▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『              血脈の綾  』
雨宮・薫0112)&雨宮・隼人(0331)
        〜例えば、ひとつの刻の終わりに〜
[KAORU]
 流れ行く、雲の下。
 校舎の裏手。あまり人のこない
 大空に浮かぶ雲は何物にも囚われる事無く、悠然と進んでいく。
 雲になりたい?
 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥いや。
 しがらみも責任も煩わしい人間関係も、その星の下に生まれた者の宿命か。
 逃げ出すのは性に合わない。
 生きて行くさ、在るべき自分のままで。
 見上げた空に苦笑を漏らす、雨宮薫。
「くすくすくすくす‥‥‥いい気なもんねぇ」
 背後に湧き上がる、気配と声。
「何物か?」
 振りかえる事無くそう答えると、殺気が背中に向けて飛んで来る。
 だがそれも、上半身の動きだけでかわして見せた。
「今日は私が貴方と遊ぶ番なんで。掛け金の命はしっかりといただいて帰るつ
もりよ」
「誰の差し金かは知らないが、性懲りも無く」
 溜息混じりに振りかえると、そこにいたのは妙齢の美女。
 一見すると、中国系か。
「いいだろう、その賭け受けて立とう!」

[HAYATO]
 さて。
 その、兄である雨宮隼人は薫を迎えに行くために高校に向かっていた。
 本人は固辞していたのではあるが、このごろあまりに物騒でそうも言っては
いられないと言う事で隼人が押し切ったのだ。
 その時、目の前の影が大きく歪む。
 そして、その影の中から現れた中国風の衣服をまとった妙齢の女性。悠然と
微笑むと、隼人の行く手立ちはだかる。
「この先へと行かれるつもりですか?」
 その問いににっこりと頷いて答える隼人。溜息交じりに苦笑して答える女性。
「命を惜しまれないのであればどうぞ」
「‥‥‥やれやれ。お嬢さん、火傷じゃすみませんよ?」
 無言のまま、前に右手を差し伸べる女性。
「死ね」
 言葉が終わった瞬間、女性の影の指が急激な勢いを持って伸びる!
 すれそれのところでそれを避けると、隼人の後背にあったブロック塀に20
cm程の穴が開いた。
「影舞!? 何故‥‥‥」
「問答無用! 喰らえ、影糸纏絶っっ」
 長い黒髪を両の手で掻きあげ、そして上方へ向けて振り払う、と、その髪の
影の一本一本の影が隼人に向けて伸びてきた!
 何せ本数が多い、しかも今度は動いた方向にそれが追って来る‥‥‥どうあ
っても避けさせぬつもりらしい。
 ならば。
「天威蒐光 大極掴空 畏畏戴天宮!」
 胸ポケットから符を刀印で出すと、その指先に球状の光が現れて、空中へと
駆け上っていく。そして!
「光で闇をけし飛ばす‥‥‥なんて術者っ!?」
 そう。
 尋常な光量であれば、影をけし飛ばすなどというのは不可能で、却って濃い
影を作ってしまう物だ。だが、その光の球は辺り一面を真っ白な世界に染めて
尽くしていた。
「さて‥‥‥どうしますか? お嬢さん」

[KAORU] 
 左肩を赤く染めて、大地に膝をつく女性。
 その顔は苦痛に歪んでいる。
 一方の薫は、悠然とそこにあった。
「続ける、か?」
「舐めるな、雨宮薫っ! この程度の傷、蚊に刺された程にも感じるかっ!」
 破れかけた服を自らの手で破り捨てると、だらだらと血が垂れる傷口が露に
なる。ハッキリ言って、圧倒的な実力差に状況である。
「何故だ!? そのままでは死ぬぞ??」
「煩い煩いっ!! 貴様のような名家の跡取になんか死ねば良いんだっ‥‥‥」
 仮面のように張りついた現れた時の表情とは違い、感情を剥き出しに近寄って
女。いや、化粧の乱れたその表情は、まだ幼いと言って良いものに見える。
「死になさいよ、ちくしょうおっ!」
 空気を武器に帰る術者。
 後、5年も修練を積めば、それなりの手練になったろうが‥‥‥全てが未熟。
 だが向かってくるなら、容赦して手を抜くほど、甘ったれた坊ちゃんでは薫は
ない。
「風牙ッ! 咆えろおっ!!」
 技の名前を叫んだ瞬間、辺りの空気の雰囲気が変わり、獣の口が薫に襲いかかっ
て来る!!
「祓給え風の振る道、静給え震える御魂‥‥‥」
 右の手でふうわりと空気を払ったと同時にその牙は虚空に消えて失せる。
「消えた‥‥‥ですって‥‥‥クソぉっ、唸れ風穴っ!!」
 五本の指をぴんと伸ばして振り払うと、竜巻が意思を持ったかのようにまっすぐ
口を開けて薫に襲いかかろうとする!」
 身じろぐ事無く、それを見据える薫。左手を斜め後方に据え、右手をそれに添え
る。
「ならば、終わりを見せよう。その身に刻み込むが良い、この天宮の名を継ぐ者の
力を!!」
 手の内に現れしは御神刀『魅鞘』。
 銀閃煌いて、竜巻を一刀の下に切り裂き、女も‥‥‥。

[HAYATO]
「やはり貴方は危険な存在ですね、雨宮隼人。何故そのような実力を持ちながら、
弟の下に付くのですか?」
「貴女には関係の無い事です」
 言葉を漏らした後、光の球を手元に手繰り寄せる。そうする事で、辺りに濃い闇
が生まれた。
「何の真似ですかっ!?」
 怒気を孕んだ声でその女は隼人を睨み付ける。
「ふふ。女だろうが容赦はしない、そう言う事です。影舞だけでは無く、他の術式
も操れる、だから逃げずにいると言う事でしょう? 私を足止めしていると言う事
は薫様の方にも刺客が出ているでしょう 悪いんですが、次で決めさせていただき
ます故に」
「愚かしい事を! 中天にあれば影舞は封じられると言うに。 その様な戯れ、後
悔する事になるでしょうっ!!」
 振り上げた両の腕。同時に平面だった影が高く林立し、光を受けても消える事無
く立って隼人を見下ろしている。
「死に捕まる前に教えてあげましょう。この技は絶対に回避は不可能! 貴方のい
る空間ごと冥土に送る死神の塔です。さあ、恐れおののきながら泣いて許しを請い
なさいっ!!」
 苦笑して、首を振る隼人。
「えーん、おゆるしくださいませー、とか言ったら赦して貰えるんですか?」
 憎たらしげにそう言い放つ隼人に、目尻をぴくぴくと痙攣させながら女は猛り狂
う。
「良いでしょう‥‥‥望み通り冥土に墜ちろおっ!! 落影崩界陣、発動っ!!!」
 巨大な影の塔は天を突く高さに伸び、そして、ゆっくりと‥‥‥急激にスピード
を上げて‥‥‥黒い一本柱と化す。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥臨界突破っ!!」
 地響きを起こしながらその巨大な柱は重力に押しつぶされるかのように一点に向
けて収束していく。
「いかに‥‥‥いかに雨宮の家の者とて‥‥‥この技を受けて‥‥‥耐えられる訳
が無い。ふはははははっ、勝った、私が勝ったわ!!」
 湧き上がる土煙に、溢れた影にあたりは薄暗くなっている。
 家や道路塔の破壊は見られない。
 空間そのものに作用する物のようで、先程隼人の立っていた場所には‥‥‥もう
人影は無かった。
「あはは。あーっはっはっはっはっは!!!」

[KAORU] 
 刀身についた血液を払うと、刃を鞘に収める。
 何時の間にかその刀は虚空に消えて、地面に伏す女の下に薫は立っていた。
「道を違えるな。5年もすれば良い術者になれるさ」
「う‥‥‥煩い、黙れ‥‥‥っつぅっ」
 どんな背景で襲ってきたのか。暗殺を生業にする者ならこんな拙い者を単独で送
り込んで来たりはしないだろう。
「下手に動かなければ死に至る事は無い。これに懲りたら二度とこのような愚かし
いことはしない事だ」
 もう、動く事も出来まい。
 留めを刺す必要性を見出す事も出来ず、女に背を向ける薫。
「‥‥‥侮るな‥‥‥必ず、殺さないと‥‥‥‥‥‥」
 立ちあがって印を組もうとした瞬間、もくもくと白い煙が舞いあがった!
「こ、こ‥‥‥れは!?」
「動くな。無駄に若い命を散らす事は無い」
「あ、あまみ‥‥‥やああああっっっ!!」
 最後の力を振り絞って声を発した挙句、全て出し切ったのか、そのままの姿勢で
顔面から地面に崩れ落ちる。
 まるで、糸を失った操人形のように。
「今は、一時の安らぎを。厳しい現実に還る前に」
 実は祓いを行なった時に、同時に左手で地面に眠りの雲を沸かせる符を仕込んで
いたのだ。あまりの力量の差があったために出来た芸当と言えよう。
「さて‥‥‥随分と時間を食ったな。早く行かないと色々面倒だ」
 あまり遅れると、やっぱりチクリと一言言われるに決まっている。
 世知辛い世の中だ。欲望は果てる事無く、か。我が雨宮にもそれはあるのだろう。
下らないな‥‥‥本当に。
 起爆符を木の幹から懐に戻すと、ゆったりとした歩調でそこを去る薫。
 雲が晴れたその場所には、傷一つ無い女がすうすうと寝息を立てていた。
 まるで、そこで戦闘があったと言う事が嘘だった、とでも言わんばかりに。

[HAYATO]
ふふふ‥‥これでようやく‥‥‥‥‥あは、あははははははははっ!!
「さて、甘ちゃんで間抜けな兄は始末したから‥‥‥次は弟、ね」
「悪かったですね、甘ちゃんで間抜けで」
 その声に一瞬体に電気が走ったかのようにびくっと震わせた後全身を硬直させる。
「まさか! まさかまさかまさかまさかっ!!」
 がたがたと全身を震わせて頭を抱え出す女。
 そして。
 意を決したのか。
 振り向いた。
「あ‥‥‥ああ‥‥‥‥‥‥」
「間抜け、ね」
 意地悪そうな微笑を浮かべつつ、掌中にあの光る球を浮かべてる隼人。
「自分の術が絶対だなど、努々思わぬ事だ。自分がその術を使う以上、必ずやそれを
破る能力を持つ者はいる。例えそれが"神殺し"の詞であってもな」
「く、くそおっ!!」
 あろうことか、女は腰に偽装してつるしてあった短刀を抜き払い、隼人へでは無く
自らの喉に向けてそれを振るう!
「‥‥‥」
 無言のまま、隼人は光の球を持つ右手で掌打を放つ。
 無拍子で打たれたそれは、刃が喉に届く前に光の球を女の額に叩き込んでいた。
 衝撃と同時に意識を失ったのか、手から離れた短刀は重力に囚われて落ちていき、
力無く女は放物線を描いて倒れこんでいく。
「最早影術は使えはしないでしょうね。何でこんな事をしたかは判りませんが、これ
からは普通の女性として生きる事です‥‥‥まあ、貴方の適性によっては別の力に目
覚めるかもしれませんが、こんな仕事の出来る力ではありませんからね。まあ、今は
ゆっくりしてくださいな。意識は途絶えていないでしょうが、たっぷり1時間はぴく
りとも動けないでしょう」
 意識が途絶えていないと言う事は、今の台詞は全て聞こえていると言う事だ。
 術者には死刑宣告のような発言を平然と行なった後、隼人は時計を見る。
「だいぶ、下校時刻を回りましたね。よもや薫様に限って何かあるとは思えませんが」
 足早にその場所から去っていく隼人。
 兄弟とも命を奪わぬと言った結果にはなったが、相手の扱いに対しては随分と対照
的な結果となった。
 そうでなければ‥‥‥いけないのかもしれないが。

[Ep]
 別たれたはずの竜巻が何時の間にか薫の頬を切りつけていた。
 一応、と言ってはあの刺客に失礼だが、戦いは戦いだ。
 この程度の傷はまったく意識の外にあったのだが、妙な感覚を覚えて頬に手をやっ
た所、べったりと血が中指と人差し指についていた。
「参ったな、俺もまだまだ未熟って事か‥‥‥」
 ハンカチを取り出そうとしたその時!
「かっ、薫様。その御顔の傷はっっ!!」
「あ‥‥‥拙いな」
 丁度その時、隼人が現れたのだ。
 この程度なら保健室に行くまでも無いかな、とか思ったのだが‥‥‥。
 鞄の中から脱脂綿と消毒液、大きなバンソウコウを取り出しててきぱきと薫の傷の
手当てをする。
「心配性だな‥‥‥舐めておけば治るさ」
「跡取の顔に傷でもついたら、なんとお詫び申し上げていいか判りません。大人しく
処置させてください」
 明らかにそこまでせんで良いだろうと言うぐらいでかいバンソウコウを張られて薫
はやや渋い顔で溜息をついた。
 反対に隼人はニコニコとして、救急箱に消毒液をしまって鞄に戻して薫に向き直る。
「さて‥‥‥薫さま。この傷は?」
「何でも無いさ。木の枝にでも引っ掛けたんだろう」
 そんな事を言いながら視線をかわすと、何時もきちんとしている隼人の肩が土埃か
なにかで汚れているのが見えた。
「何かあったのか?」
「いえ。何も。薫様の方こそ何かありましたか?」
 笑顔のままで逆に薫に水を向ける隼人。
「いや?別に何も。普段通りだ」
 苦笑で返す薫。それに隼人は小声で笑いを合わせた。
 天宮の名を継ぐ者として、さまざまな思惑や陰謀が薫を中心に交錯していく。
 だが、揺るぐ事は無いだろう。
 絶対に信頼の置ける者が後背を守ってくれているのだから。
 そして、その者もそれが生きる意味と信じる以上、決して裏切る事は無いだろう。
 一つの時代の終わり。
 新たな時代が始まろうとしているその時。
 立つべき大地と進むべき道、そして失わざる信念を二人は確かに持っている。
 天宮の時は‥‥‥やがて満ちようとしていた。
                             
                                       [FIN]
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
戌野足往(あゆきいぬ) クリエイターズルームへ
東京怪談
2003年10月08日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.