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『ふたつめの、音 』
久々成・深赤1370)&榊・遠夜(0642)

+教室+

 暖かい、秋特有の陽が教室に差し込む。
 ぽかぽかと、光は眩しく降り注いでいるのに久々成・深赤の表情は何故か曇ったままだった。
 理由はただ一つ。
 先日のちょっとした事件。
 従兄弟の家に遊びに行って、そこで知り合った人とどういう経緯だったか酒を酌み交わし……終いには――終い、には。
 ――ふたりで一緒になって眠ってしまっていた。

(未成年の飲酒は法律で禁じられているのよ)

 それは解っている、もう無駄にCMやらなにやらにでかでかと表示されているのだから文字は読めるし理解は可能。
 だが!

「やっちゃったもんは仕方がないじゃないのよーー!!」

 がたんっ。
 大きく、机をたたき立ち上がる、深赤。
 そこに。

「――ほう? 久々成、何が仕方がないんだ? ん?」
「え? あ、あれぇ……?」
 えへ。
 なるべく逃げれるように可愛く笑った――つもりだった。
 が、授業中、しかも佳境に入っていたところで可愛く笑ったからといって上手く逃げれる訳もないわけで。
 右から左へ聞き流したい教師のお説教が始まった。
「それとも俺の授業に不平でもあんのか、ずっとぼーーーっとしやがって。そういうボケた子には…そうだな、この問題でも解いてもらうか…それから――榊!」
 ひぃぃと声をあげながら、それでも問題を解くべく黒板へ向かう深赤を確認したように一人の少年に声がかかる。
 榊、と呼ばれた少年は能面さながらの顔をあげ教師の顔をじっと見た。
「はい?」
「お前、今日当番だったな、昼休み久々成と一緒に明日の準備を手伝え」
「――何で、僕が?」
 解らない、というような表情に教師は微笑う。
「そりゃお前が今日の当番で久々成が一人だとサボることが解り切っているからだ」
 きっぱり、教師は言い切ると振り返り深赤の頭を軽く叩いた。
「おら、ボケてっからこんな問題も解けんのだろうが。もう、いいから席につけ…次にボケたら廊下行きだからな」
「はぁい」

 とは言え。
 どうしたらボケずに済むと言うのだろう?
 気になるのは、あの腕の中。
 私と喋っていた声、笑い顔……思い返すだけで意識が何処かへ行きそうだと言うのに。

(きっと先生にだってこの問いは解けないわよね)

 深赤は、息をつくと出来るだけ授業に集中するようにつとめた。
 だが、やはり頭をよぎるのは彼のことばかり、だった。


+昼休み+

「……ご、ごめんね、遠夜君……」
 ぱちんぱちん。
 ホチキスの乾いた音が教室に響く。
 深赤は見えない汗を心の中で大量に流しながら目前の少年に詫びた。
 が、答えはあまりに素っ気無く、
「別に。確かに今日の当番は僕だし」と返ってくるばかり。
 能面のような何を考えてるかクラスでも解らない人物――それがクラスでの榊遠夜の評だった。
 だが深赤だけはその能面の中に苦笑を見出す事が出来、「あんなにわかりやすい人、他にいないでしょ?」と言ったらクラスの女子連からかなりのブーイングを受けたもので。
(そうかなあ?)
 結構相談しやすいと思うんだけど……まあ、遠夜君…表情ないし…表情あったら色々人が来て話す隙も無いかもだし。
 ちらりと表情を覗く。
 微妙に顔が強張っている、こういう顔は呆れた時に良くやる表情だ。
「…呆れてる、でしょ?」
「だから、別に? 久々成さんが授業中ぼーっとしてたり急にむぅとしてたりしてても僕の行動に支障があるわけでもないから」
 ぴきぴきっ。
 自分の顔が引きつってきたのを深赤は感じた。
 遠夜は相変わらずプリントの枚数を確認しながら、その一部一部を深赤に渡してゆくばかり。
 行動がどこか機械的な遠夜を深赤はじっと見据える。
「……あのね、遠夜君」
「――何」
「そういう時は嘘でも”心配だよ”って言いなさいよ! 仮にも私たち友達でしょっ?」
「…それは失礼。んじゃ、心配だよ? ――で?」
「…でって、何よ」
「だから、僕に言いたいことか話したいことがあるんだろ? いいよ、話してくれても」
「わ………」
「わ?」
「解ってるなら、さっさと聞きなさいよ! この能面のうすらとんかち!」

 教室中に深赤の大きい声が響く。
 準備室にいた先生が「久々成、やかましい!!」と言ったのと同じくらいの大音響で。
「そいつはあんまりだなあ……」遠夜の、感情のこもってない声がそれに、かかる。
「遠夜君なんて能面で充分よっ」あんまり、という言葉に深赤も負けじと切り返す。
 さて、難問は無事に解けるのか。
深赤の悩みへの相談の始まり、である。


+解けない答え+

 気になる。
 気になるから、惑う。

 ――でも。

 どういう意味で「気に」なってるのが解らないから更に惑って。
 どうしたら、良いんだろうね?


 ぽつり、ぽつりと深赤は話す。
 サボると放課後まで準備は持ち越しだと先生がいうから手を動かすことも忘れずに。
 ぱちんっ。
 ホチキスの芯が、折れた。

 替えの芯を探し入れ替える。
 再び、ホチキスは良い音を立て始める。

「ね……どう、思う?」
「…んー、僕は酒に酔って人と一緒に眠っちゃったことが無いから何とも言えないし、その立場に添った返答なんて出来ないぞ?」
「いいの、いいの、それは。遠夜君がどう思ったかで」
 だから、意見言って?と深赤は遠夜を目で促す。
 やれやれ、と遠夜が肩を竦めた。
「どう思ったかは久々成さんって面白いなあ、で終わるけどさ……それって感触的にはどうだったわけ?」
「はい? 聞いてるのに聞き返すってどういうこと?」
「だから、気持ち悪く思ったのかそれとも気持ち悪くは無かったのかと、僕は聞いてるんだよ。どうだった?」
 言葉に詰まる。
 どうだった、と聞かれても何と答えていいものだろう?
 気持ちよかった?
 ――いや、これは違う。
 何となく、落ち着いたような気がする。
 気にはなるけれど腕の中にいるのは安心できたような気がする――けど、何で?
「解んない……」
「解らない事は無いと思うけど? 答えは自分の中に何時の日もあるよ、久々成さん」
「で、でもそれじゃ認めたことにならない?」
「何を?」
「…ええっと……私、もしかして変なこと言ってる??」
「かなり」
 珍しく、遠夜の顔から苦笑が漏れた。
 ――明日はもしかしたら空から画鋲が降ってくるかもしれない、等と言う事を深赤は頭の隅でぼんやり思う。
 認めたことにならないかって、私は一体何を認めたくないの?
 気になるっていうこと?
 自分に都合が良い答えを探してるの?
 だからキリがなく悩むわけ?
 …だとしたら、本当に何を認めたくない?

(――正直に認めようよ、多分きっと)

『好き』なんだって。だから気になるの、動けないし逢えてもいないから。

「う、嘘っ!? 今のナシ!」
「は、はいっ?」
「……あ、ご、ごめんね、今ちょっと内部の自分と戦ってたの」
「…戦う必要も、無いと思うけどね」

 ぽそっと呟く遠夜の言葉には何か説得力があった。ひょっとしたら彼にも気になる人がいるのかもしれない。
 認めているからこそ、呟けるのかもしれない一言もあるだろうから。

「ね、遠夜君」
「何」
「……実は好きな人とか……居たりしない?」
「――トップシークレットにつき返答は不可」
「ふうん、居るんだ♪ 今度誰か教えてねっ」
「それについての返答も控えさせてもらうとして…久々成さんは、本当に一体どうしたいんだ。今のナシとか言うけど、ずっとこのまま悩み続けるなんて無理だぞ?」
「解ってる、けど。答えも話してたら出てきちゃったし……」
「後は行動か」
「うん……どう動くんだろうね――その時の私は」
「さて? まあでも、いい結果が出るように願ってるよ。仮にも友人だし?」
「ふふ、ありがと♪」

 次に、彼と逢えたら。
 その時まではどうしてか自分の行動を、考えることすら今は保留にしておきたかった。
 良くは解らないから、次に逢えるまでは秘めておく。
もし逢えたときに心が動くのなら本当に好きだと言うことだろうから。

 とん、とん、と。
 小気味良いリズムが響く。
 それは第二の音階。気になる人へ手渡すための自分の中の妙なる音。






―End―
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
秋月 奏 クリエイターズルームへ
東京怪談
2003年09月30日

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