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『似たもの同士 』
朧月・桜夜0444)&ミリア・S(1177)

「……面倒くさぁ」
 朧月桜夜はバリバリと頭を掻いた。
 ふてくされた眼差しを落としながら、PCの電源を入れる。
 そうするよう『同居人』に頼まれたからである。
 そして、その『同居人』は外出していた。
 つまり、家の中には桜夜しかおらず、頼み事を断りきれなかったのだ。
 ブンと唸るモニターを、桜夜は腕を組んで見守った。
 いつも通りに流れていく画面。全てが出終わった時、『それ』は現れる。
 それ──
 この電子パーツの組み合わせで出来た、小さな箱の中に住んでいる住人の事だ。
 名をミリア・Sと言う。
 同居人が組んだウイルスプログラムから、彼女は派生した。だが、その存在は、単にプログラムの産み落とした副産物では無い。
 命令と実行、削除と記憶を繰り返す、文字の羅列であり言語の奔流には、『感情』もあれば『意志』もあったのだ。
 そう、彼女は生きていた。
 PCさえ起動すれば、現実世界にその姿を維持したまま抜け出る事も可能だ。外見は、桜夜と変わらぬ年頃の娘の姿を保っている──
「冗談でしょ?」
 はず。
 桜夜は、我と我が目を疑った。
 起動時にどこかでトラブルがあったようだ。
「サクヤ!」
 すっかり立ちあがった画面から出てきたのは、幼い少女だった。年は五、六才であろうか。
 やや幼い顔、服装、背中のリュック。
 何もかもミニチュア化しているが、ミリアに間違いないようだ。
「……み、ミリア……」
「どうシタ? サクヤ。アタしの顔にナニかついてルのか?」
 と、本人は全く気にしていない。
 リモコンを手に、居間を横切って行く。
 呆気に取られる桜夜の前で、ミリアはテレビのスイッチを入れた。
 かけた番組は『子連れ熊』である。男やもめが幼子を連れ、諸国を放浪しながら悪を斬る、と言う時代活劇だ。
 いつものミリアは、この手の番組が大好きだった。
 目の前のミリアも、やはり同じの様だ。
 番組はすでに後半、クライマックスに差し掛かっている。
『ちゃん!』
『大二郎!』
 ミリアは拳を握りしめた。
「悪者にマケるな、クマ!」
 どうやら外見だけのトラブルのようだ。中身は何ら変わりない。そのままである。
 桜夜は、ハアと嘆息した。
「……放っておいても大丈夫かな」
 テレビに没頭するミリアを尻目に、桜夜は、ソファーの上で読みかけの雑誌を広げた。

『──覧のスポンサーがお送りしました』
 桜夜が、ふと顔を上げると番組は終了していた。
 テレビの前では、ミリアが横たわっている。
 幼い背中が桜夜に向けられていた。
「寝ちゃったのかな……」
 桜夜はソファーに雑誌を預け、スッと立ちあがった。
 ミリアの顔を覗き込む。
「……ミリア?」
 返事は無い。
 桜夜は目を細めた。
 ミリアの様子がおかしい。
 頬が赤く、呼吸が忙しないのだ。
 ソッと額に触れてみた。
 桜夜の顔から、血の気が引いた。
「ど、どうして? こんな事、あり得ない」
 熱い。
 かなりの高熱だ。
 桜夜はミリアを抱き上げた。しかし、どうして良いのか分からない。
 普通の病人であれば、病院へ連れて行けば良いのだが、ミリアは『ヒト』では無い。電子生命体なのだ。実体が無い。
 頼りになるはずの同居人は留守。
 桜夜の動揺は大きかった。
「どうしよう……、どうしたら……」
 アイスノン、熱冷ましの薬──咄嗟に思い浮かぶのは、どれも生身の人間に有効な物ばかりだ。
 こうしている間にも、ミリアは苦しそうな吐息を吐いている。
 腕の中の小さくて心許ない存在に、桜夜の焦燥は募った。
「どうしよう……」
 右往左往するが、解決策は思い浮かばない。桜夜はミリアを見下ろした。
 気のせいだろうか。
 ミリアの体が透けかかっている。
 目を凝らすと、ミリアの体越しに桜夜の足が見えた。
「まさか……」
 それが、徐々に鮮明になって行く。
「ミリア!」
 桜夜は動転した。
 ミリアが消えてしまう。
「ミリア! ミリア!」
 桜夜は叫んだ。
 彼女をこの世界に繋ぎ止めて置こうと必死だった。
 だが、それは突然起こった。
 桜夜の腕の中で、光の粒子がはじけたのだ。
 その瞬間、ミリアの体が消失した。
「ミ、ミリア……!」
 桜夜は言葉を失った。
 ミリアを抱いていた腕が、その形のまま行き場を失っている。
 思考が止まった。
 動く事が出来ない。
 桜夜は呆然と立ち尽くした。
 と──
 ブン。
 聞き慣れた作動音が聞こえた。
 桜夜は恐る恐る振り返り、モニターをじっと見つめた。何故か、PCが勝手に動いている。
 次々と変わる画面。
 そして──
「どうシタ……?」
 そこからミリアが現れた。
 その姿は『いつもの』ミリアである。
 桜夜は、ダラリと腕を垂らした。
 顔に、気の抜けた薄笑いが貼り付いた。
 ミリアは桜夜の顔を覗き込み、再び問うた。
「どうシタ? サクヤ」
「どうしたじゃ……」
 なぁい!
 サクヤの拳が、ミリアの腹に埋もれた。
「何スンだよ!」
 ミリアも負けてはいない。
 いきなり殴られた事に腹を立て、桜夜の頬を強くつまみあげた。
 傍目には面白い顔、否、状況である。
「ミヒハのアカ!」
「ダカラ、何なんダ!」
 二人は掴み合い、怒鳴り合った。
 きっと、単なるバグだったのだろう。
 だが、桜夜はミリアが消えた時、本気でショックを受けたのだ。
 それは怒りに変わっていた。
 髪を引っ張り、頬をひねった。
 その内にミリアにも、何となくだが事態が掴めたようだ。桜夜が自分の事を思って、怒っているらしいと言う事を。
 争いは、両者の体力が切れるまで続いた。
「……」
「……」
 ハアハアと息を切らして、見つめ合う。
 桜夜の手がミリアの頬をねじっていた。先程まで、ミリアを抱き抱えていた手だ。
 それを、ミリアはじっと見下ろした。
「……アリがとナ」
 と、破顔する。
 どうやら、記憶の断片はミリアの中に残っていたようだ。
 桜夜は手を離しぶっきらぼうに頷いた。
 素直じゃないのは、お互い様だ。
 桜夜の照れくさそうなその顔は、どこか穏やかだった。



 終
PCシチュエーションノベル(ツイン) -
紺野ふずき クリエイターズルームへ
東京怪談
2003年07月22日

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