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『【未亜〜拭い去れぬ記憶〜第二章『歪み』】 』
早春の雛菊 未亜1055
「いやあぁぁっ!!」「ぐはあぁっ!!」
 女達の悲鳴と男共の断末魔が響き渡っていた。奇声と共に鮮血や肉片が壁や地面に飛び散り、村は阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
「女は馬車に入れろ! 野郎は、この場で叩っ切れっ!」
 モヒカン頭の大男が指示を飛ばすと同時に、また一人、村の男が鋭い太刀に真っ二つにされた。彼等はこの辺で恐れられている野盗集団だ。金目の物と若い女を掻っ攫い、野郎や年寄りは全て一生を終える。情け容赦ない暴れっぷりだが、不幸にも正義の勇者が立ち寄る事は無かった。
「ずらかるぞっ!」
 野盗共は数頭の馬に跨り、アジトへと走って行く。荒れ果てた村に残されたのは、血溜まりと村人の死体だけだった。

 月を映す水面が、しなやかな白い足に掻き消された。青い水面を掻き分けてゆくのは、白い裸体を浮かび上がらせる早春の雛菊・未亜だ。腿辺りまで浸かったところで立ち止まり、幼さの残る顔をあげる。夜空には丸い月が輝いていた。ここは鬱蒼と茂る森の奥にある大きな湖だ。
 未亜は殲鬼なる魔物の根城と化した我家から飛び出し、逃げ回った挙句この森に辿り着いたのである。疲労に緊張の糸が途切れると、少女は衣服を脱いで生まれたままの姿となり、湖に足を運んだのだ。
「きれい‥‥」
 細い両手で水を掬い、未亜は満月に差し出すように腕をあげてゆき、そのまま身体へと零れさせた。水滴が張りのある柔肌に弾け、小さな膨らみを流れて股下へと滴り落ちる。汗ばんだ躯にひんやりと冷たい水滴が心地良くハーモニーを奏で、少女は安堵の表情を浮かべては水浴びを繰り返した。水滴を滴らせた身体が月明かりに照らされ、キラキラと妖艶に浮かび上がる。
「‥‥もう、終わったんだ」
――ガサッ!
「‥‥!! だれ?」
 刹那、木々が騒いだ。未亜はハッとして両手で胸元を隠して振り返る。その反動で大きく水面が揺れた。耳に流れて来るのは虫の奏でる声ばかりで、森の中を静寂が包み込む。少女の赤い大きな瞳が次第に不安に彩られ、急いで衣服を置いた草地へ向かって手を差し伸べた――――その時だ。
「‥‥っ!?」
 木々の合間から振るわれた切先が衣服を突き刺し、数人の人影が飛び出して来たのである。月明かりに浮かんだ顔は下卑た笑みを浮かべ、一糸纏わぬ未亜をギラついた瞳に映し出す。
「なっ‥‥なんだよぅ‥‥きゃうっ!」
 胸元を覆い、震える声を洩らして少女は後ずさるが、その背後へと忍び込んだ男の太い腕にいとも容易く羽交い締めにされた。
「やんっ! 離してよぅ!」
「へっへっへっ、夜中に娘が水浴びたぁいけねぇなぁ」
「なんだよ、まだガキじゃねぇか、ああん?」
「ひゃっ! 触らないでよぅ!」
 両腕を絞めつけられる痛みと露になった膨らみを晒され、未亜は羞恥に頬を染めた。後にゆっくりと水面を掻き分けて来たのはモヒカン頭の大男だ。血走った眼が少女を舐め回す。
「仕込めば金に化けるかもしれねぇな‥‥連れて行けっ!」
「やあぁんっ! いやあっ! 離してよぉ!」
 ジタバタと暴れるものの、屈強な野盗には全く効果が無かった。素っ裸のまま軽がると肩に担がれると、未亜は馬で連れ去られたのである。

●歪んでゆく心
「大丈夫かい? ほら、これをお着」
 野盗のアジトへ連れて行かれる中、気の毒に思った若い女が少女に着物を羽織らせた。気丈に振る舞う娘の笑みに、未亜は持ち前の元気を絞り出して微笑んで見せる。だが、その女の行為に賊は二ヤリと口の端を歪ませると、近付いて纏った衣服を破り裂いた。悲鳴と肌に洗礼を浴びせる音が闇に響き渡る。
「ガキに羽織らせるんなら、てめえが全部脱げばいいだろが!」
「やめて! お姉さんに乱暴しないでよ! 未亜、いらないから」
 パサッと羽織らされた着物を床に落とし、身体を震わせながらも未亜は賊を睨んだ。男は再び二ヤリと口元を歪めて女を解放する。
「まあ、早いか遅いかの違いだけだぜ! ガキに感謝すんだな」

――その意味は数刻後に知る事となった。
「そら、これ運んで頭んとこへ行って来い!」
 衣服の着用も許されないまま、未亜は盆に酒を載せてモヒカン男の元へと薄暗い階段を登ってゆく。次第に耳に飛び込んで来るのは喘ぎ声と悲鳴、男共の奇声と罵倒する声だった。一瞬、躊躇ったものの、出口が固く閉ざされた事も知っている。逃げ場は何処にも無いのだ。少女は先へと進むしかない。
「‥‥!!」
 視界に飛び込んだ光景に未亜は瞳を見開き戦慄を覚えた。それは正に酒池肉林の光景だ。素直に快楽に身を任せる者もいれば、抵抗するものの、力尽くで捻じ伏せられる者もいた。初めて嗅ぐ匂いが鼻をつき、少女は呆然と立ち尽くす。
「おっ、未亜、こっちだ! 何をしている早く来いっ!」
「‥‥はっ、はいっ!」
 モヒカン頭の大男に呼ばれ、慌てて未亜は傍についた。木のジョッキに酒を注がせて彼は口を開く。
「未亜、よく見ておけよ。次はお前がやるんだ」
「えっ? ‥‥未亜、そんなコト、できません」
 視線を逸らした少女の頬はホンノリと紅潮していた。不思議と躯の芯が熱くなる自分に戸惑う。だけど、自分には無理だ、そう光景が物語っていた。すると大男は豪快に笑い出す。
「そりゃお前には未だ無理だが、これなら出来るだろうよ」
 太くゴツイ指が、未亜の形の良い唇をなぞる。少女は何の事か全く分からなかった。だが、光景をチラリチラリと窺い、やがてその意味を知る事となる。
「まあ、今は見学実習ってとこだ。宴の後はお前が綺麗にしろ。次は食堂の掃除と便所の掃除だ。それが終わればアジトの通路の掃除、朝飯の仕度だ。手下に言われたら、その通りにしろ! これだけ働けば、このままでも寒さも感じねぇだろうよ」
「‥‥は、い」
 それから未亜は休む間もなく働かされ、毎晩の宴に付き合わされた。次第にエスカレートし、自我を崩壊させた娘が鮮血に染まる光景に胃から戻しそうになるも、ろくに食べ物も与えられない生活に、何もぶちまけるものが無い。
「目を逸らすな! ああならないようにしないとな」
 グッと緑色した短めの髪を掴まれ、酒池肉林から阿鼻叫喚へと変容する光景を無理矢理見せられた。身体が恐怖に震え、涙で視界が歪む中、未亜の心に黒い穴が広がり始める。
――こんなの‥‥殲鬼の方がずっとマシだよ‥‥
 本当の魔物は人間の方だ。
 そんな歪んだ感情が芽生えてゆき、未亜が絶叫を響かせる。
「いっ‥‥いやあぁぁぁぁぁっ!!」

――少女は赤い瞳を開いた。
 周りは暗くて何も見えないが、自分が仰向けに横たわっている事は分かる。とてつもない疲労感が襲い、身体は動かなかった。
「‥‥ゆめ?」
 野盗に攫われたのは悪夢だったのか‥‥。そう思うと未亜は、安堵に緊張が解けてゆく感覚を覚えるが‥‥。
――それじゃあ‥‥ここは、どこ、なの、か、な?
 漆黒の闇の中で未亜は例えようの無い不安に襲われた――――

●あとがき(?)
 ご購入有り難うございました☆ 切磋巧実です。
 第二章をお届けします(笑)。正直、次は無いかなと思っていましたが、また未亜ちゃんの物語を綴れて嬉しく思っています。
 さて、第二章いかがだったでしょうか? フルに思考を働かせてヴィジョンを描いて下さいね(爆)。
 ダークサイドを突き抜ける未亜ちゃんに幸せは訪れるのか? 何処までが夢で何処までが現実か? 悪夢の迷宮を彷徨う少女に待つ真実とは!?
 よかったら感想送って下さい。お待ちしてます♪
PCシチュエーションノベル(シングル) -
切磋巧実 クリエイターズルームへ
聖獣界ソーン
2003年07月22日

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