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『■希望の光■ 』
アデルハイド・イレ―シュ0063)&オルキーデア・ソーナ(0038)
 彼女と旅に出た時より、アデルハイド・イレーシュの廻りは、ずいぶんと賑やかになっていた。
 イレーシュは彼女、オルキーデア・ソーナのキャリーから降りると、陽光を浴びながらおおきく伸びをした。キャリーの車内は快適だが、それも数時間続くと疲れて来る。
「川から水を補給するから、しばらくここで休憩にしようよ」
 オルキーはそう言うと、川縁に車を停めた。街道から少し離れ、深い木々の合間を縫って流れる清流の音が、イレーシュに心地よく届いてくる。
 イレーシュが旅に出た時、長く辛い戦いにより彼女の精神は傷つき、疲れていた。オルキーはそんなイレーシュの心をいたわり、癒してくれた。
 そうしてイベリア半島に来たイレーシュとオルキーは、そこでUMEと連邦の戦いに巻き込まれて孤児になった子供達を、きちんとした施設に運ぶためにキャリーに収容して回った。今の所は、全部で6人。
 オルキーのキャリーは手狭になったが、みんなで床に毛布を敷いて一緒に寝ていると、寂しくない。食事時もみんなで騒がしく用意し、騒がしく食べる。
 こうしていると、イレーシュはプラハに居た頃を思い出した。力ある者、エスパーが集まったプラハ研でイレーシュは、皆で遊び、泣き、笑い‥‥力の使い方を覚えていった。
 イレーシュにとっての大切な故郷の一つ。
 川に入って遊んでいる子供達の笑顔は、きらきら輝いている。まぶしそうにイレーシュは、その様子をじっと眺めた。
 あの子達に、少しでも多く笑顔が戻るようにするには、自分に何が出来るのか‥‥。イレーシュはずっと考え続けている。その笑顔の裏には、深い悲しみがある事を知っていたから。
 一人の子供が、川から上がってイレーシュの方に駆けてきた。続けて、もう一人。
「一緒に遊ぼうよ!」
「え? ‥‥でも私、服が‥‥」
 と言った時には、もうイレーシュは子供達に川へ引き込まれていた。冷たい川の水が、服を濡らす。
「もう‥‥お返しですよっ!」
 イレーシュは、体を起こすと子供達に水を掛けた。
 一人の子供が、後ろからイレーシュに抱きつく。ぎゅっと抱きしめられ、イレーシュは動きが出来なくなった。その隙に、前から別の子供が、イレーシュに水を掛けた。
 わっ、と子供達が寄ってきて、一斉にイレーシュに水をかける。ずぶぬれになりながら、イレーシュは背中にしがみついていた子供を抱き寄せる。
 ‥‥と、イレーシュの足が石にとられて滑り、子供を抱えたまま転がった。
 激しく水を飲み込み、腰を岩に打ち付けながらも、子供は大丈夫だっただろうか、とイレーシュが慌てて水から顔を出すと、きょとんとした顔で子供達がイレーシュを見つめていた。
 どっと、子供達が笑い出す。
 まるで幼い子供のように、イレーシュは久しぶりに満面の笑顔を浮かべて水遊びに興じた。
 服が濡れている事もかまわず、水に太腿まで浸かりながら遊ぶイレーシュを、川縁でオルキーがじっと見つめている。イレーシュがちらりと視線をあげると、オルキーは優しく微笑んでこちらを見ていた。
 イレーシュが笑っていると、時折オルキーがそんな表情をする。誰より自分の事を心配してくれているひとだから、オルキーはイレーシュが楽しそうにしていると、本当に嬉しそうだった。
「オルキー!」
 イレーシュは、川の中をざぶざぶと歩きながら、オルキーに声を掛けた。オルキーは立ち上がり、イレーシュの方に足を踏み出した。
「イレーシュ‥‥危ないわよ、足下‥‥」
 水の流れに足を取られ、転びそうになったイレーシュを抱えようとしたオルキーだったが、その腕を掴んだ瞬間、イレーシュがオルキーの手を引っ張った。
 ざばん、と水しぶきがあがる。イレーシュによって水の中に引きずり込まれたオルキーは、それでもイレーシュの体をしっかりと支えてくれていた。
 まともに水に突っ込んだから、オルキーは水を飲んだんじゃなかろうか。
 イレーシュは自分がした事ながら、咳き込むオルキーを心配そうに見つめる。膝をついて体を起こすと、オルキーは顔を上げた。
「‥‥こら、イレーシュ」
 ちょっと眉を寄せ、怖い顔をしてイレーシュをにらみつけるオルキー。でも水に引き込まれる瞬間、慌てたような表情を浮かべていたオルキーを思い返し、イレーシュは笑い出した。
「あはは、オルキー‥‥びっくりしました?」
「‥‥もう‥‥」
 オルキーは苦笑しながら、濡れた髪をかきあげた。
 明日の戦いと死の恐怖に怯えなくともいい、平和なひとときを心底嬉しいと感じる‥‥これがいつまでも続くといいのに。

 空から燦々と降り注ぐ日光が、オルキーとイレーシュの服を乾かしていく。着ていた物が全て濡れてしまい、二人は服を乾かしながら濡れた体も乾かし、日光浴をしていた。川の中では、子供達がビーチボールで遊んでいる。
 それをじっと見つめるイレーシュに、オルキーが声を掛けた。
「ねえ、イレーシュ。覚えている?」
「え?」
 イレーシュがオルキーの方に視線を向け、聞き返した。
「ほら、旅に出たばかりの頃、二人で孤児院をしようって話したでしょう?」
「ええ‥‥そうですね」
 子供達の笑顔を見ているのが何より嬉しいし、護ってやりたい。そう言ったオルキーに、イレーシュは共感した。自分を護ってくれたプラハのように、イレーシュも助けを求める子供達を護ってあげたい。
 いつか、二人でそうやって暮らそう。
 オルキーとイレーシュは、固く約束をした。
「あの審判の日‥‥何もかも奪われて、そして結果戦争になった。どういう理由があれ、戦争になり、親を失った子供達が溢れているの。‥‥哀しいよね」
「オルキー‥‥」
 もしかすると、この子供達の親を殺したのはUMEかもしれない。いや、自分の隊かもしれない。オルキーは、眉を寄せて苦悶の表情を浮かべる。イレーシュは、オルキーの肩をそっと抱いた。
「苦しいのね、オルキー‥‥」
「ありがとう」
 オルキーは少し笑顔を取り戻し、肩に置かれたイレーシュの手に自分の手を重ねた。感じる、暖かいイレーシュの手。
「‥‥ふふ、いつもはうちがこうして‥‥悪夢を見たイレーシュを抱きしめているのに、今日は逆ね」
「あら、辛い時はお互い様です。‥‥オルキーが辛い時は私が抱きしめていてあげますし、子供達が辛い時は‥‥二人で抱きしめていてあげるんです」
「そうね。‥‥あの子たちには、そうして抱きしめていてくれる人が必要なんだから」
 オルキーはそっと自分の手を見つめ、言った。血に濡れたこの手だけれど、子供達を護る事が出来る手にもなる。イレーシュは、そう言っていた。
「オルキー、いつでも側に居ますよ。こうしていつまでも、笑って暮らすんです。‥‥もう、苦しむ事は無いの」
「そうね‥‥そうよね」
 オルキーは顔を上げ、笑顔を浮かべた。
 やはり、オルキーには笑顔が似合う。今度はオルキーがイレーシュをぎゅっと抱きしめ‥‥耳元で小さく、ありがとう、と言った。
 照れくさそうなオルキーの声に、イレーシュはくす、と笑う。
「どういたしまして‥‥」
「イレーシュも‥‥うちの側で笑っていてね」
 オルキーはそう言うと、イレーシュに口付けた。
 肩を掴んだオルキーの体温が、伝わってくる。その時子供達の声が響き、イレーシュは思わずオルキーから顔を逸らし、離れた。
 子供達が、オルキーとイレーシュの胸元に飛び込んでくる。
「ねえ、お姉ちゃん達、パパとママがするみたいにチューしてた」
「何で?」
 子供達の率直な問いに、イレーシュの顔は真っ赤になった。
「あの‥‥あのね」
 返答にこまり、イレーシュがオルキーに助けを求めるように視線を向ける。するとオルキーはにっこり笑って、子供達の頬に手をやった。
「それはね、イレーシュが大好きだからよ。‥‥だからね、大好きなあなた達にもキスしてあげるわ」
 と、オルキーは優しくキスをした。それを見た子供達が、次々とオルキーやイレーシュにしがみついた。
「イレーシュお姉ちゃん、僕にも」
 きらきらした純粋な目で見上げる、少年。この純粋な命を守る為に、オルキーと二人で生きていこう。イレーシュはうっすらと笑みを浮かべ、優しいキスをプレゼントした。


(担当:立川司郎)
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
立川司郎 クリエイターズルームへ
PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2003年09月05日

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