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『Happy Birthday to Chisato 』
結城・二三矢1247)&月見里・千里(0165)

8月11日、結城・二三矢は日本に着いた。
愛する少女、月見里・千里にある物を渡すために。
大事な日…。
彼女の笑顔を見たいために。
常に心は彼女とともにある。
彼女もまた同じ。
たぶん彼女は忘れているだろう。
大事な日を。
しかし、思い出したときの反応を見たい。
電話をつかって愛する少女に話をしていた。
さすがに彼女はびっくりしていた。
「二三矢!?帰ってきたの?」
「そうだよ、ちー」
「でも、どうして?」
「たいしたことないよ。そうそう、ちーと明日デートしたいけどいいかな?」
「え?」
電話越しでも彼女が照れているのがわかる。容易に彼女が可愛い仕草をしている姿を想像できる。
「うん…いいよ。何処かな?」
「…また大きな遊園地ができたそうじゃないか?そこに行こう」
「いいよ。早く二三矢に逢いたいな…」
「俺もだ、ちー…」
しばらく愛を語り合い、最後に二三矢は千里に尋ねた。
「明日何の日かしってる?」
「ほへ?」
「いや…何でもない、お休みちー」
「えーおしえてよ〜」
「何でもないったら、明日ね」
「うん、おやすみ」
やっぱり忘れているか…二三矢は苦笑しながら電話を置いた。
二三矢は彼女に告白してから…千里のことを今も愛している。
彼女も告白されてから、学校に内緒で彼とつきあっているし、愛している。
二三矢の家族の事情、彼と彼女は滅多にあうことはない。彼が帰ってきたときに、もしくは彼女があらかじめ連絡をつけて海外に出ないと逢えないという、遠距離恋愛である。
しかし、想いは離れることはなく強く結びつく一方だった。
何処にいてもお互いを想える、すばらしいカップルである。

8月12日、快晴だが、相変わらず蒸し暑さは変わらない。
変わったと言えば、万年最下位の球団が優勝確定ということで、何処でもその球団グッツが売られているショッピングモール。そして近くについ最近できたらしい中規模の遊園地だ。
なんでも、観覧車が世界最大らしい。実際そこまで拘る必要があるのか疑問に思うが、それだけテーマパーク競争は激しいのだろう。
しかし、近場でこうした遊ぶ場所が増えるのはいいことだ。有名大型テーマパークだと待つだけで何時間も並ばされるのがオチである。
二三矢と千里は、二人だけの待ち合わせ場所で約束の時間に会った。
「ちー!」
「二三矢!」
二人はしっかりと抱きしめて再会の喜びを感じ取る。久々の愛する人のぬくもりに酔いしれた。
すこし間をあけて二人は離れる。このままでいては我を忘れるところだ。
「あ、二三矢焼けている」
海でも行ったの?といわんばかりに千里が尋ねた。
「ああ、地中海で家族と一緒にね」
「いいなぁ」
「でも、楽しくなかったよ…接待みたいなものでさ…」
「そっか…」
二三矢は千里の手を握り
「やっぱり、ちーといるのが一番だよ」
と彼女に言った。
「あたしも…」
千里は二三矢の手を握りかえし、二人はゆっくりと約束した遊園地に向かっていった。

遊園地の客入りは賑わっているが、十分に色々回ることができる。
ジェットコースターで爽快感を味わってから、次は何処にするか二人で考えていた。
「あれはどうかな?」
千里は指を指した。その先はお化け屋敷。
「おいおい、ちー。苦手じゃないのか?」
「いいの♪いいの♪」
「前だって“例の物”出してお化けたちを殲滅したって聞いたぞ」
「二三矢がいるから大丈夫だよ♪」
千里は二三矢の腕を掴み、引っ張っていった。
しょうがないなぁという顔をして二三矢は彼女に従った。
お化け屋敷と言っても特別な物だった。役者が迫真の演技で幽霊やらゾンビなどをこなす夏季限定のお化け屋敷だったのだ。
当然、1歩先まで襲ってくる。お化けたち。
その一寸が迫力あり、千里は二三矢に抱きついてきゃーきゃーと叫ぶ。
怪奇事件になれている二人だが、怖い物は怖いというか…なんというか。
無事にお化け屋敷から出てくる。
二三矢は半泣きになっている千里の頭をなでてあげた。
「まったく…ちーはだめだなぁ」
「だって〜、あんなに怖かったってわからなかったも〜ん」
二三矢はため息をついたが、こうしてお互いの体のぬくもりを感じることは悪くなかった。

昼食をすませたあと、ゆっくりと遊園地で遊ぶ。
遊びすぎて、二三矢は休憩したいと言った。
「まだ時間あるよ?」
不満そうに恋人が言う。
「まだ遊ぶ時間はいっぱいあるよ、焦らない」
なだめる二三矢。
二三矢はこの遊園地最大の建造物…観覧車を見ていた。
あの高さだと、この辺り一帯がきれいに見えるだろうと考える。
流石に時差ぼけは解消されていないのか…日本の夏にやられたのか…彼は寝てしまった。
大きな木陰で、千里が彼の頭を膝枕して眠っていた。
夏に珍しく涼しげな風が、2人をなでていった。


気がついた時には日が暮れていた。周りがネオンで照らされる。
それを合図に二三矢は起きた。
「時差ぼけ?」
「抜けきってなかった。ごめんね」
「ううん、いいよ。こうしてゆっくりするのもいいかなって」
「そっか…。ちー、あの観覧車に乗ろう」
二三矢は軽く千里の頬にキスをして、彼女の足が回復するのを待った。
観覧車に乗る二三矢と千里。4人乗りゴンドラにしては小さい。
1周回るのにだいたい30分らしい。14分かそこそこで一番高い地点にたどり着くという。そのあと1分ぐらいは止まる仕組みらしい。
どんどん運ばれて行く2人のゴンドラ。二三矢にとって、千里にとってこれが大事な思い出になる。
「きれいだね」
夜景を眺めて呟く千里。
「そうだね」
相槌を打つ二三矢。
「今日は何の日か知ってる?というか覚えている?」
「昨日も聞いたよね?」
そろそろ頂上に着くころ
「いったい何の日なの?」
千里が彼に訊ねると同時に、ゴンドラはゆっくり止まって揺れる。
二三矢は静かに指輪ケースを差し出した。
「Happy Birthday to Chisato」
「え?」
すっかり忘れていた自分の誕生日。それをしっかり覚えてくれている恋人。
ケースの中はステディリング…。
千里は嬉しさのあまり…二三矢に抱きついた。
「ありがとう、二三矢…ありがとう」
そして、2人は長いキスをした。

そろそろ動くはずの観覧車だが…。
「動かないね?」
右手の指に指輪をはめて首をかしげる千里。
「動かないね…」
ずっと頂上にいる。ゴンドラが動く気配がない。
「どうしたのだろう?」
故障と言うことはないだろうか?
その不安を感じたとき、天井のスピーカーから遊園地スタッフの声がした。
「お客様に申し上げます…、ただいま観覧車のシステムが故障…ガッガッピー、…まことに申し訳ありません」
「えっ――――!」
2人は同時に叫んだ。
観覧車頂上で30分も閉じこめられた2人。
無事に観覧車から降りることはできたが、千里は怖さのあまりずっと二三矢に抱きついて泣いている。
わんわん泣く彼女を宥める二三矢。

千里の指にはキラリと指輪が輝いていた。


End
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
滝照直樹 クリエイターズルームへ
東京怪談
2003年08月12日

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