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『【未亜〜拭い去れぬ記憶〜】 』
早春の雛菊 未亜1055
――月明かりに照らされた草原を少女は駆けていた。
 緑色に照り返す短髪を軽やかに揺らし、未だ幼さの残る小柄な娘は息を弾ませ、人里離れた丘へ向けて走り抜ける。
「はぁはぁはぁ‥‥遅くなっちゃった」
 駆け抜ける丘の上に丸太で組まれた小さな建て屋が浮かび、窓から中の灯りが洩れていた。やっと家に辿り着いた。早春の雛菊・未亜の美しく繊細な風貌が安堵に綻んだ。少女は何の躊躇いも無くドアに手を掛けると、元気よく開く。
「ただいまぁ! 遅くなってごめ‥‥んなさ、い‥‥」
 未亜の目の前に鮮血が舞い散り、驚愕に赤い瞳を大きく見開いた。少女の目の前に父親の凄惨な姿が転がる。次第に血溜まりが床に溢れ、履物が血の色に侵蝕してゆく。
「‥‥お、とう、さん?」
 一瞬、何が起こったのか分からなかった。父親だったものから目を背けられず、動く事も出来なかった。
「未亜、逃げなさいっ!」
「‥‥おかあ、さ、ん?」
 飛び込んだ悲痛な叫び声に、少女はゆっくりと顔をあげる。そこに映ったのは、衣服が乱れるのも構わずに娘の元に駆けて来ようとする母親の姿だ。刹那、長い緑色の髪がゴツイ手に掴まれると、グラリと仰け反った女の腹が鋭く尖った爪に突き破られた。口から鮮血を吐き、苦悶の顔で再び未亜に掠れ声を漏らす。
「は、やく‥‥に、げな、さい‥‥」
 歪む視界に手を差し伸べる母。だが、未亜は固まったままだ。やがて小刻みに震える女の腕がガクッと力を失った。
――バタンッ★
 少女の耳にドアの閉じる音が飛び込み、彼女はようやく我を取り戻す。未亜の背後に何時の間にか姿を見せた痩せた男が二ヤリと口元を歪ませる。
「まったく物騒だよな、人里離れたとこに住んでるってのは」
「おとうさんっ! おかあさんっ! どうして? どうして‥‥」
 既に絶命した両親に寄り添い、少女は嗚咽を漏らしながら叫び続けた。そんな未亜に近付く人影。彼女は涙で歪んだ顔をキッと上げる。刹那、怒りの顔が慄く。
「‥‥ひっ!! 殲、鬼‥‥」
 未亜の瞳に映ったのは醜悪な捻れた角を生やした大男だ。少女はペタンと腰を落とし、恐怖に震えた。殲鬼の鋭い瞳が舐め回すように彼女を物色する。そんな中、もう一人の痩せた男が口を開く。
「兄じゃがやらないなら、俺にやらせてくれよ」
「‥‥黙れ! 娘、命が惜しいか?」
「‥‥えっ?」
 未亜は我が耳を疑った。両親はもういない。このまま殺されても家族の元へ行けるかもしれない‥‥でも‥‥。少女の中で恐怖が増幅し、生への執着心が渦巻く。彼女は震える声を絞り出した。
「‥‥は、はい‥‥未亜は‥‥死にたく、ありません」
 次に飛び込んだのは大男の豪快な笑い声だ。
「聞いたか? この娘、親を殺され天涯孤独となりながらも命が惜しいそうだぞ! 気に入った!」
――悔しかった‥‥。
 もし、傍に得物があるなら怒りに任せて飛び込もうとも思った。だけど、身体は思うように動いてくれない。
「娘、ならば衣を脱げ‥‥」
「えっ?」
 大男の命令に少女の頬が桜色に染まる。なぜ? どうして? 困惑する未亜に答えは直ぐに返された。
「おまえの本気を試したい‥‥」
「おい、未だ乳くせえガキだぜ?」
 未亜はガクガクと細い足を震わしながら立ち上がり、恥じらいながらも衣服を一枚、また一枚と床に落としていった。灯りに白い柔肌が艶かしく照り返し、痩せた男がゴクリと唾を呑み込む。
(「このガキ‥‥妙なフェロモン出しやがるぜ」)
 未だ身体は幼さを残していたが、未亜は何処か妖艶な魅力を感じさせていた。視線を逸らし恥らう頬が桜色に染まり、しなやかな両手で女の躯を覆う。再び大男の笑い声が響いた。
「どうだ? こんな置き物も悪くないだろう?」
 にやにやと好色な視線に舐め回され、少女は堪らなく恥かしさを覚えると、震えながら瞳を潤ませた。
「いいか、これからオマエは置き物だ。俺が良いというまで、この恰好のままだ」
「‥‥は、はい‥‥未亜は、置き物‥‥です」
 ぎこちなく微笑を浮かべて見せる。それは未亜が下僕となった瞬間だった‥‥。

●狂い出した歯車
 あれから数日が過ぎた或る日の事だ。
「兄じゃ、取って来たぜ」
 痩せた男が未亜の家族がいた家に駆け込んで来る。手に持っているのは白いヒラヒラのついたエプロンだ。今尚、置き物として佇む少女がチラッと視線を流す。ふと大男と目が合い、慌てて逸らした。
「‥‥未亜、悦べ、今日からおまえは俺の召使いだ。これを着ることを許そう」
 パサッと放り投げられるエプロン。首輪から鎖が外され、数日振りに少女は解放されたのである。
「‥‥あ、ありがとうございます‥‥に、似合いますか?」
 一糸纏わぬ躯に大き目のエプロンを着け、未亜は微笑んでクルリと回ってみせた。大男はフッと笑みを浮かべる。小ぶりな胸元と丸い尻が覗く衣装は魔物から見ても『かわいやらしく』映ったかもしれない。
「悪くない‥‥」
 それから少女は大男の身の回りを世話する事となった。だが、言われるままに従っているのは恐怖心故のこと。殲鬼にとってその複雑な感情は心地良かった。そして、何時しか未亜も当たり前の光景と思うようになっていた。主人と隷徒、そんな関係が続く。
「出掛けて来る‥‥」
「はい、ご主人様★」
 そう告げて大男が根城を離れると、未亜は家事に一生懸命働いた。持ち前の才能が遺憾無く発揮され、何時も家の中は綺麗だ。
――そんな中、悲劇は訪れた。
「や、やめてよぉ!」
「ハァハァ、もう我慢できねぇんだよ‥‥てめえを滅茶苦茶にして哀しみにズッポリと突き入れて食らいてぇんだよっ!」
 痩せた男は捻れた角を露にすると、床に倒された未亜に詰め寄った。
「や、だよぉ‥‥ひんっ! やぁ、くすぐったいよぉ‥‥」
 少女をご馳走の如く舐め回すと、未亜がピクンと躯を跳ね上げた。痩せた魔物は鋭い爪を伸ばし、細い腰へと振り下ろす。
「きゃあぁぁぁっ!」
「何をしている‥‥」
 響き渡る悲鳴でドアの開く音が掻き消されたのだろう。じたばたともがく未亜に痩せた魔物が鋭利な爪を振り下ろした瞬間、戻って来た大男が戻って来たのだ。
「もう後戻りできねぇ!」
 未亜から身を退くと両手の爪をザッと尖らせる。
「ほう‥‥貴様、狂ったか?」
 大男も長い爪を醜悪な角と共に露にした。
「狂ったのはアンタだ!」
――斬ッ!
 互いの長い爪に突き抜かれ、再び床や壁が鮮血に彩られる。刺し違えた二人はそのままドサッと崩れるとピクリと動かない。殲鬼がこんなに簡単に死ぬものか? だが、少女は好機に瞳を研ぎ澄ます。
「‥‥に、逃げなきゃ」
 未亜は急いで衣服を両手に抱えて、恐怖の家から飛び出したのだ。
――少女は恐怖から解放された。
 しかし、記憶は消えはしない‥‥。
 未亜の記憶が呼び覚まされる刻、彼女は――――

●あとがき(?)
 ご購入有り難うございました☆ 切磋巧実です。
 WT2では参加ありがとうございました。
 察して下さい‥‥って(^^; 清くビシッと指定して下さった方が躊躇わずに描けるというものです。これで一通りのシチュエーションは補完できたでしょうか?(爆)。未だ足りない場合は次の機会をお待ちしておりますね♪(笑)。
 よかったら感想とか頂けると嬉しいです☆ 
PCシチュエーションノベル(シングル) -
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聖獣界ソーン
2003年07月07日

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