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『夏の少年 』
ライ・ベーゼ1697)&東雲・天紫(1671)

誰だ、夏は誰もが待ちこがれるとほざいたのは、誰だ、胸弾ませる季節だとのたまったのは、
 そんな文句は本日昼下がりをもって変えさせて頂く、最高に最低だ――
「暑い……」
 心の中で悪態ついても状況は変わらない。東京は今、アスファルトがとろける日差しが包み、更に風もちぃっとも吹かず、熱は空気にこもり続ける。それに日本特有の高温多湿でうっとおしくて、嗚呼、
「死ぬ」「手ぶらで何言っちゃってんだこのタコ野郎ッ!」
 頭上から降る声は人の声ではない。「うるさい、バタバタと騒ぐな……」
 すると人じゃない物は、更にまくしたてた。それは鴉のようにギャーギャーと、
「バタバタしなきゃ飛べねーじゃね〜か」実際、「蚊の羽音よりかマシだぜ?」
 見た目は鴉ではあるが。正体が堕天使なる荒唐無稽の存在であれど。
 それはロザリオをあしらった銀の輪を首にかけた鴉、名前をマルファスといい、その羽音と叫びを手ではらう彼、ライ・ベーゼの使い魔である。
「つうか俺様に文句言うのって筋違いじゃねぇッ?筋肉足りてない坊やに代わって、重いもん運んでやってんだぜ?」
 そう言ってマルファスは、足で掴んだ紐、で縛った三冊の本、をぶらぶらと振って見せ付けた。神経を逆撫でする行為だが、言い返す気力はライには無い。。
 実際ライは体力が無い。椅子に張り付き本を読む生活は、頭以外の運動は出来ず、身体が鍛えられる訳が無く日常生活にすら支障が出る。外出すればそれだけで、真夏の暑さが細身の肉をうちのめし、現在のようにへろへろりとなりまして。この季節、玄関からの一歩は崖から足を踏み出すのと彼にとっては同じ。
 だがそれでも出かけざるを得なかった、このアホ鴉をお使いにするという手もあるが、それは相手に対して失礼である。まだ知り合って間もない相手だが、いや、だからこそ、約束は、
 本を返す日は守らねばと、やっと着いた目的地の前で思う。


◇◆◇


 東雲神社、それが場所の名前である。
 鳥居の根元からは石畳が走り切った先には、境内と賽銭箱、そして巫女、
 彼女の名字が東雲である事からも解る通り、この神社の一人娘である。名前は天紫。
 彼女もライと同じく外に出ていた。勿論彼と同じく目的があるからだ、いや、目的というのは大げさか、理由というのもふさわしくないし、思いつきあたりが妥当であろうか。
 訪れた酷暑に対応した彼女の行動は、打ち水である。手に下げたおけに水を張り、ひしゃくをもって水を撒く、結構な労働、だが申し訳程度だとしても一陣の涼が吹く事と、それに微かに虹がきらめく事で、東雲天紫は笑顔である。そしてその笑顔は、
「東雲」
 声かけられて振り向けば揺れる、アメジストのように輝く髪と、美しく調和していた。光の加減で色が変わり、その髪はまさに宝石のようだ。酷暑に参っていたのに、思わず笑みが零れる程、だが、
「うぉぉぉぉっ!グラマスバディっ!」
 アホ鴉は彼女のもう一つの魅力、豊満な肉体に着目した、そして恋は(エロは)ジェットコースターが如く、「今こそ目指すぜ桃源郷っ!!」二つのたわわな果実に向かう、
 途中でわっかが絞まる。「ギャァァッァッ!?く、苦しいぜチアノーゼ!ああ目の前に目指した物とは違う天国が広がるぅっ!?」
 叫びながら地面に墜落した後、飛ぶ事に使わない翼でギリギリ締める首輪に伸ばすが、緩める事は出来やしない。この十字架付きの首輪はファッションで無く、行過ぎたアホへライがお仕置きする為に存在する。つまりはゴクウのアレである。
 輪の直径を死の手前ギリギリレベルにし続けながら、喚くカラスの足から本を取るライ、そして土を払ってから東雲にそれを手渡した。少しカラスを気にしながらも彼女は応答する。
「どうでした?お気に入りになられました?」
「なかなか興味深かった、特に『某の定理』については」
 そう言って本の談義に花を咲かせ始める二人、勿論カラスは放置して、「ああ川が見えるじゃねぇか……イイ女でも流れてこねぇか」
 マルファスがやばい幻覚を見始めた頃、
「あの、立ち話もなんですから、お茶でも飲んでいきませんか?」
 他意は無い純粋な厚意を切り出した。暑さに参ってる彼を気遣って。口が開くよりも早く、ライの足は休みたいと叫んだ。感謝する彼、……とりあえずあがるにあたり、
「マルファス」
 この生ものも連れていかねばと、声かけると鳥は、
「ああ俺様はもう駄目だぜこんな野郎に仕えて俺は不幸せだった」
「もう首輪は緩んでるだろ」
 へ?と鴉は身体をあげる。そしてライの言うとおり縛りは解けていた。ていうか流暢に喋れてる時点で気付けよ。ともかくマルファス、こんな仕打ちをした野郎に文句を言おうと彼の顔の前まで移動した時、
「大丈夫ですか鴉さん?」
「大丈夫じゃないから、」目標変更回頭90度、「その胸で癒してくれぇっ!」
 再び首輪が締まったのは言うまでも無い。


◇◆◇


 紫水晶の色は、日の下に居る時のみ魅せる。
 東雲のもともとの髪の色は青だ、それが太陽の光と混ざると、あの神秘的な色をみせる。だから台所の彼女は今、青色の髪の持ち主だ、それはそれで、良い。
 お盆の上には冷用の玉露、細身のギヤマングラス、それにライが気に入りそうな本三冊。厚みにもよるが、三冊という数が彼の鴉が搭載できる最重量らしい。(最もこれは本人(鳥)の言で、実際はもっといけるはずとはライの弁)用件全てを載せたお盆を抱え、東雲は縁側に座っているライの元へ、すると、
 彼は、あれを見ていた。
 やはり目に入るかと思いながら、
「どうぞ」
 冷たい緑茶をグラスに注いで差し出す。エメラルドグリーンの液体は青みを帯びる細身の器と良く調和していて、一つの美を作り出すが、それに気を留める事は一瞬だった。すぐに視線を戻す彼に、東雲、
「やっぱり、気になりますか?」
「ああ」
 それをみつめながら、ライは 差し出されたお茶を飲み下す、身体に心地よい風が通り抜けて、熱がすっと引いた。一杯の力に感嘆しながら、ライは聞いた。
「何かのお供えか?」
 妥当な予想である。それはしめ縄で囲われた、食物の群れ。野菜や果物が所狭しと積まれていた。神への捧げ物であろうか。だが東雲は首を振る。
「今朝頼まれたのですが」
「ああ」
「どうやらあの野菜に、霊が宿ってるらしく」
「……まぁ、樹も意思をもつものだし、……それで、あの野菜は何を言ってるんだ?」
「それが」東雲は目を伏せる、「食べられてたまるかって」
「………珍しいな」
「ええ、もともと農家の直売場に並べていたみたいなんですけど、突然客の前でそう叫びながら、あの野菜が暴れだしたとか」
「それであんたに託したって訳か」
「はい、ですからとりあえず、結界を張ってその中に」
 入れて、と、
 顔を合わせてた二人が、再び野菜盛りを見れば、
 カラスがスイカをほじくっていた。
 しめ縄切って。
「ゲーッぬれぇっ!なんだよこれ全然冷えてねぇぜ!?姉ちゃん冷蔵庫にいれて」
 ―――マルファスが東雲の方を向くより、ライが輪を収縮させるより、東雲が結界を張り直すより、早く、
 野菜の群れが浮き上がった。
「な、」突然の事に、「なんじゃこりゃーっ!?」
 某刑事のセリフを叫びながら、カラスがライの横顔に着く頃には、
 顔はかぼちゃ、身体はナス、腕が胡瓜で手がトマト、足は大根で形作られた、野菜の怪人みたいなのがっ!そして、
 怪人は手を突き出してそこからじゃがいもを撃ち放つ――ライの行動は早い、迫り来るじゃがいもに対し、
 マルファスを掴んで無理矢理くちばしを開いた。
「もごぉっ!?」
 開いた口へとジャスミートするじゃがいも、喉が盛り上がり強制的に胃に収納される過程に起き、首輪絞められるよりも苦しさ感じた後、「な、何すんだてめ」文句を言おうとするが、
 今度は白菜が、「いやこれは物理的に無理じゃねーかっ!?入らないはいゲフゥッ!?」
 その後も襲ってくる野菜を、全てマルファスで防御していくっ!しかしそれも限界を訪れ、マルファスが本日二度目の幻覚を見始め、
「くっ」
 口からアスパラガスをはみ出したマルファスを盆の上に置き、ライはいよいよもって身構える、こんな野菜相手に力を振るうのも情けないが、妥協して、行動に移る直前、
「ライさんっ!」
 後ろから、閉じた障子の向こうから声が聞こえる、
 その時野菜は一斉放射した、ミサイルのように大根が、とうもろこしが、トマトが、
 選択は一つしか無い。
 ―――託す
 ライは勢い良く障子をあける、その向こうには、

 足元に皿を配置した、包丁をもった巫女

 力いっぱいずっこけるライ、
 その上を野菜は通過していく、狙いはあの巫女、そして、
 完全包囲一斉攻撃、立ち上がったライの右手が間に合わない、光景は、

 一閃にて舞に変る

 それは華の散り際にも似た、儚くも力強い瞬き、
 両手に携えられた刃は向かってくる凶器と戯れて、
 彼女の足が屈められ、手もそれに習い、地に伏した時には、
 完了する―――

 皿の上に鎮座する野菜達、玉ねぎはみじん切りに、ニンジンはいちょう切りに、茄子に至っては見事な飾り細工が施されていた。見事な、技。
 だがその中心で、巫女は、悲しそうな顔を浮かべ。
「……こうするしか、」
 、
「無かったのでしょうか」
 後悔と懺悔に悩む巫女の姿は、
 ぶっちゃけ間抜けであるとライは思う。てかどういう状況なんだよ野菜に囲まれて泣くって。
 まぁ、それに、
「嘆く必要はないな」
「……え」
「野菜の命を絶ったって思ってるんだったら間違いだ」
 顔をはてなで埋め尽くす青髪の巫女に、ライは後ろを指す。
「野菜のお化けじゃない、低級霊の仕業だ」すでに逃げてそれは居ない、「ポルターガイスト、野菜を操って驚かしたんだろ……子供じみた奴だ」
「そうなんですか」心底関心する東雲に、ライ、
「それよりこの野菜の山どうするんだ?」
「そうですね、カレーでも作りましょうか」
「なんでキュウリの皿を持つ」
 それは煮込んじゃ駄目だろとつっこんだ頃かなぁ。マルファスが三度目の幻想のクライマックスシーンを迎えようとしてたの。(次々と来る追っ手をバナナの皮でころばせてニイタヤカマの頂上でライに囚われているヒロイン(Dカップ)を助け出した感じの


◇◆◇


「ではまた」
「ああ」
 まだ暑さが柔い明朝に再びの約束を結び、そして夏野菜のカレーを頂いたライが帰る時刻は、空が薄く暗くなる時分だった。太陽が陰ったのを見計らって彼等は家路に発つ。新しい本を運ぶカラスが、ライの頭に乗り手代わりの翼を振った。
 社の前で、鳥居の奥に消えてくる彼等を笑顔にて見送った後、
 初めて東雲は空を見る。去ってからでなければ、心配させてしまうから。
 こんな顔をしていたら――彼女は今、悲しげに
 満ちぬ月を見る。
 そっと、境内に腰掛ける。月を、見れば悲しくなり。
 月が満ちればその瞳から、滴すら零れる事もあり。世界が拒否する感情を、必ず抱く。それでも、彼女が仰ぎ続けるのは、
 懐かしく。
 それ以上の意味もなく、彼女は月を見ていた。
 青い髪と月光は、結ばれるのだろうか。屋根の下の彼女からはうかがえない。
 だから、
「おねーちゃん」
 青色の髪を綺麗だと思いながら、
 少年は声をかける。視線を下げる巫女、少年は、
「さっきはごめんなさい」
 頭を下げた。
 東雲は微笑んで、カレーを食べていきますかと、
 庭の方に足を踏み入れ―――


◇◆◇


「……で、近づいたら地面が抜けたと」
「はい、見事に」
 今日も今日とてギラつく太陽の、光線を後頭部にたっぷりあびなければならぬ姿勢、覗き込む。
 落とし穴に落ちた東雲天紫を。
 大人三人はすっぽり入る、広さに見合った深度の底で、汗と土に汚れた笑顔をみせる東雲に、ライ、
「子供の悪戯並だと思ったが、合点が行くな。……本当に子供の霊なんだから」
「でも成仏してくれましたし」
「これだけ見事に引っかかってくれれば、気は晴れるだろう」
 苦笑しながらライは、非力な腕に不安を抱きながらも、東雲に対し手を伸ばして、
 そこを狙われて鴉に押し落とされた。無様に潰れるライ、笑うカラス、締めるライ、叫ぶカラス、
 一人と一匹のやりとりに冷や汗を浮かびながらも、東雲は、手でひさしを作りながら、
「今日も暑くなりそうですね」
 太陽を仰いで、笑顔を浮かべた。
 紫水晶の髪を煌めかせて―――
 その事が何を意味するか解ってない彼女の代わりとばかり、腰を落としてうなだれたライは、カラスに助けを求めるよう指示した後、気を紛らわす為昨日読んだ本を再び開く。影になってる穴の中は割と涼しい、なんとか凌げそう。
 が、
 助け出されたのは、太陽が真上になって天然のサウナが出来た頃。息も絶えて這い出した彼等を助けたのが、例の探偵事務所に通う、
「……なんで、」死にかけライと、
 のぼせた東雲、「女性の方、ばかり」
「いやーニコチンジャンキーの所窓から覗いたらヤローばっかだったんだぜ?俺様的には美しいお姉様達と話したいから東京中を飛び回りついでに観光して」
 その後暫く首輪のサイズ、左の薬指にぴったりだった。
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
エイひと クリエイターズルームへ
東京怪談
2003年08月07日

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