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『料理番組の作り方 』
天慶・律1380)&陵・彬(1712)

「あきらクンと!」
「りっちゃんの!」
「奥様夕食バンザイ!」
「違うっ!」
 すぱーんといい音を立ててハリセンが振り下ろされる。中々いい突っ込みだが説得力はない。
 ハリセン片手に夕食バンザイと叫んだ青年をにらみ据えているのはこれまた青年、いや見様によっては少年だろう。
 まあこんな年頃の男二人が夕食バンザイだの言っている時点で既に立派に道を間違えているが、問題はそういうところではなく。
 ハリセン少年はピンクとアイボリーのパッチワークのエプロン。バンザイ青年は真っ白のフリルエプロン。しかもどちらも頭に三角巾。
 これで夕食バンザイが違うと言われてもそりゃ説得力はあるまい。
 ハリセン少年の名を天慶・律(てんぎょう・りつ)つまりりっちゃん。バンザイ青年の名を陵・彬(みささぎ・あきら)つまりあきらクン。
 普段は料理などしそうにもない二人の男は、哀れにも現在、エプロン姿で台所に立つハメに陥っていた。



 事の起こりは数日前に遡る。
 何の因果か前世の業か、天慶料理学園のPVなどと言うものの出演オファーがあったのだ。
 縁故の義理と生活のために断れない律と、特に何も考えずに引き受けてしまった彬。
 何でもいいがオファー側ももう少し人選出来なかったのかオイといった感じだがまあアレだろう。
 要するに顔だ。(いいのかそれで)



『もーちょっと真面目にやってくださいよー』
 というカメラマンの声に、彬がぺこんと頭を下げる。そして顔を上げた彬はジロリと律を睨み据えた。
「あんた言われてるぞ?」
「いや今ボケかましたのおまえだと思うけど」
「あんたがいらん突っ込みいれるからだろ」
「問題違うだろだからなんで夕食バンザ@なんだよ?」
「参考資料にお料理がんばるぞと夕食バ@ザイってあっただろ」
 だから真面目にやれよ君ら。
 カメラマンの冷たい目線も何処吹く風。手入れの行き届いたぴかぴかのキッチンは既に新喜劇の舞台と化している。
 まあ二人とも実際の所大真面目だったりもするのだが。
「はいはいはいそのくらいで。まあさっきの挨拶使いますから、本日のメニューの説明とっとと行ってください」
 すっかり諦めたカメラマンが投げやりに促してくる。
 はたと顔を見合わせた二人は、互いを小突きあいながら予め用意してあったボードを示す。
 フリルのエプロンも愛らしく、彬がカメラに微笑む。
「はい本日のメニューは!」
 パッチワークのエプロン麗しの律が返す。
「餅入りぜんざいです!」
「…………」
 じとっとした目が律に向けられる。
「な、なんだよ?」
「夕食じゃないだろそれ?」
「あんたがいったんだろーが夕食バンザイはー!!!!!」
「いーかげんにしろあんたらはー!!!!」
 カメラマンの怒鳴り声がキッチンに響き渡った。

 まあ一時が万事この調子である。
 行き成り律が小豆を洗剤でとぎ出したり、彬が緊張のあまり餅と石鹸を間違えて網に乗せたり、律がまたその石鹸をつまみぐいして泡を吹き、洗剤小豆をまんま彬が火にかけ……
 要するに、要するにである。
 こんな料理教室通っても料理の腕なんぞ身につかない。
 どころか確実に退化する。
 万人にそう納得させるだけの素晴らしいシーンしか撮影できない。
 出来上がったものといえば何故か真っ白に泡を吹いた、甘さを際立てる為の塩の分量も大幅に間違った、餅も石鹸もぱっと見て区別のつかない、
 ぜんざいと言うよりもまんま洗剤。これで青く色をつけたら間違いなくトイレ用といった有様のシロモノだった。
 多少は料理の心得のある彬が無言で律にその椀を差し出す。
 ぜんざいである。
 小豆煮て砂糖と塩を加え、焼いた餅を入れて少し煮立てればいいだけのお手軽料理である。
 それが何故こんなシロモノに仕上がるのだろう。
「食え」
「……イヤです」
「勿体無いだろ! ちゃんと材料は食料なんだぞ。お百姓さんに悪いと思わないのか!」
「思うけどこんなもん食えるかー!!!!」
 ご尤も。
 って言うかこんなもん作るな。
 カメラマンももう完全に投げている。その空気を敏感に感じ取った彬は慌てて洗剤椀を律に押し付け、流しの下に用意してあったお料理番組の定番を取り出す。つまり完成品だ。
「はい、こんなお手軽にこんな美味しそうな餅入りぜんざいのできあがりでーす」
 嘘をつけ。
 律の手にした洗剤椀と、真っ当なぜんざい椀を見比べ、カメラマンは深く、深く嘆息した。



『ダメだこいつら使えねえ』
 きっぱりカメラマンに宣言され、キッチンから追い出された律はそのまま廊下にしゃがみこんで床にのの字を書いていた。無論パッチワークエプロンは装備したままである。
 大騒ぎでドタバタと丸一日費やして、ギャラはゼロ。寧ろキッチンを荒らした分弁償までさせられそうな雰囲気である。
 哀れな勤労学生としては落ち込むしかない。
 その黄昏た背中を眺め彬は溜息を吐いた。
 自分はまだいいが、律としてはまともに辛かろうこれは。
 つかつかとその背に近付いた彬は、キッチンの後片付けを手伝うついでに作ったものをその鼻先についと差し出した。
 甘い香りに律が漸く顔を上げる。
「……え?」
 微妙に涙目な律に微妙な笑いを誘われながら、彬はその頭にあいている片手をぽんと乗せてやる。
「ホラ、餅入りぜんざい」
 反射的にそれを受け取った律は、ほかほかと湯気を立てているその椀と彬を見比べた。
 一拍の間の後、律はすっくと立ち上がって怒鳴った。
「作れるなら最初から作れー!!!!!」
「人のせいにすんなー!!!!」
 一事が万事。
 結局終いまで漫才のままその日は終わった。



 因みにその『使えない』PVは、やはり立派に料理教室のPRには使えなかったが。
 出演者の『顔』を理由に、そして物珍しいほどのドタバタっぷりを理由に、裏で結構なプレミアがついたという話だが、律もそして彬も、勿論そんな事実を知るよしもなかった。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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東京怪談
2003年10月10日

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