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『自動人形講座・概論 』
牧村・胡桃1406
●設定した理由
 都内某所のとある建物内に、その考古学研究室はあった。外ではこの冷夏には珍しく、太陽がぎらぎらと照りつけている。が、研究室内は空調が上手く働いているのか、暑過ぎず寒過ぎずといった塩梅であった。
 研究室内には木製の長いテーブルが置かれていた。その上を、パタパタと動いてゆく物体があった。それは俗に言うからくり人形の一種――茶運び人形だった。
 茶運び人形の仕組みは簡単だ。盆に湯飲みが載せられると客に近寄ってくる。茶運び人形が頭を下げるのを合図に、客は湯飲みを取り上げて茶を飲む。そして空になった湯飲みを盆に置くと、人形はくるりと反対方向を向いて今度は客から遠ざかってゆく。
 今説明した仕組み通り、茶運び人形はしばらく動いてから頭をこくりと下げた。目の前に居た客――草間武彦は湯飲みを取り上げて、口をつけた。
「ほう……これはなかなか珍しい物だな」
 冷たい茶を飲み干した草間は、茶運び人形の先に居た黒髪の若い女性に目を向け、湯飲みを盆に置いた。
 茶運び人形はくるりと草間に背を向け、若い女性の方へと戻ってゆく。長い髪を淡い水色のリボンで結んだ若い女性は、ふっと笑みを浮かべ口を開いた。
「謝謝、草間先生」
 流暢な中国語がその若い女性の口から漏れた。声だけ聞いたら中国人かと思うかもしれないが、顔を見れば日本人であろうことは容易に分かる。
「で。これをわざわざ見せるためだけに、場所をここに設定した訳じゃないんだろ」
 草間がそう言うと、若い女性――牧村胡桃はこくんと頷いた。
「是。そう……ですネ」
 胡桃は中国語で肯定した後、たどたどしい日本語を口にした。語尾のアクセントが微妙におかしかった。
 まあそれも仕方のない話ではある。純正日本人ではあるが胡桃の生まれは中国、それゆえに上手く日本語を操ることはちょっと苦手であった。草間もそれは分かっているので、笑ったりするようなことはなかった。
「ドール……自動人形のことで」
 英語で何かを言いかけたが、胡桃はすぐに日本語で言い直した。

●テクノロジーの行き着く先
「ああ、あれか」
 思い当たることがあるのだろう、草間が大きく頷いた。
「あれについては、俺も聞きたいことはいくつかあるな」
 と言い、草間は先程の茶運び人形に目をやった。
「……なるほど。だから、あれを見せた訳なんだな」
「是。日本古来の……ドールテクノロジーの再確認のタメに」
 中日英とチャンポンな、少し癖のある胡桃の言葉。けれども言いたいことは分かる。
「昔の人形師はたいしたもんだよ。あんなからくり人形を作り上げたんだからな。もっとも……自動人形はより凄いが」
「自動人形は……長い歴史を持っていマス」
 つかつかと歩み寄ってくる胡桃。
「ま、だろうな。あれが一朝一夕に出来上がるはずがない。さぞかし試行錯誤もあったんだろうさ」
「是。設計図は複数ありマシタ」
 胡桃は草間の言葉にこくっと頷いた。
「バット……人形師の立場、なくす出来事ありマシタ」
「立場をなくす出来事?」
「霊鬼兵」
 その胡桃の言葉に、草間が眉をひそめた。
「霊鬼兵の誕生デ、人形師の立場なくなりマシタ」
「……なるほどな」
 ふうっと息を吐き出す草間。乱暴な言い方になってしまうが、無機物に人工的な生命を与えたのが自動人形だとすれば、人間そのものを素体とし作り上げられたのが霊鬼兵である。基本的にどちらが基礎能力が上なのか、何となく想像はつくだろう。
「立場のなくなった人形師ハ、霊鬼兵を倒すタメの人形を作りマシタ。その一部ハ……マダ生きています」
「ちょっと待て。それは……単にそれだけの能力を有しているのか? それとも、能力と命令を有した奴が居るということなのか?」
 真剣な表情で尋ねる草間。前者と後者ではえらい違いなのだから、真剣になって当然だった。
 けれども胡桃はそれに対して何も答えなかった。胡桃にもそこまでは分からなかったのか、それともまだ話せないことなのか……さて。
 結局それについての話は、ここで一旦終わることとなった。

●気遣い
「……話も終わったようだし、そろそろ俺は帰るか」
「もう1つ」
 椅子から腰を浮かせかけた草間に対し、胡桃はすっと指を1本立ててみせた。草間は椅子に座り直した。
「何だ?」
「自動人形ハ心臓に霊石がありマス」
「ああ……そうだったな。前に飲みに行った時に、そう言っていたか」
 思い返す草間。その後でちょっと驚かされることになったのだが……それはさておき。
「霊石ハ、コミュニケーションを行うことで成長しマス」
「成長するとどうなるんだ?」
 もっともな疑問だった。胡桃は少し思案してから、こう答えた。
「リミットブレイクの習得……他にも色々とあるようデスが。不明な点はまだまだ多いデス」
 リミットブレイク――限界性能突破技のことだ。つまり、霊石が成長することにより、設計段階で想定されていた性能以上の能力を発揮する可能性があるという訳だ。
「そうか。なら……しっかりとコミュニケーションとってやらんとなあ」
 ぐるっと首を回す草間。コキコキと骨の鳴る音が聞こえてきた。
「……今日は有意義な話を聞けた。礼を言わないとな。また今度、飲みに行くか」
「謝謝、草間先生」
 気遣う草間の言葉に、胡桃は笑みを浮かべて答えた。

【了】
PCシチュエーションノベル(シングル) -
高原恵 クリエイターズルームへ
東京怪談
2003年08月20日

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