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『連邦女子と総統閣下 』
クリストフ・ミュンツァー0234
 十数年前、リンドブルムの前身であるPOAサイバー部隊は隊長であるカールレオン・リューディガーの元、ヨーロッパ市民を守る為、騎士団を結成した。
 世界が恐怖に包まれたあの審判の日、そしてその後の混乱を鎮圧する為、機械の体に騎士道を埋め込んだ騎士と、彼らを支える参謀達は駆け回った。
 いつでも“大丈夫だ、私を信じろ”“何とかなる”と皆を励ましていた閣下を見上げながら、連邦を支える為、閣下を支える為に騎士になった少年‥‥。
 あれから17年、クリストフ・フォン・ミュンツァーは連邦の地を離れ、英国に来ていた。むろん、騎士団として、任務を果たす為に、である。15才で機械の体となり、彼の体は時間が止まってしまった。だから今でも、彼は15才の少年の姿のままだ。
 この姿のせいか、クリストフが二言三言も言い返すと、生意気な事を言う子供だ、と思われる。それはそれで利用価値がある、と思っているので、クリストフはあえて言わせるままにしていた。
(僕は、イギリス調査隊の先遣隊中隊を率いる、隊長だ。連邦の益となる成果を出さなければ、僕を選んでくれた閣下に会わせる顔が無い)
 騎士の仲間の前では、弱みなど見せる事が無いクリストフだったが、一人になった時はそうではない。自分を責める事もあるし、力不足に悩む事もあった。
 今回のこともそうだ。
 イギリスに上陸して数ヶ月‥‥。ヨークまで到達したクリストフ達は、ここで確保したTTを本国に送れると喜んでいた。調査隊の総参謀をはじめとして、反対意見がある事も分かっていたが、何より各戦線の状況が思わしくない事は伝え聞いている。
 TTの処理についての意見の不一致、そしてヨーク戦で判明した、EGのエスパーの情報隠蔽。
 クリストフは、ぎゅっと拳を握りしめた。
(17人も死なせてしまった‥‥閣下の信頼を裏切ってしまった。もう少し早く気づいていれば、防げたかもしれないのに‥‥)
 誰にこぼすでもなく、クリストフは自責の念に苛まれていた。

 本国からの増援として、アイアンメイデン達が到着したのは、そんな時だった。医療品や、救援物資、メンテナンス用品を携え、彼女達はヨークのクリストフ達のところにやって来た。
 アイアンメイデン達を送ってくれたのは、本国参謀本部のローゼンクロイツだった。短い通信や手紙のやりとりで何かを感じたのか(そのあたりは、さすが精神科医というべきか)、アイアンメイデン達にクリストフへの伝言を残していた。
「ローゼンクロイツ様から、クリストフ様に伝言を言付かりました。貴公の肩にかかった責務は大きかろうが、それに潰される事の無いよう、だそうです」
「そう‥‥ありがとう」
 いつもは見せない、少し寂しそうな笑顔に、アイアンメイデン達はびっくりしたように、彼を見返した。
 それに気づき、すぐにクリストフは笑みを消した。
「‥‥そんな事はいいから、本国の状況を説明してくれないかな」
「は、はい」
 アイアンメイデン達は、西部戦線の戦況等、連邦の各戦線や国内外の状況について簡単に話した。
 これらの取り決めの中に、TTをアンドラ戦線に投入する事を認める、という条項がある事を、クリストフは見逃さなかった。これがある限り、堂々とTTを西部方面軍の前に出す事が出来る。TTは何としても、本国に送らなければならない。
「それで、総統閣下のご様子は?」
「そうですね、お元気ですよ」
 ‥‥これじゃあ、まるで友達の近況を聞いているようだ。元気なのは分かっている。クリストフは、むっと眉を寄せた。
「そんな事は分かってるんだ、なにかもっと言う事があるだろう! 君達は元気かそうでないか、それしか見てないのか?」
「は、はい」
 アイアンメイデン達は、必死の形相で考え込んだ。
「え‥‥ええと‥‥最近エスパーコマンドが、閣下のお部屋に忍び込んで嫌らしい事をしようとしました」
「閣下はミュンヘン戦線の事も、お気に掛けていらっしゃるようです」
「皆さん各線線に出ていらっしゃるので、参謀本部は大忙しです」
「ちょっと待って、今何て言った?」
 今の会話の中で、ものすごく重要なものが含まれていた気がする。クリストフは、引きつった表情で聞き返した。
「エスパーコマンドが何だって?」
「そうなんですぅ、聞いてください。閣下はとてもお怒りで‥‥でも処分はあえてなさらなかったんですよ」
「やっぱり、閣下は‥‥」
 何か言いかけて、アイアンメイデンは口を閉ざした。慌てた様子で、ふるふると首を振る。
「いえ、あの何でもありません。‥‥あ、ミュンツァー様にお荷物が届いていましたよ」
 言いたいだけ言うと、彼女達は部屋を出ていった。全く‥‥閣下の部屋に侵入者などとは、ベルリンの騎士達は何をしているのだ。クリストフは、ここ最近の事件に関する苛立ちもあり、非常に不愉快な気持ちで部屋を出た。
 ぷんぷん怒りながらミュンツァーは、到着したばかりの荷物が置かれている備蓄庫に入った。どうやら、アイアンメイデン達は居ないようだ。備蓄を整理せずに放ったまま居なくなるとは、何たる事だ。
 仕方なくクリストフは、自分で荷物を探しはじめた。その多くは医療品であったり、食料であったり、サイバー用のパーツである。
 その荷物の中に、何か大量の冊子があるのを見つけ、クリストフは引っ張り出して見た。閣下は、よく本を読まれていた。ベルリンに居る時は、閣下はよくクリストフに自分の読んだ本や、良い感想を持った本の話しをしてくれた。そんな時の閣下は、とても楽しそうで‥‥。
 ぱらっ。何気なしに、クリストフは本を開いて見た。やたらと薄くて、しかも表紙に絵が書いてある本だ。
 題名は‥‥。

『総統閣下総受計画』
<“つれないな、酔っぱらったお前を介抱してやったのは誰だと思うんだ?”
 そう言いながら、アルベルトはカールレオンをベッドに押しつけた。
“介抱したのは、お前の勝手だ。‥‥離せ!”
 カールレオンは必死に抵抗しようとするが、自分より一回り大きいアルベルトに敵うはずも無い。
“ふふ‥‥体は嫌がって無いぞ”>

「うわっ!」
 悲鳴のような声を上げ、クリストフは本を取り落とした。
 何か、いけないものを見てしまった気がする。
 これは‥‥。
「アイアンメイデン達、何を考えているんだ!」
 と叫びながらクリストフは本を拾い上げて破り‥‥かけて、手を止めた。
 閣下の絵は非常によく書けている。しかも、ちょっとこんな総統閣下を想像してしまった。
 ちらりと箱を覗くと、まだたくさん本が入っていた。こんなにたくさん、どうする気なのだろうか。
 がさごそと中を漁ると、他にも本が出てきた。
『ミュンヘンより愛を込めて』
『三角関係推進派:参謀本部スペシャル』
『ワルシャワ逃避行』
 クリストフは絶句した。
(ローゼンクロイツ卿や李家卿まで、ネタにされてる‥‥)
 自分も、いつネタにされるか分かったもんじゃない。薄ら寒いものを感じつつ、クリストフは考えた。
 ‥‥。
 一冊ずつ取っても、分からないだろう。
 まるで初めて“えっちなほん”を買った時のような罪悪感をちょっぴり感じながら、クリストフは誰にも見られないように、ダッシュで部屋に戻り、即行で鍵をかけた。
(‥‥閣下がこんな事をされてる‥‥)
 一人、本を読みながら、クリストフはショックと同時に新鮮さを感じるのだった。

(担当:立川司郎)
PCシチュエーションノベル(シングル) -
立川司郎 クリエイターズルームへ
PSYCHO MASTERS アナザー・レポート
2003年06月06日

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