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『【first contact〜longhair beauty〜】 』
シオン・レ・ハイ0375)&レイシア・クロウ(0390)
――漆黒の闇に轟音と共に戦火があがった。
 地面を揺るがすほどの咆哮が立て続けに吹き荒れ、地表を吹き飛ばす爆炎に照り返し、闇に蠢く鋼鉄の機影が浮かび上がる。UME軍東部別働隊第二軍のMS=エリドゥーの軍勢だ。
『騎士団はシンクタンクを投入! このままでは‥‥』
『うろたえるな! ここを突破して西部の部隊に合流するのである! シャイターン部隊、75mm対要塞砲、てーいっ!!』
 ブゥンと赤くカメラアイを闇に浮かび上がらせる数機のMS=シャイターン。身の丈ほどはある砲身を腰溜めに構えると、重心を低く沈めた刹那、半身を仰け反らせて砲弾を放つ。互いの砲弾の銃声が響き渡り、紅蓮の炎と硝煙の中に、甲殻類を思わせる移動砲座=ブラックウィドゥと、剣を構えて駆け抜ける数人の影が浮かび上がった。サイバー騎士である。
 着弾に黒煙を吹き上げるエリドゥー、派手に爆炎をあげて吹き飛ぶシンクタンク。互いの薬莢が絶え間無く吐き出される中、戦いは一進一退を繰り返していた。
――AD2058
 生命の危機に直面したUME軍は、その元凶でもあるカルネアデス破壊の為に敵地へと降り立った。
 この物語はヨーロッパで戦火を繰り広げた兵士たちの記録である。

●潜入――サイバー猟兵部隊
――耳に飛び込んで来るのは鳴り止まぬ銃声と轟音だった。
 半身に大地を揺るがす振動を感じながら、レイシア・クロウの参戦している部隊は、闇に息を潜めて突き進んでいた。目深に被ったフードからギラギラとした獣のようなグリーンの瞳だけが輝いているのが印象深い女だ。彼女は肩に60mm対戦車ライフルを担ぎ、背中に12.7mmオートライフルを背負っている。ときおり闇に浮かび上がる身体はしなやかだが、引き締まった肉体を感じさせるものだった。しかし、如何に強靭な肉体を持っていたとしても、生身の女に支えられる重量ではない。レイシアはサイバー猟兵なのだ。
――サイバー猟兵
 隠密行動に秀でており、破壊工作に絶大な力を発揮する身体の一部を機械化したUME軍の兵士である。
 彼女等猟兵部隊は正に破壊工作の為に、最前線をMS部隊に任せて敵陣深く潜入していたのだ。目的は前線指揮車の破壊=つまりはシンクタンクの命令系統の破壊である。今、最も別働隊の進軍を妨げているのは、夥しい数のブラックウィドゥなのだから。
「レイ、もう直ぐ敵の駐留ポイントね‥‥殆どの騎士は最前線に出払っていると良いんだけど‥‥」
 同じ部隊の女が小声で話し掛けて来た。レイシアはギロリと大きな緑色の瞳だけを流して、未だ少女っぽさの残る兵士に応える。
「‥‥連邦の騎士がバカである事を祈るんだな」
「うっ! そんな不吉なこと言わないでよ。作戦の失敗はアタシ達の全滅を意味するのよ?」
「ならアッラーに祈ればいい」
「レイったら‥‥もっとアタシの気持ちも」
「お喋りはそこまでだ‥‥」
 無表情のまま淡々と応えて、レイは敵の指揮車両の群れへと駆け出す。同じように数名の猟兵が、僅かな足音だけを残して一陣の風の如く走っていた。アイアンメイデン達の隙を突いて敵車両に辿り付いた部隊は、素早く下へと滑り込み、迅速に爆薬をセットしてゆく。ここまでは順調そのもの。後は引き返して息を潜めながら、派手に吹っ飛ぶ様子を確認できれば尚良しって訳だ。
「レイ、爆薬はセットしたわよ、そっちはどう?」
「問題ない。あと一個仕掛けて来る」
「ち、ちょっとレイったら!」
 彼女は成り行きでパートナーになった兵士から更に離れて、奥へと突き進む。ムカつく連邦騎士は確実に倒しておきたい。そんな衝動に駆られていたのだ。
(よし‥‥これで最後だ)
 爆弾をセットして車両の下から這い出たレイは、慌てふためく連邦騎士と彼方此方で爆発する様を思い浮かべ、僅かに口の端を歪ませた。
――そんな時だ。
 ふと背後に人の気配を感じたのである――――

●遭遇――敵として
 レイシアが振り向くと共に視界に飛び込んで来たのは、残像を描いて振り下ろされる一太刀の斬光だった。レイは機敏な反応で地を蹴り、切先の洗礼を免れる。次に飛び込んで来たのは男の声だ。
「ほう、あの体制からよく躱せたものですね」
 大剣を肩に担いだ男は野太い感嘆の声を響かせ、不敵な笑みを浮かべて女を見下ろす。レイは恐れを知らぬ眼光で敵を睨み舌打ちした。
(チッ! 騎士が残っていたのか‥‥)
 幸い辺りを見渡しても他に現れる気配はない。サシの勝負なら。
「ですが‥‥」
 ギラりと髭を生やした騎士の瞳が冷たい光を放った。
(来るっ!)
「次は躱せますかな?」
 一瞬で間合いに飛び込み、騎士は鮫のエラのような溝の入ったギザギザの刀身を横薙ぎに振るう。その切先をライフルで受けるものの、レイの得物は刹那、真ッ二つに叩き切られた。だが、ここで銃を撃つ訳にはいかない。彼女は秀でた敏捷性で巧みに太刀を躱して隙を探る。
(コイツ! 隙がない!?)
「どうしました? 逃げてばかりではこのシオン・レ・ハイには勝てませんよ」
「この野郎っ! ムカつくんだよっ!!」
 レイは続けていたバックステップから一転、横に跳び、相手の側面から間合いに飛び込む。ザッと右足で体重を支え、腰を十分に切りながら金属の左足を振り回し、余裕を見せる中年騎士の顔面へと上段廻し蹴りを叩き込んだ。生身の半身にインパクトが伝わり、騎士へと蹴りが当った事を確信してニヤリと唇を歪ませる。
「フッ、嬉しいですね。格闘技も得意な相手と会えるとは‥‥ね」
 シオンは太い腕をクロスして、鋭利な刃物の如く放たれた蹴りを防御していたのだ。ガードした腕の隙間から青い瞳を覗かせ、表情を僅かに変容させたレイシアにダンディな笑みを浮かべる。
「なろうっ!!」
 ブンッと左足を風切り音と共に戻し、そのまま腰を捻って身体ごと跳び込みながら左腕のバックブロウへと転じた。漆黒のローブを纏った女が肉迫する――が、その裏拳はシオンの腕にガードされ、続いて攻勢に入った男の廻し蹴りと文字通りの鉄拳が繰り出された。格闘技の腕は彼の方が上のようだ。何打目かで躱しきれずに鉄拳を叩き込まれたレイは、派手に吹っ飛ばされながら感じていた。
(このままじゃ‥‥もう少しだってのに‥‥)
「さて、ここで止めを刺しても構いませんが、機械の左足でも戴きましょうかな? 騎士の誇りに賭けて悪い扱いはしませんよ」
 ゆっくりとシオンが歩いて来る。彼の言葉の意味は察せるというものだ。
――このままでは連邦の捕虜にされる。
「ちっくしょう、そんなのは殺される方がマシってもんだよ‥‥」
 筋肉の割れた鍛え抜かれた腹部を右手で押さえて、レイは小刻みに震える身体を立ち上がらせた。視界に近付く男は、これで終いだと言わんばかりに、鋭利な切先を横一文字に構えて見せる。
「でも、貴方に選ぶ事は出来ませんよ」
 ザッと一陣の突風の如く体制を低くしながら駆け出すシオン。恐らく今のレイには躱せないだろう。彼女は意を決して背部の対戦車ライフルを構えた。刹那、男の姿が掻き消える。
「!! 高機動運動か!?」
「そこですっ!!」
――肉迫するシオンの姿と響き渡ったのは爆発音だ。
 セットした爆弾が痺れを切らしたように彼方此方で雄叫びをあげ、次々と轟音と紅蓮の炎が吹き上がった。
 シオンとレイシアは揺れた大地に体制を崩したものの、男の太刀は止まる事は無い。派手に炎が燃え盛り、対峙する二人の姿が照り返し浮かび上がる。シオンの切先に服が切り裂かれ、破られたフードから飛び出したのは、爆風に靡くレイの綺麗な長い黒髪だ。一瞬、男は呆けたように動きを止めて、彼女の露になった端整な風貌を見つめて固まった。次に口から出た言葉はこうだ。
「‥‥美しい」
「はあ?」
 シオンの口から飛び出した言葉に、レイは素っ頓狂な声をあげた。さっきまで命の奪い合いをしていた相手に、何を言っているんだこのオッサンは‥‥。
――どうしたら良いものか。
 シオンはレイの顔を見つめて動きを止めたままだ。対する彼女も困惑した表情を浮かべて立ち尽くしていた。このまま逃がしてはくれないだろう。
「敵襲ーっ!!」
 そんな二人の耳に飛び込んだのは幾つもの銃声だ。恐らくレイシアが戻って来ない事から、猟兵部隊が攻勢に出たのだろう。次々にアイアンメイデンに銃弾を叩き込みながらサイバー猟兵が侵攻する。
「お仲間が来たようですね。前線がMSだけだったから戻って見れば‥‥少し遅かったようです」
 優雅な手捌きでブレードを腰に収めると、シオンはレイシアへと再び視線を向けた。
「私はシオン・レ・ハイ。貴方は? せめて名前くらいは教えて頂きたいものですが‥‥」
「‥‥レイシア・クロウだ」
 渋々上目遣いで彼女は名前を告げた。
「レイシア、ですか‥‥美しい名前だ。また遭う事もあるでしょう」
 シオンは無事だった車両へと駆け寄り、指示を出しながら部隊を撤退させて行った‥‥。その後ろ姿をレイは複雑な想いで見つめる。
――背中を撃つ事も出来た筈だが‥‥。
「レイ!!」
 彼女の背後に聞いた声が飛び込む。長い黒髪を手で束ねながらレイが振り向くと、銃を手に駆けつける仲間が映った。
「レイ! 大丈夫? 危機一髪って感じね」
 レイの切り裂かれた服を見つめて、女兵士は「ふぅ〜」と溜息を吐いて笑みを浮かべる。
「‥‥ああ、済まない」
「どうしたの?」
「‥‥いや、何でも無い」
 レイシアは既にいないシオンの撤退して行った方向へと視線を流す。
――何なんだ、あのオッサン‥‥。

●あとがき(?)
 ご購入有り難うございました☆ 初めまして、切磋巧実です。
 この度は大変遅れてしまい申し訳ありませんでした。
 さて、いかがだったでしょうか? 今回、初めて綴らせて頂きましたが、またレイシアさんやシオンさんの物語を綴る機会が得られれば幸いです。感想等送って頂けると嬉しいです☆ お待ちしていますね♪
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2003年09月01日

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