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『死合“しあい” 』
鬼柳・要1358)&御柳・紅麗(1703)

 夏の名残か、外からは声量を落とした蝉の声が流れ込んできていた。
 ひやりとした空気を孕んで薄暗い、木造のそれほど大きくない道場。
 板張りの床の冷たい感触が、残暑から逃れるに恰好ではあったが、ここに来ていた二人は避暑に来たのではなかった。
 鬼柳・要と御柳・紅麗。二人はまあ、品行方正とは言えない格好ではあるものの、その辺りの高校生と格好は大差ない。ただ、手に抜き身の刀を持っている事を除けば。
「さて‥‥始めるか?」
 緋色の刀身の日本刀『焔鳳』を、手に馴染ませるように軽く振りながら鬼柳は御柳に素っ気なく問う。
 それに応え、日本刀の『氷鬼閻』を持つ手を何げに下げたままの御柳は返す。
「ああ、いつでも良い」
「なら‥‥」
 鬼柳は言いかけ‥‥直後、『焔鳳』を強く横凪に振った。その動作に隠れて呼び出された炎が、宙を走って御柳を襲う。
 御柳は、下げていた『氷鬼閻』を振り上げ、炎を断つ。その一太刀を受け、炎が散る。
 そして直後、炎を目眩ましに駆け寄ってきていた鬼柳が、四散する炎の中から姿を現して御柳に斬りかかった。
 鬼柳の『焔鳳』が、御柳の命を絶とうと狙いを付ける。それは、確実に御柳の心臓ごとその体を両断するはずだった。だが‥‥
 直後、刃の合わさる澄んだ音が響く。
 鬼柳は、僅かに笑む御柳と、振り抜かれた後に信じられない速度で戻ってきて刃を受けた『氷鬼閻』。そして、御柳の背後に倒れるもう一人の御柳を見る。
「今度はこっちの番だな」
 言って、御柳が動いた。人間を遙かに超えた速度と力で、鬼柳に一気呵成に打ち込んでいく。
 魂を身体から離脱させての死神化。それが御柳の持つ力。
 鬼柳は必死で御柳の攻撃を捌きながら、押されるがままに後退して御柳の隙を窺う。
 二人は“真面目に”戦っていた。これは試合や練習などではない。純粋な“戦い”である。
 二人は互いの命を消し去る為、己の能力の全てを注ぎ込んでいた。
 過去世で戦いを自分の生き甲斐とするサムライであった鬼柳と、死神の力を持つ紅麗。道は違っていてもより強い相手と戦うことで、お互いが成長出来る事を心から楽しんでいる。
 その為には、手加減などと言う言葉は無用。互いに真剣を握った時から、どちらかが命を落とす事も覚悟の上だ。
「どうした。逃げ回るだけか?」
 御柳が袈裟懸けに振り下ろした刀を鬼柳がかわす、しかし御柳の刃はすぐに下から跳ね上がり、崩れた姿勢から更に身を捩って逃れようとする鬼柳の衣服と胸の皮膚を軽く削いだ。
「ちぃ‥‥」
 鬼柳は舌打ちをし、崩れた姿勢を立て直すために後ろに大きく飛んだ。当然、御柳の追撃があるものと考えたが、御柳は鬼柳を追わず、ただ数歩横に動いた。
 その動きに鬼柳は微かに違和感を感じる。だが、その違和感はまだ確たる形にはならず、胸に負った傷が注意を引く。
 苦痛はさほど感じないが、滲み出た血が衣服を濡らすのが不快だった。それに‥‥御柳の一連の攻撃に手も足も出ない自分の実力もまた。
「動きの速さじゃ、勝てないか‥‥」
 死神と化した御柳が相手では、達人と言えども人間レベルを超えない鬼柳では勝てない。
 だが、それならばもっと早くに勝負がついても良いはず‥‥しかし、現実には鬼柳はまだ立っている。
 御柳の動きが悪い? ならば、何故か‥‥
 その理由を探し、瞬時にそれを見つけだす鬼柳。彼は、それを悟られぬよう、自らの内に力を貯め込み始めた。
 そう‥‥本体を切り離してしまっている御柳には、行動範囲の限界があるのだ。
 むろん、それは能力的な限界ではない。しかし、動けない本体を守りながら戦うとなると、どうしても動ける範囲は限られる。
 道場という限定空間での戦いである事と、一対一の戦いであると言う事。その二つが、御柳に決定的な弱点を生み出していた。
「なら、これでどうだ!?」
 鬼柳は、自らの能力を解き放つ。
 直後、道場の床を炎が這った。動かぬ御柳の体を目指して。
 その炎はそのまま御柳の本体を呑み込む。
「‥‥ぐっ!?」
 本体を包んだ炎の影響に、身を強張らせる御柳。
 鬼柳は、その隙を突いて本体にトドメを刺そうと炎の中に走ろうとする。だがその時、御柳は動いた。
 燃える自らの本体を顧みず、鬼柳に必殺の一撃を打ち込まんと氷鬼閻を中段突きに構えて走る。
 それは、御柳の本体に注意を向けた鬼柳の胸板を一気に貫く。完全に虚を突いた一撃‥‥
 しかし、その一撃が心臓を貫いた感触はない。
 見れば、鬼柳の焔鳳が御柳の氷鬼閻に当てられ、その太刀筋を僅かに変えていた。
 御柳が僅かに舌打ちをする。直後、死神と化した御柳は消え、代わりに炎の中から火だるまになった御柳が転げ出てきた。
 御柳はそのまま床の上を転げ回って炎を消す。
 それを見ながら、鬼柳は胸に氷鬼閻を突き立てたままで床に倒れ伏した。
「あそこまで黒焦げにしてやったのに、まだ動くのかよ」
 呟く鬼柳の前、何とか炎を転がり消した御柳が、焼け爛れて衣服とも皮膚ともつかぬ黒焦げのボロに包まれた様な姿のままで動きを止める。
「一刺し‥‥足りなかったな。あの‥‥状況で止めるとは‥‥」
 そのまま、二人は黙り込む。二人は、炎が満ち始めた道場の中で動けないままで居た。
「お前‥‥恋人出来たか?」
「‥‥何を‥‥‥‥ゴホッ」
 不意に口を開いた鬼柳。返す御柳の口から、言葉と共に血の塊が吐き出される。
 そんな御柳を見ながら、鬼柳は言葉を続けた。
「へへ‥‥もう‥‥‥‥戦いは、終わりだろ」
 戦いは終わり。元の高校生に戻る時‥‥もっとも、多少無理のある状況ではあったが。
「平和に‥‥‥‥そんな話も‥‥‥‥」
「‥‥ヒュ‥‥」
 苦しげに言葉を紡ぐ鬼柳に、言葉を返すことが出来ず呼気の音を返すのみの御柳。
 しかし、その炭化した顔に、僅かに苦笑めいた引きつりが浮かぶ。
 その表情を見、鬼柳も僅かに笑んだ。
「死んだか‥‥? ああ、俺も‥‥苦しいわ。肺‥‥から‥‥空気‥‥が‥‥漏れて‥‥」
 浅く、速い呼吸を繰り返して鬼柳は瞳を閉じた。御柳はもう、動いてすら居ない。
 炎は完全に燃え広がり、道場の全てを呑み込もうとしていた‥‥

 二人が、通報によって駆けつけた消防隊によって救助され、そのまま病院に放り込まれたのは、その後の事だった。
 そして、当然の事ながら「やり過ぎだ」と、友人知人から怒られ、泣かれまくる事になる‥‥
 それでも、互いに全力をぶつけ合った事に、鬼柳と御柳に後悔はなく。二人の間には、戦いの前よりも強い絆のようなものが生まれていた。
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東京怪談
2003年09月11日

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