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『■帰還■ 』
クリストフ・ミュンツァー0234
 英国から、一隻の船が連邦領土に向けて出航した。
 半年以上も戦い続けてきた戦場、英国から祖国に戻る短い船旅でクリストフ・フォン・ミュンツァーは、総統に面会してどのような報告をするべきか、文面をまとめていた。
 今まで記してきた日記‥‥いや日報という方が的確かもしれないファイルを、ミュンツァーは改めて見直した。元々これは総統に見せる為に書き始めたもので、そこには総統に対する紛れもなくミュンツァーの本音が語られていた。
 この任務に向かう時、ミュンツァーには大きな責任がのしかかっていた。UMEの大軍が迫る中、何故英国に行かなければならないのか。それはむろん、英国の状況を確認する為でもあったが、英国で何かUME軍を撃破出来る何かを発見出来るかもしれないし、その為を武器を確保出来るかもしれない。いや、そうするのが任務の一つだ。
 英国では、決して良い事ばかりではなく、多くの騎士達を犠牲にしてしまった。しかし、ここに書かれているのは、彼らに対する悲しみや後悔などではなく、総統に対して自分が期待に応えられなかったという言葉だけだった。そういう自分から脱却出来ていない事が悔しいし、情けなかった。
 クリストフは、無言でノートを閉じると、自嘲ぎみに笑う。
(やれやれ、とんだ隊長だな)
 いつまでも、総統に対する憧れを押しつける事しかしていない。そんな自分を日報ごしに見ている気がした。まるで、子供じゃないか。深いため息をつく、クリストフ。
 冷たくクリストフに語りかけるノートを横目に、レポート書き始めた。

 久しぶりのベルリンは、戦争が終結した事により活気に溢れていた。ベルリンにもUME軍が迫り、銃撃戦が行われた事をクリストフが聞いたのは、参謀本部内だった。町はずれに銃跡があちこちに残されていたから、そうなのだろうとは思っていたが、そこまでベルリンが追いつめられていた事はショックだった。
「クリストフ、西部方面軍をくい止めたのはきみの功績だ、と本部でも評価が高いよ」
 本部で仲間に声を掛けられ、クリストフは微笑を返した。
「別に、そんな大層なものじゃないよ。出来る時に出来るだけの事をした、それだけだろう?」
 驚いた事に英国でのクリストフの話は、本部内でもよく知られているようだった。英国の情報だけでなく、ここには各地の情報が集積され、話し合われている。
「英国とミュンヘンがうまく連動出来た、その結果だよ。そんな風に手放しで祭り上げる暇があったら、もっと戦後処理に専念して欲しいね」
 クリストフは仲間にそう言い残すと、総統に日報とレポートを和渡すようアイアンメイデンに頼むと、ベルリンの自室に戻った。
 久しぶりに会った総統閣下は、クリストフのレポートに熱心に目を通すと、柔らかな笑みを浮かべてクリストフの働きに感謝を示した。よく西部戦線に増援を送ってくれた、ありがとう、と。
(増援が来なければ、私が行って戦わなければならないかと思った)
 総統はそう悪戯っぽくクリストフに言った。
「しかし、EGのスタッフの問題や、騎士の多くを犠牲にしてしまいました。申し訳ありません」
 クリストフは、深く頭を下げた。
 顔を上げたクリストフに、総統の顔が映る。総統の手には、クリストフが書いた日報があった。本部内に提出するレポートは、これとは別に仕上げてある。
(クリストフ、お前が居なければ西部戦線は保たなかった。それは忘れるな。お前は英国調査隊、そして連邦に無くてはならない存在で、それはこれからも変わらない)
「‥‥了解しています」
 クリストフは、答える。
 いつものように、笑って答える。総統に、自分の中にあるこんな自問自答を見られないように、笑った。総統は、黙ってクリストフに日報を返すと、その傍らに目をやった。
 クリストフの傍らには、彼らの遺品があったから。

 この遺品を家族に渡す役目は、望んでクリストフが行った。彼らの死に立ち会い彼らを指揮した者として、最後に彼らに出来るのが家族に直接話しをしてやる事だと思う。
 十数人分の家族を全て回るのには、数日を要した。
 静かに遺品を受け取る者、泣き出す者‥‥。しかし、クリストフに怒鳴る者は居なかった。騎士たるもの、弱き者を守る為にこの命を掛ける。連邦の人々を守る為の重要な任務で、その命を掛けたのだ。クリストフは、そう静かに伝えた。
「クリストフ、わざわざ自分で遺品を返さなくともいいんじゃないか? 帰ったばかりで疲れているだろうに」
 仲間がそうクリストフに言ったが、クリストフは首を横に振ってその意見を拒否した。
「彼らの最後に立ち会ったのは、僕だ。死んでハイ、これ遺品ですってメイデンから事務的に渡されるのは、あんまりじゃないかな」
「そうだけど‥‥」
 何だろう。自分は、自分を納得させる為に、遺品を家族に手渡してまわっているのだろうか。それとも、総統に対しての面目とか、それを気にしているんだろうか。
 クリストフは自室に戻り、再び自分自身を確認するようにノートを開いた。総統が見ていたそのノートには、最後に総統の自筆で言葉が書かれていた。

 クリストフ、きみは自分が思っているよりもずっと他人(ひと)に対して責任厚く、思いやりの深い騎士だと、わたしは分かっているよ。それは、今までの君のこの日報に記されている。
 そんな君だからこそ、私も騎士達も、調査団も君を頼りにしているのだから。

 クリストフはノートを手に取ると、総統の元に向かった。時刻は九時を越え、アイアンメイデン達も面会をためらった。しかし、今この事を聞いておかなくてはならない。クリストフは総統の自室で彼に面会した。
 閣下、ありがとうございます。お気遣いには及びません。
 クリストフがそう答えると、総統は微笑した。
(そうか。‥‥頼りにしているよ、クリストフ)
「はい」
 クリストフは短く答えると、総統の部屋をあとにした。

 そして、クリストフは、一時の休暇のあと再び任務に向かう。彼らが任務を遂行する上でどのようなフォローをすればいいのか、どうサポートしていけばいいのか。それらを考えながら、常に冷静に彼らと自分を見つめる必要がある。
 日報を見る事で、クリストフは自分を見つめ返す事が出来る。
「英国の復興を連邦として支援するそうですね。‥‥私も、英国に戻りたいと思います」
 クリストフは本部にその事を告げると、あの日報を手に取り、英国行きの準備を始めた。

(担当:立川司郎)
PCシチュエーションノベル(シングル) -
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PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2003年08月06日

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