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『似た者同士の行く末に 』
水無瀬・龍凰0445)&橘神・剣豪(0625)

 閑散と、駆け抜ける風が塵を運んで少年の頬を打つ。ジャリ、とブーツが石を噛めば夏を帯びた……否、それに釣られた異様な空気がひしひしと肌に伝わり、第六感を刺激する。少年――水無瀬龍凰はその空気を嘲笑するかのように鼻で嗤って、眼前にその姿を現す朽ちた廃屋を見据えた。チリリと右手が自然に炎を燻る。
「…ッたぁく、暇潰し程度にでもなりゃいいけどな」
 龍凰はレザーのグローブをはめたに手に拳を作って軽く左手にブツけると、昼間の煙った光景をつと思い出した。

「あぁん? 俺に化け物退治に行けってか?」

 草間興信所の黒い皮製の古びたソファに仰々しく腰を掛けた少年は、デスクに座る草間を見上げるように返した。
 小さく頷く草間は同時に疲れきった溜息も落とす。見ればデスクの上には山のように積み上げられた書類が。これを今夜中に片づけなければならない状態に陥った――まぁ、少年からすれば『自業自得』の4文字に尽きるそれに、草間は灰皿に山のような煙草の吸殻を擦り付ける一方だ。
 まぁ、簡単に云えば龍凰が受けた依頼はこんなものだった。

――郊外にある廃屋に宵の口から妙な声が聞こえる。
――興味本位で近づいた一般人は腰を抜かして逃げた。
――実際、中まで入った人間はいない。
――とにかく、どうにかしろ、と。

 インスタントコーヒーと共に渡された1枚の紙に、少年はつまらなさそうに視線を巡らす。どうせ、噂が噂に装飾した程度の代物だろう。まぁ暇潰し程度に行ってみるのも、また一興か。
 そうして、龍凰は湯気の立ったコーヒーを飲み終える前にソファから立ち上がり、ドアへと手を掛ける。「頼んだぞ」と死にそうな声で縋る草間に右手でヒラヒラと返事をして、少年は夕焼けの街へと姿を消した。


――さて、と。
 入り口、と云っても扉は朽ち果ててしまっていて、龍凰の蹴り一発で吹っ飛んでしまったのだが。少年は横に長い廃屋の四隅に目線を静かに配ると、大きく溜息を吐く。
――小物ばっかりじゃねぇか。
 わざわざ自分が出向いた割には、手応えがなさそうだ。こんなことなら違うヤツに押し付けて、帰ってゲームでもしていた方が幾分有意義に時間を過せたか。
 龍凰が本日何度目かの溜息を落とす――それとまさに同時だった。
 金属の割れるような轟音を引き連れて、まるで特撮部隊のように夕陽を引っさげて登場する男(?)――
「1人で点数稼ごうッたってそうはいかねえぞ!」
 文字通り『鼻息荒し』なこの人物(?)、橘神・剣豪。
「…来んなよ」
 ボソ、と龍凰が吐き捨てるように……それでいて小声で云っているにも関わらず、やや尖がった耳は恐ろしい程の地獄耳である。ピクリと小姑のように反応を示すと、
「俺が来ると手も足も出ませんーだもんな、カッカッカ」
両手を組んで龍凰を見下げる剣豪は甚だエラそうだ。これは短気な龍凰でなくても、否、龍凰であるからこそピキッと何かが走ったのかも知れない。
「お前はさっさとウチに帰ってクソでもしてろよ」
 ハンッと嗤うのと同時に、飛び掛ってきた第3級クラスの霊魔を龍凰は肘鉄を食わせて無言のものにする。
「ボケが、クソは朝するに決まってんだろ……早寝早起き早飯早グソは基本中の基本だぜ?」
 何処か論点のズレた剣豪も、云う間に長く伸びた鋭利な爪で突進してくる白い浮遊体を一瞬にして切り裂く。
「冗談を冗談で取れねぇのは、単純バカの基本だよなぁ?」
 龍凰も軽く足場を蹴って、ソバットで小物を薙ぎ倒した。

「…テッメェ、こうなったらどっちが先にバケモノ倒すか、勝負だ!」
「…テッメェ、元々は俺が受けた依頼なんだからシャシャリ出てくんな!」

 売り言葉に買い言葉とはまさにこの2人の会話を指すのだろうか。毒づいては、蔓延る具現化も出来ない低級種族をバッサバッサと打ち払い。2人の後ろに山積にされては消え行くそれ。……かと思えば、2人で協力する筈もなく(したら逆に怖いでしょう…/某M嬢談)、龍凰が軽く飛び上がって対空迎撃を試みようとすると、剣豪が絵に描いたように美しく足を引っ掛る。
 勿論、少年だって負けてはいない。「かかって来やがれ」状態な剣豪のフサフサとしたオレンジの尻尾を、人差し指と親指で一房(ここが非常にタチの悪い所だ)摘んで思いっきり引っ張ってやる。
「イテェ! 邪魔すんなよッ」
「それはこっちの科白だっつーのッ」
 静寂に包まれた異様な空間――だったこの廃屋が何時の間にか、2人によって何処の繁華街よりも騒がしい場所となりつつある。
 何時の間にか、所謂『バケモノ』は何処へやら。2人の視界には入っていない。双方ともここぞとばかりに日頃の憂さ晴らしに躍起になっている。
「前から云ってやろうと思ってたんだがなー! ムカツクんだよ、クソッタレ!」
「あぁあぁケッコーコケッコー。龍凰なんぞクソッタレー!」
 炎を右手に抱いた龍凰と半獣状態で牙を剥く剣豪。
 ニラみ合った2人の間には文字通り火花が散る。


 まさに、龍凰と剣豪の過激な、そして熱いバトルが幕開けする頃。
 ――いよいよ俺の出番か、とここに住む主――と云っても、たかが低俗な下っ端を引き連れている……『ラスボス』の風上にもおけない、見掛け倒しな物の怪ではあったが。
『オイ……ここに来たということは即ち汝等の死を……』
 おどろおどろしい声で投げ掛けるが、2人にとっちゃー知ったこっちゃない。
 更に加えさせて頂くと、初級クラスの妖魔などお呼びでない。

「だぁーかぁーらぁーバカはさっさと帰れっつーの」
「だぁーかぁーらぁーボケはさっさと犬小屋に帰れっつーの」

 あぁん…? とお互い、とても描写出来ません…なガンの飛ばし合いをカマしあってる一方で。折角、場所もシチュエーションもバッチリな程に登場した『ラスボス』さんは非道く腹が立って仕方が無い。
『主ら、殺されたいのか…』
 黒い汚物の塊…のような。元はヘドロの類だったのだろう、猛烈な異臭に満ちた息を2人に吐きかけた。
『それを嗅いだら主らは生きてはいるまいて…』
黒い塊の中央部の赤い球体がカッコよく光る。『ラスボス』自体も「決まったぜ」と心の中でガッツポーズをする、その瞬間だ。
 2人の云い合いは更に熱を帯びたようで、龍凰の炎が飛び散ったかと思えば剣豪の爪が空を引き裂く。
 龍凰の耳にも剣豪の耳にも、『ラスボス』さんのステキな決め科白は届いていなかった。

 怒り心頭、とはまさにこのことか。ここまで来ると『ラスボス』さんに少し同情してしまう。しかし、『ラスボス』さんとて伊達に『ラスボス』100年やってません、と豪語したい。
『貴様等…いい加減にしろ!』
 未だ生存する部下を数匹バックに控えさせ、黒き『ラスボス』さんが2人に圧し掛かろうとしたならば……

「「やかましいわ!!」」

 元来、短気な2人である。そしてある意味、非常に単純であるこの2人。1つのことに集中しようとするのに、横からゴチャゴチャ云われたら――それが例え本来の目的であろうとも、「うっせぇ」の一言に尽きるのかも知れない。
 こんなときだけ、息ピッタリの龍凰と剣豪はツッコミと共に可哀相な『ラスボス』さんを一蹴する。哀れ、『ラスボス』さんは泡となって文字通り朽ち果ててしまった……。


「俺が6匹だな」
「俺は7匹だ」
「よくよく思い出してみりゃ、俺は8匹だった気がする」
「俺も実は9匹だった気がしまくる」

 目くそ鼻くそ…50歩100歩?
 煙草の煙で満ちた草間興信所は相変わらず雑然としている。床に散らばった書類、デスクに山のように積み上げられたファイル。

「俺の炎は今日もかなり冴えてたぜ」
「俺の爪、何かサイコー」
「ってか、戦闘を芸術まで高めたって感じ?」
「俺の牙に敵うボケはいる筈ないっつー感じ?」

 草間は耳をホジって、椅子に座り込んでいる。報告などこの際どうでもいい。とにかく、仕事の邪魔だけはするな…と云いたげな顔をありありとさせ、2人の会話を左耳から右耳へと通していた。

「最後は俺の素晴らしい一撃がな…」
「最後は俺の素敵な蹴りがな…」

 文字通り、延々と続く――恐ろしく似た者同士の2人。草間はブラインドをまだ下げていない窓から見える暗い夜空に、1つ溜息を落とす。
――どうせ、あと1時間は続くだろう……。

「だぁかぁらぁ……」
「だぁかぁらぁ……」

 夏も目前の薄暗い夜に、バンバンと埃塗れのデスクを両手で叩く音がする。
 草間興信所の夜長は確実に決定した……勿論、『彼等』のおかげではあるが。


Fin


PCシチュエーションノベル(ツイン) -
相馬冬果 クリエイターズルームへ
東京怪談
2003年06月06日

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