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『 興味のベクトル 』
黒葉・闇壱1764

 洒落たスーツに煌びやかなドレスの波が、楽しげな笑みを浮かべながら始まろうとしている競売を今や遅しと待っている中、スーツに伊達眼鏡と言う馬子にも衣装と言うべき出で立ちの黒葉 闇壱が居た。
「もう直ぐでやんすね〜どんな物が出て来るか楽しみでやんす」
 期待に胸膨らませる闇壱の表情が、何処となく子供っぽく見える。二月も前から楽しみに待っていたのだからはしゃぐのも無理は無いのかも知れない。
 この競売はその道に精通する者達にとって、特別な競売だった。即ち、国内外からの奇物コレクションのオークション……この場に居る者達は、その道に精通したプロ達ばかり。有名所の顔もあり、ちょっとした有名人品評市になってしまう事も有る程だ。そんな中に、闇壱も居るのだから流石と言えば流石である。
「これも良い感じでやんすね〜」
 出品リストを見ながら呟く闇壱の職業は、商人。真っ当かどうかは謎では有るが、『宵幻堂』と言うアンティークを中心とした商品を取り扱っている。ただ、扱う商品の多くがちょっと曰く付って言うだけの、何処にでもある店だ。


「結構良い物が手に入ったでやんす」
 ご機嫌絶頂……手に入れた物を抱えながらの闇壱、ホテルへの帰り道である。手に入れたのは、エメラルドのネックレスとアンティークドールの二品、どちらも芸術的観点からもそれなりの値打ち物であるし、曰く付としても申し分ない代物だった。久しぶりに会心の入荷に、闇壱の顔はホクホクだ。
「ん〜今回は良かったでやんすね〜……ん?……」
 行き先の路地に人が立つ。黒服にサングラスと言う、余りにもベタな格好に闇壱は少し溜息を吐いてその横を抜けよう歩を早めた。だが、そいつは闇壱の進路を妨害する様に場所をずらす。
「何か用でやんすか?」
 折角の楽しい気分を害され、闇壱はぶっきらぼうに言い放つ。
「貴方のお持ちの品を、素直に渡して頂きたい」
 黒ずくめの男の言葉と同時に、周囲からも同じような格好の男が二人程現れ、闇壱を囲んだ。
「お断りするでやんす。これはあちきが正当に手に入れた品々でやんす。指一本触れさせないでやんすよ」
 言うが早いか、闇壱は中空に四角い輝線を描くと徐に品々をその中に突っ込んだ。手を引き抜いた次の瞬間には、闇壱の手の中には品々が無く手ぶら。
「なっ!?なに!?」
「折角の気分を台無しにして貰った御礼をしなきゃでやんすね」
 焦る男達とは裏腹に、闇壱は冷徹な笑みを浮かべると再び中空に四角い輝線を描き出す。「さぁ、案内して頂くでやんすよ」
 正面にいる男の背後から闇壱の手が現れ、男は中空の闇に呑まれる。そして、闇壱の姿も消えていた……


 豪奢な部屋だ。シャンデリアがキラキラと部屋を照らし出し、絵画や調度品を自然な感じに浮き立たせる。
「はぁ〜こりゃまた見事な部屋でやんすね」
 周囲を見回しながら闇壱は感嘆の声を漏らす。その隣には、気絶した黒服姿の男が倒れていた。空間を渡った直後、気絶させたのだ。
「これだけの部屋に泊まれるとなると、直接的な方法を取らずとも良かったでやんしょに。まあ、報いは受けて貰うでやんすよ」
 唇の端を笑みの形に吊り上げ、闇壱は呟くと同時にドアへと近づく。三つある部屋のドアの内、寝室と思われる方へ。そっと耳をドアに当てると、室内から声が聞こえる。
「消えた!?どういう事だそれは!!早く見つけて物を持って来い!!」
 中年男性が叱咤する声、どうやら当たりの様である。闇壱の口元が、再び笑みに歪んだ。
「全く使えない連中だ。たかが素人一人も捕まえられんとは!」
 手に持つブランデーグラスの中身を一気に煽り、闇壱襲撃を指示した男は毒づいた。部下の失態に呆れている所にドアをノックする音が被る。
「誰だ!?一体何の用だ!」
「ボス、少々お耳に入れたい事が……」
 男が聞いた事の無い声だったが、この部屋にいる以上は自分の側近である事に疑いは無かった。ツカツカとドアに近づいてノブを回す。
「一体なん……だぁぁぁぁぁ!??」
 ドアノブを回した瞬間、男の上に黒ずくめの男が覆い被さって来た。
「うっくっ!?何なんだ!!」
「何ざんしょね〜?まあ、言うなれば天罰って奴でやんしょか?」
 スタスタと室内に入り、ベットの端に腰を下ろしながら闇壱は言う。
「きっ貴様!?どうやって此処に!?」
 黒ずくめの下から這い出し、慌てて立ち上がり男は闇壱に向かうが、虚勢が見え見えである。闇壱を遠巻きに、腰が引けているのを見てクスリと闇壱は微笑んだ。
「企業秘密にしたいでやんすけどね、貴方には特別でやんすよ?」
 闇壱の手が、四角い輝線を描き……男の肩に闇壱の手が乗る。
「なっ!?何だ!?」
「いってらっしゃいやし」
 笑顔と共に手を引くと男は背後の空間に消えた。四角い輝線に顔を突っ込んだ闇壱の視界に昼間見た火口があり、男が落ちまいと必死にもがく。
「何なんだこれは!?助けて、わしが悪かったから助けてくれーーーーー!!!」
「頑張ってでやんす。あ〜それと、これに懲りたらあちきに手を出さない事でやんすね。それでは、ごめんなすって」
 顔を引っ込めると同時に、輝線が消え去る。闇壱はそのままその部屋を後にした。


 自室の机の上にエメラルドのネックレスとアンティークドールを並べ、闇壱は見入っていた。点けっ放しのテレビからは、火口付近で保護された男の事を報道しているが目はおろか耳にすら入っていない。
「はぁ〜良いでやんすね〜」
 うっとりと眺めるその視線はまるで子供そのものである。そっとネックレスを手に取り見詰めれば、禍禍しい霊波が良い感じに立ち上っている。アンティークドールもまた然りで、ネックレスより多少強めの霊波を放っている。この曰くを解明するのも闇壱の楽しみの一つだ。
「ああ、そう言えば……」
 そっとネックレスを机に置き、闇壱は再び二つを比べて見詰める。
「あの人達は、一体このどちらが欲しかったんでやんしょかね?」
 疑問を口にして見詰める闇壱。だが、直ぐ笑みを浮かべる。
「まあ、関係ないでやんすね。あちきの物でやんすし」
 ニコニコと目を細め、闇壱は再び二つを見詰め続けた……






PCシチュエーションノベル(シングル) -
凪蒼真 クリエイターズルームへ
東京怪談
2003年09月18日

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