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『天狗+子鬼+メガネ君=???』
伍宮・春華1892)&葉山・壱華(1619)&淡兎・エディヒソイ(1207)


「や〜ん!これかっわいい〜!!」
 銀髪に紅い瞳の可愛らしい少女が、本日何度目かのセリフをハイトーンで叫んだ。
「ん〜?おぅ、壱華に似合っとる、似合っとる」
 かなり軽い口調でそう少女に返したのはこれまた見目麗しい、銀髪、青い瞳の眼鏡をかけた長身の少年である。
 ただ、何故か口調はコテコテなのが行き交う女性陣の視線をうっとりしたそれから、奇異の視線に変えていくのだが。
「あー。なんかエディーちゃん、なげやりー」
 ぷぅ、と頬を膨らませた壱華と呼ばれた少女は、腕に抱いたそれをそのままに我関せずと遠くを眺めていた人物の腕を掴んだ。
「春華ちゃん!……というワケでこれ着てみよ?」
「……は?」
 にっこりと凶悪に可愛らしい笑顔を浮かべる壱華に首をかしげたのは、黒髪に緋色の瞳を持った、和風な顔立ちをした少年──伍宮春華である。
「すいませーん、試着室かしてくださーい!」
 とまどったように緋色の瞳をぱちぱちと瞬かせる春華にお構いなしに、壱華はうんざりした様子の店員に声をかけるとそのままズンズンと試着室に押し込む。
「達者でなぁ〜」
「なーに言ってんの!エディーちゃんはこっち!」
 ひらひらと傍観者然と手を降るエディーにくるっと振り返った壱華は、軽く笑い飛ばして春華に手渡したものとはまた違ったそれをエディーに押し付ける。
「……ウチもこれ着んの?」
 思わず眼鏡をずり落ちさせて問うたエディーに、こっくりと頷いて壱華は無言で試着室の一室を指差した。
 ……。
 ………。
 ……………。
 数分後、試着室をでてきた二人を前に、店内は微妙な沈黙に包まれた。
 フリフリのレースとリボンがふんだんに使われた、乙女チック路線まっしぐらのピンクの洋服を纏うのは、春華。
 そして、黒と白の怪しいコントラストが倒錯的な色気をかもし出す、ゴシックロリータ風のドレスを身につけているのはエディー。
 しかもエディーの方は、オプションでついていたカチューシャやウィッグまでちゃっかり着用している辺り、何気に気に入っているのかもしれない。
 二人とも、どこか性別を超えた愛らしさと色気をかもし出しており、その場にいた店員や他の買い物客が微かに顔を赤らめながら注目していた。
「かわいい、かわいい、かわいい〜〜〜!!」
 良く言えばマイペース。悪く言えばゴーイング──『強引ぐ』の方が当てはまるかもしれない──マイウェイな壱華がきゃっきゃと歓声を上げながら、周囲の視線に全く気がつかない様子で途方にくれた春華と、ちょっぴりご満悦っぽいエディーを褒め称えた。
「ふふん。当たり前や、クライアントのどんな要望にも完璧にこたえるのが芸人ってもんや」
 愉快そうに笑い腰に両手を当て、豪快に大また開きでふんぞり返るエディー。
(お前、それ減点。ちゅうかそれ以前にお前、芸人じゃないだろ)
 外見の麗しさとは全く不釣合いな仕草をする友人、エディーを横目に見ながら、春華は本日の人選を誤ったかも、とちょっとだけ後悔した。

 事の起こりは、秋物の洋服が欲しいと思った春華が何となく、若者向きの店が建ち並ぶ商店街に買い物に行かないかと、友人である壱華とエディーを誘った事にある。
 類は友を呼ぶと言うべきか。
 平安の昔に、愉快犯的な悪戯を散々繰り返しここ最近まで封印されていたという根っからのお祭り騒ぎが大好きな春華と、天真爛漫を絵に描いたように喰う、寝る、遊ぶの三拍子揃った鬼っ子壱華、それから日本人離れした麗しい外見とは180度違って、口を開けば某お笑い芸人のような鋭いツッコミとぶっとんだボケが飛び出すエディー……この三人が揃って事件が起こらないはずがなく──。
 案の定、壱華は行く先々でゲリラ的に店に飛び込んでいっては欲望のままに試着をしまくり、散々褒め称えて置いて「やーめたっと」の一言とともに店を出て行くという、実に店員泣かせな所業を繰り返すし、エディーはエディーで止めるどころか、ファッションに疎い春華がこれはどうだろうと意見を聞いた服を買うといえば、最強の大阪弁で値切り交渉をはじめるわで……各店員達にとって今日という日は忘れられない一日となったであろう。
「……おっしゃっ!ウチはこれ買うで!」
「やったぁ!エディーちゃん、おっとこまえ〜!!」
 やんややんやと喝采を送る壱華の声にはっとして視線を向ければ、先ほどのゴスロリ服をお買い上げ決定らしいエディーを前に引きつった店員が目に入った。
「春華ちゃんは?」
 買うの、それ?となにやら期待に満ちた視線を向けられるが、慌てて春華は首を振ってごくシンプルなシャツを選んでレジに向かう事にする。
 ……そう。春華としては他人が愉快な事をやっているのを見て笑うのは大歓迎だが、自分が笑われるのは謹んで辞退したいというところなのである。

「おーぉ、注目されとる、注目されとる……」
 買い物を済ませ、商店街から少し行った所の歩行者天国を連れ立って歩きながら、ぽそっと整った面持ちに満足そうな笑みを浮かべてエディーは呟いた。
 その服装はやはり先ほどの店でお買い上げ決定したゴシックロリータな格好である。
 しかも調子に乗って、化粧品コーナーの試供品で化粧まで施した彼は、もうそこいらの女性では太刀打ちできないほど、謎めいた北欧の美女と化していた。
 北欧の血特有の白い肌に、青い瞳、そして長身優美なその体型…道行く男性がちらちらと物色の視線を送っているのが、春華には可笑しくて仕方が無い。
「この調子やと、ファッションチェックにあたったりしてな」
 思いっきりコメンテーターにかみついたる、とかなり悪な事を彼が呟いた時、ふと通りの向こうからマイクを持った男性レポーターがやってくる。
「……?」
 早速きたのだろうか、とこれから起こるだろう騒ぎに少々、いやかなりワクワクと春華が心躍らせたところで、30代半ばと思われるレポーターは、エディーに向かって顔を赤らめつつこう告げた。

「あのー、私、TTSテレビのものですが……料理を作っていただけないでしょうか?」
 見れば、彼がやってきた方角に某番組の1企画でやっているおなじみのセットがどーんと人垣の中で佇んでいた。
(おもしれぇ事になりそー)
 春華はにやりと笑って、料理の単語に目を輝かすエディーが何かを言うより早く、彼の腕を取り、セットに向かって引きずっていく。
 無論、エディーの料理の腕前を知っている壱華もウキウキした様子でついてくる。
 余りに積極的な三人に驚いた顔でついてくるのは、レポーターであり……この数分後、彼はこの日エディーに声をかけたことを一生後悔することになる。


 ……ボコッ。
 …………ウニョウニョッ。
 およそ、料理という行為とはかけ離れた効果音が、エディーの持つ鍋から響いてくる。
 テーマは『おでんを作ってください』だったはずなのに、もうおでんというより、怪奇物体となっている。
 しかも、それを作っているのはゴシックロリータの衣装を身に着けた楚々とした美女なのである。
 悪夢としか言い様の無い光景に、野次馬もそしてレポーターも真っ青になって、止める事も出来ずにエディーの『料理』を見ている。
「…あ、後で編集かけて、モザイクを……」
 カメラマンにぼそぼそと涙目でレポーターが相談している声が聞え、春華は笑い出したいのを堪えるのに必死だった。
「ほい、できたで〜、エディー特製、スペシャルおでん『天国と地獄』や」
 でん。
 特設のテーブルに載せられたそれを、ほら、食べろと言わんばかりに出され、味見をする事になっているレポーターは引きつった。
 どこをどうやればそんなものに突然変異するのかといいたいくらい、赤、緑、青、黒、黄色と原色をふんだんにもりこんで斑に濡れ光っているそれ。
 大きな鍋に入ったそれは、時折ボコリ、ボコリと活火山の溶岩のように泡を吹き出し、強烈な臭気を放つ液体の中から、うねうねと蠢きながら顔を出していた。
「あ…あの。ご、ご友人の方に、お願いできないでしょうか?」
(げッ……)
 ちら。と青を通り越して白く顔色を無くしたレポーターが春華に視線を送る。自分の料理の破壊力をしらないエディーも呑気に、
「そういや、春華、いつもせっかく作ってやってんのにウチの料理喰ったことないな」
 丁度いいといった様子のそれに、春華の背中を冷たい汗がだらだらと流れ始めた。
「い……いや、今日俺、腹の調子が……」
(死ぬ。絶対死ぬ。間違いなく死ぬ。確実に死ぬっ)
 レポーターとエディーからテーブルの上の『怪奇物体』に目をやり、ぶんぶんと首を振る。
 あんなモノを食べたら、いくら人間と違う天狗の春華だって確実にあの世行きだ。どうせ死ぬなら死ぬほど不味いものより、上手いものを喰って死にたい。
 混乱の余り妙な思考に走った時だ、不意にその怪奇物体に手を伸ばすものが居た。
「みんな食べないの〜?じゃ、あたしこれもーらいっ♪」
 キャハッ!と無邪気な笑い声を上げて鍋に両手を掛けて早速食そうとするのは、誰在ろう壱華。
「……!!!」
「おう、たーんと召し上がれ」
 固まる春華とレポーター、そしてカメラマン、野次馬を無視して、嬉しそうなエディーに許可を貰い……壱華は鍋ごとそれに口をつけ──喰った。
「……ぷはぁ〜!おいしかったぁ〜!エディーちゃん料理の天才っ!」
 怪奇物体どころか、汁まで綺麗に完食した壱華は鍋を置き、手の甲で唇を拭ってからぺろりと舌なめずりをしてエディーの料理を褒め称える。
(喰った……喰いやがったよ…アレを)
 呆然とする春華と周囲の人間をよそに、褒められたエディーは嬉しさの余り暴走した。
「そうやろ、そうやろ!!よーっしゃ!壱華のためにもっともっと上手いもん作ったる!」
 材料もまだあるしな、とご機嫌で示すのは企画のために用意した食材。しかしエディーの暴挙を止める事はその場の人間にできるはずもなく。


───…その日、歩行者天国は阿鼻叫喚の地獄絵と化した。


 因みに、謎めいたゴシックロリータ衣装の銀髪美女が生み出した、怪奇物体を食すチャイナドレスを着た美少女の図、というある意味美味しい映像は……何故か映っているはずの春華の姿が消え、代わりに彼が纏っていた洋服だけが浮いているという怪奇映像の為に永遠にお蔵入りされたという。


─FIN─
PCシチュエーションノベル(グループ3) -
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東京怪談
2003年10月14日

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