『グッドニュース 』

レオニズ・藤城（0154）＆藤城・瑠日（0224）

「瑠日さん？一体どうしたんですか？」
少し驚きながら、レオニズは慌てて立ち上がった。観測に夢中になり、
思わず三日間、宇宙局の天文観測所に篭っていたレオニズの元に、妻の
瑠日がやってきたのだ。瑠日が飼っている、五羽の子鴨達も、瑠日のボディーガードを
しているかのように、くっついて来ていた。
「とてもいいニュースがあるの。帰ってくるまで我慢できなくて、来ちゃった」
ふわりと笑って、少し頬を赤らめながら、瑠日が言った。
「いいニュース？何でしょう？」
「何だと思う？当ててみて」
じらすように、謎かけをしてくる瑠日に、レオニズは少し戸惑いながら考え始める。
「うーん・・・。何でしょう・・・」
そう言ったきり、黙り込んでしまったレオニズを見て、仕方ないな、と思いながら、
瑠日はその「いいニュース」を告げることにした。
「・・・家族が増えるの。二人の子供が」
瑠日の言葉に、レオニズは鳩が豆鉄砲を食らったような顔で固まってしまった。
「え・・・えーと。それは・・・。つまり、その、妊娠、ということでしょうか？」
しばらくの沈黙の後に、ようやく、といった様子で問い返すレオニズに、
瑠日は思わずふきだしながら答えた。
「ええ。妊娠」
「そ、それは！本当にいいニュースです！素晴らしい・・・」
よほど嬉しかったのか、瑠日を抱き上げて喜ぶレオニズ。そんなレオニズを見て、
瑠日はますます嬉しくなっていた。
だが、ふと気づくと、子鴨達がいない。
「た、大変！子鴨達がいないわ！」
「え？あ、本当ですね・・・。一体どこに・・・」
瑠日を抱き上げたままで、足元を見回すレオニズ。
「あの・・・あなた、とりあえずおろしてくれない？」
苦笑しながら言う瑠日に、慌ててすみません、と言いながらゆっくりと下に瑠日を
おろした。とりあえず、周囲を二人で探し回ったが、子鴨達は見当たらない。
「一体どこに行ってしまったのかしら・・・」
「瑠日さん、早く見つけないと何かあったら大変です。能力で・・・」
瑠日にとって、迷子を捜す、というのは最も得意なことの一つだ。彼女の能力が
それに特化しているためなのだが。
「ええ・・・」
短く返事をすると、瑠日は集中し始める。いくらなんでも、子鴨達だけで宇宙局からは
出ていないだろう。そう思った瑠日は、宇宙局内部をくまなく探し始める。多くの
人が行き交う中で、小さな子鴨達を見つけるのは少し骨が折れそうだった。

いくつかの部屋のイメージが通り過ぎ、沢山の人のイメージが通り過ぎていく。
やがて、休憩室のような部屋で、研究員らしき数人と一緒にいる子鴨たちが見えた。
「見つけたわ！」
「行きましょう！」
「ええ」
短く言葉を交わし、瑠日が先に立って子鴨達のいる部屋へと向かう。
一分足らずも走ると、目当ての部屋に着いた。
「ここよ」
ドアを開けて中に入ると、研究員らしき男達が子鴨達をからかって遊んでいるようだった。
子鴨たちも、負けじと反撃していたが。じゃれているようにも見えるが、
子鴨たちが研究員達を襲っているように見えなくもない。
「私が話しましょう」
同じ宇宙局で働いている同志、もしかしたら顔見知りなのかもしれない。瑠日は
レオニズに任せることにした。レオニズが、二言三言何か言うと、研究員は
子鴨たちを解放してくれた。まるで母親とはぐれていた子供のように、子鴨たちが
瑠日の元に走り寄って来る。
と、そこまでは良かったのだが・・・。研究員らしき男は、何を思ったか瑠日の方に
向き直ると、タックルしてきたのだ。瑠日は咄嗟に避けたので、大したことには
ならなかった。だが、そのあとがいけなかった。子鴨達がいっせいに彼に飛び掛って
行ったのだ。
「うわあぁぁぁっ！！」
瑠日やレオニズが到着した時のような、襲っているのか、じゃれているのか
分からない程度の攻撃ではなかった。五羽がそれぞれ、分担をあらかじめ決めていたかの
ように、違う場所を効率よく攻撃している。と言っても、くちばしでつついている
だけなのだが、かなり痛そうだ。研究員はぎゃあぎゃあ言いながら、部屋中を
逃げ回っている。しかし、子鴨たちは、彼を解放する気はないらしい。
少しの間、呆気に取られてそれを見守っていたレオニズと瑠日だったが、
我に返って子鴨達をなだめて、研究員から引き剥がした時には、もう彼は
ボロボロになっていた。彼だけでなく、部屋も、他の研究員の何人かも
巻き添えを喰ったらしく、少し服や髪が乱れている。
まるで女の子が乱暴されたかのような姿になって、呆然とたたずむ研究員を見ながら、
瑠日もレオニズも、こんな騒動を起こしたのでは、処罰は免れないだろうと
覚悟を決めたのだった。

騒動が治まっても、瑠日は子鴨達のやったことについては、飼い主である
自分が責任を取らなければいけない、と考え、すぐに帰らず宇宙局に残っていた。
「ところで、あの人はどうしてわたくしめにタックルを・・・？」
子鴨達の起こした騒動のせいで、忘れそうになっていた疑問をレオニズに
ぶつける瑠日。
「あぁ・・・。あれは、宇宙局の挨拶なんですよ」
「・・・挨拶？あれが？」
「はい」
被害にあった研究員は、宇宙局の中でだけ通用する慣習を、外部の人間である
瑠日にも適用しようとしていたのだ。それを、瑠日に危害を加えようとしていると
思った子鴨達に襲われたのだ。いい大人が何を考えているのか、と呆れ返って
子鴨達を見ると、瑠日の方をじっと見つめていた。曇りのない純粋な瞳で。

やがて、二人の予想通り、上層部からお呼びがかかり、上司の部屋に通された二人は、
予想外の展開に驚くことになった。
「やあ、よく来た。レオニズ！奥さんも」
「あ、あの・・・。すみませ・・・」
「いやぁ、今日は本当によくやってくれたよ！」
謝ろうとしたレオニズの言葉など聞いていなかったかのように、上司はそう言った。
二人は、思わず自分の耳を疑った。自分達が褒められているように聞こえたからだ。
勿論、上司は二人を褒めたのだが。処分されると思っていた二人にとっては、
信じがたいような事態になっていた。
何でも、宇宙局内での過激と言わざるをえない、特殊な慣習を、外部の人間の前でも
平気で行う研究員達に、上層部も手を焼いていたらしいのだ。特に処罰する
対象にはならない程度のことしかしていないので、どうすることもできず、だからと
言って、慣習として根付いてしまっているので、禁止すれば反発が起きるかもしれない。
そんなこんなで、何もできずにただ困っていただけだったようだ。それを、瑠日の
子鴨たちが起こした騒動によって、研究員達の間では、外部の人間の前では
少し慣習を控えよう、という空気が流れ始めているようなのだ。
「本当に、君達とそのおちびちゃん達は、宇宙局の秩序を護ってくれた救世主だよ」

よく分からないままだったがレオニズ達は、今日は早退して奥さんと一緒に
帰ってあげなさい、というありがたい上司の言葉に甘え、二人で家路に着いた。
子鴨達はどこか、少し誇らしげに見えた。

−終−

PCシチュエーションノベル（ツイン）

れいな

PSYCHO MASTERS　アナザー・レポート

2003年06月09日