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『きらきら来るる 』
八雲・純華1660

 眩しい朝の光。カーテンの隙間から射し込んで、天井を光の波が遊んでいる。
 まるで、今日一日が素敵になるように祈ってくれているように感じられる。それは私の勝手な解釈なのかもしれない。でも、夢見ている気持ちはどんなものでも素晴らしく感じてしまうものだ。
 だって今日は、久しぶりのデートなんだから――。

「あーどれ着ていこう……?」
 昨夜、散々服選びに時間をかけ、着ていくものを決めたというのに元の木阿弥。眠って起きると、やっぱりあれが良かったかなぁ……とか思ってしまう。
 結局、いつもと代わり映えしないものになった。淡いブルーのキャミに短めのジーンズ。どうにも自分のイメージを打破する勇気がない。
「この服、好きって言ってたもんね」
 呟いて思い出すのは、もちろん彼のこと。照れ屋だから服装を誉めてくれることは少ない。その彼が「その服いいね」――なんて言うものだから、ついついデートの時には着てしまうのだ。
 光で更に明るさを増す茶髪をかき上げ、お気に入りのピンでサイドを留める。色はキャミと同系色。
 木製の姿見で仕上がった自分を映してみた。自室なので観客はいない。全身が映る鏡の前で、クルクル回ってポーズを取る。
 しばし映し身と見詰め合ってから、私はちょっと落ち込んだ。

 背が低いなぁ……。
 あと、5cm。ううん、3cmでもあればロングスカートなんかも着れるのに――。

 既製品のスカート丈は合わせてみると、床の掃除をしてしまう。それが分かっているから試着したことはない。すごく大人っぽく見えるかもしれないので、挑戦してみたい――とは思うんだけど。
 メリハリがないのも気になるところ。細いのが好き…という人もいるだろうけど、もう少し歳相応な雰囲気があればいいのに。
 鏡と睨み合えば合うほどに自己嫌悪。
 いつもより赤い色を唇にひいてみる。
 びっくりするほど似合ってなくて、慌てて拭った。ティッシュをごみ箱に放りながら、私は湧きあがった不安に取りつかれてしまう。
「こんな……こんな、イイトコなしの私でいいのかなぁ…」
 ため息が漏れる。どうして、彼は私と一緒にいてくれるんだろう。不思議に思う気持ちと、本当は無理しているじゃないか――という漠然とした気持ちが胸に広がっていく。
 広がってしまった不安は、スープに入れた卵みたいにあっという間に心の中に固まってしまう。
 思わず目を閉じる。両手で瞼をしっかり押さえて、暗闇を見つめた。その中にはぼんやりと光を放つ彼の姿。
 これはいつだったろうか?

『純華サンじゃないと…駄目、なんだ』

 幻想の彼の唇が、ゆっくりと言葉を紡ぎ出した。
 そうだ、これは初めて想いを伝えてくれた時の言葉。照れ屋の彼がまっすぐに私を見つめて、真摯な表情で言ってくれた言葉の欠片。
 ――胸が熱くなった。
 あの時、どんな気持ちで私を選んでくれたのだろう。きっと、そのままの私を好きになってくれたのに違いない――そう信じることが、私に出来る彼がくれた想いへの返事。
 
 だから……私は、私のままでいよう。飾らない、素直な私のままで。
 大切なのは私自身の気持ちなんだ。
 今日は、特別な記念日でもなんでもない普通の日曜日。
 でも、精一杯伝えたい。私の心を全部――。

 まるで、気持ちが落ち着くのを待っていたかのようにチャイムが鳴った。
 呼吸を止めて、ドアを開ける。
 そこには私を心の底から安心させ、胸を熱くさせる彼の姿。目に染み込んでくる眼鏡を少し直す仕草。
「私…私は、ずっと変わらないから……。キミを好きな私のままでいるから!」
 胸の中が彼でいっぱいになる。零れ落ちた言葉が終わらないうちに、私は彼に抱きついていた。
 ストライプのシャツからは、洗いたての匂いがした。

 耳に届く、照れくさそうなため息。
 彼の声が降ってくるのを私は待ち侘びている。彼の胸の中で――。



□END□

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 いつもありがとうございますvv ライターの杜野天音です。
 シングルでしたが、純華ちゃんの中にはいつも彼が住んでいるのですね(>v<)""
 かわいくて臆病な子犬のような純華ちゃんが表現できていれば、いいのですが。
 これからも素敵な恋をして欲しいと思います。ありがとうございましたvv
PCシチュエーションノベル(シングル) -
杜野天音 クリエイターズルームへ
東京怪談
2003年10月24日

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