▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『はじまりの、音 』
久々成・深赤1370)&鬼柳・要(1358)

時に偶然。
偶然のダイスを転がして必然。
必然とは、必ず起こりうる物か、時として運命の悪戯か。
悩む事も多々あるけれど。

それでもきっと人と人との出逢いの中に、互いが互いを面白いと感じる出逢いもあるもので。


「…おーい! あっそびにきったよー♪」

どんどん!と独り暮らしの従兄弟の玄関をたたくのは久々成・深赤。
余談だが従兄弟は一軒家に独り暮らしで、ちょっとばかり生意気なんじゃない?と深赤は思ったりもする。
よって彼女はある意味居心地が良いといえる従兄弟の家に入り浸ったりもするのだけれども。
だが、本日は妙なことに室内から音が聞こえるのに何時までたっても玄関の扉を開けてくれない。

(あ、あれ……?)

まさか居眠りこいてるとか?
それか出るに出れない事情…ってどんなのよ、それは!
思わず知らず、親戚のおばさんから預かった合鍵をポッケから取り出し玄関を開けにかかる。
あがりこみ……襖を限りなく五月蝿くあけ、そして開口一番、
「ちょっと、なんで開けてくんないのよ! 可愛い従姉妹が遊びに来たんだから茶くらい振舞うのが礼儀ってモンでしょ! …って、あれ?」と叫ぶもいつもの姿は何処にも無く。
テレビゲームをひたすらしていた人物の髪は、烈火のように紅かった。
「はい? あ、今現在この家の主は俺の為に買い出しに行ってくれてますが?」
「お、俺の為ぇ? ってーか、アナタ誰っ?」
「見て解るとおり、この家の主の友人。で、鍵を持ってるアンタこそ誰?」
「久々成・深赤、16歳。職業はぴっちぴちの学生、独身よ……はい、これで名乗ったんだからアナタも名前くらいはちゃんと名乗りなさいよね。友人だって言われてこれから友人さんって呼ぶのは酷く間抜けだわ」
「……ごもっともだな、そりゃ。鬼柳・要、17歳。やっぱり職業は学生…今のところは」
「鬼柳、さんね。うん、覚えたっ……ところで何のゲームやってたの?」
「んー? 斬って斬って斬りまくるゲーム……なんつーか実戦じゃないんだけど動きとか見てると面白くってつい、な」
「ふーん? そう言うほうのが好き? 私だったらもう少し違うのが良いなあ」
「ああ、女の子が大好きそうなのがあるよな! 何、ああいうのやるタイプ?」
現実の方がもっと良い男一杯居るぞー?と言う要の言葉に深赤の顔が赤く赤く変じて行く。
だ、誰が何時そう言うのをやっていると言ったのだ!
「ち、違いますっ!! そう言うのはやらないもん! S・RPGとか色々あるでしょっ」
「へぇ? いや、そう言うのは好きそうに見えないんでつい」
「……確かにあんまり得意じゃないけども」
で、でも楽しいと思えば何時までもやってるし……とぽそぽそと呟きながら、そう言えばあのゲームは何時からやってないんだっけなあと思ったりもする。
楽しいときは集中するから結構進んだりするが飽きてしまえば何時まででも放っておいてしまえるし……。
「……うぬぅ」
奇妙な声をだしながら唸る深赤に要はぽんぽんと二回、肩をたたいた。
「ま、色々無駄に考えんなって。そうだ、ちょいと喉が渇かないか?」
「…渇いてるけど。何かあるの?」
「ん? や、深赤の従兄弟と飲もうと思ってバイト先の先輩から貰ってきたんだけどな? …確か、もう冷えてる頃合のはず……」
勝手知ったる人の家とは、こう言うことを言うのだろうか。
要はすたすたと台所へ向かって歩くとほんの数分後には冷えたビールと冷えたビールグラスが深赤の前に出されていた。
力いっぱい心の中で首を捻る。
高校生なのだから、一応……いや、多分。
――法律で飲酒は禁じられているはずなのだけれど。

(……マジですか? お、お酒? …って言うか、この人私とそうそう変わらないはずで…あれぇ?)

にも関わらず要はにっと笑い「まあ飲め、ほら飲め」と勧めるばかりで。
深赤は思わず覚悟を決め差し出されたビールに口をつける。
泡と一緒に口に流れる苦味。
美味しいと言うよりも喉をひりつかせる様な気がするが奇妙に、その感覚が不思議と「美味い!」と叫ばせる。

「美味しいねえ?」
「お、イケる口だねえ、ほれもっと飲め飲め♪」
「うん、飲む飲むー♪」

一口が二口、二口が三口になり、そのうちに「従兄弟と一緒に飲もうと思っていた」ビールもごろごろと畳へと転がりだす。
数えるのも怖いくらいの量だ。

だがそう言うのに構わなくなってくるのが酔っ払い…と言うか酒により少しばかり呑まれてしまう人の常と言うか……なくなっていくビールをみて何を思ったのか深赤はふらつく足取りで更にお酒を探し出し……。

「ね、ね、鬼柳さん、料理酒って飲める〜?」
「あ? 料理に使うくらいだから飲めんじゃねぇかなあ……多分」
そう言うのは飲まんからよくわからんっと頭を掻き掻き要は多分を繰り返す。
深赤は深赤でその「多分」を信じラッパ飲みを始めた。
――当然の如く世界が回りだす。
や、世界が回ってるんじゃなくて回ってるのは私の足? 足って軟体だったっけぇ…? と、とにかく座らなきゃね……とおぼろげな思考の中で考えながら「つまりは酒ってのはだな……」と熱く語る要の声を遠くに聞いていた。

「…んだから、酒って言うのは用途や場面によって使い分けてこその酒であって日本酒が似合わない場面に出てきたら笑えるだろ? だから料理酒ってのも飲めはすると思うがこう言うところで飲むものじゃなく……あ、あれ? おーい、起きてるかぁ?」

要も要で延々と「飲めると思うがこの場で飲むのはどうなんだ」を深赤に語っていたらば何時の間にか深赤は座りながら眠っている始末。
まあ料理酒を飲んだりビールを飲んだりしてたら当然と言えば当然かもだが。

ふと要はまだ帰ってこないこの家の主のことを思い出す。

(……そう言えば、何処までいったんだ? ……また身にならんナンパでも道端でしてるんだろーか)

多分本人が聞いたら涙を流し「酷!」と言いそうなことを思いながら要はくつくつと微笑う。
面白いな、と思った。
何がと言うわけではないが単純に面白いとただ思う。

目の前で眠りこける果たして男女でふたりっきりと言うことを自覚してたのか解らない深赤が。
この髪の所為で一歩引かれてしまう事も無いわけではなかったから余計かもしれないが。

「……眠ってると顔に落書きするぞ〜…っても聞こえてないよなあ、きっと。……良しっ」

深赤とこの家の主にはあとで存分に驚いてもらうとしよう。

――嫌がらせと言うより、ちょっとしたお茶目の様なものだ。

船をこいで眠っている深赤をゆっくり横たわらせると要もその横にごろんと横になり瞳を瞑る。

「お休み」、そう――呟きながら。


その後。
深赤の目が醒めたのは夜もとっぷり暮れた頃だったとか、何故か従兄弟は帰ってこずじまいだったとか……尚且つ、頭が痛くて起きたら要が腕枕していた事とか色々と話はあるがそれらはまた全て次の話。

全ては偶然。
偶然の賽の目を転がし必然。

なら全ての出逢いごと。
記憶に鮮明に刻まれる、ものなのかも――知れない。





―End―
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
秋月 奏 クリエイターズルームへ
東京怪談
2003年09月01日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.