▼作品詳細検索▼  →クリエイター検索


『カフェ・モーニング交響曲(シンフォニー) 』
清音・響0266)&ユーリ・ヴェルトライゼン(0204)

 その店の珈琲は、やたらと美味しいと大評判であった。
 けれど、そのコツは秘密です☆
 お洒落な花模様の珈琲ポットにお湯を注ぎ、客に背を向けたままで微笑む青年が一人。
 砂糖を取り出し、ティーカップを準備する。さて、と一つ、挨拶を交し合う常連客の方へと視線を投げかけて、
 今日も朝から一仕事、ですね。
「ユーリ君、珈琲運んでくれませんかぁ?」
 朝だから余計に、君、不機嫌だとは思いますけどね。
 内心呟き、青年は――清音 響(きよね ひびき)は、同僚の名前を呼んだ。
 一つに纏めた黒髪をふわり、と靡かせ、くるりと背後を振り返る。
 朝から忙しい、客商売。しかもこの店は、巷(ちまた)では少しばかり有名な、賑わいのある店の一つであった。
 しかしそれでも、決して悪い気はしない。ギャルソン服に袖を通し、少しだけ無愛想なユーリと挨拶を交わして始まる一日は、これでいて結構楽しいものがあるのだから。
「はい、お待たせ致しました。珈琲ですよ♪」
 にこやかに、ソーサーに乗せた珈琲を客へと差し出し、カウンター越しに、いつもの要領で注文をとる。
「ご注文は何になさいますか?」
 ちんっ、と、トーストの焼ける音が響き渡る。漂う朝の香りに、新聞を読んでいた客はふ、と、顔を上げ、
「あぁ、すまないね、ちょっとぼーっとしてたよ、響ちゃん。ん、で、何だっけ?」
「ご注文は?」
 新聞を折りたたみ始めた常連客に、再度笑顔で問いかける。
 客は珈琲を一口すると、
「いやぁ、相変わらず響ちゃんの珈琲は美味しいね……これを飲むと、朝がきたぁ、って感じがするよ」
「そうですか?」
 お褒め頂きありがとうございます。
 やわらかな光を湛えた銀の瞳で目礼する響に、
「ん、今日も可愛いよ、響ちゃん。いやぁ、本当に、女の子なんじゃないかなぁ、ってね。思っちゃうな。ギャルソン服よりメイド服の方がお似合いじゃあ――」
 いつも通りの長話――今日も又、朝も忙しいと言うのに響がその客の元に縛り付けられそうになる。
 が、しかし、
「……な、んて、冗談ですよ、冗談、ははは……」
 突然客が、乾いた笑いを洩らした。
 その客の異変に、響がきょとん、と顔を上げたその先には、
「あ、珈琲、そっちのお客様に、ね?」
「わかってる」
 響が先ほど呼んでいた――小心者なれば、思わず足を竦ませてしまいそうな雰囲気を湛える青年が――響の同僚、ユーリ・ヴェルトライゼンが立っていた。
「……えぇっと、何にしようかなー……」
「で、そのサラダは向こうの客か?」
「違う違う、そっちのお客様ですよ。それから、客、じゃなくてお客様、でしょ?」
「向こうか」
「ちょっとユーリ君、君、私のお話聞いてます?」
 悩み始めた客を置いてきぼりに、いつものペースで会話を進める響とユーリ。この二人のやり取りが、店の売れ行きに多少なりとも貢献している事を、二人は全く知らないのだが。
 呆れたようにおどける響。
 ようやくユーリが去っていったのを確認し、客がほっと一息をついて話を再開した。
「――響ちゃん、今日のおかずは何なんだい?」
「え、おかず、ですか? えぇと、おかず、と言うよりは付け合せ、でしょうかね? 海草サラダや、ポテトサラダなんかがありますよ?」
「デザートは?」
「色々ありますよ? まずはメニュー表をご覧下さいな。自慢の料理が沢山ありますからね……お聞きになるよりも読まれる方がきっと早いかと」
「そりゃあそうだね。ん、じゃあ、今日のオススメってーのはないのかな?」
「あー、その前にまず、トーストの方をご注文いただけます?」
 今は忙しいですからね、と、悪戯っぽく頬を緩める。
 このお客様を含めて、皆が大事なお客様、なんですから。
 どうやら見た所、他の客にはユーリの方がきびきびと対応してくれているようだが、料理ができなければ客に朝食を提供しようもない。
 そろそろ先に焼いていたトーストも出来上がる頃、でしょうしね。
 内側に何人かスタッフも入っているはずであったが、響がそれにさらに少し手を加えるだけで、料理はかなり美味しいものとなる。
「あぁごめんね。それじゃあ、いつもので」
「はい、かしこまりました☆」
 元気良く答えて、チーズトーストを! と裏に向って手を上げる。その間にも手際良く、カウンターに座る客達に注文の品を違い無く届けながら、
「で、お決まりになりました? ちなみに今日のオススメデザートはスイカのフルーツ和えですけれど。ね、季節にぴったりだと思いませんか?」
「……レタスが食べたいね」
「は?」
「しかし、レタスに海草を和えると海草サラダだ……うーん、悩むね。デザートはできればメロンが食べたい。しかしスイカも食べたいな……丁度新聞に載っていたのだよ。メロンの産地の話がね。でも、スイカの話を聞くとスイカも食べたくなる」
「はぁ、」
「スイカならぬメロンの名産地〜♪ だ」
「……えぇっと?」
「――悩む所だね」
 笑顔で歌を歌い終えるとすぐに表情を戻した客は、そのままもう一口珈琲を啜ると、再び新聞を読み始めた。
 それきり言葉を失ってしまうのは、この客ならではの話。響はいつも通りにこのとりとめのない客の事を、あまり気にしない事にした。
「それじゃあ、決まったらお教えくださいね?」
 ああ、と客が頷いたのを確認し、響はオーブントースターの方へと駆け寄って行った。ぴぴぴっ、と響き渡る電子音。
 ――それから、暫く。
 響が他の客と、他愛の無い話を始めた頃の話だ。
 びくりっ、と。
 新聞を読んでいたあの客が、再び身を震わせたのは。
「……ユーリちゃん」
 ふと気がつけば、客の背後に細身のギャルソン服姿の青年が立っていた。
 長い銀髪をゆるりとみつあみに纏めたユーリが、緑の瞳で客の方を見つめている。
 慌てて客は、新聞を置いた。
「ああああああ、っと、えと、」
 無言の圧力だった。
 ユーリは何も言わない。客を、睨みつけているわけでもない。むしろ、引きつってはいたが客に笑顔を向けているほどだった。
 が、しかし、後ろに立たれるだけでこれほどの圧力感を感じるのは、一体なぜなのだろうか――果して、客の方に後ろめたい思いでもあったのか。
 無論、客は知らない。
 ――とっとと決めろ、ボケ。
 などと。
 ユーリが内心、痛いつっこみを入れてきている事などを。
「どうするどうする……レタスに海草を入れれば海草サラダ、メロンとスイカはどっちを食べるべきなんだ……!」
「……おい、客――お客サマ、」
「レタスが食べたい!」
 それじゃあレタスにすれば良いじゃないか。
 おいそこの客、と。
 呼び捨てにしてやりたい衝動を寸前の所で堪えながら、ユーリは必死に微笑を作り続ける。
 この職にいる人間がこのようにあるのもどうかと思われるのだろうが、実際問題ユーリにとって、接客事は得意な分野ではなかった。ユーリは元々、この業界にいた人間ではないのだから。
 むしろ、正反対な世界で生きていた人間だ。
「ユーリ君、今日も素敵な笑顔ですよ〜」
 カウンター越しに、トレーを抱えた響が茶々を入れてくる。間接的に、その微笑みはちょっといけませんねぇ、と言われているのはわかっていたが、だからと言ってそう簡単に物腰がやわらかくなるはずもない。
 第一ユーリは、軍人の出なのだ。
 当然、
「いやまてよ、そんな事よりユーリちゃん、背中に埃がついて――」
「触るな」
 客がユーリのベストへと手を伸ばした瞬間、ユーリは反射的にポケットに手を滑り込ませていた。抜き出した反動を利用し、手首を躍らせる。
 刹那、
「ッ?!」
 たたたたたんっ! という軽い音が、テーブルのカウンターへと突き刺さった。客が目を見開いたその先では、氷のような輝きが更なる恐怖を誘っている。
 びくり、と、身を震わせる客の目の前で、
「駄目じゃないですか、ユーリ君。店内では暴力禁止です。わかりました?」
 細い針の群れが風を切り、ユーリの服へと伸びていた客の手のすぐ横を通り抜けたのだ。
 無論刺されば、痛いに決まっている――否、ユーリの飛針の腕前であれば、痛い、だけでは済まされないかもしれない。
「そんな事より響、調理器具の機械、壊すなよ」
 微笑む響にわかりきった事を、半ば冗談で、出ない言葉の代わりに付け加えた。
 響が機械音痴なのは有名な話であったが、なぜかそんな彼でも、調理機器だけはきちんと使いこなす事ができる。流石料理の天才が故、とでも言うべきか。
「いつもいつも、同じ事ばかり……っと、できたみたいですね。ポテトサラダ」
 会話を打ち切り、駆け出す響。ちんっ、というトースターの音色に、いつの間にかBGM代わりに流されていたチェロの旋律が重なった。
 朝の優雅な、カフェ・モーニング。
 朝も早くから、多くの人々が元気を貰いにやってくる店。
 しかし、そんな明るい店の片隅に、ぽつり、と無言のわだかまる場所が一つだけ。
 立ち去った明るい笑顔に、客の目の前には引きつり笑顔だけが取り残されていた。
「あー……」
 何となく、視線が怖い。口にこそ出さずとも、ユーリに何かをじりじりと訴えられているような気がして、
「……えと、デザートはメロンとスイカと両方を」
 緑の視線に脅えつつも、最初に沈黙を破ったのは客の方であった。
 もうあと十秒オーダーが遅ければ、ユーリの特殊能力で――精神支配能力のちょっとした応用で、適当なメニューを無理やり決めさせてられていたのかも知れない。
 ぴりぴりと、それでも笑顔を崩さぬように努力するユーリの我慢は、誰にとっても明らかなほどに限界に来ていたのだから。
「それから……レタスに海草を別にして付けてください……」
「はい、かしこまりました」
 ようやくの客のオーダーに、それだけを極力愛想良く答えると、ユーリはカウンターの中へと消えて行く。
 そこでふ、とすれ違った響が、くすりと笑いかけてきた。
「……今日は随分と気が長かったんですね?」
 お珍しい、と、言わんばかりに呟くと、響きは同僚の返事も聞かず、珈琲ポットを持って客席の方へと駆けて行く。
 まぁ、お話は後ででもできますしね?
 あれでいて、ユーリは意外とからかい甲斐のある男なのだ。とりあえずの閉店までは、まだまだ時間があるけれど。
「お客様、チーズトーストをお持ち致しました☆ それから、珈琲のオカワリはいかがです?」
 くるりくるりと、BGMの旋律に楽しく歌い合わせるかのように、響が元気を振りまいて行く。
 客との会話も欠かさない。ただ単に??店と客?≠ニの関係ではなく??人と人?≠ニの関係が大切。
 その様子をちらりと横目で見つめながら、お皿を手に取るユーリがそっと考えていた。
 まぁ、そうでなければ、夜、パブの店員なんて到底つとまらないんだろうけどな。
 ――どうして朝から、あんなに響は元気なんだ?
 と。

「一旦、閉店☆ ランチタイムは11時半からです☆」
 ラストオーダーをこなし、ありがとうございました♪ と、ユーリの追い出した客達に愛想良く笑顔で微笑む響にも関わらず、さっさと『CLOSED』の看板を掲げるその同僚。
 様々な微笑の余韻と、心地良い料理の香りが余韻を引く、日差し明るい小さな店内、
「さって、掃除したら昼食ですね〜。今日は何になさいます?」
「勝手に考えてくれ。響の料理なら何でも良い」
「おや、それってお褒めの言葉ですか?」
「単純に??何でも食べれる?≠ニ言っただけだ」
 暢気に伸びをする同僚に、ギャルソン服の埃を払いながらユーリが付け加えた。
 いつものペースに、思わず響が苦笑する。
 相変わらず背後に流れ続ける、チェロの歌声。
 ――どうやら、今日も、
 無事に平和に、時間が過ぎて行きそうですね。
 当たり前の、日常が。
「さ、午後からのお仕事にも備えましょうか」
 天井のスピーカーを見上げながら、響は蝶ネクタイの色を正した。
「何せ私達は、忙しいんですから」
 営業時間は八時半から十時・十一時半から十四時半、十六時から翌日二時まで。
「朝と昼担当、夜担当の二シフトですよ? 暇な時間なんて、とてもないんですからね?」
 すぅ、と大きく息を吸い込むと、響はユーリの背を叩き、にっこりとその瞳を覗き込んだのだった。


Fine



☆ Dalla scrivente  ☆ ゜。。°† ゜。。°☆ ゜。。°† ゜。。°☆

 まず初めに、お疲れ様でございました。
 今晩は、今宵はいかがお過ごしになっていますでしょうか。海月でございます。今回はご発注の方、本当にありがとうございました。
 又、今回も締め切りギリギリの提出となってしまいまして申し訳ございません(謝)
 ギャルソンですかっ!――との事で、しっかりツボにはまってしまいました(笑)デュナン君にはギャルソン服もお似合いですねv
 デュナン君と言えば、このお話、無意識のうちに『ユーリ』を何度も『デュナン』と打ち込んでおりました。某デュナン君よりも少しクールで冷静なイメージだとの事で、このような形にさせていただきましたが……。
 響さんも素敵ですね♪ 一人称が??私?≠ナしたのと、礼儀正しくお話になるとの事で、全て敬語にさせていただきましたが……ユーリ君にしても、響さんにしても、イメージと違いましたら申し訳ございません(ぺこり)
 ともあれ、短い上に乱文となってしまいましたが、この辺で失礼致します。次回はクレープにて宜しくお願い致しますね♪
 なお、PCさんの描写に対する相違点等ありましたら、ご遠慮なくテラコンなどからご連絡下さいまし。是非とも参考にさせていただきたく思います。

22 luglio 2003
Lina Umizuki
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
海月 里奈 クリエイターズルームへ
PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2003年07月23日

投票はログイン後にできます。

ログインはこちら












©Frontier Works Inc. All Rights Reserved.