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『秋深し、隣りは何を…… 』
御堂・譲0588)&芹沢・火嵩(1111)

◆とある場所にて―いつもの放課後風景?―

「…秋だよなあ、御堂」
 ぼそり。
 ざわざわと人の声と音楽が充満する場所で隣に居る人物が呟いた。
 返答するのも面倒だなあ、と思いつつも御堂 譲は律儀に「そーですね」と返した。
 秋なのはとっくに季節を過ぎ――とは言え、今も猛暑並に暑いのだが充分に承知している。
 その思いが声に少々出てしまっただろうか、その声は何処か疲れ気味で譲本人を良く知っている人が聞いてたら「どーしたっ!?」と肩に手をかけ問い掛けてしまうだろう程、疲労に満ち満ちている。
 が、目の前の人物――芹沢火嵩は、その声の様子を気にした風もなく「だよな!」と大きく返した。
 ヤバイ!
 譲がそう心の中で大きく叫ぶ――無論、火嵩には心の叫びは届かない。
 虚しい叫びが譲の中へ満ちて行く。

「そうだよな、秋だよな! 秋といえば芸術の秋、読書の秋、スポーツの秋、食欲の秋――そして!」
 大きく息を吸い込む火嵩を譲は優雅な手の動きのみで制す。
 じろじろとこちらを見る人々の視線がかなり痛い。
 前のように喫茶店でないのは良い。
 だが、やはり店内である事に変わりはなく――今まで何処で話していたかと言えば火嵩に付き合ってくれ、と言われたCDショップだったりする――いいのか、果たしてこんな事で!
 いいや、良くないだろう……譲はゼロになりそうな気力をどうにか振り絞る。
 想像できうる次の言葉を唇に乗せながら。
「――彼女ゲットの秋だ…何ていうのは止めてくださいよ、芹沢さん……」
 そして譲は、にっこりと――火嵩曰く「天使が地獄で協奏曲を弾いている」様だと言わしめるほど綺麗に微笑む。
 釘をさされ、二の句が継げない火嵩に「やはりか」と行儀が悪いと知りながら座り込みたくなってしまう譲。

 ――事の起こりは夏休みに遡る。
 火嵩に無理矢理、口説き落とされ――語弊があるような気がするが、一部これも間違っていないので良いだろう――、一緒にバイトへ行った海の家。
 が、バイトとは火嵩の親戚が言っていた口上で。
 火嵩本人は――「ナンパ」が真の目的だったのである。
「目指せ、お嬢ちゃんと一緒のバカンス!」とバイト中ずっと火嵩は叫んでいたが……結果は、推して知るべし。
 (結果的に)不作だった、(色々と)無理だった、(火嵩が)高望みをしすぎたっ。

(ま、また、この後、芹沢さんに無理矢理口説き落とされるんでしょうか、僕は……)

 痛む頭を抱えながら譲は「場所を変えましょうか」と呟くとすたすたと歩き出す。
 口説き落とされてしまうくらいなら先に話をじっくり聞いた方が良いだろうし気力の節約にもなる。

 ――御堂 譲、何気に男性には、と言うか友人には無茶苦茶厳しい人物である。

 一瞬の事に目を丸くさせながらも歩き出す譲へ小走りで火嵩は駆け寄り……。

 ――彼らの予定する休日がどういうものになるのか、それはまだ誰も知らない。


◆休日―いざ、おでかけへ―

 燦々と太陽が降り注ぐ休日。
 本当に秋なのか!? いや、秋じゃなくてこれは残暑だろう!と言い切れるほどの暑さの中、奇妙に冷めた視線で火嵩を見ている譲が居た。
 火嵩はといえば何故か道路で配っていただろうティッシュを数枚、口と鼻へあてて少し上を向いている。
 場所は某駅の噴水前。
 何気に譲の周り…と言うか、譲の半径数メートルに奇妙に女性が多い様な気がするがそれはさて置き。
 ちょっとばかり譲と火嵩の会話へ戻ることにしよう。

「……で、芹沢さん?」
「なんだよ」
「一つお聞きしてもよいでしょうか」
「………だから何を」
「確か僕は、今いる場所に10時、と聞いてたと思うんですが」

 ぐっ。
 言葉に詰まりながら火嵩は遠い目を譲へ向けた。

 今度こそナンパ成功させるぞ!と気合充分でほぼ眠らずに来たのがいけなかったのか、はたまたこの暑さが祟ったのか――火嵩は来る道中で、鼻血を出してしまっていた。
 それでも、どうにか道行くお兄さん、お姉さん、はたまたおじちゃんたちからポケットティッシュを貰い凌いでいたのだが…譲に逢えた瞬間、更にほっとしたのに拍車がかかったのか大量にだらだらと鼻血がまた流れ出し。
 お陰で約束の時間に遅刻はするわ、譲は怒っているわ、更に悪い事にどういうわけか譲がいる場所付近数メートルは美人のお姉ちゃん方が多いし!

(……世の中、なんて理不尽なんだっ)

 火嵩は心の中で叫ぶ。

 が、それはきっと譲自身も同じ思いをしているから相殺だと思うのだが…世の中きっと、そんなものだろう…うん。

「…そんな瞳をしても駄目ですからね、鼻血出すなんて学校の朝礼ですか、学校の」
「やー…お嬢ちゃんズをナンパできるかと思うとさあ……つい」
「…そんなにがっついてると女性が逃げますよ?」
 心に余裕がないのを女性は見逃さない。
 火嵩のようにがっついてれば、ほぼ半数の女性が腰を引く――いや、中には興味を持つ人もいるかもしれないがそれは半数以下の少数派だ、と譲は今までの経験から考える。
 どうにも火嵩と言う人物は「ナンパ」=「お嬢ちゃんゲッツ!」と単純に考えてるような気がしてならない。
 実際、そこからどうするつもりなのか本当に真面目な意味で聞いてみたいのだが、
(……答えが解りきっていて聞けない僕にも問題があるんだろうか……)
 まだ鼻を抑えている火嵩をちらりと見る。
 既に瞳は涙目状態でこういう演技を自分に向けてどうする、と言えないままに溜息。
 ――気分は既に保父さんのそれかもしれない。
「うぅ……御堂が苛める……」
「――本当の事を言ってるだけなのに苛めるって言いますか、いいんですよ、僕はこのまま帰っても」
「や、やだなあ御堂君っ、今のはホンの一寸した言葉のあやじゃないか!」
「おや、そうでしたか? いえね、暑いし陽に焼けてしまうのもあれですし……」
「御、御堂君…お願いだから見捨てないで!」
 めそり。
 泣き真似をする火嵩へ冷たさのこもった――実際、瞳にアイスブルーのコンタクトを入れてるので演出効果は抜群である――視線を向け。
 そして。
「――誤解される言い方は控えてください、芹沢さん」
 問答無用、冷気100%の微笑と声で火嵩は凍らされた。
 ぴしぱしと、音を立てるが如くに。

 ――果たしてそんなこんなで秋のナンパが上手く行くのか。
 火嵩の鼻血が止まり次第、いざ行動開始、である。



◆男の友情の不在―芹沢君大いに吼える―

「…なあ、御堂」
 横にいるはずの人物に話かけてみるが返答なし。
 おかしいなあと思いながら先ほどまでいたはずである隣に瞳を向け――火嵩は口をあんぐりと開けてしまった。
 そこには。
 ――そこには。

 見目麗しいお姉さま方と一緒の譲がいて。
(複数か、複数なのか御堂!?)
 ぬぅぅ……。
 奇妙なうなり声が火嵩から漏れる。
 少しばかり暑さも和らいできた時刻、どう動いてもことごとく火嵩は失敗を繰り返す。
 あと一息!と思うのも少しはあったのだが――何故か苦笑され皆様消えてしまうのだ。

 ――芹沢 火嵩、女性との喋りに少しばかり、いや大きく本音を漏らす男。

 そうして、譲の方はといえば。
 先ほどまで火嵩と一緒に行動していたのだが……何故か今は違う方で女性たちと話していた。
 無論、譲にしてみたら火嵩を置いて自分だけがナンパを楽しんでいるわけではないのだが。

「あの子? ……見た目は悪くないのだけれど……」

 艶のあるウェーブのかった黒髪を綺麗に流した女性は「悪くはないのだけれど」と呟いた後「けどねぇ」と言葉をおいた。
 譲の表情に少しだけ、陰がさす。

「何か、不都合でも? 意外と便利な人物ですよ、力があるから荷物もちでも難無くこなしますし女の子の料理の味に飢えているので試食も喜んでしますし…飴と鞭さえ使い分ければ……」
 ――もう少し他の売り文句は何かなかったろうか、考えながらも譲はこれ以外に思いつく火嵩像を持っていなかった。
 この譲の言葉を聞いて女性は鮮やかに微笑む。
「そうじゃないのよ、正直すぎるわ、あの子」
「ああ……」
 女性のその言葉に思わず心の中で大きく頷いてしまう。
 自分自身にも他人にも正直な事は火嵩の一番の美点で、かなり気力を奪われることもあるけれど友達付き合いと言う点から見たらさっぱりしてて付き合いやすい。
 が、男女のお付き合いとなると果たしてどうか。
 ……正直すぎるのも考え物なのである。
 ある程度、切れのあるカーブ、ストレート、フォークボール…さまざまな会話のキャッチボールを楽しむのがお付き合いの醍醐味であったりする訳で。
 腕を組みうーんと考え込むともう一人傍にいた女性が「あらあら…」と困ったように微笑む。
「――で、やはり僕だけな訳ですね?」
「そうね、どちらかと言えば」
 両方の女性とも微笑を崩さないまま、ただ譲のみを見つめる。
 ある程度、良い雰囲気の女性たちだと思い声をかけたのだが、何時の間にか捕獲は成功していたらしい。

(さて、どうする?)

 このまま火嵩を放って何処かへ遊びに行くと言うのも良い提案のように思えた。

「――僕は安くはありませんよ?」
「安売りしない男性の方が女性の購買意欲をそそるもの……本当は解っているでしょう」

 あまり喋らなかった、一人の女性が口を開き……譲は了解、と告げるように小さく両手を挙げた。
 そうだ、自分を安く売るつもりも低く見せるつもりも毛頭ない。
 譲自身も初めはある程度の好感持てる雰囲気の女性、から――このような切り返しをされた事で「興味」を持ち始めた。
 ――これが無くては外見が良くてもしている会話に何の意味も無い。

「ええ、では行きましょうか――その前に失礼して少しばかり所用を片付けてきますので」
「すぐね、待っているけれどあまり焦らし過ぎないように」
「十二分に理解していますよ、僕としても待たせることは本意ではありませんから」

そうして、譲はこっちをひたすらに凝視していた火嵩へと近づき……
「芹沢さん、僕、ちょっと用事が出来たのでお先に失礼しますね?」と、だけ言い放つと手をひらひらと振り、また何処かへ消えようとする。
 だが、そこで「おう了解っ」と言うようなら火嵩ではないのである。
がし!と譲の服をつかむと、すりすりとすりより、
「御、御堂君…僕も連れて行って……オネガイ」――多分空しいであろうお願いをしてみたり。
「すいません、無理です!」
 きっぱり。
あまりの一刀両断ぶりに「酷いよ、酷いよ、御堂君。君は友情より女の人を取るんだね?」なんて言いたくなってしまったが自分ならやはり女性を取るだろう――そう思うと何も言えなくなってしまい……過ぎ去る譲の後姿を見送り、火嵩は心の中で遠慮なく叫ぶことにした。

「か、神様のおおばかやろーーー!!」

 ――火嵩のその叫びも譲に決して届くことは無く。
秋の休日。
優雅にお姉さま方と夜のひとときを楽しんだ譲と、再び泣くに泣けない状態に陥った火嵩の一日はこうして幕を閉じ…秋の夜長を象徴するかのごとく天には月だけが煌々と輝いていた。


……もしかすると、二度あることは三度、あるのかもしれない。



―End―
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
秋月 奏 クリエイターズルームへ
東京怪談
2003年09月16日

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