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『道場破りならぬ遊園地破り…とか 』
伍宮・春華1892)&葉山・壱華(1619)

 ごおおおおおおおおおおお

 唸る風。
 地を這う小さな竜巻。
 …ぐるぐるぐるぐると、ひとつだけ異常な程の勢いで高速回転中のコーヒーカップ。
 きゃいきゃい騒ぎながらそのすぐ側に居る和装の小さな女の子。

 よくよく見ればなんとその子がコーヒーカップを回している。
 コーヒーカップの中には和装に黒い翼を生やした中学生くらいの男の子。
 ちなみにこちらはぎゃあああああと恥も外聞も無く絶叫している様子。

 …何はともあれ、目立つ。

■■■

 新聞屋さんから遊園地のタダ券を手に入れ、やってきました遊園地。
 たまたま、『似たもの同士』である友人の女の子――葉山壱華嬢の知っている場所だったようで、タダ券を手に入れ話を持ち込んだ当人――伍宮春華は、彼女に連れられなんとかここまで辿り着く。
 …恐らくひとりでは御当地まで辿り付く事すら――難しかった風である。
「えー、とこれは」
「渡せばいーの。半券もぎってくれるから」
「ほー」
 遊園地なんて、春華にしてみれば思いっきり未体験ゾーン。
 当然ながら興味津々である。
 無論、勝手は見事にわからない。
 九割方壱華嬢に頼っている。
 …彼女が居なかったらいったいどうなっていた事だろうか。
「ふりーぱす? …ってなんだ?」
 春華は受け取った半券を何となく日に翳し見る。
「ここにあるアトラクションのね、どれを何回乗っても良いって事だよ! 制限無し! …よぉっし、全制覇だっ!」
 ぐっ、と拳を握り、壱華は、おー、と気合を入れる。続いて春華も同様に、あとらくしょんってのが何だかよくわからねえが――とにかく行くぜっ、と気合一発。
 そしてふたりは入り口ゲートを潜った。
 で。

 まず挑戦してみたのがコーヒーカップ。
 ………………ここで話は冒頭部分に戻る訳である。
「ゆーっくり回ってるのも良いけど、もっと面白そうな事やらない!? ねえねえ!」
 と、そんな風にきらきらと目を輝かせて訴える壱華に任せたのが運の尽き。

 ――壱華嬢に任せた結果、小さなひとつのコーヒーカップは、小さくも猛烈なひとつの台風に変化した。

 乗り終えて。
「なんだか…気持ち…悪ぃ…」
 …春華は口を押さえて、げっそりと俯いている。
 が、壱華は全く気にしない。
 春華の手を引き素知らぬ顔でずるずるずると引き摺って行く。
「じゃー次はジェットコースターっ! レッツらゴー♪」
 壱華嬢は元気です。
 ずるずるずる。
 幾ら中学生にしては小柄な相手をだとは言え、それより幼い自分の身の丈よりは――明らかに大きい上に重いだろう相手を平然と引き摺ってます。

■■■

 そしてジェットコースターの乗り口。
 と。
「えー」
 ぶー、と不平を洩らす壱華嬢。
「残念ですが…」
 係りの人は心底申し訳無さそうにシャットアウト。
 何故なら。
 …壱華が身長制限に引っ掛かった。
 少々、足りなかったらしい。
「…んじゃ、壊しちゃおっかな〜」
 ちら、と係員さんを見上げる。
 少し様子を窺って。
 その後。
 壱華は身長を計るスケールの縁をおもむろに掴む。
 そして。

 めき ばりっ

 …折った。
 これ、普通なら、大の大人でも折れるような材質の代物じゃありません。
 壱華は絶句する係員さんを見上げたまま、にっこり。
「これじゃ身長わかんないよね〜」
 乗りたいなあ。
 しみじみと壱華は春華に振る。
 春華も素知らぬ顔――否、どんな反応するのかな、とでも考えているのか、少し面白そうに係員さんを見ている。
 彼のその背中にはつくりものにしてはやけにリアルな黒い翼。
 なんだか普通じゃない二人組を避けるように係員さんは退いた。
「…あ、安全には注意して下さい…」
 係員さんは茫然と告げつつ、乗り口を塞いでいたバーを跳ね上げる。
 壱華は春華を引き摺り揚々とジェットコースターに乗り込んだ。

 ――そして。

 …コースを一周し、ジェットコースター、帰着。
 と。
 よろよろと降りてきたのは春華。
「これだったら自分で飛んだ方が良い…」
 涙目になりつつ、春華はがくりと膝を突く。
 けれどやっぱり壱華嬢は見逃してはくれない様子。
 やっぱり春華を引き摺り、ずるずるずる。
「よぉっし、ノってきたぞー!! 次はお化け屋敷に行こー!」
 相変わらず元気に宣言して、ずるずるずる。

■■■

 つくりものの暗闇。
 おどろおどろしい音と、湿っぽい雰囲気が漂う建物の中。
 ――ここはお化け屋敷。
「ねえねえ、怖いー?」
「全然」
 即答。
 …それは仕方無かろう。
 何故ならこのふたり、正体は天狗に子鬼だ。
 怖がらせられたり、驚かされたりするより――どちらかと言うと逆の方が性に合っている。
「でもここ、幾らか懐かしい感じの見た目だよな」
 つくりものはつくりものだけど、家の形とかが…今よりも――俺の知ってる時代と似てる。
 思わず呟く春華。
 と。
 かっ、と血走った目を見開いた何やらデカい顔が突然目の前に現れた。
 と、壱華が速攻で目を輝かせる。
「…か、可愛い〜!!」
「…か?」
 春華はその意見には多少の疑問が。
 …と思っている間に今度は――少し横から一つ目の坊主がひょこりと顔を出す。
 ちょっと離れた井戸からは死装束のお姉さんが恨めしそうな顔で。
 青色の火の玉――狐火がふよふよと。卒塔婆がやたら立っている辺りを漂っている。
 鬱蒼と繁る森の雰囲気。
 虫の音も時々聞こえる。
「う〜ん。ここってば、なぁんか懐かしいからまた来よっかな〜」
 懐古に浸るようにちょっと御機嫌な春華。
 …とは言えそれはお化け屋敷としては若干用途が違います。

■■■

「んじゃそろそろ休憩しよー!」
 …との、鶴の一声ならぬ壱華の一声で、近場にあったベンチにふたりしてどっかりと座り込む。
 そして春華は、はー、と息を吐いた。
「なぁんか喉渇かねえ?」
「飲み物買ってこよっか? それと、ついでだからちょっと何か食べよー!」
 に、と笑った壱華は、再び春華の袖を引っ張り、軽食の店の方に駆け出した。
 やっぱり元気である。

 そして店の前。
「えーと、ポップコーンにフライドポテトにわたがしにミックスピザに…」
 …壱華は、何やらメニューに並んでいる物を片っ端から頼んでいる。
「パフェにクレープにあ、アイスもバニラにチョコミントにストロベリーに…」
 まだ続いている。
「…なぁ壱華」
「ん?」
「…それで『ちょっと』か」
「うん☆」
「…」
 当然の如く嬉々として力一杯頷かれ、春華は暫し悩む。
 …さすがに『ちょっと』と言う量には思えないのだが。
 これも俺の知らない新常識の類なのだろうか。
 思っている間に壱華がオーダーした品が次々手渡される。テーブルに持って移動するのも大変。お店の人も手伝ってくれる程。はじめから全部、持ってきてもらえるよう頼めば良かったか。
 …別に本腰入れて飲み食いするつもりじゃなかったので、春華としてはひとつふたつの品をお持ち帰りなつもりでいたのだ。
 が、壱華の頼んだこの量では、お持ち帰りどころかテーブルひとつ確りきっぱり占領する。
 すべて頼んだ品が運び終わった後、テーブルに着いた壱華は自分の頼んだコーラをひとくち飲んで停止していた。
 黒い液体に炭酸の弾ける得体の知れない刺激にもだが、それ以上に壱華の様子に停止。
 早い。
 気が付いたらテーブル上に並べた代物の、三分の一の量が消えていた。
 思わず春華は絶句。
 更に言えば自分の分として買ってきた筈のもの(いや、喉が渇いた、が本題だったので元々、食べる方はどちらでも良かったのだが)まで当然の如く壱華に食われている。
 気持ち良いくらいの食べっぷり。
 …いったい、この小さな身体の何処に入るのか。
 ちょっぴり疑問。
 子鬼と言う事で納得して良いのだろうか。

■■■

 夕焼けの太陽が目に染みる。
 もう少しすれば――日が落ちるだろうという時間帯。
「んじゃ締めは観覧車で!」
 壱華に手を引かれ春華は観覧車の乗り口まで移動する。
 係りの人に、注意して下さいねと言われつつ、短い間だけ手で止められたひとつの中に春華と壱華は導かれる。中ではここに座るのー、と壱華に教わり、言われるまま相向かいに座るとドアが閉められ、簡単な鍵が掛けられたと思ったら――再び動き出した。
 斜めに上って行く。
「うわー」
 少しずつ少しずつ、ゆっくりと。
 その景色を見た春華は感嘆の声を上げた。
「…全部変わっちまったと思ってたのに、まさかこんな夕焼けみれるとはなー」
「どしたの、春華?」
「いやな、昔もこぉんな真っ赤な夕焼け見た事あってさ。今の世じゃ、『本物』はもう無えと思ってたからよ」
「ふーん」
 壱華は考えるように春華を見る。
「良かったね! 懐かしいもの見れて。赤くてすっごく綺麗だし」
 うん。と嬉しそうに頷いて、壱華は両足をぶらぶらさせた。
 そしてふたりは暫し真っ赤な夕焼けに浸る。
「ま、今日は――色々あったけど…楽しかった、か」
「うんうん。機会があったらまた来よーね♪」
「…取り敢えずコーヒーカップとジェットコースターは勘弁な」
「えー、それじゃつまんないー」
「いや、だったら俺が飛ぶ。その方が百倍いや数千倍マシ。あ、そうだ、今度壱華連れて飛んでやるよ」
「わ、ホントホント? それも面白そー。やってやってー」
「…何なら今こっから扉開けて飛んでくか?」
「うわーい! やってやって!! んーと、えーと、じゃーさ、どうせなら一番上に行った時が良いよね!」
「んじゃそれで決まりか? 行くか!?」
「おー!」

 …そんなこんなで、騒がしい天狗と子鬼の、遊園地での一日は平和に過ぎて行くのでした。
 遊園地側としてはあんまり平和でも無かったようですが。
 ――現在進行形で。

 即ち。
「大変だあああ観覧車から人が落ちたあああ!!!!」
 …下界からはそんな叫びが。

【了】
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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2003年09月12日

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