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『■モーニング・サービスです■ 』
アデルハイド・イレ―シュ0063)&オルキーデア・ソーナ(0038)
 ここ最近、無かった感覚が目を覚ましたオルキーデア・ソーナを襲っていた。
 いつも朝早く目を覚ますのはオルキーで、オルキーが夜眠れないでいたイレーシュを気遣って、朝食を作っていた。
 夜、眠れない事の多いイレーシュは、自分が眠っている間にも目を覚まして、起きている事がよくあった。だから心地よい睡眠に包まれている時を、少しでも多く味わって欲しかったのだ。
 だからオルキーはイレーシュより早く起き、イレーシュが起きた頃に朝食ができあがるようにしていた。
 しかし、今日は違っていた。オルキーが目を覚ますと、どこからともなくいい匂いが漂ってきて、オルキーの食欲をそそった。ぼんやりとした意識のまま、視線を横に向ける。
 オルキーの横にあったはずの温もりは、姿を消していた。
 ゆっくりと体を起こし、オルキーはその主を捜そうと視線を寝室内に巡らせる。その時ようやく、自分がキャミソール一枚だけという、肌も露わな姿である事に気づいた。
(‥‥んん‥‥そうか、昨日脱いだまま寝ちゃったんだ)
 このキャリーには、自分とイレーシュ以外には誰もいない。深夜の森の中、キャリーを覗く者も近づく者も居るはずはなく、オルキーはつい羽目を外して全部脱ぎ捨てていた。
(まあ、昨日は暑かったしね‥‥ついでだし)
 ついで、と心中で呟いたオルキーは、昨夜の事を思い出しながらイレーシュの姿を探した。疲れ果てて眠ったイレーシュの姿は、ベッドルームには無い。かまわずオルキーはその格好のまま、キッチンに移動した。
 キッチンのドアを開けたオルキーに、パンを焼く匂いが流れてきた。キッチンでは、イレーシュが朝食の準備をしている。オルキーの視線は、そこに釘付けになっていた。
「イ‥‥イレーシュどうしたの?」
「え?」
 振り返ったイレーシュは、恥ずかしそうに後ろに手を回した。少し顔を赤らめて、イレーシュが身につけたエプロンの端を握った。
 しかし、イレーシュが身につけているのは白いエプロンだけであった。透けるように白いイレーシュの背中と、柔らかそうなヒップがエプロンの合間から覗いている。
「服も下着も‥‥全部洗濯しちゃったから‥‥」
「いいんじゃない。見ているのは、うちだけだから」
 オルキーは楽しそうに言うと、テーブルについてイレーシュをじいっと見つめた。オルキーの視線を感じて、イレーシュは耳元まで紅潮させている。
「あの‥‥あんまり見ないでくださいね」
 イレーシュは、緊張のあまりにしどろもどろで、オートミールの入った皿をテーブルに差し出した。それからサラダとジャムと紅茶にヨーグルトに‥‥。
「ちょっとちょっと、どうしたのイレーシュ」
「え? ‥‥美味しくなさそう‥‥だった?」
 イレーシュは、振り返って不安そうに聞いた。いや、大変美味しそうだ。美味しそうなのだが、量がちょっと多い。
「ごめんなさい、オルキーに食べてもらおうと思って‥‥」
 しゅんとして、イレーシュは椅子に座った。
「ううん、そうじゃないわ。凄く嬉しいの。‥‥わかった、ゆっくり朝食を楽しみましょう」
 ゆっくり時間を掛けて食べればいいのよ。オルキーはそう言ってイレーシュをなだめると、パンを手に取った。イレーシュはオルキーが食べ始めたのを見ると、ようやく自分も朝食をとりはじめる。
「‥‥私、ずっとふさぎ込んでいて‥‥オルキーにばかり作らせて迷惑を掛けていたから、何かしたくて‥‥。でもほら、オルキーって朝が早いから、早く作らなきゃって思ったんです」
 なるほど、それで裸のまま料理を作ったりした訳か。オルキーはようやく、イレーシュの格好に納得した。
「でもよかった、いつも早起きしてて。そのおかげで、イレーシュの裸エプロン見られたものね」
「もう‥‥オルキー、からかわないでください」
「うちだってほとんど裸よ。ほら、裸で居ると健康になるとか痩せられるとかいうじゃない。健康法だと思ったらどう?」
 何なら、これから出来るだけ裸で居るっていうのはどう? オルキーが冗談まじりに言うと、イレーシュは恥ずかしそうに黙って紅茶に口を付けた。
 カップを両手で持ったイレーシュの視線が、ほんのり暖かいカップに落とされる。今まで楽しげに笑っていたイレーシュの表情が、少しだけ曇ったのをオルキーは見逃さなかった。
「‥‥どうかした?」
 イレーシュはオルキーが心配そうに見つめているのに気づき、笑顔を作ろうとした。しかしうまくいかず、ぎこちない笑顔でオルキーを見返した。
「何でもないの」
「‥‥イレーシュ」
 オルキーが強い口調で名前を呼ぶと、イレーシュは口を開いた。
「戦っていた時の事を思い出してしまって‥‥。亡くなった人たち‥‥UMEの人たちにも、食べて欲しかったです。‥‥暖かいスープや、お酒‥‥美味しい料理を‥‥」
「あなたまだ‥‥」
 まだ、イレーシュの夜は楽しい夢で彩られては居ないのだ。その事に気づき、オルキーがそっとイレーシュの手に、自分の手を添えた。守ってくれるような、オルキーの手の温かさにイレーシュが目を伏せ、嬉しそうに微笑を浮かべて頷いた。
「ごめんなさい、大丈夫です。‥‥少し思い出しただけなの」
 沈んだ、イレーシュの顔。彼女のこんな表情を見るのは、何度目だろうか。そのたびに、辛くなる‥‥。
 オルキーは椅子から立ち上がるとテーブルに手をつき、イレーシュの方へ顔を近づけた。少し涙まじりのイレーシュの目が、オルキーを見つめている。
 オルキーの唇がイレーシュの唇を捕らえても、なおイレーシュはきょとんとしていた。オルキーの舌がイレーシュの口中を浸食すると、ようやくイレーシュの手がオルキーの腕に伸びた。抵抗するように少し力がこもる。
「‥‥ふっ‥‥」
 何かが、オルキーから口移しでイレーシュに入ってくる。舌に伝わるこの味と感触は、先ほどイレーシュが朝食に出したオートミール? イレーシュが顔を背けると、オルキーはようやくイレーシュから離れた。
「オルキー、もう片づけますよ」
 ちょっと怒ったように、イレーシュが皿を片づけはじめた。怒ったように言ったが、内心では怒っていない事は分かっている。キッチンテーブルを片づけているイレーシュに、後ろからオルキーがそっと近づいた。
「‥‥オルキー、いつまでもそんな格好だと、風邪をひきますよ」
 後ろを振り返らず、イレーシュがオルキーに言う。
「いいわよ、今からデザートをもらうから」
 エプロンの裾から、オルキーの手が滑り込む。さらさらとして弾力のあるイレーシュの肌を、少しざらついたオルキーの指が撫でていく。
「もうっ、オルキー。もう朝ですよ」
「分かっているわ、時計が見えるもの」
 平然と、オルキーは答えた。イレーシュは半分からだを後ろに向け、オルキーを押し退けようとする。しかし華奢で力の弱いイレーシュでは、オルキーに敵わない。オルキーはくすくす笑いながら、イレーシュをキッチンに押しつけた。
「ダメよ、逃がさないから」
 腕の中の彼女が逃げないように、オルキーの左手は流し台をしっかりと握りしめていた。イレーシュは、キッチンとオルキーに挟まれて逃げられない。
「オルキー‥‥離して」
 困ったように、イレーシュは肩越しに振り返った。
 オルキーのすぐ目の前に、イレーシュの瞳がある。赤く染まった頬に軽くキスをすると、オルキーの右手はイレーシュの腰を抱き留めた。オルキーの体温を感じ、びくっと肩を震わせるイレーシュ。
「イレーシュ、昨日はよく眠れた?」
「ね、眠れました」
「嘘ね。少し目が充血しているわよ。‥‥これからたっぷり運動をしたら、午後までぐっすり眠れるわ」
 イレーシュは何か抗議の言葉を放ったが、オルキーは抗議を無視し、イレーシュの細い首筋に唇を押しつけた。
「イレーシュ、もう一回朝食を貰いたいんだけど‥‥いい?」
 オルキーが耳元でささやくと、イレーシュは小さく頷いた。

(担当:立川司郎)
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
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PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2003年08月29日

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