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『 仕入れる物 』
黒葉・闇壱1764

「ようこそおいで下さいました」
 深々と頭を下げる家人に、いつもの和装とは違う中華風のスーツにサングラスと言う出で立ちをした黒葉 闇壱(くろば やみいち)は軽く会釈で返す。
「こちらこそ、何時も故人の方には良くして頂いてたでやんす。この度の訃報は本当に残念でやんす」
 憂い顔を残しつつ顔を上げる闇壱に、家人は再び深々と頭を垂れる。面を上げた家人は、どうぞと言うと闇壱を家の中に案内した。
 この家の当主である老人が他界したのは、つい2週間前の事。その話を聞いた時、闇壱も少なからず喪に暮れた物だ。奇物収集家であった老人は、闇壱が営む『宵幻堂』の常連であり闇壱にとっても馴染み深い人物であった。その老人の死後、家人からの連絡を受けたのがつい三日前、老人が収集していた物を引き取って欲しいとの事であった。
「こちらが、主人の部屋になります」
「失礼するでやんす。……ほぉ……」
 案内された部屋を見て、闇壱は感嘆の声を漏らす。室内の至る所に所狭しと置かれた収集品の数々が、整然と部屋を埋め尽くしている。
「これはまた……集めたでやんすね」
 室内を見回し、目を細める闇壱。様々な物が並ぶ中に、『宵幻堂』で購入した物もチラホラと見て取れる。見慣れない物は、どこか別の所から購入した物だろう。
「それでは、お願い致します。後程、蔵の方にも御案内致しますので」
「承ったでやんす」
 にっこりと家人に笑みを見せ、闇壱は室内に向いた。


「はぁ……これは素人さんには危険でやんすね〜」
 一つの品物を手に取り、闇壱は溜息をつく。これを売った人間の気を疑った。
「亡くなったのはこれが原因みたいでやんすね……何とも、因果な話でやんす」
 闇壱の手に握られる一本の掛け軸。醜悪と呼べる物の姿を描いた物であるが、それだけの物ではなく、実際に持ち主に怪異を齎す様、念を込められた物であった。
「これほどの曰く付きの物を素人さんに売り払うとは、余程の間抜けかそれとも、金に困っていたかでやんすね……どちらしにしても、注意力が無さ過ぎでやんす」
 そう呟くと、闇壱は徐に中空に円を描く。不思議な事にその円は白い輝跡を残し中空に存在していた。闇壱は、その円に手を重ね右へとずらす。円の中の空間が右へずれたかと思うと、その中に闇壱が良く知る光景が見て取れる。
「これはお代うんぬんより、あちきが封印した方が良いでやんしょ」
 手に持った掛け軸を素早く纏めると、円に投げ入れずらした空間を元に戻す。円の輝跡は数瞬の後に消え、後には老人の部屋があるばかり。
「さて、残りを見てみるでやんすかね」
 再び作業を再開する闇壱。曰く付きの物が殆どでは有るが、価値高い物も多く存在しており闇壱はただ感嘆していた。
「流石でやんすよね。あちきのとこでもそうでやんしたけど、良い眼をしてらっしゃるでやんす」
 殆どの品を見終えて、故人の目利きの良さを、闇壱は賞賛した。
「失礼します。黒葉さん、こちらは御済になられましたか?」
 扉が開き、家人が顔を出す。
「ええ、見終わったでやんすよ。え〜と、次は蔵でやんしたっけ?」
「はい、お願いします」
「それでは行きましょ」
 にっこり微笑むと、闇壱は家人の方に歩を進めた。


 埃臭さと湿っぽい匂いが鼻腔を擽り、蔵独特の雰囲気を醸し出す中闇壱はある一点を見詰めていた。
「お久しぶりです」
 闇壱が見詰める先に、一人の老人の姿が佇んでいる。
『宵幻堂の黒葉さんか。あんたが引き取り手か?』
 声ではなく、直接響いてくるその言葉に、闇壱は静かに微笑み頷く。
「あちきの所に、奥方様から連絡がござんしてね。あちきが、今見させて頂いている所でやんすよ」
『そうか、あんたならちゃんとしてくれるんだろうがな……』
 言葉を濁し視線を外す老人。
「心配でやんすか?集めた物がどちら様の手に渡るかが?」
 長年の商売において、闇壱でさえ逃れる事の出来ない占有願望と言う物がある。収集をしていた者であるなら、尚の事その想いは強いのだろう。
『未練じゃとは、思うのじゃがな……』
「お気持ちは良く分かるでやんす。あちきも、こう言う商売柄でやんすからね」
 自嘲的に微笑んだ闇壱に老人も微かに微笑む。その時、闇壱にふと考えが浮かぶ。
「もし良かったらあちきの店に来ませやせんか?」
『宵幻堂にかの?』
「ええ、そうでやんす。ご自分の収集した物がどなたに引き取られていくのか、あちきの店で見守ってるでやんすよ」
 闇壱は微笑みながら、老人を見詰めている。老人は暫らく考え込んで居たようだが、闇壱を見詰て告げる。
『迷惑にわ、成らんかの?』
「成らないでやんすよ?」
 微笑む視線の先に、老人の顔は笑顔であった。


「ただいまでやんす」
 機嫌よく闇壱が『宵幻堂』に帰ってきた。今日の仕入れは、なかなかに良い物が多く闇壱はご機嫌である。
『お邪魔するぞ?』
「はいはい〜どうぞでやんす」
 後ろからおずおずと顔を出したのは、あの老人である。いつも来た店では有るが、何となくおっかなびっくりだ。
『おや?闇壱さんや、新しいお仲間かな?』
『おおー!良く来ておった方じゃないかぇ?』
『こりゃ驚いた!!あんたも逝きなさったか?』
 顔を出した老人を見つけ、闇壱の背後から声が聞こえた。そう、闇壱の背後には複数の人物が顔を覗かせているのである。無論、透明。
『なっ!?なんじゃこれは!?』
「なんじゃって、貴方と同じ気持ちのお仲間さんでやんす」
 微笑み答える闇壱とは対照的に、ぱくぱくと口をさせる老人。そんな二人にお構いなしに、闇壱の後ろから人物が老人の周りにたむろする。そんな様子を眺めながら、闇壱は微笑み言う。
「さぁさ、新しい住人も増えて新しい仲間も増えたでやんす。これからも頑張るでやんすよ」
 気まぐれな店、『宵幻堂』今日も元気に営業中である。






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凪蒼真 クリエイターズルームへ
東京怪談
2003年09月19日

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