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『■白い兎へ、白い兎の贈り物を‥‥■ 』
キウィ・シラト0347)&シオン・レ・ハイ(0375)
 久しぶりに戻って来ると聞き、キウィ・シラトは落ち着かない様子で部屋をうろうろしていた。リンドブルムのアイアンメイデンとして連邦を支える職務につくキウィと、彼‥‥シオン・レ・ハイは、なかなかゆっくり二人で過ごす時間が無い。
 キウィは窓辺に寄ると、カーテンの隙間からそっと外を見下ろした。日の暮れた街路を行き交うのは、キウィの知らない人たちだけだ。待ちわびている人は、そのどこにも姿を見せていない。
 キウィはがっかりした様子で窓辺を離れると、椅子に掛けた。
 会えない時間が長ければ長い程、寂しさが募る。キウィが寂しがってたまらない頃になると、決まってシオンから手紙が届いた。

<キウィ、元気か? ‥‥来月中旬、そっちに戻ろうと思う>
 今回キウィに届いて手紙には、シオンの細く流れるような字でそう書かれてあった。キウィはその手紙を見ると、部屋で密かに、飛び上がる程喜んだ。長らく会えなかったシオンが、帰ってくるのだ。それを知らせる手紙を、嘘じゃないかと何度も読み返し、手紙を持って眠りについたのだった。
 シオンは、キウィの父親だ。父親とはいっても、キウィの育ての親で、血は繋がっていない。しかしキウィにとってとても大切な人であり、いつでもキウィを安心させ、守ってくれる人だった。
(シオン‥‥まだ帰ってこない‥‥)
 キウィはテーブルに置いた手紙を手に取ると、再び窓の方に歩き出そうと、ドアに背を向けた。その時、廊下を誰かが歩く足音が聞こえ、キウィは肩をすくませて振り返った。足音に耳を傾けたままじっと意識を廊下に向ける。
 規則正しく、それでいてやや重い足音。これは‥‥これは、生身の体よりも全体重の重いオールサイバーの特徴‥‥。聞き慣れた足音を耳にし、キウィはドアに駆け寄った。
 開かれた扉の向こうから、黒いコートを身に纏った長身の男が現れる。
「‥‥シオン、お帰り」
 キウィがじいっとシオンを見上げると、シオンは微笑を浮かべてそっと両手でキウィを抱きしめた。キウィの頬に、シオンの髭があたる。がっしりとしたシオンの肩に顔を埋め、シオンの感触に安心したキウィは、シオンの背中に手を回した。
 お帰り‥‥。シオンは、心の中でもう一度呟いた。

 窓から、心地よい夜風が吹き込む。シオンは、何だかたくさん荷物を抱えて戻って来た。一つ一つ片づけながら、シオンはキウィに話しかけた。
「キウィ、留守中何事もなかったか?」
「うん‥‥」
 キウィは頷いた。シオンは、キウィが作った剣を壁に立てかけながら、話しを続ける。こうして時々、キウィはシオンに武器を作ってあげている。キウィが武器を作るのは、彼の精神が不安定な状態に陥った時が主である。恐い、悲しい、辛い、嫌‥‥そんな思いが積み重なったり耐えられなくなった時、シオンへの贈り物を作るのだった。
 今シオンがつかっている武器も、その一つである。シャークオンギルとシオンが呼ぶその武器は、長さが背丈ほどもあり、鮫のエラのような溝がついていた。これは、シオンがもらった武器の中でも使い勝手が分かりやすいものだ。
 キウィが贈る武器の中には、使用方法がよく分からないものもあった。帰ってくるたびにシオンはその事で頭を悩ませるのだが、シオンの様子をじっとうかがうキウィを見ていると、とても使えないとは言えなかった。
 今回もまた、何か用意してあるのだろう。そう考えながら、シオンは荷物の一つから大きな包みを取り出した。これはシオンからキウィへの贈り物だ。会えなかった間、シオンが自分の帰りを待ちわびるキウィを思いながら作ったものだった。
「開けてごらん」
 シオンがそう言いながらキウィに、包みを手渡した。目をきらきらさせて、キウィはシオンからの贈り物を受け取る。
 とてもテーブルに運ぶまで待てないといった様子で、キウィはプレゼントを開けた。ふわふわとした手触りから、その包みの中が堅いものではない事は分かった。紙を開いていくと、中から白いものが覗いた。
「‥‥!」
 キウィは紙を取り除き、その白くてふわふわしたものを両手で持ち上げた。柔らかい素材で作られた耳はぺたりと垂れ下がり、キウィの方にまん丸の目を向けている。
「ウサギ‥‥シオンが作ったの?」
「ああ、キウィにそっくりだろう?」
 シオンはそう言うと、キウィの頭をくしゃくしゃと撫でた。目を閉じてシオンの手を受けながら、キウィは兎のぬいぐるみを胸にぎゅうっと抱きしめる。シオンの作った兎に使われている綿の素材はキウィの頬を優しく撫で、シオンと同じように、キウィの心を安心させてくれた。
「大事にするよ‥‥シオン」
 ぬいぐるみを抱いたまま、シオンを見上げる。
 シオンは微笑を浮かべて頷いた。
 そうだ、シオンにプレゼントをあげなきゃ。キウィはひょいと振り返り、贈り物を隠していたタンスの方に駆けた。あまりに大きかった為、分解しなければタンスに入らなかった位の代物である。それでも、シオンが帰ってきた時にすぐに気づかれるのは嫌だったから、分解したままタンスの奥に隠して置いたのだ。
 キウィはそれを取り出すと、テーブルの上に置いて組み立てはじめた。あらかじめ組み立ても分解もしやすいように、作ってあるから組み立てには時間はかからなかった。
 シオンは興味深げに、それを見ている。
「‥‥これは‥‥」
 何と呼んでいいのか、シオンは考えている。キウィは口を開いて答えた。
「高周波‥‥フラフープ」
 さすがのシオンも、絶句した。
 キウィは、シオンを嬉しそうに見上げている。
「フラフープとして使えて、高周波で振動する刃がついているんだ。‥‥こうして折り畳めるよ」
 キウィは、シオンの手からフラフープを取ると、折り畳んでみせた。

 先ほどまで、嬉しそうにシオンの土産話を聞いていたキウィはべッドで眠りについている。腕の中には、シオンが贈った兎が、大切そうに抱きしめられていた。
 ベッドの脇に腰掛けてキウィの寝顔を見下ろしながら、シオンはさて、あの贈り物をどう使ったものか考え込んでいた。
 いろいろとキウィは、戻って来るたびに使い勝手に困る武器を贈るが、今回はいつも以上に難題だ。
 これってフラフープとして使えるのかと見てみると、内側に高周波の刃は付いていなかった。輪の外側に、高周波で振動する物体がついている。二カ所ほど握っても問題なさそうな、高周波で振動しない部分があるから、ここを握っていれば投げる事も可能だろう。
 しかし、自分がこのフラフープを腰で回しながら攻撃する所は、どうやっても想像出来ない‥‥。しかも、燃料切れになるとただのフラフープで、なおかつとても戦闘の邪魔になる。
 過去、高周波マラカスとかを貰ったが、あれはまだ殴って攻撃するという方法もある上、高周波がマラカスの音の効果を上げて、それなりに有効であったように思う。
 シオンはその武器を、使えるものだけ持ち歩くようにして、それ以外のものはしまっておいたのだが、それでもキウィの気持ちを考えて、当分持ち歩いて使用する事にしていた。
 ‥‥これは、持ち歩くべきなのか。
 シオンは、フラフープを見つめた。
 これを作っている時のシオンは、寂しさや悲しさで一杯だったかもしれない。怖い事があったかもしれない。何にせよ、笑いながら作っていたのではないのは、間違いない。
 だから、キウィの気持ちや期待は絶対に、無駄には出来ないのだ。シオンは、そっと手でキウィの顔を撫でた。キウィの白い髪が、さらさらと風邪に揺れて流れる。
 ふと見下ろすと、キウィのパジャマのボタンが一つ、はずれていた。相変わらず、ボタンをはめるのは苦手なんだな。
 シオンは苦笑しつつ、そのボタンをはめ直してやった。
(すまない、一緒に居てやれなくて‥‥)
 血は繋がっていなくとも、シオンにとってキウィは大切な子供だ。自分が側に居ない間、辛い思いをしていないか、寂しがっていないか、心配している。
 だから帰ってきた時は、めいっぱいキウィに喜んで居て欲しかった。キウィ、これは有り難くもらっていくからな。
 シオンは小さく呟くと、フラフープを折り畳んで鞄に収めた。

■コメント■
 どうも、立川司郎です。キウィは兎のような性格という事ですが、兎を実際に飼っている者としては、どういうイメージで書いたものか悩みました。ペットの兎は、全然兎っぽくない子も居ますからねー。小動物は全般、環境の変化に敏感で神経質です。こういう一般的なイメージでいいのかな、と考えて書きました。

 
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立川司郎 クリエイターズルームへ
PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2003年08月19日

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