのだ。
「兄さん……幾らなんでも酷すぎやしませんか……」
 泣きたくなる様な想いが、溜息と共に呟かれる。
 かつてこの洋館に住んだ者達は、尽くなんらかの事件や事故によって他界して居るのがまざまざと弧月のサイコメトリーで見て取れたのだ。正直言って、此処で住む事に抵抗を感じなくは無いが、既に売り払われたマンションに戻る訳も行かず、弧月は更に溜息を深く吐いた。
「もうすぐ荷物も来るし、下に行って置こう……」
 呟き去る弧月を、何処からか見詰める視線があるのを、その時の弧月は知らなかった。

 荷物の搬入はあっさりと終わった。広すぎる家に、一人分の荷物……すぐ終わらない訳が無い。取り合えず、テレビのチューナがある部屋に荷物を運び込みソファーに横になる。
「ふぅ……何か先が思いやられるな〜……」
 昼間見たヴィジョンが頭の中を駆け巡る。刺殺・銃殺・交通事故・病気etcetc……様々な感情と記憶がこの館には息衝いている……その事実が、弧月を身震いさせた。
「少し寝よう」
 ソファーの肘掛を枕代わりに、弧月は目を閉じた。
 どれ位の時間が流れただろう?辺りは暗がりに包まれ、静寂が館を覆い始めていた。日が落ちると同時に、気温が下がり室内もそれなりに冷え始めたのだろう、弧月は肌寒さに目を覚ました。
「ん……もうそんな時間ですか……」
 呟き寝ぼけ眼で、室内灯のスイッチを探す。が、次の瞬間弧月は身を緊張させ立ち止まった。
「何?何かが居る?」
 部屋の中を、微かに移動する気配がする。人のそれでは無い事を、弧月は経験上理解していた。
「恨みますよ兄さん。幾らなんでも、これは性質が悪い」
 寝る時に外しておいた、神聖銀手甲を着けながら弧月は呟く。その表情は、緊張の色を濃くし辺りの警戒を更に強くする。静まり返った部屋の中で、気配が止まる……
『シャァァァァァァァウォォォォォ!!!!!!!』
 不意にそいつは後ろから現れた。
「甘い!!」
 拳撃一閃、弧月は瞬間的に後ろを向くと襲い来た気配を打ち据える。神聖銀手甲のお陰で、触れぬ物にも触れられる様になったお陰だろう、打ち据えた気配の体は透けていた。次の瞬間、気配が膨れ上がる。
「なっ!?何ですか!?」
 弧月の目の前だけでは無い、部屋の至る所に気配が生まれ、当然ながら弧月は囲まれた。
「よもや、これ程までとは……」
 周囲へ目配せしながら気配の動きを警戒する。数が数だけに、一斉に襲われたらたまった物では無い。その時、声が聞こえてきた。
『止めなさい!全く、誰が襲えと言ったのよ!!』
 声の後、弧月の目の前に少女が現れた。年の頃なら、12歳程だろう勝気そうな子である。
『あんた、ここに住むんでしょ?』
 唐突に聞かれる。弧月は、静かに頷いた。
『じゃあ、言って置くけどここは私達の家でも有るわ。その事理解して頂戴』
「はい?私達?って……この辺の方々もですか?」
『そうに決まってるでしょ?あんた馬鹿?』
 少女の高圧的な態度に、些かムッとはするが下手に逆らわない方が良いと思い弧月は、押し黙る。
『基本的に私達はあんたやその周りの人達に害を為す事はしないわ。ただし、見えたからって驚いたりしないでよね。これでも、傷つきやすいんだから皆』
 死んでからも傷つくんだ……そんな突っ込みを弧月は内心に抑える。
『それと、私が入浴してる時は、絶対浴室に入って来ないでね!』
 死んでも風呂には入るんですね……その突っ込みもまた内心に止める弧月。
『質問は?』
「入浴時間は、何時から何時まででしょうか?」
 弧月は手を上げて、聞いていた。
『21時から22時の間よ。他には』
「有りません」
『結構、じゃあ宜しく』
 そう言うと、少女はスタスタと歩いて壁に消える。それと同時に、周囲の気配もそれぞれに動き出す。中には弧月に宜しくとまで伝えて行った者も居た。
「……はぁ〜……兄さん、今度招待するからね……」
 弧月は涙を流しながら、天を仰ぎ呟いた……


PCシチュエーションノベル(シングル) -
凪蒼真 クリエイターズルームへ
東京怪談
2003年10月27日

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