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『【Fire in Maniac Comic】 』
アブドゥル・ヴァイザード0013)&ジャビル・ラフマン(0020)
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「まあ! まあ☆ えぇっ!? す、すごいですわ♪」
 少女は小冊子を読んでいた。ページを捲る度に上擦った声を響かせている。多分に顔を窺えば、頬に手を当てて紅潮させているに違いない。そんな興奮を隠さない声だった。
(‥‥いかん、いかんぞ、このままではいかんぞ!)
 我が幼妻の背中を見つめていたジャビル・ラフマン曹長は、苦汁の表情を浮かべて握り拳を震わす。渋い男の太い眉が戦慄く。そんな彼に歩み寄ったのは、アブドゥル・ヴァイザード中尉だ。
「まさか、彼女がハマってしまうとはな‥‥」
「ヴァイよ、我輩はどうしたら良いのじゃっ!」
 上官であり元部下、そして親友でもある男の肩に縋り付くジャビル。ヴァイザードは「しっかりしろ!」と鋭い眼光で一喝する。
「これは俺達にも責任がある‥‥あんなモノ燃やしてしまえば良かったんだっ!」
 視線を逸らす上官は苦虫を噛んだような表情を浮かべていた。後悔、先に立たずとはよく云ったものだ。何気なくベットの傍らに置いてしまった『悪魔の本』。それを手にしてしまったジャビルの若妻。男たちに恐怖の連鎖を引き起こした小冊子は、若い娘には魅惑の宝石と見えたのだろうか‥‥。ヴァイの言葉に彫りの深い鷲鼻の男が応える。
「‥‥やるかのう、ヴァイ」
「ああ‥‥あんな(恥美な)世界は認めやしない!」
「じゃが、MSで潜入は厳しいぞい」
「確かにな。迅速に行動し、見えない所で燃やしてしまえば良い」
「おぬしも腹黒い男よのう」
「あんたの教え子だからな」
 二人の男は二ヤリと口の端を歪ませた。
――中東の存亡を賭けたヨーロッパでの戦い。
 戦いで何を得るのかは人それぞれである。だが、戦いの果てに同人誌新刊を得た男はどうすればよいのか? これはそんな男達の苦悩に満ちた物語である。
 今、ミュンヘンで暗躍した一つの事件が紐解かれる――――

●同人誌を狩れ!
 月明かりが薄っすらと漆黒の闇を照らす中、二人は行動を開始した。工作活動に必要な装備があれば、MSが無くとも知識を持ち合わせた彼等には十分だ。鬱蒼と茂る森林地帯でヴァイの駆るオフロードカーを止め、周囲を警戒しながらスターライトゴーグルを装着して、ミュンヘンへと忍び込む。二ヶ月前に入手した地図を頼りに、闇に蠢く影の如く壁に同化し、息を潜めて、ターゲットへと接近してゆく。
――それは大きな工場だった。
「開けられるか?」
「問題ない」
 ピッチリとした漆黒の破壊工作用スーツを纏った二人は、難なくロックを解除、細心の注意を払ってドアを開けた。そこに広がる光景は何台もの印刷機と積み重ねられたブツ。そしてIRゴーグルを装着した彼等の紅い視界に映るのは、蜘蛛の糸の如し張り巡らされた警戒網だ。
「流石に恥美な騎士団だけはあるな」
 ヴァイとジャビィは持参した鉄骨のような物を展開させ、赤い糸の隙間へと滑り込ませる。メカニック技師に作らせた特殊で複雑なギミックを備えた潜入工作アイテムだ。どうやら、それを足場にブツまで向かうらしい。
「ジャビィ、俺はメモリと座標を調整する」
「うむ、任せておけ。まだまだ若いモンには負けぬわい」
 ジャビィがベルトの装備と鉄骨を固定し、警戒網へと侵入して行く中、ヴァイが数ミリ単位に鉄骨を上下前後させ、その先端に鷲鼻の男が別の鉄骨を組み上げ更に移動する。地道な作業だが、最も騒ぎにならない最善の策だ。そして彼はターゲットに接近した。
「例のブツか?」
「間違い無いのう。どれ、運ぶぞい」
 後は簡単だ。ブツを数冊単位でリュックに背負い、鉄骨を渡って往復すれば良い。これまた地道な作業だが、朝になっていたら笑えない話でもある。
「よし、これで最後じゃ」
「急げ、大分時間を消費した」
 ジャビィが最後のブツを運んだその時、リュックから一冊の小冊子が零れ落ちた。スローモーションのように小冊子が落ちる中、手を差し伸べるものの、警戒網に『それ』が触れる。忽ち静寂の中に響き渡る警告音。こうなれば脱出を急ぐのが先決だ。鷲鼻の男が一気に駆け抜け、鋭い眼光の男が鉄骨を素早く畳み込む。大量のブツをリュックに背負い、彼等は工場から飛び出した。
≪侵入者だ! 製本工場に侵入者がいるぞ!≫
≪えぇ〜! やっと完成させたのにぃ〜≫
≪いたわ! 止まりなさいっ!!≫
 いくら砂漠で戦い抜いた兵士といえど、大量の荷物を背負ってサイバーを振り切るのは不可能に近い。そんな緊迫した状況下で二人の男は不敵な笑みを浮かべていた。刹那、轟音と共に工場の中から炎が噴き出し、追撃する騎士等を強襲する。ヴァイは用心の為にプラスチック爆弾をセットしていたのだ。
≪いやあっ! アタシ達の聖地がぁ!≫
≪はやく消化してぇ!≫
 ペタンとアイアンメイデン達が腰を落とし、この世の終わりの如く甲高い悲鳴をあげていた。
「ジャビィ、あれを使うぞ!」
「うむ! それしかあるまいて!」
 彼等は工場に潜入する前に調査した先へと駆ける。視界に浮び上がるは佇んだままのIM1『リベルタ』だ。二人はMS格納庫の整備士を叩きのめすと、素早く胸部ハッチに滑り込み、起動スイッチを次々に押してゆく。セラミックエンジンが低い唸り声を轟かせ、頭部にあてがわれた四つのカメラアイが赤く輝いた。
「突破するぞ!」
『了解じゃ!』
 突然目覚めた機体に動揺したのはアイアンメイデンやサイバー騎士達だ。
≪MSを動かしただと!? UMEの奴等か!?≫
≪早く新刊を取り戻してよ〜!≫
≪なに? 新刊だと?≫
 騎士が素っ頓狂な声をあげる中、リベルタは肩部からスモークポッドを射出し、12.7mmオートライフルの弾丸をバラ撒く。周辺が白煙に包まれる中、二機のMSが疾走する。
「チッ、エリドゥーとは比べ物にならないな。反応が鈍い!」
『こんな機体で我輩等と戦っているとはのう‥‥ヴァイ、来よったぞ!』
 カメラアイに行く手を阻むリベルタの機影と騎士が確認された。
≪止まれ! 盗みは罪だ! そんな常識も分からないのか!?≫
「俺は認めない! このブツは返す訳にはいかない!」
 再び放たれるスモークポッドが視界を塞ぎ、持ち前の操縦技術で飛び込んで来た高周波ブレードの切先を躱し、敵機に銃弾を叩き込んでゆく。MSに乗りさえすれば、二人のコンビネーションは絶大な効果を発揮していた。
≪動きが良い!? 生粋のMS乗りか?≫
≪しかし、何故に狙ったのが同人誌なのだ?≫
≪それよりMSを奪われたのよ!≫
≪待て! 罠かもしれん、深追いはするな!≫
 騎士等は陽動と察したのだろうか。事実、ミュンヘンはザルツブルグルートとフュッセン北上ルートに進軍されようとしていたのである。追撃を止めて遠ざかる機影に向けて銃声を響き渡らせていた。
――こうして彼等は辛くも脱出に至ったのである。

●炎の中での誓い
「見ろよジャビィ、捕われの兵、陵辱特集号だってよ」
「開くでないぞ! さあ、用意は出来たぞい」
 二人は茂みの奥深くで息を潜めた後、強奪した同人誌を眺めていた。その表紙に映されているのは、長い黒髪を結った端整な風貌の少年が怯える姿と、連邦騎士が恍惚とした表情を浮かべる姿だ。恐らくページを捲ればUME兵と連邦騎士の乱れた痴態が繰り広げられているに違いない。
「忌々しい本だ! 燃え尽きるが良いっ!!」
 彼等は隠密モードのMSで1箇所に深く穴を掘り、その中に同人誌を放り込んだ。そして火を点けたのである。漆黒の世界に紅蓮の炎が照り返し、二ヤリと笑みを浮かべる二人が凶悪に浮き上がっていた。
「「フッ、フフフッ‥‥フハッハッハッハッ!」」
 ひとしきり邪悪な笑い声をあげた後、ヴァイとジャビィは互いに顔を見やり、不敵な笑みを浮かべる。
「俺達の闘いは始まったばかりだ」
「そうじゃな‥‥全ての同人誌を狩る為に!」
「「アッラーフ・アクバル!!」」

 一方ミュンヘンでは。
≪これは新刊を狙ったマニアの可能性もあります!≫
≪待って、もしかすると対抗サークルの仕業かもしれないわ≫
≪これから製本してもコミケに間に合うのかなぁ?≫
 後に二機のMSと共に発見された燃えカスから、同人誌は燃やされた事が判明。その行為に全ての同人作家は恐怖した――――

 この事件が表に顕われなかったのは簡単だ。アルベルト率いる全ての騎士が同人誌に夢中な訳では無く、ミュンヘンにとっても大した被害では無かったのである。まして、たった二人の潜入者に気付かなかったとあれば騎士団の、ミュンヘン要塞の恥というものだ。
 尤も、同人作家等には絶大な被害ではあるのだが‥‥。

●あとがき(?)
 ご購入有り難うございました☆ 切磋巧実です。
 まあ、アナザーって事で(笑)。きっと同人誌狩りは終わらぬ戦いの如く続く事でしょう。
 頑張れヴァイザード! 全てはアッラーの導き!
 頑張れジャビル! 愛しき妻を守る為に!
 よかったら感想下さいね☆ お待ちしています♪
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PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2003年07月24日

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