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『紡がれるは、夕闇に見えた其の夢 』
結城・二三矢1247

 ――我ながら。
 情けない告白文句だったとは、思う。
 けれど。
 都内でも有名な、あのお嬢様学校。
 その文化祭に、訳あって出向いた、その先で。
『あ、あのっ!』
 通り過ぐ、同じ制服(いろどり)の、生徒達。
 年に1度の行事に、外部の者共々、盛り上がりに盛り上がる、学校の廊下。
 そんな中。
 ……君だけが。
 君だけがどうしても、
 どうしても、気に、かかってしまって。
 ――気がついたら校門の前で、君を、待っていた。
 もう1度、もう1度だけでも会える事を願って、共に来ていた友人もほったらかしに。
 たった1人で、夕暮れの、校門の前。
 談笑する生徒達の流れの中に、じっと、ただ1人、君の姿を探していた。
 もう1度、
 もう1度会いたくて、
 会いたくて。
『一目ぼれで好きになりましたっ!』
 そうしてようやく、1人で姿を現した君に。
 名前を聞く事すら忘れて叫ぶなり、颯爽と、情けなくも踵を返して、駆け出してしまっていたけれど。
 一方で。
 だからこそもう1度、強く、確信させられてしまった、事があった。
 ――ああ、俺は。
 やっぱり彼女の事を、好きになってしまっていたのだ、と――



■ 理由の章

『受験シーズンだってゆーのに、成績が良いからってさ。で、おまけに、女に告白か? いやぁ、色気づいちゃってよ! でもって、あのお嬢様学校の年上の女! ……いやぁ、良くやるよ、二三矢君?』
 紅く染まった、街の道。
 素直に。
 最近はどうしてか、夕焼、というものに縁があるような気がする。
 学校が終わり、いつものように、たどる帰路。
 ふ、と、先ほどまで、隣を歩いていた友人の言葉を思い出し――少年は――結城 二三矢(ゆうき ふみや)は、ふぅ、と1つ、大きく息を吐いていた。
 無論。
 たった今、別れたばかりの友人にからかわれていたのは、あの日の自分の、告白の事で。
『で、まだ返事はもらってないのか? ん?』
 悪戯に笑った友人に、
『いやぁ、でもそれ、OKだったら、おー、アレだ! オレ、お前にパフェおごるわ! しかも、彼女の分まで大サービス!』
『うあ失礼だな……』
『だからアレだ、早く応えを聞きに行けよー! まぁ、会えるかどうかもわかんないだろーけどなっ!』
 けらけらと大声で笑われて、二三矢は横に持っていた学生鞄で、おもいきり、友人の背を叩いてしまったものだった。
 そうして適当に、お互い小競り合い、騒ぎあい――二三矢もまた、存分に笑っていた――その、はずなのに。
 ――だが、今は。
「駄目だなぁ、ほんっと」
 少年は、別れたばかりの何気ない友人の言葉を思い出し、小さくぽつりと、呟き声を洩らしてしまっていた。
 自然と浮かぶ、自嘲の笑み。
 俺だって本当は、駄目なんじゃないかって……思ってる、わけで。
 思いながらも少年は、ゆっくりゆっくりと、その歩みを、進めていった。
 ……あれからと、いうもの。
 いつもの日常に、それでも、何も気にしていないかのようなそぶりで、頑張ってきては、いるものの。
 本当は、片時も忘れられない彼女の存在に、悩みに悩み、ひたすらに悩み続けていた。
 あの友人の言うとおり、あまりにも、見込みの無さそうな恋心。
 ――正直、あの校門の前にもう1度立てないのは、返事を貰うのが、怖いから――それほどまでに、あの少女の事を、諦める事が、できないからであった。
 断られたら、どうすれば良い?
 もう会えなくなったら、どうすれば良い?
 去来するのは、不安な心ばかりで。
 本当に、本当に好きになってしまったからこそ。
 怖かった。
 もう2度と会えなくなる事が、もう1度会える、という希望すらも奪われてしまう事が、正直すごく、怖かったのだ――。
 ……友人と別れたその道に、悩みは余計に、深くなる。
 夕焼色に、次々とあの時の出来事が、思い浮かぶかの、ようだった。
 俯いた視線。
 ふ、と。
 枯葉舞う街並みに、立ち止まりたくなる衝動に、駆られてしまって、
 ってあああっ、駄目駄目っ! しっかりしろっ、俺っ! さっさと帰って、今日は手紙も書かなくちゃならないんだからっ!
 それでも少年は、己の心を奮い立たせようと、大きな1息と共に、重たい鞄を持ち直す。
 しゃきっと気合を入れなそうと、意識的に、歩む足を速め――
 ――と。
 だが、そんな二三矢の、視線の先に
 不意に、1つの光景が、見えはじめていた。
「って、あ――!」
 半ば上の空で道を歩いていた少年が、突如として、その足を近くの横断歩道の方へと向けていた。
 急いで、駆け出す。
 間違いなく、目の前には、
 点滅する信号を前に、けれどもゆっくりと、重たい荷物を引きずりながら進む老婆の姿が、
「おばあさん、危ないよっ!」
 二三矢の心を、急ぎ、忙しなく、掻き立てていくかのようで。
 ついに赤になってしまった信号の歩道に飛び込むと、慌てて彼は、見ず知らずの老婆の荷物を受け取り、そうして彼女を、軽々と背負いあげてしまう。
 向こうの歩道までは、半分以上残った場所から、
「……ありがとうねぇ。助かったよ」
「いいえ」
 老婆の言葉に微笑み返すと、二三矢はしっかりと、歩道へ向かって歩き出す。
 それは、何ら変わりの無い、日常の、風景。
 二三矢にとっては珍しくもない、ごく当然の、人助け。
 ――だが、なぜだろうか。
 普段なれば軽く感じられそうな買い物袋が、今日はどうしてか、重く、重く感じられてしまって。
 ……さっきの話の、せいかな?
 老婆の重みを背に感じながら、けれども二三矢は、別の事を、考え始めてしまっていた――。



■ 流れる行く時鐘(ときがね)の章

 ――決断は、本当に突然の出来事で、
「当たって、砕けろ――か、」
 そうして、今。
 二三矢はあの日、文化祭があったあの学校の前まで、来ていた。
 決意と共に、下校する少女達の流れに逆らい、校門へと、向かい行く。
 ……夕暮れの、校舎の影。
 ざわめく風。通り過ぎる車の音。
 何もかもが、容赦なく自分に、あの時の事を、思い返させてゆくかのようで、
『一目ぼれで好きになりましたっ!』
 年上の少女の姿に、とにかくもう、あの時はあがってしまっていて。
 とにかく叫んだ、単純な告白文句。けれどもあれは、本当に、精一杯の言葉だった。
 戸惑う少女の言葉を最後まで聞く事もなく、かん高い叫び声を後ろに、慌てて踵を返したのは、そう、遠い過去の事では、ないはずだった。
 ……まだ、覚えてるはずだよね。
 校門に近づけば近づくだけ、比例するかのようにして、徐々に不安が、増してゆく。
 はたして彼女は自分の事を、覚えていては、くれたのだろうか。
 返事は、もう、考えておいて、くれたのだろうか――。
 やがて、
 ゆるりと歩む少年の手が、ついにふ、と、ひんやりとした校門へと、触れてしまっていた。
 少年が1つ、息を吐く。
 ……そう、あの日は。
 あの日はここで、じっと君を、待っていた。
 気が付いたら、たった1度のすれ違いに、君の事を、忘れられなくなっていて。
 会いたいって、
 ずっとそう、想っていたんだ――。
 ……今日は、きちんと会えるだろうか。
 あの時のように、都合良く、会えたりはするものなのだろうか……。
 二三矢はぎゅっと、手元の鞄を握りなおした。
 きっと、会えるはず。
 祈りにも似た言葉を、何度も何度も、自分へと言い聞かせる。
 そうして――
「あ、あのっ……!」
 ぱたぱたと、突然、駆け寄る気配が、こちらへと近づいてくる。
 その、姿を、認めた瞬間。
 二三矢は言葉に詰まったかのように、意味を成さない言葉で彼女に話しかけようとしていた。
 だが。
「――バレたらヤバイんだから!! 走って!」
「?!」
 突然ぱしんっ、と、手が、取られていた。
 そのままおもいきり手を引かれ、やむを得ず二三矢は、少女と一緒に、走り出す。
 ――予想外の、展開。
「え、あ、え、え――?!」
 戸惑えど、少女に引かれるその力は変わらない。
 あまりにも急な展開に、
「ち、ちょっとどこまで――!」
 ついには街路まで引っ張り込まれ、そこではじめて、二三矢は問うた。
 だが、返ってきたのは、あまりにも適当すぎる答えの声だった。
 え、その辺? 適当に落ち着ける場所に行く?
 何がなんだか、訳がわからない。
 一体これから、俺、どうすれば良いって――?
 しかし、必死に、どこか楽しそうに走り続ける、少女の姿を見ているうちに。
 ……まぁ、良いか。
 引き込まれるかのように、自然とそんな考えが、わきおこってしまう。
 二三矢はふわりと微笑むと、素直に少女についていく事を決め込んでしまっていた。



■ 未来に紡ぐ章

「また、会えるんだ」
 あの時の喫茶店で、初めて交された、2人きりの約束。
 3度目の、邂逅日。
 休日の街並みに、晴れ渡る青空に、通り過ぎる人波も、どこか、爽やかに思えてしまって。
 ばれない程度にきめてきた服装を整えながら、二三矢は幾度と無く、腕時計に視線をやっては、ふぅ、と1つ、大きく息をついていた。
 まだ、早かったかな。
 待ち合わせ時間まで、あと30分もある。
 時間の流れがこれほどまでにも待ち遠しいのは、本当に、久しぶりの事で。
 ――爽やかな秋風と、
 明るい日差しの差し込む世界に。
 二三矢はゆっくりと、もうすぐやってくるであろう、ちーの事を思い浮かべて、やわらかく、微笑んでいた。
 文化祭で、たった1度、すれ違っただけのあの少女に、こんなにも、憧れて。
 そうしてようやくやってきた、念願の、この日。
 嬉しくて、嬉しくて。
 昨日の夜は、あまり眠れなかった、ほどであった。
 ――と。
 そうして間もなく、やってきた彼女の姿に、満面の笑みで手を振られ、二三矢が手を振り返したのは、それから、すぐの事。
 あの日はじめて、一目ぼれした少女の声に、今は自然と、名前を、呼ばれ。
 少年も又、呼び返す。
 まだ始まったばかりの関係を、今日もまた、ゆっくり、ゆくりとでも――進めて、いこう。
 そんな、強い、願いの意味をも、込めて。
「ちー! こっちだよ!」

 そうして、2人は。
 笑顔と共に、街の方へと歩き始める。
 真昼を告げる、時の鐘。
 響き渡るその音に、今日は何をしようかと、2人で一緒に、考えをめぐらせながら――。


Finis



☆ Dalla scrivente  ☆ ゜。。°† ゜。。°☆ ゜。。°† ゜。。°☆

 こんばんは、今宵はいかがお過ごしになっていますでしょうか。海月でございます。
 今回はご指名の方、本当にありがとうございました。
 まずはじめに、やはり、ですが――締め切りギリギリの納品となってしまいまして申し訳ございませんでした。千里編を書き終え、それからこちらを書かせていただきまして、今に至ります。密かに今日中に上がる事を心よりお祈りいたしております状態でございます。
 実は当初、千里編も二三矢君編も、告白日を過去の事にして、一年後の視点から書こうと思っておりました。しかしながら……その、ただでさえ字数がこうでございまして(滝汗)、あえなく断念してしまいました。手元には書きかけがごろごろと散らばっていたりします。
 二三矢君――きっと優しいんだと思っております。他国に住んでいるわけですから、自国の欠点も良くわかっていらっしゃると思うのです。良いですよねぇ……世界を見て、育っているだなんて。
 本当はそれに引っ掛けまして、最初のデートが空港、という事も考えたのですが、流石にいきなりお別れというのはどうかと思いまして……このような形と、させていただきました。
 ともあれ、今回はお付き合い頂きまして、本当にありがとうございました。また機会がありましたら、宜しくお願い致しますね。
 では、乱文にて失礼致しました。

28 marzo 2003 / 29 marzo 2003
Lina Umizuki
PCシチュエーションノベル(シングル) -
海月 里奈 クリエイターズルームへ
東京怪談
2003年03月29日

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