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『【未亜〜拭い去れぬ記憶〜第三章『裏切り』】 』
早春の雛菊 未亜1055
「んっ、んっ、んっ‥‥!? ごふっ!」
「バカ野郎! 零すんじゃねぇっ!!」
 モヒカン男の怒鳴り声が響き渡り、早春の雛菊・未亜は咳きこみながらビクッと身体を震わした。
「ケフッケフッ‥‥ご、ごめんなさい‥‥」
 大男が見下ろす中、少女はペタンと座り込んだまま、大きな赤い瞳を上目遣いに謝る。未亜の小さな口元からスープの糸が垂れ、一糸纏わぬ華奢な身体へと零れ落ちた。
 彼女は殲鬼から逃れた後、水浴び中に野盗に攫われたのである。馬車馬のように働かされ、ようやく与えられた食事は夜のスープだけだった。
「ったく、唯一の食事を粗末にしやがって! おい、誰か未亜にスープを飲ませてやれ!」
「へっへっへっ、それじゃあ、あっしが‥‥」
「!! も、もう、結構です! もう、お腹いっぱいです‥‥ひあっ!」
 痩せた男が名乗り出ると、未亜は必死に拒否して見せた。すると短めの汚れた緑髪をひん掴まれ、小さな悲鳴と涙の粒が舞い散る中、モヒカン男が睨みつける。
「飲まず食わずじゃあ可哀想だからスープを飲ませてやるって言ってるんだぜ? おめえも捨てられたいのかよ」
「ぎゃああぁぁああっ!!」
 また一人、若い女が一人の男に両断された。そう、ここでは飽きられるか、気に障った者は容赦無く切り捨てられるのだ。血肉が飛び散り、床が赤く染まると、強烈な匂いが溢れ出し、少女は身体を丸めて飲んだばかりのスープを床にぶちまけた。肩で荒い息を吐く未亜に痩せた男が近付いて来る。四つん這いのまま、潤んだ瞳で未だあどけなさの残る端整な顔をクッとあげると、ニッタリと汚い歯を覗かせて口の端を歪ませる男と目が合った。
「丁度良いじゃないか、腹ん中が空っぽになってよ!」
「はぶっ!」
――これは夢の続きなのかな?
 こんなに苦しいのに‥‥どうして悪い夢は覚めてくれないの?
 ああ、殲鬼様‥‥未亜を狂った人間達から救い出して下さい。

 未亜が何度目覚めても悪夢は終わりなく続いていた。
 野盗のアジトで叩き込まれる奉仕の術に、少女は次第に慣れていく自分に戸惑いを覚える中、未亜は初めて衣服の着用を許された。
「‥‥これを? 未亜に?」
 艶やかで可憐な衣装を両手で抱え、少女は信じられないとばかりにモヒカン男の顔を覗き込む。大男は戸惑う未亜に満足そうに微笑みを浮かべていた。
――あれ? この感覚‥‥あの時と似ているかも‥‥。
 未亜の脳裏に浮かんだのは殲鬼との生活だった。あの時もようやくして白いエプロンを与えられたのだ。
「上物だろ? 未亜、おまえの仕事はこの服を着て脱ぐことだ」
「‥‥えっ? 脱ぐ‥‥って? どういう、こと、です、か?」
 赤い瞳が不安に彩られてゆく様に、モヒカン男は嬉しそうに口の端を歪めて説明する。
「数日後におまえを始めとした娘共のお披露目を行う。そこでおまえは、この服を客が悦ぶような仕草で脱いでいくんだ。簡単だろ?」
「‥‥それだけ、ですか?」
 僅かに安堵の色を浮かべた未亜の頭を、モヒカン男の大きな手がクシャクシャと掻き回す。
「それでこそ教えた甲斐があるってもんだぜ。安心しろ、客には指一本触れさせねぇからよ。おまえは上玉の俺の娘だ!」
「は、はい‥‥ありがとう、ございます」
 数日前までは憎んでいた男の褒め言葉が、なんだかとてもくすぐったく感じて、未亜は肩を竦めて微笑んで、されるがままに緑色に輝く髪を撫でられた。
「先ずは稽古の後は毎日風呂に入れてもらえ、綺麗に珠の肌を磨いてもらいな」
「‥‥お風呂? (稽古って‥‥お披露目って、いったい‥‥)」

●お披露目の舞台で踊る少女
――数日後、未亜と数名の娘達は馬車に揺られていた。
 夜の闇の中、辿り着いたのは大きな演劇場のような所だった。薄暗い一郭で少女達は不安の色を浮かべて立ち尽くす中、一人、また一人と呼ばれてゆく。ある少女は直ぐに逃げるように戻って来たり、ある少女は顔を赤く染めて俯きながら涙を流して帰って来る。そしてある少女は数刻経過しても戻って来なかった。そんな中、未亜が呼ばれた。
「大丈夫よ★ あんたは覚えが良かったから♪ 幸せを掴んで来な」
「‥‥しあわせ?」
 今まで踊りの稽古をつけてくれた女がウインクで少女を激励する。未亜は彼女の言葉の意味が分からぬまま、何度も振り返りながら舞台へと誘われた。漆黒のカーテンを抜けると気だるい音楽が流れ、照明に浮かび上がった未亜へと歓声の波が押し寄せて来る。
「(すごい数‥‥いけない、踊らなきゃ‥‥」)
 羞恥に頬をポッと染めらがらも、未亜はフリルのついた可憐な衣装を揺らしながら、演奏に合わせてゆっくりとじらすように一枚、また一枚と脱いでゆく。次第に白い素肌が露になるに連れ、客席から歓声があがり、食い入る様に舞台の前へ駆け寄り、好奇に満ちた視線が注がれた。沢山の眼差しに射抜かれ、少女はピクッと身体を弾ませ、動揺の色を見せる。
「(!? うそ‥‥躯の芯が熱い? なんだか変だよう‥‥)」
 次第にふらふらと酔った如く、とろんとした表情を浮かべながら未亜は踊り、衣装を稽古通りに脱いでゆき、生まれたままの姿を曝け出した。欲望に染まった多くの目が彼方此方から注がれる中、少女は荒い息を弾ませ、身体が紅潮し始める。
「はあはあ‥‥もう未亜を見ないで‥‥だめ、こんなに見られたら未亜‥‥」
 ペタンと腰を落とした未亜は照明に汗を輝かせて、小さな膨らみを揺らしながら踊り続けた。切なそうに顔をあげて客席を見ても、照明の注がれていない空間は漆黒の闇だ。ただ、見えない沢山の目で犯されている感覚だけが少女を包み込んでいた。思考が停止し、胸の内に黒い渦が巻き上がる。
「はあ、はあ、はあ‥‥だめ! 未亜を見ないでぇ‥‥未亜の恥かしい姿を見ないでえぇぇっ!」
 恍惚とした表情のままググッと仰け反ると、小ぶりな膨らみを伝って口に咥えていた衣服がスゥーっと流れ落ちた。奏者も気を利かせたのか、演奏もタイミングよく終わり、後に溢れんばかりの拍手と歓声が、気を失った未亜へと注がれた――――
――あれ? また闇の中?
 少女が目を覚ましたのは何度目かの闇の中だった。
――ここはどこなのだろう? お披露目って終わったんだよね?
――あれ? 手足が動かないよう‥‥痛っ! 
 未亜は細い手足を動かして起き上がろうとしたが、それが叶わない事だと絞めつけられた荒縄が悟らせた。
「どうして? ご主人様! 未亜が飛んじゃったから怒っているの? 未亜がんばったよ‥‥なのに、どうして‥‥」
――ギィィィィッ‥‥
 鈍い音を立ててドアが開き、光が射し込む。僅かな照明に浮かび上がった自分は、生まれたままの姿で大の字に縛りつけられていた。
「お目覚めかね? 舞姫よ」
 赤い瞳に映ったのは、髪の薄い太った醜悪な男のニヤついた顔だ。指には幾つもの宝石が輝き、上質な衣装を纏っていた。
「ワシはこの辺では名の知れた商人じゃよ。ほう、綺麗な肌をしておるのう。おまえを買って正解じゃったわい」
「‥‥!! 未亜を‥‥買った?」
――ああ、夢なら早く醒めてよう‥‥

●あとがき(?)
 またまたご購入ありがとうございました☆ 切磋巧実です。
 第三章お届けします(笑)。ナイトメア未だ終わらずって感じですね。新たな舞台で待ち受ける試練とは果たして!? この悪夢の先に待つ真実とは? 全ての謎が明かされぬまま、未亜のダークサイドの旅は続く。
 よかったら感想送って下さい。お待ちしてます♪
PCシチュエーションノベル(シングル) -
切磋巧実 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2003年08月18日

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